1-11.攻略キャラ

 あたしは痛む頭を抑えながら、泣きじゃくっているカルティと会話をつづける。


「お嬢様は、いつもわたしのことを『あんた』としか……てっきり、使用人の名前を覚えない方かと……」


 カルティの語尾がだんだん小さくなっていく。


(あ……そうだったかもしれない)


 家令や執事長、メイド長といった偉い使用人の名前は自然と耳に入ってくるので、なんとなく理解していたが、下っ端の使用人の名前など、幼いあたしは覚えていなかった。


 覚える必要がある……なんて、考えもしなかった。


 よかった、よかった、と涙を流しつづけるカルティの助けをかりて、あたしは、なんとか立ち上がる。


 小柄とはいえ、カルティは本格的な武術訓練も受けている二つ年上の男の子だ。

 それなりに力はあるみたいだ。


 というか、あたしもまた、病気がちだったために、同年の女の子よりも小柄……痩せていると思う。


 カルティはふらついているあたしをしっかりと支えながら、危なげなくベッドの方へと誘導していく。


 あたしは歩きながら、隣にいるカルティの顔を観察する。


 滝のように流れていた涙は止まった。まだ鼻はグスグスいっているが、だいぶ落ち着いてきたようだ。


(前世のあたしは『彼』を知っていた)


 いやいや、知っているとかいうレベルではない。熟知している。


 もう、それこそ、好きな食べ物から、嫌いな食べ物、好感度が上がる贈り物やら、口説き文句、弱点やら過去のトラウマだって……。なんでも知っている。


 公式ガイドブックにファンブック、公式サイト、熱狂的なファンサイトや、人柱による攻略サイト、課金にものをいわせたシークレットストーリー解放など……正社員独身腐女子の財力と妄執で、集めた情報量は半端ない。


 そうしている間にも、カルティ・アザの情報がどんどん、どんどん前世のあたしの中からひきだされてくる。


「まだ起き上がるのは、早すぎます。寝台でお休みください。お嬢様は、池に落ちた後、七日間も高熱でうなされていたのですよ。急に起き上がっては、倒れてしまいます。また熱がでるかもしれません」

「七日間も!」


 そんなに長い間、あたしは意識不明だったのか。


 あたしの側にいたカルティにしてみれば、あたしの意識回復は泣いて喜ぶ大事件だろう。


 ただの風邪で寝込んでいたのではなく、池に落ちてとなると……。

 夏とはいえ、それはちょっと、大騒ぎになっているんじゃないだろうか……。


 あたしは二つ年上……八歳のカルティに無理矢理、寝台の中へと押し込まれる。


「はい。それはもう、大変で……」


 と、言いかけて、カルティは「はっ」と表情を強張らせる。



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