第123話 王都からの帰路へ
――白昼、宝石店に手入れが入り、店主エルトン以下従業員や宝石店と繋がりのある職人達が捕まった。
店主の血縁者が王城での汚職と横領に関わっており、何人かの下級貴族や役人も汚職に関わっていた事が発覚。結構な大事件だと王都では話題になっていた。
国王リヴェイル、宰相スタークとしては、得られた証拠を元に更に繋がりのある者達の取り調べを進め、一網打尽にする、という方向で話も纏まっていた。
「大枠では解決に向かっているようだが――兵士達のところに手紙を持ってきた者については謎が多いな」
「手際から考えて、エルトンの事情を元々知っていたのではないか、という線から調査を進めています」
「その者も汚職をしていたことを前提にしている形か」
「念の為の措置です。仮にそうだったとしても事情を知った上で告発したのであれば恩赦と、保護、恩賞なりを考えねばなりませんからな」
王城の一室にて――国王リヴェイルの質問に、宰相スタークが答える。
「うむ。関係があるのであればこそ、告発には勇気が必要となる。それは恩情を与え、理解を示すに値する。そうでなければ告発者はいなくなってしまうからな。エルトン達とは元々繋がりがないというのも考えられるがな。何かのきっかけで知ったが、その者達に名乗り出たくない事情がある場合だ」
「その時は……人の繋がりから追えず、調査は難しくなりますな。ただ、手紙を届けた手並みから見て、魔法に精通していると思われます」
「エルトン達は何者かに取り押さえられた、と言っているのだろう? 実際の姿を見てはいないのか?」
リヴェイルが尋ねると、スタークは首を横に振った。
「庇っている線も考えましたが、どうも認識阻害の術を用いていたようですね。印象が曖昧で証言が不明瞭です。その後眠らせた事等も含めて、取り押さえた者達は魔法使いではないか、という推論を後押しするものです」
斬られた、刺された、殴られた等というのは強く印象に残っているらしいが、無力化した後に傷の治療をした節もある。失血死等をしないようにという措置でもあるのだろうが、どんな手を使ったのかという物的な証拠も残さないようにしたのではないかとも考えられた。
「余程の事情でもなければ名乗り出てくれれば称賛するところなのだがな……。王城の関係者でないなら家臣に欲しいぐらいだ」
リヴェイルは少し冗談めかして笑い、それから表情を真剣なものに戻す。
「いずれにせよ、すぐには見つかるまい。その者達については調査を続行しつつも保留とする。此度の情報を頭に留め置けば、いつかどこかで繋がってくる機会もあるやも知れんしな」
「承知しました。その者達に無礼がないように追跡の方針だけは明確にしておきましょう」
「それで良い。ああそれから……近衛の者をここに呼ぶよう手配しておいてくれ」
「近衛を? 何かあったのですか?」
スタークが尋ねると、リヴェイルは苦笑した。
「いや。大した話ではないのだ。
「辺境伯領へ? 帝国の諜報員の力が削がれている現状を考えるなら、今は比較的安全ではありますか」
スタークが思案しながらそう言った。リヴェイルも「そうだな。時期としては悪くない」と応じる。シェリル王女に関しては単なる視察というわけでなく、趣味も多分にあるようではあるが、公私の分別があってしっかり弁えているとリヴェイルは評価しているから、問題にはなるまいと、そう思うのであった。
王城ではリヴェイルとスタークが、事件の調査を進めたり、シェリル王女の辺境伯領訪問について話し合い、これからのことを取り纏めたりしていたが、クレア達はと言えば引き続き王都観光や買い物、図書館での調べ物等々、予定通りの行動をこなしていった。
把握していない残党がまだいないとも限らないので交代の夜間警備も継続してはいたが、カールによれば王城からの情報によるとエルトンの宝石店の関係者、ダドリーと共に汚職に関わっていた者達はほとんど壊滅状態であるとのことだ。
何者かがエルトン達を無力化したという話はカールにも伝わっていて、クレア達が動いたのだろうとカールも察していた。
伯爵家の別邸には朝から王城からの使者もやってきていて、使者が帰った後でカールとも別邸にて直接顔を合わせたが――。
「色々と詳しく聞いちゃうと王国が無力化した方を調査してるって聞いた身としては、ちょっと複雑な立場になりそうだからね。僕は不審者が別邸の近くにいた事しか知らないし、スピカから受け取った手紙ももう残ってない。でもまあ……エルトン達を無力化した人達にはありがとうって伝えたいところだね」
そんな風に笑いながらしれっと言うカールに、クレア達も苦笑しつつも頷く。
そうやって王都での滞在期間は過ぎていき、やがてトーランド辺境伯領への帰途に就く日がやってくるのであった。
「――それじゃあ、帰り道は十分に気を付けて。王都の滞在中、守ってくれていたこと、そして領地の問題を解決してくれたこと……伯爵家の者として感謝しているよ」
王都から帰る前に挨拶に向かうと、カールが別れを惜しむように挨拶をしてくれた。別邸の管理人や警備達も丁寧にクレア達に一礼し、感謝の言葉を述べる。
「はい。カールさんもお気をつけて。皆さんもありがとうございました」
クレアも丁寧に少女人形と共にお辞儀をすると、カール達も穏やかな表情で頷く。
「僕が帰る時には予定通り護衛隊も付いてくれるということだから。その辺は安心だね」
「伯爵家に到着したら彼らはダドリーの移送任務も担うというわけですわね」
「そうだね。それで一先ず事件は伯爵家の手を完全に離れるかな。竜討伐関係の方ではまたセレーナにも話はあると思うから、それについては辺境伯領の冒険者ギルド経由で手紙を出すよ」
「はい。お待ちしております。ああ。王都に観劇のためにクレア様達と再訪する予定もあります」
「じゃあ、それに合わせて予定が組めるぐらいの時期が良いのかな。王城とも話を合わせてみる」
カールとこれからのことについてもやり取りを交わし、そうしてクレア達は別れを惜しみつつ出発することとなったのであった。
「ダドリーの一件は、地味に影響がありそうね。宝石店が閉店状態というのもそうだけど、色々な贋作を作っていたから、それに応じて色んな分野の職人も捕まっているのでしょう?」
「そのようですわね。宝石だけなら伯爵家の鉱山を通じて、新しい販路も開拓できるとは思いますが」
「商会から補うということもできそうではあるわね。困っている分野があるなら補う、ぐらいの関わり方なら……とは思うから、商会への手紙に書いておきましょう」
ディアナとセレーナがそんな会話を交わしながら通りを進む。やがて門も見えてきて、特に怪しまれるようなこともなく、クレア達は王都を出発した。
「当初の予定以上に内容の詰め込まれた旅になってしまいましたね」
「そうですわね。元々の用事からして重大事でしたが……まさか今回の旅で鉱山の問題が解決するとは思っても見ませんでした」
クレアの言葉にセレーナが目を閉じる。クレアとしてはアルヴィレトの者達に会いにいくこともそうだし、もっと万全を期す形で竜を相手取りたかったというのはある。エルトン達についてはあまり対応に苦労するようなものでもなかったが。
ともあれ、日数だけで言うならそれほど長い期間の旅というわけではなかったが、ロナの庵と大樹海に帰る事に少し感慨深いものを感じて、クレアの肩の少女人形が静かに頷く。
正門から少し歩いたところで、クレア達は箒に跨り――辺境伯領と大樹海に向けて移動を開始するのであった。
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