第171話 王女の秘密

 王都での祝いは、温かな雰囲気で進んでいった。竜討伐の話にもなって、クレア達としては秘密を共有して魔法契約をしているシェリー達にならば話をしても良いかと、その様子や流れを話すこととなる。


「王都に来る前に伯爵が保管して下さっていた竜鱗をお預かりしたんです。元々鉱山竜は万全な体制を整えてから倒したいから準備を進めようと考えていましたので、それを解析して対抗魔法を開発するつもりでした」

「それが決め手になりましたわね。クレア様はその解析を旅の間ずっと進めていて、竜鱗を打ち破る竜殺しの魔法を形にして下さいましたから」

「それはまた……」


 シェリーとポーリンが驚きを露わにする。


「正確にはその雛形というところです。解析に関しては、こういう魔法が使えたので……」


 クレアはシェリーとポーリンに指の間に糸を張って固有魔法を見せる。


「これは――」

「これも一応、秘密にしておいてください。結構微細な作業ができるので解析も早かったのです。ですから私個人なら対策の魔法を扱ったり、武器等にこれを接続すれば直接付与したりできましたが……本当はバリスタのようなもっと大型の武器に付与して確実に倒せる状況を作って討伐を、と考えていました」


 そう言ってクレアは少しだけ苦笑する。


「あの時は突発的な状況だったからな。すぐに対応することに迫られたが、逆に言うなら勝算もあったからこそ討伐を目標に動けたというのはある」

「対策の魔法で翼を傷つけて飛べなくしてから、その後は対策魔法を直接付与した剣で攻めて、守りは幻術や囮で攪乱、という流れね」


 ディアナがその後の流れを解説すると、シェリーは得心がいったのか静かに頷く。


「なるほど……。倒せた理由も納得がいったわ。その……私ばかり秘密を知ってしまったし、私の秘密も明かしておくわ」

「お嬢様、それは――」

「良いのよ。信用して話してくれたのだし、私も話せる部分は話しておきたいのよね。安心してポーリン。実際に使ったりはしないから」

「承知しました」


 シェリーはポーリンにそう言って、クレア達に向き直る。使わない、という言葉にポーリンは少しだけ安心したような様子を見せる。それからシェリーは小声で言葉を続ける。


「私も、実は固有魔法を使えるわ」

「そう、なんですか」


 シェリーの告白に少女人形が少し驚いたようにぴくりと反応する。


「ええ。気軽に使う事はお父様との約束があるからしないわ。どういう魔法かも話せないところはあるのだけれど……大切な人のために使うというのは決めているの」


 そう言ってシェリーは微笑み、胸のあたりに手をやる。そこには魔力を制限するための首飾りがある。これはシェリーの自由意志で解除できるし身に付ける事も外すことも自由ではあるが……固有魔法を維持できない水準になると自動的に制限を行うという、一種の安全装置としての側面があった。


 シェリーが魔法道具を解除すると強い魔力反応が広がる。強く、深く、暖かい。そんな印象を受ける魔力だ。少なくとも普通のそれとは大きく異なる、というのが分かる。


「実は……私も固有魔法が使えますわ。私の場合は元々魔法に疎くて、それが感覚的な魔法なので自覚がなく、クレア様と出会ってから分かったことなのですが」

「セレーナも……。でも、竜滅の騎士の称号を貰っていて良かったわね。それが広く知られたら、もっと大変な事になってしまうでしょうし」


 秘される傾向にはあるが、王侯貴族には固有魔法を保有する者が案外多い。そうした血を積極的に家に取り込もうとするからだ。


 王族であるシェリーや貴族家であるセレーナがそれらを保有しているのは納得のいく部分ではあるだろう。クレアに関しては……それこそどこかの貴族の落胤なのではないか等とシェリーやポーリンとしては思考の片隅で思ってしまうところではあった。


 セレーナに関しては――つい最近まで伯爵家が苦境にあったし、それが最初から判明していたら付け込もうとする者が寄ってきてもっと大変だったかも知れない。


 竜滅の騎士の称号を貰い、リヴェイルもセレーナの行動に対して自由裁量を認めている。であるから、そうした迂闊な動きはかなり抑制されるだろうという状況下だ。


「反対に、カール様の方にはそうした声が多くなりそうですが」

「伯爵家の面々はしっかりしているようだから大丈夫だと思うのだけれど……一応気を付けてね」


 ポーリンの言葉に頷き、シェリーが言った。


「確かに……王城の宴席でも声をかけられたからね。ただ、僕は元々伯爵領騎士家の御令嬢と婚約しているからね。伯爵領が苦境の時でも支え続けてくれた家だから信頼しているし、何より僕はあの人の事が好きだよ」

「そう? この様子ならば心配はいらなさそうね」


 カールが笑ってさらりと答えると、シェリーも納得したように応じた。セレーナや伯爵夫妻としては二人の関係が良好だと知っているからこの辺あまり心配していない様子だ。


 伯爵家回りは一先ずは不安も無さそうということで、クレアも小さく微笑むのであった。




 クレア達は滞在中、シェリーと共に王都の観光もしていった。シェリーが観光やその案内に協力してくれるということもあって、セレーナの付き添いという名目で大学にある時計塔等の見学もできたという形だ。

 魔法式の時計台ということでクレアやロナ、ディアナも興味深く見学していた。他にも王都でシェリーが贔屓にしている店などを紹介してもらったりと、クレア達は王都観光を楽しんでから帰途についたのであった。


 帰路はやはり、伯爵領経由だ。その際、保管庫から回収していなかった竜の肉を回収していく。

 帰ってからは庵周辺や開拓村の整備、家具の充実、ポーション作りや人形作り等に追われることとなった。


 やや忙しくはあるが、充実した時間だとクレアには感じられた。

 開拓村も更に人が集まっており村の設備が充実したり規模が広がったりしていくのは、クレアとしても傍から見ていて楽しいものなのだ。


 開拓は基本的に肉体労働でもある。

 その点で効果の高いポーション等が安く潤沢に確保できるというのは、村民にとっても安心できる話だ。と言っても無償で何かをするというのは健全ではないからとクレアも開拓作業に関する事に限り、という条件付きで村に卸すポーションを安くし、それ以外のところでポーションを使う場合は相場通りの金額での提供ではあるのだ。

 村が発展するならばクレア自身の生活が向上するから、という理由でもあるが。


 いずれにせよ開拓作業で怪我をしてもすぐに治り、体調も万全になる。開拓民も意欲的、効率的に作業を進めていくことができた。


 更に開拓民にアルヴィレトの民も多い。騎士、兵士、魔術師も村民や冒険者に紛れているので、森にいる魔物、大樹海の魔物への対応力もあるのだ。

 辺境伯家も開拓村には期待しているようで、巡回は手厚くしている印象がある。


 ウィリアムとイライザ達が開拓村周辺の巡回任務に加わっていてこれは、リチャードの取り計らいではあるだろう。時折ルシアとニコラスも遊びに来ることがあり、開拓村にしては村周辺の戦力が異常なものではあるが。


 そんなこともあって、一般的な開拓村よりもかなり早い速度で開拓村は急速に発展、充実していったのであった。

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