第229話 森の中にいた者達は
「北方の……もっと安全な場所に移住しようなんて計画していた矢先に、僕は捕まってしまったんだ」
獣化族は元々森林地帯に定住していた。ただ、侵攻を受けて身を寄せる最中だったということもあり、一族の仲間達が今現在、逃げているであろう先はベルザリオにとっては少し馴染みのない地域だ。
ベルザリオ自身は捕らえられてしまったということもあり、帝国の侵攻によって居住している場所が更に変わっていたり、迎撃のために戦闘員がどこかに出撃していたりすると、もう把握できない。
空から見ても遠景はともかく、一帯には森が広がっているばかりで稜線のような特徴的な地形から凡その場所が分かる、というわけでもない。
「定住しているという事ですと、集落のような場所でしょうか」
「うん。だけど、森の中で……樹上での生活をしたりもするから、空からだと分かりにくいかも」
イライザが尋ねると、ベルザリオが周囲を見回しながら答えた。
「話に聞いた時も思ったが、樹上生活は大変そうだ」
「そうでもないよ。変身すると身軽な人も多いし。僕も梯子とかいらないからね」
人の姿で梯子を使って樹上に移動もできるが、変身すれば木登りや枝から枝に跳び移る事、樹上から飛び降りる事等が容易になる。有事の際は梯子を回収してしまえば、魔物や外敵から身を守ったり、時間を稼ぐのに使えるということもあって、樹上で暮らすのは身を守る知恵とも言えた。
大樹海に比べると木々一本一本、太く高い樹が多く、確かに樹上に家を建てるにしてもしっかりと支えてくれそうだという印象はあった。
「例によって結界を探すか、帝国の部隊を見つけて手掛かりにするというのが良いだろうか」
「うん。森の中に街道とか整備されてるわけじゃないからね。みんな木々を跳び移ったりするし、嗅覚で敵や仲間の通った場所を探したりもするから……」
身体能力と五感に優れた種族が獣化族だ。
どんな獣に変身するかは親子でも違っている事があり、変身するという事もそうだが、クレアからすると遺伝的形質ではなく、神秘性や魔法的な要素がそうした特性を与えているのではないかと感じられた。例えば一族自体がそうした加護のようなものを受けている、というような。
クレア達はゴンドラから眼下を見下ろしながら進んでいく。
探知魔法を放ち、セレーナの目を持って全方位を探知していく、というのは今までと同じだ。今回は凡その方向や地形が分からないために比較的長射程の探知魔法をサーチライトのように使って、地上を走査していく、というような形をとっている。
その中で――。
「複数人が固まっている反応を見つけました。それなりの人数がいます」
そう言ったのはイライザだ。使える者は全員で探知魔法を使っていたが、そこにより引っかかったというわけだ。
「案内します」
イライザが探知した方向を指差し、クレアがそれに応じる。帝国兵か獣化族か、それとも関係のない第三者なのかはまだ不明だが、確認しに行く価値は高い。
クレア達はその場所まで行きその者達の姿を確認すべく、距離が近付いたところで高度を落としていく。高度に自由が利き、音がしない。隠蔽結界によって目立たないということも併せて、意外と気球の使い勝手も良いものではあるだろう。
到着する。樹冠の上からでは見通しが悪く、探知魔法でそこにいるのは分かるが視認はできない。
ただ――彼らはその位置関係からすると、森の一角で足を止めて、話し合いをしている様に見えた。
「状況を見てみましょう」
クレアは糸を伸ばしてその声を拾い、その姿をもっと正確に見ようと試みる。
すると、気球のゴンドラに彼らの話している姿が映し出される。そこにいたのは……帝国兵の鎧を纏った人間達だった。
「帝国兵……? いや……」
「何だか違和感がありますわね」
グライフとセレーナが言う。クレアも帝国兵を観察するが――。
「装備品が少し不揃い……?」
剣や槍が帝国兵の使っているものではない者がいるなど、装備品が帝国兵の装備というには少し不揃いだ。雰囲気ももっと雑多というか。
監獄島の精鋭部隊や戦奴狩りの部隊は帝国出身の者で構成されていたからもっと統一感があった。この近辺で活動しているのは浸透部隊と考えたらこうなのかとも感じたが、それも何か違うような気がする。
「前の部隊と同じぐらいの強さだって言うなら、人数的に制圧は簡単だと思うけど……もう少し様子を見てみる?」
ニコラスの言葉にクレアも頷く。糸を通し、話し合っている声も聞こえてくる。
『今更ここまで来て止めるっていうのか?』
『そうじゃない。やっぱり一旦戻って、仲間を集めて確実に……』
『そんな事言っていたら、戻っている内に捕まっている奴らが遠くに送られちまうかも知れないだろう……? 上手く装備を奪えたっていうのに』
そんな会話に、クレア達は顔を見合わせる。
「……帝国兵の装備を奪って仲間の救出に向かおうとしている、という事か?」
「夜間ならば……相手の情報があればそれに合わせて動く事で、ある程度騙せるかも知れません」
ウィリアムとイライザが言った。成功の見込みがない、というわけではない。探知魔法を放ってみると、確かに更に離れたところに人が固まっている反応がある。こちらは飛竜の反応もあり、帝国の部隊と推測された。
「下にいる人達については魔力の波長も……ベルザリオ様に近いと思いますわ」
「兜で顔を分かりにくくしてるみたいだけど、匂いを嗅げれば同族かはわかる、と思う。僕が様子見に降りても良いかな?」
ベルザリオが申し出るように言った。
「それで相手が敵対行動をするようならばすぐに加勢し、非殺傷の手段で制圧するというのが良いかもな」
グライフの提案に皆も頷き、敵だった場合にどう動くかを決め、ベルザリオは少し離れた場所の、風下側に降下した。変身し、匂いを嗅いでからクレアの監視用の糸に向かって頷いた。それから無造作に一団に向かって進む。
「ねえ」
と、声を掛ける。
「誰だ……!」
男達は弾かれたように動いてベルザリオの近付いてきた方向に、一斉に視線を向けた。
「今からそっちに行く。攻撃はしないで欲しい」
そう言ってベルザリオは姿を隠すことなく、前に出た。
「子供……? いや、族長の……!?」
「ベルザリオ……!? 逃げ出してきたのか!」
変身した姿のベルザリオが誰なのかすぐにわかる、というのは彼らが同族だからに他ならない。ベルザリオだと理解した彼らは驚きと喜びの入り混じった声を上げ、兜を脱いで顔を見せた。ベルザリオもまた族長の子。顔を知っている者は多い。
それを上空で見ていたクレア達も、まだ油断はしていないまでも少し安堵したような空気になる。
「逃げ出してきたっていうか、助けてもらったんだ」
「そうだったのか……。いや、俺達に関しては、帝国兵の振りをして仲間の救出をって考えてたんだ」
「それで、仲間を集めて動くかどうかって話をしてたんだが」
ベルザリオと獣化族の会話に、クレア達は頷き合い、糸でベルザリオにだけ聞こえるように声を掛ける。
「救出に動くのであれば、協力します」
その、クレアの言葉を受けてベルザリオは言った。
「僕を助けてくれた人達が近くにいる。その人達に協力を求めるっていうのは、どう?」
「信用できるのか……?」
「そこは大丈夫。他の人達も助けているし、帝国と戦っている人達だから」
そうベルザリオが伝えると、獣化族の男達もまた、顔を見合わせて思わぬ援軍に少し希望が見えたというような表情を浮かべたのであった。
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