2-12.父親の愛
しばらくの間、あたしを抱きしめて納得したお父様は、王都に向けて出立……しなかった。
寝台横にある椅子をあたしの側にまで引き寄せると、そこに座り、なんと、説教をはじめたのである。
時間にして、二、三時間ほどお父様の小言を黙って聞くことになってしまった。
……まあ、これはいびつな『父親の愛』ということで、回避不可能強制イベントと思うことにする。
それだけみんなに迷惑をかけてしまったからね。
お祖母様の説教でないぶん、まだましだと言い聞かせる。
あたしはベッドで黙って、しおらしく父親の小言を聞いているフリだけをする。フリだけね。あくまでも、パフォーマンス。
だって、同じ言葉の繰り返しだったんだもの……。
無茶なことはしない。
貴族の子女らしいふるまいを心がける。
木登りなんてとんでもない。
できないことがあれば、従者にさせろ。
子どもだけで、危険な場所には行くな。
従者の静止は聞くように。
勝手な行動は慎め。
アドルミデーラ家の一員として恥ずかしくないふるまいを心がけろ。
部屋で大人しく勉強をしろ。
礼儀作法を身に着けろ。
言葉遣いをどうにかしろ。
……などなど。
ひととおり聞けばわかることだ。
正妻の娘として蝶よ花よと育てられたわけではないので、侯爵令嬢としての基礎ができていない……ということだ。
いや、それって、あたしは悪くないよ。
嫉妬深いお父様の正妻がそういう風になるように手を回していたんだからね。
正妻にしてみれば、自分の血をひく子ども以外は皆殺しにする勢いだと思うよ。
どうせ死んでしまう子どもに、侯爵令嬢としての品格と教養なんて必要ないからね。
それにしても……お父様の説教ってば、長い。
長すぎる!
お父様、前世の会社組織では、そういうネチネチした上司は嫌われるから注意してほしいです。
説教は短く、端的に、が基本ですよ!
退出するタイミングを失ったライース兄様もこの場に同席していたけど、お父様の弾丸トークに唖然とするばかりだった。
食器を下げ終えて戻ってきたカルティは……部屋の様子を見ると、すぐさま隣室に続く扉の中へと消えていった。
声をかける隙すらなかった。
カルティはそのまま隣室で控えている。
隣室は静まり返っており、コトリとも音がしない。
うん、部屋の隅に控えてなくてよかったね……。
お父様の説教につきあうのは骨が折れるだろう。
そういえば、カルティの危険察知能力と、危険回避力はめちゃくちゃ高かったと思う。
第一部では黒幕の手駒、暗殺者のようなことをやってたから、そんな設定になっているんだった。
『キミツバ』では、乙女ゲームにしては、暗殺者が異様なほどに多かったが、そのなかでも、カルティはトップクラスのステータスの持ち主だった。
気配を消すのも上手いし、自分が不利な状況になると、さっさと消えてしまい、逃げ足も早い。
……というなかなかやっかいなキャラだったんだけど、もう今からその才能を開花させているようだ。
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