〈運が無いだけ〉ですので
ヒコしろう
第1話 運が無い男
子供頃から運がない
笑えるくらい悲惨な目には合わなかったが、
地味にかつ残念な感じで、ろくでもない事に巻き込まれる。
間が悪かったのか…
はたまた日頃の行いか…
良いことがあれば、ちゃんと悪い事があるし、
何も無くても、しっかり〈ろくでもない〉オチが付く…
幾つか例に挙げると、
小学生の頃、誕生日に買ってもらったサッカー選手のレプリカユニフォームを着て友達の家に行く途中に、
〈サッカーボールでガラスを割られた!〉
と主張する知らないおばさまに犯人にされそうになったり、(後日真犯人の上級生判明)
作文コンクールで入選し市のホールで表彰される事に成るも、町内会の遠足とかぶってしまう。
両親も町内会の役員の為、外せず兄弟と共に遊園地へ…
自分一人休日登校した後に、校長先生と一緒に表彰式へ向かい、
他校の受賞者達は家族の前で表彰されカメラのフラッシュが咲き乱れる。
しかし、俺は校長先生が笑顔で拍手してくれているのみ…
〈有り難う校長先生。休日出勤なのに…〉
午前中で予定も終わり自宅に帰り、
遊園地で他の家族が食べている物と同じお弁当をいつもの食卓にて独りで食べる…
〈寂しくて悲しい味でした。〉
そして、
高校生になり周りが色恋の話しで盛り上がる頃、
告白して断られるならいざ知らず、
よく知らない女子に、
「貴方の様な地味なデブに興味ないから!
二度と近寄らないで!!」
と、告白もしていないのにフラれる…
今思うと、他のデブと間違われたのか、はたまた罰ゲームだったのか?
…真実は藪の中である。
まぁ、挙げればキリがないが、兎に角余りラッキーではない半生を歩んでいた。
しかし、
そんな自分も40代半ば、
最近は運の悪さも成りを潜めており、一般的なモテない中年デブサラリーマンである。
勿論独身だが、魔法使いではない。
20代の時に彼女が出来て、約一年付き合ったが、
初めてのクリスマス前に、
「好きな人が出来た。」
と、ふた回り大きなデブに乗り換えられた…
あの時は、生まれて初めて「太りたい!」と、考えたものだ…
まぁ、そんな事がありながらも、
人生罰ゲーム!来世に乞うご期待!!
の様な残念なイベントもここ最近は無く、
穏やかな毎日を送っている。
そして…
〈人生悪いことばかりじゃない!〉
爽やかな朝を迎え、今日の仕事を終えれば2連休!
ついでになんと、
明日は友達の結婚式で出会った女性と、その友達の紹介で初デートの予定があるのです。
〈そりゃもう、足取りも軽やかに出勤できますとも。〉
ウフフフフっ
小鳥さんおはよう。
大きな白猫さんもおはよう。
白猫さんモフモフしてるお嬢ちゃんもおはよう。
幼稚園バス待ちのママ友の方々もおはよう。
娘さんが道端で猫モフモフしてますよ
危なく無いようにみてますかぁ?
ウフフフフぅー
などと信号待ちの合間に脳内でプリンセスごっこをするくらい浮かれていた。
〈そう、浮かれていた。〉
そして現実を見せられる事となる。
俺を含めて横断歩道に待っている者数人、
反対側に幼稚園バスで子供を見送った後に井戸端会議に花を咲かせるママさん達に、
少し離れて幼児と、モフられている白猫…
嫌な気配がして車道を見た瞬間、
走ってきた配送トラックの前に何が飛び出した。
〈多分猫?…〉
多分と云うのは、二足歩行の猫が何もない空間から現れたのだ!
ソレ を見たのは、自分とトラックドライバーのおじさんだけだったかもしれない…
が、問題はそこではない。
あろうことか、急ハンドルを切ってしまったトラックが、
モフっているお嬢ちゃんの方へゆっくり転けながら向かって行く。
ママさん達はまだ喋っている様子で気付いていない。
〈マズイ!お嬢ちゃんだけでもなんとか!〉
デブが間に合うか判らないが、体が勝手に動いていた。
走りだし幼児のもとへ…数年振りの全力疾走を…
しかし、
すぐさま強い衝撃があり意識を手放した。
そして、
気がつけば白い世界…
光が差す。と云うより全体的に明るい。
その中にポツンと駄菓子屋?がある…
見たことのないオモチャの様なものに駄菓子風の包み紙に、カード類のくじ引き?が、置いてある古びた木造の駄菓子屋だ。
店先に大きな木があり、
その横に困り顔のお婆さん。
お婆さんの隣には何故か、絶賛土下座中の黒猫が…
そして、それを見せられている男がいる。
ただ、〈それだけの空間〉がそこにあった。
黒猫がスゥーっと息を吸い込み、改めて床に額を擦り付けながら、
「申し訳ございませんでしたニャァ!!」
と…それはそれは、キレイな土下座でした。
「あ、のー?」
と、質問をしようとしたところ、駄菓子屋のお婆さんがため息混じりで説明し始めた。
〈はぁー〉
「済まないねぇ。まぁ、スミマセンじゃ済まない事に成っているんだわなぁ…
大変申し上げ難いが、お前さんは 死にました。」
!?
「まぁ、落ち着けっても無理だと思うが、出来る限り落ち着いて欲しいんだわ…」
そう言ってお婆さんは胸の前で軽く〈ポン〉と手を叩く、
すると目の前に縁台とお茶のセットがパッと現れた。
「まぁ、長くなるから座るんだわね。」
と…
促されるまま腰をおろすと、
お茶を注ぎながらお婆さんが、
「全く、御使いに出したあんたが、何んでヨソで問題を起こしとるんだわさ!」
と、凄むお婆さんに再び土下座する黒猫…
「あのー」
と、何かを聞こうとするが、
「度々すまないんだわな…
そもそもはこのクロは私の眷属、まぁ御使い猫なんだわさ、
お前さんのいた世界の神様に手紙を持って行く最中に、メスの白猫に見とれて、〈不用意に実体化〉してしまったんだわよ…この馬鹿猫が!
急に現れた猫に驚いたトラックドライバーが急ハンドルを切り、
制御を失ったトラックが幼い命を奪いそうになった所にお前さんが滑り込み身代わりに死んだ…
と…まぁそういう訳なんだわさ。」
と、聞いてキョトンとする男
「まぁ、死んでないと云えば死んでない…でも、ちゃんとトラックにはねられて死んどるんだわねぇ
地球では…」
と、よく解らない説明に、
「…あのぅ…」
と、もう半分諦めて声をだすが、
無視をされ、今度は黒猫が口を開く、
「商神様、ここからは、オイラが説明してもよろしいですかニャァ?」
駄菓子屋のお婆さんは頷きお茶を飲み始めた。
「えーっと、
改めまして、こちらは地球とは別の世界ミスティルで商売や物流、そして経済を司る神様 、
〈商神フク様〉ですニャ、
申し遅れましたが、ニャァーがフク様の眷属 ケットシーの〈クロ〉ですニャァ
この度は、ミスティルの主神さまのお使いで、地球の神様にお願いの手紙を届ける途中に、オイラ不注意で大変な事に成ってしまい、
大変申し訳ありませんニャァ。」
と、再度土下座を始めた。
〈何なんだこの土下座猫は?〉
と思いつつも出されたお茶をすすり気持ちを落ち着けようと試みる。
猫はさらに続けて、
「トラックが突っ込み轢かれそうな女の子を助ける為に 天野 勇さん あなたは身代わりにトラックに轢かれてしまったのニャァ」
お茶の効果か、少し落ち着き心の余裕が出てきたのか、
「あの女の子は?」
と、ここに来て初めての具体的な質問を投げかけた。
すると、
「女の子は無事ニャァ
ビックリして泣いちゃったくらいで元気一杯ニャ」
とのクロの言葉と、初めてまともに会話出来た事にホッとし、またお茶を一口飲む…
猫は少し申し訳無さそうに、
「それで、オイラの不注意なので、
フク様と地球の神様に頼んで何とかして欲しいとお願いしたのニャァ…
その結果、神力をいっぱい使ってもらい何とか事故の被害が無い様にしてもらったニャァ。
まず、事故をしたトラックドライバーさんは怪我も無く、トラックも直ってるニャ。
次に女の子は音にビックリして尻餅ついて泣いちゃった事になったニャァ。
あとは、倒れた人が居たから救急車やパトカーが来たけど、いまは地球の神様が頑張って頂いているので、心配無用ニャ。」
少し明るく話していたクロだが、また直ぐに申し訳なさそうな顔になり
「でも、轢かれた天野さんは体ごとこの神界に来てもらいましたニャァ。」
と、泣き出しそうなクロに、
見かねた飼い主の婆さんが、
「流石に壊れて魂が留まれなく成った体をすぐには治せ無いし、無理に治しても地球の理がそれを許しちゃくれんのだわさ。」
と、説明した。
駄菓子屋のお婆さん改め、商神フク 様が煎餅をかじっていた手を止めて真剣な眼差しで、
「だから、天野 勇さん。
お前さんは、地球では最初から居なかった事になるんだわさ。
馬鹿な黒猫のせいで死ぬ人間も殺す人間も産み出さない為…
と云えばむしのよい話しに成る…
だが、幼子を守ろうとするその魂を見込んで頼みがあるんだわねさっ!」
と、今度は、神様が深々と頭を下げ
「どうか、勇者として、ミスティルで頑張って欲しいんだわさ。」
と…
そう、これは、地球で不慮の事故に遭い死んだ
俺 〈天野 勇〉 が、
勇者として異世界ミスティルを救う物語!
ではない!
断じてない!!
だって俺 天野 勇 ではないし
小山 隆史 だし!!
ババァ、早くコッチにも説明しろやぁあああ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます