2-18.タフなお父様と虚弱なあたし

 お父様が王都へと戻られてから一週間がすぎた。


 ライース兄様の話によると、お父様は、行きと違って、帰りは急ぐこともなくのんびり……といきたいところなんだろうけど、そうもいかなかったようである。


 書記官としての仕事、王都での領主としての仕事などなどを放置した状態で、とるものもとりあえず飛び出したお父様は、行きと同程度の強行軍で王都へと戻ったそうだ。


 お父様はタフだ。


 そして、それに付き合う……いや、従う従者や護衛もタフだよね。


 アドルミデーラ家のスタッフモブはとても優秀だ。

 ライース兄様のスペックを底上げさせるためのゲーム設定だ。


 お父様の通常の年間行動は、秋の収穫シーズンから領地に戻り、領内で冬を過ごす。その間は領地の収穫物やら利益を確認し、来年度の計画をたてるという。領内の重要人物との面談も行われる。


 春から夏の終わりにかけては、王都の屋敷で王宮の仕事やら社交やらに精力的に励むそうだ。


 書記官が長期間不在で大丈夫なのか……と思ったりもしたのだが、そこはゲームのご都合主義万々歳だ。


 領主の考え方にも色々あるようで、お父様のように、王都と領地を行き来する領主もいれば、領地の運営は他人にまかせてずっと王都に留まる領主もいる。


 王都近辺に領地があって行き来に時間がかからない古参の有力領主なら、長期滞在ではなく、ちょくちょく週末に戻ったりしているそうだ。


 お父様は秋の収穫期になったら――あと一ヶ月もすれば――領内に戻ってくるそうだ。


 それまでには木登りをマスターしておかなければって、ライース兄様にお話したら、微妙な顔をされながらも、まずは、身体を回復させることを考えなさい、と言われてしまった。


 う……ん。


 自分が言うのもなんだが……このフレーシア・アドルミデーラという六歳の女の子は、びっくりするくらいに体力がない子どもだった。


 虚弱だ。


 産まれてはじめての挑戦で、木登りができたって、さすが、アドルミデーラ家の人間って、高スペックねっ。なんでもできちゃうんじゃないのかな? って喜んだのは一瞬だった。


 フレーシアは池に落ちて高熱が続いたこともあって、かなり体力を消耗していた。


 少し起き上がって、部屋の中をウロウロしただけで、ぜはぜは息切れをして歩けなくなる始末。


 それを見たカルティとライース兄様はものすごく驚き慌てたけど、一番、驚いたのはあたしだからね。


 ちょっと……弱すぎる。


 ぼんやりと記憶に残っている双子の弟もどうしようもなく身体が弱かったが、あたしも同じように弱かった。


 この世界の小学一年生の女の子の平均体力がどれくらいかはわからないけど、あたしは、かなり弱い部類にはいるんじゃないだろうか……。


 それもこれも……正妻がヒトを使って、こっそりとあたしと弟に遅効性の毒を、少しずつ飲ませていたからだろう。


 ドロドロ食事が普通の食事になり、スプーンも自分で持てるようになった頃には、ライース兄様の「あ――ん」攻撃はなくなったが、あの不味い薬だけは続いていた。



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