第2話 被害者と加害者

皆様、改めまして、


〈小山 隆史 〉です。


何処にでもいるチョコっと運の無い、

ワガママボディーな四十代男性なのですが、


普通ではない状況に成っております。


真っ白い野原?に古びた駄菓子屋がポツンとあり、

側に大きな木が生えていて、その木の下で、

自称神様と土下座猫そしてスポーツマン風の青年がお茶をしながら俺抜きで話を進めている。


〈うぉい!俺を無視して話しを進めんなやババァ!!〉


と頭で思っていても口には出せない小市民なので、


「あの~、今の状況の説明を…」


と言いかけたところで婆さんが、


「ババァとは随分な言い様なんだわよ?」


と…


〈あれ?声に出てた?〉と驚く俺に、


ムッとした顔で、自称神様ババァが


「ソコで聞いてたと思うがワタシゃ〈神様〉だわよ、心の声など丸聞こえなんだわさ!


順を追って説明していくから聞いておくんだわねっ…


まず、ウチの馬鹿猫が地球の神様に手紙を届ける最中に道端の白猫に見とれて実体化してしまった事が原因で、

トラックが急ハンドルから制御を失い女児を引きそうになるが、

全てを投げ出し駆け付けた 天野 勇 さんが身代わりにとなって死んでしもうたんだわさ。」


ん?〈俺は?〉と思うと、


婆さんは、面倒臭そうに、


「お前さんは死んではないが、ウチの馬鹿猫のせいで起こった事故に関係して、怪我をして病院で治療中なんだわさ。


地球の神様が担当して事故の影響が最小限になるようにしておる最中じゃから少し待っておくんだわ…」


〈えっ?怪我?入院?〉


と、一瞬パニックになるが、順を追って思い出そうとする。


〈確かトラックがお嬢ちゃんに…〉


〈そこを助けようと…〉


〈ズキン!〉


あっ、頭が痛い…

記憶が曖昧なのか思い出せない。


何なんだこの頭の痛みは…?


と、慌てていると、


「フォッフォッフォ

混乱しておるようじゃのぅ?」


と、今度は俺の目の前に爺さんが現れた。


「貴方は?」


思わず俺が口にした、その問いかけに爺さんは優しく微笑み、


「初めまして 〈小山 隆史 〉君、


今回は大変な目に合ったのぅ」


と、話す爺さん…


〈好い人だ!〉


この瞬間俺は悟った。


この方は神様だ。


ババァよりも話しの解る神様だ!と…


「フォッフォッフォ

フクさんも嫌われたものよのぅ…


小山君 、フクさんは普段は気配りの出来る良い神様なのじゃから、あまり嫌わないでやって欲しいのじゃよ。


ただ、今は、自分の眷属の失敗が元で勇気ある若者を死なせてしまった事とミスティルの主神からの勇者召喚の案件で一杯一杯なので許して欲しいのじゃ。」


と…


はい、神様。

ババァが俺をガン無視だったことは水に流し、

〈婆さん神〉に格上げします。


と、心で強く思う俺に、


「だから、丸聞こえだと言っておるんだわさっ!!」


と、不機嫌そうな婆さん神に、やさしく神様は、


「フクさん 天野 勇君への説明はおまかせしてもよいかのぅ?


地球の家族の事や勇者としてミスティルでやること…それに、神界での厳しい修行なんかを詳しく。」


と、お願いすると、


「あいよ」と返事する婆さん神。


続けて神様はスポーツマンの若者に


「あっ、天野君 、修行は厳しいし、


もし、どうしても嫌なら、


まっ更な状態で、地球に産まれなおす事も出来るのじゃ。」


と、提案する神様は、婆さん神に


「あと、小山君への説明は代わりにしておくが良いかのぅ?」


と提案すると、


婆さん神は、面倒臭そうに、


「頼んだわさ。」


とだけ返しただけだった。



神様はゆっくりと俺に近づき、


「フォッフォッフォでは、何から話そうかのぅ…


まず、大破したトラックじゃが、神力を沢山使い元に戻し、路面の部分陥没にタイヤを取られて、路肩に擦る程度の自損事故にしたのじゃ。


これで、ドライバーも人を殺した事が〈無し〉になり明日からも無事に仕事ができるじゃろうて、


そして、


轢き殺された 天野 勇 君は、肉体と魂をミスティル側の神界に飛ばし、地球での存在自体を消去、

コレもかなりの神力を使ったのじゃ…


小山君も助けようとしてた女の子は、擦り傷も治して、


路肩にぶつかったトラックの音にビックリして尻餅をついたことにして、目の前で人が死んだことも忘れてもらったのじゃ。


あとは、周りの人間と防犯カメラなどから事故の記憶を上書きして…


大変だったのよ、ワシ。」


と、うんざりしている神様…


〈は、はぁ。?…で、俺は?〉


と、思っていると、


「!!忘れておったのぅ。


〈一番大事な事〉を


小山君は、


女の子を助ける為に全てを投げ出し駆け付けた天野君の、


投げ出した〈荷物〉に当たり怪我をしたのじゃ。」


と、神様は、手で何かの形を型どりながら、


「こんなデッカイ弁当箱!


何時までもホッカホカの筒状のヤツに、


ご飯がパンパンに入った弁当箱が、


コメカミにクリーンヒットで、


一発KOで病院送りじゃった。」


と、言われて繋がった。


〈!!だから頭が痛かったのか!!〉


理解が出来た俺に、神様が、


「その通りじゃ。


本来なら、〈加害者〉の 天野君が異世界に行くから地球では罪に問えなくなるのじゃよ…


だから、小山君の了解が得られれば、慰謝料として

退院後に〈ちょっぴり良い人生〉を送れるサービスを行う予定で手配しておったのじゃ。


ちなみに、小山君は事故にビックリして転んで、自分の弁当箱で頭を打った事に成っておるんじゃよ。」


と、説明してくれた。


俺は、もう、いっぱいいっぱいだが、何とか踏みとどまり、


「神様それは、余りにも馬鹿な入院理由ですね。

あははは。」


と、ギリギリで笑ってみせた…


〈弁当箱で入院って格好悪いが、

後から笑い話しに成るかな?

なんか良い人生にしてくれるらしいし…。〉


と切り替えて気楽に思ってみたが、神様の様子が少し暗い…


そして、神様はポツリと、


「色々手配しておったのじゃが、


つい先程死んでしもうたんじゃ… 君…」



?、??、!!!


「えっ、ええぇぇぇぇっ!」



狼狽える俺に神様が申し訳なさそうに


「ワシも頑張ったのじゃが、

当たり所が悪かったのか脳へのダメージが思いの外深刻で…残された神力ではニッチモサッチモどうにもならなんだんじゃ…


じゃから、〈入院理由〉が弁当箱ではなく、

〈死亡理由〉が弁当箱になってしまったのぅ…」


と…



あっ、解った…


うん、理解した。



これ、運がないヤツだ。

最近無かったから油断してた…


理解したと同時に何か張り積めて居たものが〈プツン〉と切れた。



運がないのは仕方がない。

だけど、

加害者が勇者?ふざけるな!

死因が、弁当箱?ふざけるな!!

明日デートだぞ!ふざけるな!!!




「よう!爺さん!婆さん!!

そして、改めまして〈加害者〉さん!!!


〈被害者〉と申します以後お見知り置きを!!!


よーし。

今後の話をするぞぉ~集まれ~!!」

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