第69話 夜の訪問者
未成年なのに、自宅あり、婚約者有り、不労所得ありの、
ぶっ壊れハチャメチャ人生を送っております。
しかも、何故か〈伯爵〉様に成ったそうで、
もらった屋敷に来てみると、
中から現れたメイドさんを見て、俺はビックリしている最中です…
しかし、
一番反応したのが、ユリアーナさんだった。
なぜなら、目の前のメイドさんは、ユリアーナさんと共に助けられた、元文部大臣〈ザーネ〉さん家の娘さんだったからである。
ユリアーナさんと抱き合い再会を喜ぶが…
〈あっ、名前知らないや…〉
と思っていると、
ハッとしたメイドさんが小走りで俺の前にきて、
「お帰りなさいませ旦那様」
とお辞儀をする。
〈アタシの旦那様デス!〉
と、念話がきたが無視しよう…
俺が、
「えっと、たしか、ザーネさんの…」
と、言うと、
「はい、あの時はお礼はおろか自己紹介も出来ておらず、命を救って頂いた方になんと失礼なことをと…
申し遅れました。
私、ザーネ子爵家の娘で、
ミーチェ・ザーネと申します。
以後末永くお願いいまします。」
と自己紹介をしてくれた。
〈学問の神様みたいな名前だね…スガワラノとか付かない?〉
ミーチェさんね…うん、了解、了解だけど、
〈なんで?〉
と首を傾げる俺は、
「ミーチェさんですね。
では、何故ミーチェさんがメイドに?」
と、聞いてみた。
「長く成りますので、皆様の中へ。
長旅の疲れを落として頂きたくお風呂も準備をいたします。」
と…
いくらなんでも、
一人でお風呂の準備まで任せるのは大変だよね。
どうしよう、メイドさんとかもっと要るかな?シルフィーちゃんに相談しようかな?
と思いながら、我が家なのにお宅訪問気分で入っていき、
ミーチェさんに屋敷の案内をしてもらう。
玄関から入り応接室やリビング、ダイニングなど広々空間が続き、一番びっくりしたのが、屋敷の面積の1/3は鍛治などの工房になっていた。
工房の奥には犬小屋と馬小屋と止まり木があり工房の扉から広い庭に出られる。さっそく玄関に待機中のシルバーさん達を庭の扉から工房に入ってもらい、自室を確認してもらう。
シルバーさんは藁の寝床を確認し満足そうに
「主よ、我が使って良いのか?」
と、念話で質問してきたので、
「勿論、使い辛いとこが有れば言ってね。」
と言ったら頷きその場で膝を折って寛ぎだした。
〈よし、気に入ったみたいだな。〉
ファルさんは既に止まり木に陣取っている。
まさに羽休めだな。
そして、キバさんは庭で走り回っている。
〈楽しそうだからヨシ。〉
工房の中に仮眠室のような四畳半くらいの部屋があり、キッド君が、
「こちらの部屋をいただけないでしょうか?」
と聞いてきた。
「もっと広い部屋があったよ?」
と聞いたが
「ここが良いです。」
と、キッド君の中で、決定みたいなので、OKした。
俺の部屋は二階の中央で、コの字に取り巻くように十個の個室が並ぶ、
「最大十人迄なのデス!」
と言うミレディさん
なにが?
「嫁候補なのデス」と…
「いやいやいや、シルフィーちゃん1人で十分だよ!」
と答える俺に、
「目を離したらすぐに女を拾ってくるデス…
ねぇー!」
とユリアーナさんに同意を求めるミレディさん
「ねぇー!」
とユリアーナさんまで賛同した。
心当たりがないな…〈ミーチェ〉さんは…
うん、あれは違うはず。
等と話していると、
ミーチェさんが一階の浴室から二階に上がってきて、
「お風呂の準備が整いました。」
と言ってお風呂に案内してくれた。
男湯と女湯が別れていて、ラッキースケベも無い仕様だ。
まぁ、基本の運気がレベル200を超えてやっと人並みになった奴にラッキーもクソも無いのだが…
皆と別れ一人で風呂に入る。
広い湯船に1人、馬車旅中も簡易魔石風呂に入ってたけど、狭かったから手足が伸ばせるのは最高だ。
「あぁぁぁぁいい湯。」
とホッコリしていると、
「お背中流しに参りました。」
とミーチェさんが入ってきた。
半袖半ズボンスタイルに少しホッとしたが、
続いて
「髪の毛をトリートメントに参りました。」
と、エルフの水浴び用の白い浴衣姿のユリアーナさん
嫌な予感がしつつ、
「それ意外全部洗いに来たデス!」
と、バスタオル一枚のミレディさんが元気良く入ってきた。
「なんだよぅ?!」
と抗議した
「旦那様の背中を流すのはメイドの務めです。」
とミーチェさんが、
「私もメイドです。
シルフィー様に逢いに行くのにご主人様を磨き上げなければ!」
と、フンスと鼻をならして答えるユリアーナさん。
「観念するデス、強制スケベられデス!」
もう、俺にはラッキーかアンラッキーかのチョイスすら無いようだ。
風呂に入り、かえって疲れた。
主に三人に退室頂くのに…。
「体ぐらい自分で洗えるし、この家に必要なモノを先に三人で会議して、メイドさんのお仕事開始ですよ。」
と、指示を出し、
「チッ。仕方ないデス…
次は覚悟をするデス!」
と、渋々指示に従うミレディさんは、
「行くデスよ」というと、
「はい。」と頷くユリアーナさんとミーチェさん…
二人とも…いつからミレディの子分に…?
風呂から無事に帰還し、
ぐったりしながらダイニングで寛いでいると、井戸で冷やしたお茶をミーチェさんが出してくれ、
そこで、改めてミーチェさんにメイドになった理由を聞いた…
彼女は、
「はい、隙あらば嫁にもらって頂きたくて来ました。」
と…俺は盛大にお茶を吹いた。
聞けば、油田顔のザーネ子爵 (元伯爵)は、ミーチェさんをカイル王子の嫁にするべく裏で色々していたため、罰として子爵に落とされ地方領主なったそうだ。
使徒のアルド様に噛みつき失った名誉ならアルド様に嫁に貰われれば世間は〈許された〉と判断するからパパは大賛成だよと後押しされたのと…
やっぱり、片田舎では噂が回るのが早く〈盗賊に拐われた娘〉という周囲の目から、思った以上に居づらい環境になったらしい。
話終わった後に、
「父からアルド様にこれをと…。」
そういって、ミーチェさんは一通の手紙を渡してきた。
手紙に目を通すと、
「迷惑をかけたアルド様に、このようなお願いは厚かましいと存じますが、
どうか、娘のミーチェに生きる場所をお与え下さい。
実は娘には惚れた貴族の小僧がいました。
私の野心につき合わせ見合いをするには遅くなってしまったが、
惚れた男がいるのならと安心しておりました…
しかし、ミーチェが盗賊に拐われ何日も経った後に帰ってきたと耳にした小僧はミーチェを捨てて去って行きました。
あやつを責めることもできず、命を絶とうとする娘に、
〈助けて頂いた命、アルド様の為に使いきってからでも遅くない!〉
と、いさめるのがやっとでした。
娘には嫁にもらって貰えるくらいにアルド様に尽くしてこいと送り出しましたが、生きていれば十分でございます。
娘を宜しくお願い致します。」
と…
俺は読み終えて、フーッと息を吐くと、
「父は何と?」
と、聞いてくるミーチェさんに
「娘を頼みますだって…。」
とだけ答える俺に、
〈えっ、それだけ?〉みたいな顔で少し考えてから、
「では、アルド様。
改めまして、宜しくお願い致します。」
と、頭をさげるミーチェさん
「ウチでいいの?」
と俺が念を押すと、
「アルド様が良いんです。」
と答えたミーチェさんに、
「こちらこそ、お願いします。」
と、俺も頭を下げた
顔を上げた俺を見たミーチェさんは
笑顔で泣いていた。
ごめんね。
留守の間1人で不安だったんだね…。
その日の夜、俺の部屋の扉を誰かがノックした。
〈夜這いか!〉などとドキドキしながら
「誰です?」
声が上ずったが訪ねる。
すると、
「ニャァですニャ!
引っ越し祝いをお届けに来たニャ。」
と…
〈アイツ〉だった。
「間に合ってます!」は駄目だろうな…
と、考える俺
そう、クロネコさんが、新居なのにやってきたのだ。
転居届けも出してないのに…少し気持ち悪いと思っていると、
「いい加減開けて欲しいニャ!」
と、騒ぐので仕方なく、
「どうぞ」
と、扉を開けた。
クロネコが真っ赤な肩掛け鞄でやってきた。
「民営化させられたか?」
と、郵便スタイルに驚いていると、
「何の事ニャァ?」
とトボケるクロネコ…
〈まぁいいか…狙ってやってるみたいだし…過剰反応はヤツを喜ばすだけだ…〉
俺は、
「で、ご用件は?」
と聞くと、
クロネコは、ピシッと向き直り、
「神様達から速達便ニャ!」
と言って手紙の束を渡してきた。
「サインですか?」
と俺が聞くと、
「今日のは不要ニャ!」
と…
「そうですか。」ルールが解らん。
手紙を渡したクロネコはじっとこちらを見ている。
「どうした、見つめても仲間にはしてやらんぞ?」
とクロネコに言ってみるが、
「返事待ちニャ。別に仲間にしてほしそうには見てないニャァ!」
と言われた…
〈そうですか…でも、多分コイツ神界でゲームしてるだろ…しかも地球の…〉
と、新たな疑惑を持ちつつ、
手の中の手紙を確認すると、
「主神様」
「学神様」
「技能神様」
「治癒神様」
「商神様」
「武神様」
「狩神様」
……って、全員じゃね~か!!
読みたくねぇ~。
どうしよう?どれもホントはスルーしたい…。
仕方ない、「主神様」からかな…
と、そっと手紙を開ける。
『アルド君久しぶりです。
自分の家を手に入れたみたいだね
おめでとう。
色々コソコソしてるのは知っているよ。
でも、私は寛大な神様なので、別に邪魔とかはしません。
君に頼んだのは期限の20年迄にメインダンジョン全ての踏破してくれれば、君が何人嫁を貰おうが、
どこの神を復活させようが、
どこの神と手を組もうが私は何も、
特になにも、言わないよ。
寛大だから、
でも、約束を違えた場合はそれ相応の報いを受けてもらうからね。
絶対に。』
と…
〈うわぁ、めっちゃ怒ってるぅ~。〉
『追伸
前回の手紙は君が産まれてすぐに書いた物だから、期限は君が二十歳に成るまでね。
文句はなかなか君を見つけれなかったクロに言ってね。
それと、
「天野 勇君」の準備が出来ました。
しかし、商神のフクさんが、
「神力がまだ戻らないから転移は待ってくれ」と言っているし、
治癒神も、「勇者に休息が必要です。無理な修行で魂に負荷がかかっています。」
だって…ホントかな?
嘘臭いよね。
皆、敵なのかな?
まぁ、私は〈寛大〉な神様だから許してあげるけど、
三年だからね三年後には勇者を送るから!
勇者には最悪、魔王城だけでも異世界に放り出せと言ってあるから、
せいぜい頑張ってね。
じゃあね!!!。』
……クソ小せぇ。主神クソ小せぇ…。
「おいクロ。」
と、俺は猫を呼ぶ、
すると、
「何ニャ?」
と、不思議顔で返事をする猫に、
「おまえ、引っ越したばかりなのによくここが判ったな、なんでだ?」
と質問すると、
〈えっへん〉と胸をはり、
「簡単ニャァ!
ニャァの瞬間移動なら会いたい相手を念じながらスキルを使うと、その人の近くまで一瞬で行くニャァ!!
魂が引き合うニャ、室内でもへっちゃらニャァ。」
と…
俺が「へぇー」と感心していると、
〈どやぁー 〉と聞こえてきそうな顔をするクロネコに
「おまえ、最初の手紙、四年かかったって…嘘だろ?」
と聞くと、急に汗をダラダラたらしながら、
「そ、そ、そうニャ。
か、か、かかってしまったニャァ。
あははは、いやぁなんでかニャァ?」
と…
〈うわぁ…絶対嘘なヤツだよ…〉
小者感が凄いな…主神様…
しかし、主神様のやり口は良く解った。
〈マジ頑張って奥さん復活させよう。〉
「学神様」
『アルド君、元気?
君のおかげで最近凄い漲ってます。
エルフの国では、嫌な事に巻き込んで、ごめんね。
あと、主神様が何か企んでるから気を付けてね。
私も〈大地の女神〉様の復活を応援しますから頑張ってね。』
と、半分詫び状だった。
「技能神様」
『引っ越ししたらしいな、おめでとう。
最近信仰が、沢山届くが、アルド君が何かしてくれたみたいだな…有り難う。
それと、
すまんアルド君
主神を止められなんだ。
主神はルールに厳しい神だが、
ルール意外は、まぁ、あれな神だからな…。
出されたお題さえクリアしてくれれば、ワシ達も何とか成る範囲で頑張るから、宜しくたのむ。』
俺も頑張りますから、神様達も頑張って主神様の暴走を何とかしてください…
「治癒神様」
『メモ書き以来です。
治癒神のメディカ です。
勇者君の準備が完了しましたが、
無理にメニューをこなしたせいで、
心と身体がボロボロな状態です。
復活に三年の猶予をもぎ取りましたが、十分ではありません。
どうか、勇者君を助けてあげてください。
勇者君に神殺しをさせないで!!
お願いします。』
と…オイオイ!天野君に〈神殺し〉させる気か?
軽くシバくんじゃねぇのかよ…主神クソだな…
俺の主神様の株価はもう、便所紙以下である。
嫁を追放から、ちょっとあれだな…
と思ったけども…
「商神様」
『治癒神のメディカさんに頼まれて、勇者の天野さんの転移を遅らせました。
頑張りましたので、
アタシにも信仰がアップするヤツをやっとくれ。
狡い!最近学神の肌艶が凄い!!
羨ましいんだわさ。
〈ソロ〉っていうエルフの青年みたいに熱心な信者を頼んだんだわ。』
と…ばばぁは黙っとけ…催促の手紙かよ…
「武神様」
『初めまして武神のラウドだ。
すまねぇが、ダザールのガキの軍が、リザードマンの国を襲っている。
リザードマンは強いが、それでも勇者が来るまではもたねぇ。
勇者が遅れるのはおめぇのせいだから主神がおめぇに頼めと言っていた。
頼む頼れるのはおめぇしかいねぇ。』
って、クソ主神がまたしかけてきたぞ!!
最後の手紙は、
「狩神様」
『我、狩猟の神 リバー なり!
他の神ばかりかまったらいじけるぞ!』
………?
えっなにこれ?
用事はないけど仲間には入りたいのか…?
全部読み終えた…
〈疲れた…マジで疲れた…〉
部屋の絨毯の上で寝ているクロを揺って起こすと、
「ふニャァ~、読めたかニャ?
読めたら返事を下さいニャァ。」
と、言ってきたから
「返事を書くのも面倒だ!
全員に了解しました!!
と伝えてください。お願いします!!」
少しキレ気味にクロネコを帰して、
部屋で大きなため息をついた。
〈神様の人間性が…駄目っぽい…
人間じゃないから仕方ないのかな?…〉
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