〈運が無いだけ〉ですので

第104話 勇者天野君という厄災

勇者に襲われ逃亡中の

アルドです。

神になったらしい俺がいうのも何だけど、

〈天野君、人間辞めた？〉

剣一振で広場周辺がほぼ更地ですよ！

シルバーさんに乗ってなかったら、お陀仏でしたよ！！

勝てる訳が無い！！

アッチでは目が笑ってない少女と巨大なライオンが建物をなぎ倒しながらもみ合っているし、

そのむこうでは、壮絶な親子喧嘩を地形が変わる勢いで繰り広げている。

〈何だよこの怪獣大戦争は？〉

追い付いて来た勇者の前にファルグランさんが割って入ってくれた。

勇者の攻撃を受けても何とか盾で凌いでいるファルグランさんに上空からオルドラン君の援護が入る。

「ファルグラン！行きます。」

と、叫ぶオルドラン君に

「応！」

とこたえるファルグランさんが、

勇者に大剣を振り下ろす。

剣で受け止めた勇者の踏みしめた足元がへこむ。

するとファルグランさんがスッと離脱した。

と、同時に

「オルドラン・フルバーストぉぉぉ！」

と、上空から真下に〈ドランブレス〉〈ロングレンジ魔砲〉〈拡散魔砲〉の一斉発射

が連続して勇者を襲う。

俺なら絶対死ねる量の攻撃を受けた勇者

頼む、せめて怪我…いや、〈疲れてる〉くらいはしててくれ。

と願う俺だが、

砂ぼこりが落ち着いた着弾点は凸凹に荒れ果てて、

その中心に盾を頭上に構え、肩口の砂を平然と払う勇者がたっていた。

「ノーダメージかよ！」

と突っ込む俺に、勇者は、

「小山さん、砂が目に入って痛かったからダメージ１くらいは入りましたよ。」

と余裕で話してきた。

もう、俺では駄目だろう、濾過ポイはまだ使えないし、ゴーレムチームな火力も通じない…

ダザール様ぁ、早くやっつけて助けにきてよぉ

何とかしてよ ダザえも～ん

俺の心の声にバトラーがダザール様の戦況を、念話で報告してきた

「御主人様、ダザール様は現在主神と奥義の打ち合いをされておりますので、加勢にはまだ掛かるかと…」

と…

〈真面目か！〉

とツッコミを入れるが、

「いいよ、始まったばかりだから未だなのは知ってるよぅ。

因みにどんな奥義？」

ファルグランさん達の頑張りで少し余裕が有るからか、気になったまま戦うのが嫌なだったからか

思わず聞いてしまった俺に、

ダザール様の〈究極 魔王撃〉を主神の〈至高の右〉が迎え撃つ形です。

馬鹿、ばか、バカっ

究極 対 至高 は先に攻撃した方が負けるんだよ！

かなりの確率で…

と思いながら

「で、結果は？」

と聞いた俺に、

「相殺され引き分けです。」

と、バトラーが答える。

良くやったよ。山岡…いや、ダザール様。

先攻究極で引き分けは、実質勝ちだ。

「第２撃目を準備中です。」

とバトラーが報告をくれたが、

まだまだ掛かりそうだな…

と、諦めて、

「バトラー、結果が出たら連絡して。」

と告げて一旦自分の戦いに集中することにした。

ファルグランの盾が傷だらけになりヤスリの肌の様になっている。

そして、打ち合いが続くなかで、試合が動く。

大剣をうち下ろすファルグランさんに下から切り上げ迎え撃つ勇者。

「ガキン」と甲高い音がして、お互いの剣が折れた。

勇者は何の躊躇も無く聖剣と思われるソレを捨て去り、素手でファイティングポーズをとる

ファルグランさんも折れた剣と傷だらけの盾を置いて構える

そして、ミレディから、

「ダリア様が、

〈レベル八百になりましたので、濾過ポイを使って戦いに集中して下さい〉

と、仰っているデス。」

と、報告してきた。

俺は、一旦離脱して地脈の噴出を止めて、不純物分のカードをしまい、ポイを消す…

すでにキッド君のポイは消えており、俺も再び勇者の元にむかう…

すでに、片腕を失いながらも戦うファルグランは、ボロボロになりながらも勇者を戦場に釘付けにしてくれていた。

そんな中で、金星を挙げたのが、濾過ポイを手にしたキッド君チームが治癒神の〈魔力〉と〈スキル〉の濾しとりに成功した様だった。

キッド君から念話で作戦成功の一報が入り、指示をあおいできた。

俺は。

「経験値と魔力も濾しとってから、鑑定使って見えるモノを片っ端から濾しとり尽くしてミスリルを腕に巻いて、こねたあとに魔力流して捕まえといて。

可愛そうだから身ぐるみは止めとこうかな？

じゃ、よろしく。」

と、キッド君に伝える。

これで主神か勇者がなんとかなれば良いのだが…

カーンさん達の長距離攻撃はあまり効かないのよね、ダザール様の親子喧嘩は近距離タイプの殴りあいだし下手に魔法で加勢したらダザール様に当たっちゃう。

ミミレオンちゃんも合流して、合体勇者チーム三体で勇者と戦っているが、正直圧されている。

そして、

キバさんとキッド君が治癒神を連れて俺の所に来た。

「ご主人様、この後いかが致しましょう？」

とキッド君が聞くので、

「ファルグランさん達に任せてカーンさん達のいる丘の前の草原まで退避して。」

と念話でお願いをして、一緒に草原まで退避し、

勇者を迎え撃つ作戦を開始する。

ダンジョンポイントであるスキルを交換する…

かなり高いスキルだが躊躇なくレベルMAXの物を選び、ダリア様に渡す。

そして、思い付く限りダリア様をスキルモリモリにした後で、

〈ヨシ！〉と気合いを入れて戦地に戻る。

〈準備が出来ので、合体勇者チームにゆっくりと草原エリアに勇者を引き込んで欲しい〉と指示をだした。

ファルグランさん達は退避しながら勇者を草原に誘導しているが、

もう、グランユニットは既に動いていることすら奇跡的な状態だった。

〈マジックパンチ〉に〈爆破魔法〉をのせたファルグランさんのフィニッシュブローも勇者はノーマルパンチで応戦する。

巨人の拳と勇者の拳が触れた瞬間に爆発が巻き起こり…

巨人の腕が吹き飛んだ。

勇者はそよ風の中にいたかのように、無傷で、その場で立っていた。

満身創痍のメタルボディーの巨人は静かに膝を折り、項垂れ、沈黙した。

「ファル！大丈夫か？」

と念話を飛ばすと、

「アルド様、私はまだイケます。

しかし、グランユニットは…」

と悔しそうなファルさんの声が返る…

俺は、

「オル君、カメラマンに専念してくれるかい？

ドランユニットはファルさんに運用してもらって。」

と指示を出した。

「了解です。」

とオル君がドランユニットから飛び立ち、代わりに天空から白銀の隼が舞い降りる。

「ウォォオォォォォっ！」

「機動巨龍ぅぅ、ファルドラン！！」

金属の黒龍が闘志に燃えて目を覚ました。

「オルよ、わがままを聞いてくれてすまない。」

とフクロウに謝る黒龍。

「ファル先輩気にしないで下さい。

僕は本業に専念します。」

とオル君は答えてダザール様の勇姿を撮影に向かった。

ファルドランさんは再び勇者に向かってゆく

〈ドラゴンクロー〉で勇者に切りかかり、

反対側から〈氷の牙〉を叩きこむ

「つめた！」

勇者が驚きの声をあげたが…

「つめた！」ぐらいの威力ではないはず。

ほぼゼロ距離からの〈ドラゴンブレス〉を決めるが、

「あちっ！」

と声を出す程度の勇者

「さっきの巨人は魔法主体の拳闘士で、今度は接近戦と遠距離攻撃もできるドラゴンか…

鬱陶しいな。」

と呟きファルドランのドラゴンクローを、素手で掴んで受け止め、

そのままドランの腕をねじきった。

「グギギっ」となんとも言えない声をあげたファルドランは空に舞い上がり、

ロングレンジ魔砲で勇者を狙い撃つ。

〈必中〉〈追尾〉で目標に当たるまで追尾する魔法の弾丸がマシンガンの如く放たれ、勇者に向かってゆく。

盾を再びアイテムボックスから出した勇者はファルドランの攻撃を打ち落としてゆく

一撃も入らないか？

と思われたその時

勇者の背中に封入のバリスタの矢が直撃し電撃が勇者を包み込む

「ぐぁぁぁ！」

と初めて勇者に有効打が入った。

「しししっ、背中がお留守やで勇者はん。」

とテディちゃんの念話が聞こえた。

バリスさんとテディちゃんの作戦で勇者がシビレて盾をはなした。

チャンスとばかりにバリスさんとカーンさんにファルドランさんが勇者を狙い撃ち雨のように魔法の弾丸が放たれた。

しかし、勇者は両手を広げる！

ノーガードで受ける気か？

と俺が思った瞬間、

勇者の全ての手の指から光線が放たれ、向かって来る攻撃を打ち落としてゆく。

「赤い大佐の足の無いヤツかよ！！」

と思わず突っ込む俺に、

「腕は飛び回りませんので。」

と勇者が答えながら指先の光線を束ねて、ファルドランさんを打ち落とした。

地面に墜落するファルドランに念話を飛ばすと

「アルド様、申し訳ございません、

二台目のゴーレムユニットも完全沈黙しました。」

と悔しがるファルさんに

「先輩、わたしと交代して下さい。」

とミミちゃんが提案する。

「アルド様？」

と伺いをたてるファルに、

「よし、ミミちゃんはカメラに専念して、ファルさんはレオンに！

でもそろそろ俺も出るから、草原まで勇者の誘導がメインで。」

と俺が了承するとすぐに、

ミミレオンからファルレオンにスイッチした。

打てる手はもう少ないな…

ジタバタするしかないなのなら、全力で世界一のジタバタを見せてやる！！

と、俺は腹をくくり、勇者の待つ草原に向かった。