1-16.薄命キャラ

 攻略が難しいキャラベストには、カルティ・アザが必ず上位にランクインしてくる。


 なぜなら、


 カルティ・アザはすぐ死ぬのだ。


 殺される。


 勝手に死ぬ。


 とにかく、びっくりするくらい、めちゃくちゃ死にまくる。


 驚くほど簡単に、悲しいまでにもあっさりと、カルティ・アザは死んでしまうのだ。


 病んでいるのはキャラではなく、運営の方……とまで言われたくらいである。


 カルティのステータスが特別に弱いというわけでもなく、戦闘力もメインキャラたちの中では高い部類になる。


 高すぎるゆえに、すぐに戦闘シーンに突入したり、裏切られたりするので、選択肢を間違うといきなり死ぬのだ。


 通常のゲームなら、選択肢を間違えたら、せいぜい親密度が下がる程度なのだが、このゲームは、容赦なく、キャラを殺す……という殺伐とした仕様だった。


 ただ、まあ、その死亡時のスチルも、イラスト、セリフ、ストーリーと……ものすごく凝ったもので、各キャラクター何パターンも用意されており、わざと殺して、それを集めるファンもいたくらいである。


 いかに効率よくカルティの死亡時スチルを集めるには、というわけのわからないスレッドも立ち上がっていたりして、なかなかに賑わっていたのだから、ただの乙女ゲームじゃないだろう。


 失敗した選択肢にまで戻るには二十四時間の放置か、『巻き戻しの砂時計』という課金アイテムが必要で、カルティファンは砂時計ストックがマストだった。


 SNSでは、『カルティすぐ死ぬ』とか『砂時計カルティ』というハッシュタグがあったくらいだ。


 ファンの間では、課金なくしては、攻略どころか、ストーリーさえ満足に読むことができない――生命を守れない――薄命キャラとして有名である。


 カルティルートが攻略できたユーザーは、廃課金ユーザーに認定されるくらいだから、相当なものだろう。


 最初に出会う攻略キャラとしては、難易度が高い……というか、扱いづらい微妙なツンデレキャラだ。


 そういう苦い記憶も一緒に思い出してしまったので、攻略キャラとの出会いを素直に喜べないところが、なんとも残念なところである。


 ベッドの中でそのようなことを、あたしは悶々と考える。


 闇を背負ったカルティは素敵だが、それはあくまでも、観賞用としてなら素敵な存在なのである。


 こうして、あたしの侍従として生きているのなら、カルティには不幸にはなってほしくないし、ゲームのように、簡単にホイホイと死んでほしくない。


 だって、あたしの額に置かれた手は、偽物でもなんでもなく、生きているニンゲンの手だった。


 前世を思い出すと同時に、それが思い出すための条件だといわんばかりに、あたしは、この世界は、ゲームという虚構の世界ではなく、人は人としてリアルに生きており、命は一度しかない世界である……ということを理解してしまったのだ。


 さらに、この世界に『巻き戻しの砂時計』は存在しない……ことを知った。


 ゲームでもない。


 夢でもない。


 あたしは間違いなく死んで、この世界に生きている人として、転生したのだ。


 そして、カルティも生きていて、死んだらそれで終わりだ。


「お嬢様……とりあえず、お嬢様がお目覚めになったことを、今からみなに知らせてまいります」


 あたしが大人しくベッドで横になっている姿を見て安心したのか、カルティにも考える余裕がでてきたようである。


「お医者様もお呼びしますから、それまでベッドでおとなしく……」


 と言いかけたところで、カルティの言葉が不意に途切れた。



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