第105話 腹をくくった男の生き様

腹をくくった男の生き様を

とくと見て欲しいアルドです。

死に様を見せないように頑張ります…




「よう、加害者

呪いのせいとはいえ、また罪を重ねるのかな?」


と、俺が問いかけると、


「自分も嫌なんスけど、

〈殺せ〉との命令なので仕方ないんですよね、これが


もう一度、被害者になってくれません?」


と答える勇者


〈嫌じゃボケ!〉


と思ってみたが、気を抜けばあっという間に被害者だ。


「おうおう、いたいけな十三歳を勇者が殺すのかい?」


と俺が問いただすが、


「いたいけな子供はゴーレムを使って攻撃を仕掛けてきませんよ。」


といって、影から飛び出したキバに向かい、人差し指を〈クイッ〉と地面にむけると、


〈ズシン〉とキバが地面に叩きつけられる。


「キバ!」


と呼び掛けると、フラフラと立ち上がり退避するキバを確認し、


〈重力魔法なんてあるんだ。〉


と感心するオレに、


「勇者の修行用の基本スキルですよ。」


と答える勇者に俺は、


「はぁー、どこの戦闘民族だよ」


と呆れる。


そして、「では、死んでください。」と殴りかかる勇者を


斧でいなし、直撃は避けたが、

手刀がかすっただけで肩口がザックリと切れて流血する俺…


なぜか、


「頑張って。」とシルフィーちゃんの声が聞こえた気がした。


〈死ぬ前のヤツかな?…これ…〉


と思っていると、次々に声が聞こえて、力がわいてきた。


〈フルポーション〉を一本飲み干し元気になって、今度はこちらから攻めていく。


体が軽い、力がわく、スポーツマンの〈ゾーン〉とはこれかな? と感じる高揚感


心のに響く人々の声…


えっ、祈りの力が俺に届いているのか?!


テレビゴーレムで世界に流れるこの現場の映像…


つまり、俺の正確な姿をあらわす像 (映像) に名前 (アルド) を唱え祈ると、祈りの力が神に届く。


理屈がわかった俺は


「テレビの前の夜更かししている方々、アルドからのお願いです。


皆の力を、祈りの力を分けて下さい!」


と叫んだ。


「そちらも、戦闘民族にでもなったつもりですか?」


と勇者は笑って言ってきたが、大陸中に、テレビネットがあり、午前0時すぎだが、多くの人々が見てくれて、その方々の「頑張って」という祈りが俺に届いて、俺を強くしているのを勇者は知らない。



そして、異世界初心者の勇者は未だ知らない…


たとえ子供と言えどドワーフの腕力が人族よりもはるかに強い事を…


俺は、二本の斧を地面に突き立てた瞬間に〈短距離転移〉で勇者の真裏に移動し、〈チョークスリーパー〉を仕掛ける。


だが、仕留めるのが目的ではない。


「今です!!」


と叫ぶと、


「はい、捕まえた。」


と、ダリア様が短距離転移で現れ、勇者に触れて〈呪解〉のスキルを使う。


そうなのだ、ダリア様が鑑定スキルで勇者が鑑定出来るまで、地脈でレベルを上げ、呪解スキルを使ってもらう…


〈ギリギリの賭けだったが上手くいった…〉


と安堵していると、


俺の手をタップする者がいる…


勇者だ。


「あっ、ごめん。

仕留めるところだった。」


と勇者の首からてを離した。


「やっぱり小山さんは転生して戦闘民族になったんじゃないですか?


瞬間移動ってズルいですよ。」


と、拗ねている勇者。


「誰かさんのせいで苦労したからね。」


と答えたら、


「申し訳ございません」


と病み始めたので許してあげた。


バトラーにダザール様の様子を訪ねると、


「ダザール様が、急に少し優勢になりましたが油断出来ない状態です。」


と、報告してくれた。


ダザール様にも、祈りパワーが行ったかな?


うーん、俺が行ってもあんまり役に立たないし…


と考えているとミレディから


「マスター、魔王城の近くに高エネルギー反応がありマス。


カーンの計算では神力の可能性ありとの事デス!」


との報告がくるが、


〈なんじゃそりゃ?〉


と思いながら勇者と一緒に空を見上げた。



今は崩れ果てた魔王城の側に光の渦が巻き始める。


〈UFOですか?〉


と眺めていると、


金色の空飛ぶ帆船に乗る七人の神様と、一匹のクロネコが現れた。


出発前に登録したクロからの念話が入ったとミレディから報告があった。


繋げてもらうと、


「助っ人に全員連れて来たニャ!!」


と、クロからの報告がはいる。


「クロ、良く頑張ったね。」


と、俺が労うと、


「治癒神に気をつけるニャ!

神力を隠し持ってるニャよ。


主神のお布団がバリバリ呪物だったのニャ、


アホの威張りん坊は、神界の恥じニャ、

神様総出でボコすから待ってるニャよ。」


と、連絡があった。



ほな、大丈夫だな。

良かったぁ、生きて終われそう…


俺は、〈亀吉君〉をアイテムボックスから取り出して、神々の戦いを見守る事にした。


赤いリザードマンの神様と漆黒の鎧の大男が船から飛び降り、主神に殴りかかる。


残された神様達はリザードマンの神様と黒い騎士に何かしらのバフをかけている様子、


商神の婆さんは縄を船から主神に向かって投げる。

縄は生き物の様に主神に絡みつき締め上げる。


そして、ダザール様と、たぶんラウド様による大濾過パーティーが始まった。




〈よし、終わったな。〉



と、グランユニットなどをアイテムボックス片付けて戻って来たのですが、


俺が、居ない間に何があったの?



主神がタンコブだらけなのは仕方ないにしても、


なぜ、勇者天野君までボコボコなの…?


と、不思議に思っていると、


「主にラウド様による制裁です。」


とバトラーが教えてくれた。


「生中継はしてないよね?」


と聞けば、


「流石にあれは…」


と口ごもるバトラー、


〈流してないなら良いけど…〉


と安心した俺は、


「でも天野君は?」


と聞くと、


「ラウド様は神界で勇者にもっとボロ雑巾の様にされていたニャア」


とクロも報告してくれた。


〈そうなんだ。〉


と納得しながらも俺は、


「お疲れ様クロ、大変だった?」


と俺が聞けば、


「怪盗勇者 クロネコ に不可能は無いニャア。」


と言ってドヤ顔をした。


〈今回ばかりはドヤらせてあげよう…〉


クロはアイテムボックスから金色のカードを渡してきた。


「アホ主神の神力ニャ。」


と言われてカードを受けとる俺、


「治癒神の神力は神界に無かったのニャ。

たぶんどこかに隠し持ってるのニャア!」


と報告され、スキルを濾しとったキッド君を呼び治癒神の濾しとられたスキルカードを確認した。


「神格」

「神々の知恵」

「治癒魔法」

「爆破魔法」

「拡散」

「収縮」

「集中」

「創薬」

「結界」


〈アイテムボックスは無いか…


隠す場所は無さそうだし、


まぁ、後で起きてから聞こう。〉


と決めて、


先にダリア様に、


「ダリア様、主神の神力です。」


と渡した。


「どうするの?」


と聞くダリア様に、俺は、


「ダリア様が神力満タンのフルパワー成って、この状況を裁く事が出来る神様に連絡して下さい。」


と頼むと、


パキッとカードを割り光を吸収し、暫し考えるダリア様は、


「うーん、何とかパパが呼べそうね。」


と言っていたので、


〈はい、お任せました。〉


と、ダリア様にパパ召喚をお願いし、主神にハイポーションと勇者にはフルポーションを飲んでもらってから、話を聞く。


「主神さん…もう、主神様でもないかな?」


と俺が言うと、

流石にラウド様達の愛ある拳での説明が身に染みたのか、


「呪いにより、まともな判断能力に欠けていたとはいえ、僕は間違っていました。」


とやたら素直だ。


「元を正せば、治癒神の好きな男神を難癖つけて異世界に飛ばしたらしいじゃないの?」


と俺が言ったら


「えっ!」とビックリしている主神


うーん主神じゃないし呼びにくいから名前と言うか〈あだ名〉でもつけるか。


ポンコツ神様だから〈ポンちゃん〉でいいや。


「ところで〈ポンちゃん〉島流しした男神はどうしてる?」


と俺が聞くと、ポンちゃんはギクリ!として目を泳がした。


「てめぇ、コラ。

さては、男神を島流しでは無くて消したのか?」


嫌な感が働いて、カマを掛けたら、


当たりを引いたらしい。


「おい、コラ、ポン!!

てめぇ、呪いとは関係なく糞野郎やないかい!」


と怒鳴ったら、ポンの野郎は、


「仕方ないだろ、千年の間、僕は女神様の事だけを考え、真面目に勝負していたのに、ヤツはそんな女神様を気にも止めずに妖精族を贔屓する事だけに興味を持ち、神聖なお見合いを冒涜したんだ。


必死に頑張った僕を馬鹿にするために、わざと、〈そんな女神に興味はない〉みたいな態度で…」


と…


あぁ、コイツあほだった。

まともじゃ無い…


「おい、ポンコツ!


お前が消した男神と地上にいた頃の治癒神が愛し合ってたの知ってるか?


千年一緒にいたパートナーがいきなり消える悲しさが解るか?」


すると、ポンコツは


「ぼくは、ヤツに関わった者からもヤツの存在を消した。


だから問題ない筈だ!」


と、わめく…


〈もう、胸糞悪い〉


俺は、アイテムボックスからハイポーションを一瓶だして、ポンコツの前に置いて…


ぶん殴った。


神様のロープは大地とポンコツをガッチリ固定しているために動かないが、そのぶん全ての力がポンコツの顔面にかかり

腫れ上がる。


俺は、ハイポーションをポンコツの口に突っ込んだ。


「ダンジョンで合った妖精族の長達は、男神の事も、メディカさんと恋仲なのも覚えてたぞ。」


と言ってやった。


「まさか!」と青ざめるポンコツ


どうしたの?青ざめて?


ポンコツは自分がしたことを理解した。


「僕は、何とヒドイ事をしてしまったんだ…。


治癒神には子供が居たのではないか?


生まれたてか、生まれる間近の子供が…


知って居れば神力を使い生まれる未来を与えてあげられたが…」


と、項垂れるポンコツ


「いやいや、そもそも、お前が真剣になるお見合いを世界中の全てのヤツが望んでいると思うなよ、


男神は女神に興味が、〈はなから無く〉て、

嫌々お見合いしていたが、そんな異世界で優しく寄り添ってくれた女性と恋に落ちただけだろう?


なんだよ、神聖なお見合いって、

馬鹿なのか、神力を使って生まれる未来…


おつむ沸き散らかしとるんか?


頭を使って殺さない未来を選ぶだろ?普通は!!」


と俺がぶちギレしていると、


「その通りです。」


と言いながらミスリルの手枷を着けた治癒神が立ち上がった。


治癒神はアイテムボックスを使い小瓶と水晶玉をだした。


「えっ?スキルは全ての濾しとったはず…」


と驚く俺だが、この状況を誰も理解出来ていない、


ただ、〈おかしい?〉としか…


俺は、不安を感じながら治癒神であろう彼女に鑑定をかけた。


「ルヴァンシュ レベル100」


称号

「破壊神」


スキル

「神格」

「アイテムボックス レベルMAX」

「呪い創造」

「呪い付与」


別人?

と俺が思っていると、


ルヴァンシュさんとやらは、

マジックポーションを飲み干し、

神力を水晶から体に戻して

天野君の肩にポンと触れてからこちらに歩いてくる、


近づきながら語りだす。


「わたしは、母のお腹の中にいました。


そこの糞野郎に父の存在を丸ごと消されるまでは、

私の魂は体に定着し生まれる時を待つばかりだった…


だが、生まれる事は無かった。


何故ならば父の存在が初めから居ないモノになり、父と母の愛の結晶の私の体もなくなった。


しかし、私は魂を持つ一個人、存在までも消される事は無かった。


消された父と残された人々の架け橋となる私の存在があったので、妖精族は父の事を忘れないでいてくれました。


そして、魂のみの私は、母の壊れてしまった心のすき間を埋める様に母の体に同居して今日まで来ました。


それもこれも、貴様を殺す為に!」


と言ってアイテムボックスから禍々しい槍をだす。


異変に気づいた神々が駆け寄るが間に合わない。


「誰のせい?誰が悪いの?

全部お前が悪いんだよ!


勇者、ヤツをこの槍で突き殺せ!!」


先ほどの一瞬で〈隷属〉させられたのか、勇者は立ち上がり槍を受けとるとポンコツあほ神に向かい走り出す。


糞、ポンコツがやられるのは良いが、天野君が加害者に成るのは避けたい。


やっぱり俺は、馬鹿で、運がないらしい。


気がつけば近距離転移で元主神を庇っていた。


天野君の槍は俺の脇腹をかすめただけで大した怪我では無かった。


神々が勇者の呪いを濾しとり、


ルヴァンシュさんを取り押さえ


これで、一安心と、ホッとしたのもつかの間、体から力が抜けていく。


毒か?


と禍々しい槍を鑑定したら、


「神殺しの槍」

「神に少しでも傷を負わせれば、槍の命と共に傷を負った神も殺す魔槍」


と…


俺のバカ野郎!


皆ごめん…


砂に変わっていく槍を見つめながら、


おれは十数年ぶりに…




死んだ。

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