1-14.イケメン予備軍

 寝台を整え、日差しがあたしの顔に直接あたらないようにカーテンの位置を調整し終えると、カルティはもう一度、寝台で横になっているあたしの方へと近づいてくる。


「お嬢様、失礼いたします」


 カルティとの距離がさらに縮まる。


(やだ、めっちゃ近い! すごい、アップ! ど、ど、どうしよう)


 緊張のあまり、身体が硬直する。


 あたしは寝台で横になっているので、上からカルティがあたしを覗き込むような態勢になる。 


 いつもは下ばかりを見ているカルティの顔を、あたしは真正面から見上げることとなった。


(な、な、なにが……)


 これから、なにがはじまるというのだろうか!


 ゴクリ…………。


 ゆっくりとカルティの手が動き、あたしの額の上に置かれた。


 あたしの額に置かれたカルティの手は、ひんやりとしていて、とても気持ちがよかった。


 まだ大人になっていない、小さな手だ。

 でも、毎日欠かさず剣の練習をしているせいか、手のひらはマメが潰れて固くなっている。ゴツゴツしていて硬い。カルティの努力が感じられた。


(な、な、生カルティが、あたしの額に手を置いている)

 

 ど、ドキドキが止まらない……。


 大きな声で叫びたくなるのを、歯を食いしばって、あたしは必死に耐える。


 叫び声は、なんとか我慢できた。


 だが、ため息までは、無理だった。


 あたしは目を閉じ、おもわずほうっと、息を漏らす。


 前世を思い出したばかりだが、もう、このまま昇天してしまっても、悔いはないだろう。


 感動のあまり身体が震える。


(ああ……これは……)


 おでことおでこをコツンとあわせて、熱がないかを確認する……という胸キュンイベントの『不発パターン』ではないだろうか!


 カルティとあたしの親密度が低かったせいで、『手を額に置く』で終わってしまった……。


 それでも、素敵な瞬間でした!


 腐女子の神様ありがとうございます!


「熱はないようですが……」


 あたしの額と首筋に軽く触れて、体温を確認しつつ、カルティは首をかしげる。


「さきほどにも増して……お顔は真っ赤になってきていますし、目も、なんだか潤んできましたね……」

「そ、そんなことは……」


(ないとはいえないが、カルティは完全に勘違いしていることはわかっている)


「やはり、まだ具合が悪いのですか? 寒気がするのですか? 震えていらっしゃいますね」


 カルティは機敏に動くと、あけ放たれている窓を閉めようとする。


「い、いや、カルティ……これは、大丈夫だから。顔が赤いのは、熱のせいじゃないから! 窓はそのままで!」


 あたしは思いっきり、カルティの言葉を否定する。


 避暑地とはいえ、窓を閉められたら暑くてたまらない。


 が、カルティはあたしの言葉を無視してさっさと窓を閉めてしまうと、様子をもっとみようと、ぐいぐいと近づいてくる。


(ち、ちかい、近いぃぃ!)


 スマホやパソコンの画面越しで見慣れているはずの顔――まだ少し幼いけど――だが、こうして身近に、息遣いまでリアルに感じられると、もう、あたしの心臓は限界点に達してしまいそうだ。


 イケメン予備軍を目の前にして、興奮しているなんて……口が裂けても言えない。


「これから高熱がでる前兆かもしれません」

「だ、大丈夫だから……」


 攻略キャラの悩殺オーラをまともにくらってしまい、頭の中がくらくらしてきた。


 ちょおっっっと待ってください!


 これ以上、やりとりをしていたら、本当に、熱がでてしまいます!



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