第3話 異世界は運任せ

ぶちキレておかしなテンションのまま、


〈加害者〉こと 天野 君 に、弁当を力いっぱい放り投げ、


〈被害者〉こと 小山 隆史 44歳 独身 に直撃し、


治療もむなしく他界したことを、


「周りも確認せず物を投げ、人に迷惑をかけるとは何事か?!」


と、説教する。


〈天野 君 は、青い顔してめっちゃ謝ってたよ…〉


しかし、


問題は 天野 君が異世界の勇者候補になり、地球では、その存在自体がもう無くて、


異世界の神様が関わって居るから、地球の神様だけで解決できない事と成っているらしい…


要するに〈泣き寝入り〉するしかないようだ。


〈加害者〉…いや〈殺人犯 天野 勇〉は天界でスキルや加護を受ける為の長く厳しい修行を行い、


その後に剣と魔法のファンタジー的な、


異世界〈ミスティル〉


に転移し勇者として邪神にワンパン入れに行かされるらしい。


〈邪神〉と言ってるが、ミスティルでの他派閥の神様で、自分の陣地を増やしたい一心に、かなり力任せな方法を使い戦争や略奪なんでもござれで、さあ大変な感じらしく、


ミスティルの〈人間〉ではミスティルの神様をシバく事も出来ず、神同士のケンカは主神本人が禁止しているから手が出せない。


そこで、勇者召喚らしい。


年単位の長くてキッツい修行で、ボロボロになる毎日を送ったりして、

精々苦労して大変な目に遭うとよろしい!


それが、懲役がわりの罪滅ぼしになるから…


と、云うことで、ほんの少し気分が晴れたから今後の話をしようか!?


「神様、いや婆さん!!」


ビシッと言う俺に、


「アタシかい?」


と驚く婆さん、


「そりゃそうだろ!

婆さんの飼い猫が原因で起きた事故で人が死んでるよねぇ?!


わかるぅ…


お嬢ちゃんを助けて、オッサンを殺した青年は〈勇者〉にして、


殺されたオッサンには謝罪もなしなのかなぁ~?」


と、詰め寄ると、


「申し訳ございませんでしたニャァ!」


と、土下座を始める黒猫に俺は、


「土下座猫お前は暫く黙ってろ。」


と、冷たくあしらう。


「はいニャ…」


と言って、〈シュン〉となる土下座猫をよそに俺は地球のジジィ神に問いかける。


「神様、いや爺さん。」


というと、爺さんは、


「言い直さ無くても、〈ジジィ神〉って思ってたよね…なんじゃ?質問かの?」


と、しょんぼりしながら聞いてくる。


俺は、確認の為に、


「爺さん、俺は生き返らないんだな?」


と聞くと、爺さんは残念そうな顔になり、


「もう、神力が足りないし、小山 君が死んだ事は地球で〈確定〉してしもうたので、今から覆すのは無理じゃのぅ


どれ、観てみるかの?」


と言って、スッと手をかざす爺さん…


すると画面の様な何かが現れた。


そこに、何処かのセレモニーホールにいる喪服姿の家族が映る…


〈お通夜の様とはこの事なのかな?〉


と、自分の事なのに実感が湧かない…


母が泣いているのか小刻みに震えている。


堪りかねたのか姉が口を開く。


「弁当箱で死ぬって、恥っず!」


と…


〈えっ?〉っと驚く俺の目には次の映像が飛び込んでくる…


ドッと、お通夜の家族が吹き出している…


そして、


母も笑っている。


〈あぁ、あれは笑うの我慢してたのか。〉


と納得していると、


父が追い討ちをかける…


「弁当見たか?ご飯ギュウギュウのおかずギッチギチ

いかにもデブの弁当だったぞ。」


で、家族大爆笑。


恥ずかしくなり、


「切ってくれ!画面をすぐさま消してくれ!!」


空中の映像を手で掻き消そうとする俺、


なかなか消えない映像に凄くイライラする。


たまらず、


「おう、〈加害者〉さんよぉ。

君の〈食べ盛り弁当〉のせいで新たな心の傷が増えましたが、どうしてくれるで!?」


加害者に文句の一つでも…と、動こうとする俺に、


「まぁまぁ、家族の心ケアと君の生命保険はバッチリ出るよう地球の神様達でフォローするので、勘弁して欲しいのじゃ。」


と、神様がいさめるが、


怒りが納まらない俺は、


「おい、爺さん、家族は良いんだよ。

保険は保険会社に任せろや!

俺への謝罪わい!?


頑張ってくれたのは聞いたが本当は退院してチョッと良い人生やったんやろがい!


なんで、ガッツリ死んでるの?!


俺は地球でチョッと良い人生を送りたいんですけどっ!!」


などと言いながら、またやり場の無い怒りが込み上げてくる。


〈爺さんや婆さんに当たったところで、どうしようもないんだけど…〉


爺さんは、


「地球で記憶を持ったまま転生は出来ないのじゃ、

産まれる前に魂をクリーニングにする決まりじゃからのぅ。

前世の記憶の欠片を持っておる者は、クリーニングにされて尚、魂に刻み込まれた分だけだからお得感は少ないのぅ。


生まれ変わった魂に、

チョッと運気の上がる加護は与えれるが、

やはり、〈小山 君〉としての旨みは無いのぅ。」


と言って考え込む、


すると、爺さんは何か閃いた様に、


「!! フクさんの世界はどうじゃ?」


と聞き、婆さんは、


「ミスティルにかい?」


と驚く、二人の話し合いが始まり、


暫くして、案が纏まったようだ。



プラン1

地球でプチラッキーな人生に輪廻転生、

記憶なしの新たな旅立ち。


プラン2

異世界に正規手続きで転生、

記憶あり、爺さん神から運気向上の加護。

婆さん神からはスキルガチャをレアガチャに格上げ。

但し、ミスティルの規則でそれが貰えるのは三歳に成った時らしい。



さて、プラン2で決定なのだが、

これだけでは納得出来ない。勇者程とは言わないまでもスキルモリモリで行きたい…


だが、その案は却下される。


肉体が無い俺は転移ではなく転生。

アッチのルールの範囲でしかサービスが受けれない、


何の使命もない者は一般扱いらしい。


「楽して暮らしたいぃ~」


と俺がゴネたところで、〈加害者 〉天野君の援護射撃が炸裂する。


「僕が困った時に助けてくれる使命を受けてくれませんか?そうしたら少しサービス出来ませんかね?」


と、発言してくれた。


〈ナイスアシスト!〉


すると、


「うぅ~ん。」


と、婆さん神が困っているが、


〈イケそう!〉


むしろイケるからこそ俺にサービスしたくなくて、困って居られる様子…


〈勝った。〉


でも、正直使命とか面倒だなぁ~

と考えていると、


天野君が近くに来てコソッと、


「小山さんには迷惑をかけないように自力で頑張ってみます。

困らなければ 小山さんは自由ですから異世界を満喫して下さい。

僕が出来るせめてもの罪滅ぼしですので…」


と…


〈えぇ子や…彼こそ勇者 天野君や。〉


横目で婆さんと猫を見る

婆さんは少し不機嫌で猫はショボくれている。


〈なんか満足したからこれ以上ゴネるのは止めよう。〉


と感じた俺に、


「はぁ~。


解ったよ、お前さんも納得したみたいだからアタシも意地を張るのを止めるんだわよ。


お前さんにはこの後スキルを引いて貰う、

それとは別に、鑑定のスキル と アイテムボックスのスキルをプレゼントするんだわさ。


どちらも低レベルだが、食べれるかどうか程度は判るし、手ぶらで買い物に行ける…


十分便利なんだわさ。」


と話す婆さん神、


「それは有難い」


と素直に喜ぶ俺…


それを見て、優しい笑顔になる婆さん…


いや〈商神 フク様〉…


すると、


「では、スキルガチャタイムだわさぁぁぁぁ!」


と高らかに宣言する商神と、何やら駄菓子屋から箱を持ってくる黒猫…


箱には手書きで 〈レアガチャ 〉と、下手なカタカナで書かれている。


〈胡散臭い〉


箱の中には三角くじがギッシリと…


胡散臭いが今の俺には関係ない!


爺さん神の運気向上の加護が火を吹くぜ!!


凄いレアスキルで楽しい異世界ライフだ!!!


〈ガサゴソ〉と、

奥の方から一枚の三角くじを引く俺


手にしたそのスキルは!?


黒猫がハンドベルを鳴らしスキルを読み上げる。


カランカラン♪


「技能神様からのスキル濾過ろか です。


最高の喫茶店のマスターも夢ではない、

レベル次第で毒でも真水になる激レアスキルです。」


〈嘘だ!俺の運気向上は? 〉


勝ちパターンの見えないクソスキルに、膝から崩れ落ち、


油の切れた機械の様に、ギギギっと爺さん神を見る俺に、


爺さん神が申し訳なさそうに、


「あの~、小山君。

スキルも加護も異世界に行って〈三歳〉に成った時じゃ


今は素の 小山君の運しかないのぅ…」


と…


フッ…終わった…全部終わったよ。


運がないんだよ。素の小山君は…



真っ白になる俺、


周りの視線が痛い…


あたふたしながら黒猫が、


「安心するニャ。

ミスティルの初期スキルが微妙激レアスキルでも、剣を振っていれば剣術スキルも生えるのニャァ。


このスキルもレベル次第で、

なんとかなるかも知れニャいかも…?」


なぜ疑問形…


すると婆さんが、


「あぁ~もう

辛気臭い!ついでに丈夫な身体も着けてやるから、早く転生しちまうんだわさっ!!」


…そう言って婆さんは手をポンと叩くと、


福引きのガラガラが出て来た。


「産まれるランクを決めるんだわよっ!!」


〈えっ?えっ?〉


横を見ると黒猫が下手くそな文字の手書きボードを持っている。


金色 = 王族や上級貴族など


赤 = 貴族やお金持ちなど


緑 = 一般の上


黄色 = 一般の中


青 = 一般の下


白 = 残念賞



と、書いてある。


また、運か?!

絶対ダメじゃん…

回したくないよぉ!


と愚図るが、


婆さんがイライラしながら急かすので、

渋々回す…


〈ジャラジャラ〉と小気味良い音が鳴り、


ガラガラから玉が出て来る!




白…


キレイなまっ白だった。



次の瞬間、俺の足元に穴が空き下へと落ちて行く。




「うゎあぁぁぁ ババァ!残念賞ってなんだぁあぁぁぁ~」

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