3-4.慌てん坊なお父様
いくらライース兄様がハイスペック設定のキャラとはいえ、人外を超えた存在ではない。
一応、ライース兄様は人間扱いされている……というか、登場キャラは全員人間なので、ひとりで神のごとく荒れ狂って荒野にしてしまうとか、空から隕石を降らせて国を滅ぼすという展開ではない。『キミツバ』はそんな便利魔法が横行する世界設定ではないのだ。
地味に、普通に人海戦術でやっちゃうわけだ。
これだけ協力者がいたら、国ぐらいほろぼせるでしょ……というわけだ。
サブキャラのなかでは、ハイスペックで重要キャラのお父様にくらいついてこれるくらいの人物となると、その最後のひとりの護衛とやらは、ガチャキャラだとスーパーレアかアルティメットレアクラスじゃないだろうか。
その最後のひとりが誰なのかすごく気になったが、ライース兄様に質問するのはなぜか躊躇われた。
よくわからないけど、あたしの腐女子本能が危険だと告げている。
ここは野生の勘、腐女子の神様からの啓示を信じるべきだ。
「父上が子どもたちのことで、あれほど慌てられたのは……あのときが初めて……だと思うよ」
勉強の途中だというのに、ライース兄様はあたしを膝の上に載せながら、お父様がこの別荘地に駆けつけたときのことを詳しく教えてくれた。
あたしが池に落ちてから五日後の昼過ぎに、お父様は別荘の玄関扉を蹴破るような勢いで到着した。
そのときのお父様は、無精髭が生え、髪は乱れ、息も絶え絶えで、睡眠も最低限しかとっておらず、目の下にはクマができていたそうだ。
メイドたちはお父様の鬼気迫る表情に悲鳴をあげ、最初、お父様だとわからなかったらしい。悲鳴をききつけた警護の兵士がかけつけ、屋敷は大騒ぎになったそうだ。
あたしが危篤という知らせに、よほど慌てたのか、動転したのか、お父様がはめていた手袋は、左右のデザインが違っていたらしい。
シャツのボタンもふたつほどズレていたとか……。
そして、最後のひとりとなった護衛は、お父様が別荘に到着するのを見届けると、玄関で気絶してしまったという。
どうやら、あたしは色々な人に迷惑をかけてしまったようだ。
「お父様は、あたしのことを、たくさん、しんぱいしてくださったのですね」
「ああ。そうだな。でも、以前からもっと、注意してくださっていれば、あのようなことには……」
と呟いたライース兄様は、ちょっと悲しそうな顔をしていた。
おそらく、このときのライース兄様は、年明けに死んでしまったあたしの双子の弟のことを思い出していたんだろう。
お父様が慌てたのも、ライース兄様が過保護なのも、弟につづいてあたしまでもが死んでしまう……って思ったからかもしれない。
これは大事なことなので、もう一度、おさらいしよう。
豆吉さんも言っていた。
「いくつかのイベントが錯綜してわからなくなったときは、メインキャラを軸に、状況を単純化する。そして、整理する。そうすれば、選択肢が見えてくる」
……って。
今は秋だ。
あたしはまだ生きている。
お祖母様は……ぴんぴんとは言えないが、しっかりと生きている。
むしろ、あたしをアドルミデーラ家の侯爵令嬢としてふさわしいレディに育てるまでは、とてもじゃないけど死ねないと言っているくらいだ。
ライース兄様はなぜか放浪の旅にでずに領内にとどまり、あたしに色々なことを教えながら、素直に領地の仕事を手伝っている。
お父様はカルティを追放しなかった。
カルティは烙印を押されなかったし、背中に鞭の跡もなければ、右目を負傷することもなかった……。
豆吉さん……整理したけど、選択肢は見えてきません。
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