第90話 大豆を探して
俺は、買いすぎたお菓子の数箱をお土産に、
ダンジョンショップに来ている、
「くっださぁーいなっ!」
と、いつもの様に声をかけると、
「お父さんが出るから、サラは中に居なさい。」
とか、
「えー、でも、この間のお礼が」
「お礼はお父さんがするから!」
と何やら揉めている様子…
すると、
〈フッ〉と、サラさんではない緑と白のメイド服のゴーレム娘が現れた。
ビックリはしたが、作った本人なので姉妹の誰かだとは解るのだが、
どれがどれかまでは判別できない…
「えーっと?」
と聞く俺に、
「ヒッドーい、パパ私のこと忘れてるぅ」
と、泣き真似をするゴーレム娘に、俺は呆れながらも、
「いや、君たちのパパはマウカルさんでしょ?」
と言ったのだが、ゴーレム娘は、
「あっちはお父さんでパパはパパだよ。
いつもいっぱい買ってくれるし、私たちの体は勿論、腕輪も作ってくれたから!」
と…
〈あぁ、外部の金づる、通称「パパ」だな。〉
と思っていると、
「シラ!持ち場を離れて何してるんだい?」
と、マウカルさんが出てきた。
シラと呼ばれたゴーレム娘は、
「80階層には冒険者がまだ来ないから良いじゃん!
腕輪のお礼がしたかったし。」
と親子で言い合いが始まる。
〈買い物がしたいのですが…〉
と、俺がウンザリしながら眺めていると、
その隙にサラさんが出て来て、
「本日のご用件は?」
と聞いてくれたが、
「こら、サラはアルド君から離れなさい、」
と、ひどい扱いだ。
「お父様、お客様に失礼ですよ。」
とサラさんが怒ってくれる。
〈サラさん有り難う…なんならもっと言ってやれ!〉
と、思っていると、
「なんでお父さんはパパのこと嫌がるの?」
とシラさんが質問する。
娘二人から俺への態度を責められたマウカルさんは、
「だって、アルド君はゴーレムに欲情してお嫁にしてしまう、ゴーレムの娘を持つ親にとっての天敵だよ。
目を離すと、プレゼントとかして娘をたぶらかすし…」
と…
〈凄い変態扱いだな…ミレディは自称女房のゴーレム娘で有って、欲情した覚えは…無い…〉
しかし、マウカルさんは続ける。
「自分で作ったゴーレム娘とイチャイチャしてるんだよ、サラ達も条件は同じさ、
サラの体もシラの胸も、きっとニヤニヤしながら作ってたんだよ、
きっと!!」
と…
〈あぁ、もうコイツ殴ろう。〉
と思った瞬間「パーン」と音がして、
マウカルさんがすっ飛んでいった。
サラさんの〈ゴーレムビンタ〉が炸裂したのだ。
「お父様、私は恥ずかしいです。
店の事でも、私達姉妹の事でも大変お世話になっているのに、その恩人に対してのセリフとは思えません!
もう解りました。私サラは、今日を限りで娘を辞めます!」
と真剣に怒ってくれているサラさんに、
マスタールームからウレロさんも駆けつけ大騒動になっている。
〈お買い物に来ただけなのに…〉
と、困っている俺は放置されたまま、
ウレロさんが、
「サラちゃん、娘を辞めるって?
出て行っちゃうつもり?」
と焦る…
シラさんも、
「お姉ちゃん、落ち着こうよ」
と言ってくれるが、
サラさんの怒りは収まらない。
「いいえ、お父様とお母様に望まれて生まれました。
出ていくなんて親不孝です…
なので、私はアルドさんにお願いをして、」
との、サラさんの言葉に反応しマウカルさんが、
「アルド君にお願いって、まさか!
けっ、結…」
と慌てる。
〈俺も巻き込まれて慌てているが…〉
サラさんは決心したように俺の前に来て、
「私を…」
と話しはじめ、一同息を飲む。
すると、
「私を、娘型ゴーレムからオスゴリラ型のゴーレムにでも改造して下さい!!」
と………。?
しばらく沈黙が続き、
「ずまながっだぁぁぁあぁぁ!
考えなおじでぐれぇぇぇぇぇぇ!!」
と号泣して謝るマウカルさんに、家族が輪になり泣いている。
俺は、
〈まぁ、一件落着したのなら良かった…が…何か凄くムカいたのは確か…〉
なので、
店の横手に鍛治セットを出して、無言でミスリルでパーツを作り小型のぬいぐるみサイズのゴリラを作って、濾過ポイを出してやった。
このスキルの能力をモニターで見ていたであろうウレロさんが青ざめて
「許して下さい、この子だけは、この子だけはぁぁぁぁぁ!」
と叫んでいる。
サラさんとマウカルさんの前に、
〈ドン〉とゴリラゴーレムボディーを置き、
「買い物がしたいだけなんですが?!」
と言ったが、家族が先ほどとは違う理由で泣き出している…
俺は、濾過ポイを消して、アイテムボックスから屋敷で預かった3000枚と前回のメダルをマウカルさんの前に置き、
「カタログを渡して」
と伝えた。
〈へ?〉となるマウカルさんに、
「買い物に来ただけで、変態呼ばわりされるのは気分が悪いし、マウカルさんも俺に会うの嫌でしょ?
だからカタログを見てミレディの念話でウレロさんに注文するから
代金はそこから引いておいて。」
と言って、俺は立ち上がり、
「じゃあ帰ります!」
と言うと、サラさんが焦りながらカタログを持って来た。
俺はそれを受けとると、代りにゴリラのゴーレムボディーを渡して、
「ゴーレムハートでも入れたら店のマスコットや配達に使えるからどうぞ、
あと、俺が丹精込めて作ったボディーを捨てようとした罰…サラさんは、3日間語尾は「ウホ」だよ。」
と言ったらサラさんは、
「はい。」
と言ったので、俺は〈怒ってるんだぞ〉アピールも兼ねて、
「語尾は?」
と言ってやった。
すると、恥ずかしそうに
「うほ」
と呟くサラさんに俺は、
「怒ってくれてありがとね。」
と耳打ちして転移陣で地上に帰る。
なんだかサラさんが、
ご機嫌で「ウフフフっウホ」と笑っていたがスルーしてきた。
〈あーあ、ひどい目に逢ったよ…〉
結局、精神的にゴリゴリ削られただけで、自宅に帰る羽目に成ってしまった…
しかし、今夜はようやくアルドファミリーが勢揃いする予定に成っている。
フェンリル娘のシロちゃんが率いるレベル上げ組が帰ってくる予定なのだ。
リザードマンの血が騒いだのか、
ノエルさんは勿論、侍女のリーザさんも、
米農家の次男坊夫婦の旦那のイナフさんと奥様のカナさんもレベル上げに同行しレベル100前後になり戻ってきた。
〈まぁ、経験の指輪が有れば簡単だよね〉
イナフさんとカナさん達は、到着してすぐにレベル上げに向かったので、
その間に指示を出し、
見張り台ゴーレムの〈キャスターさん〉に頼み、壁の外の湖側に〈田んぼ区画予定地〉を一キロ四方をアースウォールで囲んで、
キャスターさんの勤務地を田んぼと湖の漁村が見渡せる位置に南下してもらい、
シルフィー商会の土木チームが水路や、大壁から外壁への門の設置を行ってくれた。
なので、この二人は故郷のリザードマンの国の闘技場何個分かの大農地に屋敷まで宛がわれ、俺の伯爵家の傘下の男爵家に成る予定なのはまだ知らない…
ビックリさせる為に、今日発表します。
〈わーパチパチパチパチ〉
因みに家名は「コーベーオ」にしました。
〈実る程コーベーオ垂れるイナフ・カナ〉
ってことでね。
食事も終わりデザートやお茶で賑やかにお話が弾んでるからチャンスだね。
「イナフさん、カナさん、俺の領地に来てみてどう?」
と俺が聞くと、
「はい、我ら夫婦は農地を持てずに兄の農地の小作をしておりました。
ここなでなら農地を頂けるばかりか住まいまでご用意して頂けると…
厚かましいとも思いましたが我ら夫婦はアルド様の領地に骨を埋める覚悟でまいりました。」
とイナフさんが答えてくれて、
「リザードマンだと迫害を受けないか心配しておりましたが、様々な種族が仲良く暮らすこの地に招いて頂いた事を
夫共々感謝しております。」
と、カナさんも言ってくれた。
うん、概ね好印象なら良いよね。
「では、二人は俺の為にお米を頑張って作ってくれるんだね。」
と俺が聞くと、
「はい、勿論でございます。」
と夫婦が返事したので、
俺は背筋を正して、
「コホン、ではイナフ、カナの両名は、米の生産で、私と私の領地の為に命の限りその力を貸してくれるかな?」
と領主っぽく言ってみた。
イナフさん夫婦は、
「子々孫々に至るまでアルド様にお仕え致します。」
と言ってくれた…
〈やっふー、米の安定供給ゲットだぜ!〉
と、喜びながらネタバラシに移る。
「では、イナフさんに〈コーベーオ〉の家名を与え男爵に任命します。
管理地は大壁外の田んぼ区画一キロ四方の外壁の中にです。」
と俺が発表すると、
「ふぁい?」
と、二人とも変な声を出して固まった。
「月に大金貨3枚目ぐらいで、人を雇ったり必要な物買ったりして下さい。
詳しくはこちらのダニエルさんにまかせたからヨロシクね。」
と俺が言うと、執事のダニエルさんは、
「お二人にはお部屋をご用意させて頂きました。
明日、私が管理地とお住まいを案内致しますので、ゆっくりお休み下さいませ、コーベーオ男爵様。」
と、用意した客間に完璧に腰を抜かした夫婦をバトラーと手分けしてお連れしていた。
〈さあ、以前カイン国王から貰った任命権、男爵2と子爵1を初めて使った。〉
ダニエルさんにお願いして任命報告の書類を出せば用事は終了でダンジョンに向かえるね。
ん?
シルフィーちゃんが呼んでいる?
「何でしょうか?シルフィーちゃん。」
と俺が駆け寄ると、
「ノエルちゃんへのプレゼントは?」
と怒ってらっしゃる。
〈ふっふっふ、そうなると思い既にここに…。〉
と、ダンジョンから戻ってから作った腕輪を見せると、
「アルド君、作ってるんならすぐに渡すの…めっ!」
と怒られてしまった。
俺は慌てノエルさんを庭に連れ出し、月の光の下で、
「ノエルさん、改めて我が家へようこそ…
皆に色々なプレゼントをしてるからノエルさんにも、喜んでくれるかな?
と思って…これを…」
とミスリル金の腕輪を差し出した。
ノエルさんは、パァっと笑顔になり、
「嬉しい…
私…夢だったんです…あの劇を見た時から、〈家族の証〉を貰う事を…
憧れた物語の中に連れてきて頂いたばかりか、夢まで叶えて頂き…皆様も優しく迎えてくれて…
まるで、私が他のリザードマンと違う事など気にも止めない様子で…私、生まれて初めて〈息をしている〉と感じております。」
と涙を浮かべている。
俺が、
「まぁ、俺も含めてハーフが多いしね…
ノエルさんはノエルさんらしく楽しく過ごして欲しいんだ。」
と伝えると、ノエルさんは、
「あとは、アルド様の子供を産めれば本望ですが、
既にシルフィー様が居るのは招致しております。
私にもハイエルフの血が流れているので、気長に待てば順番がくるかな?とも思いましたが、シルフィー様は純血のハイエルフ…
待っていても勝ち目は有りません…」
と、少し寂しそうに語り、
どう声をかけたら良いかも解らない俺はただ見守る事しか出来なかった…
しかし、
笑顔を見せたノエルさんは、
「だから、私は待たない事にしました。
クリステラ様やシロ様の様にアルド様の二番でも三番でも良いから皆様に負けないぐらい頑張ってみますのでお覚悟を…」
と言って
「皆様に見せてきますね。」
と月明かりに照らされ走りだしたノエルさんのリザードマン独特の肌の煌めきと、晴れやかな笑顔が、とても美しく思えた。
〈何を覚悟したら良いのか解らないが…〉
とりあえず頑張ろうと思えた…
…次の日の朝、
ダニエルさんがコーベーオ男爵ご夫妻を連れて管理地の案内に向かった。
ダニエルさんには緊急時の資金も預けてあるし、米は心配なしだな。
任命報告書にもサインしたし、
あとは何しよう?…
と考えて、
〈あっ、カタログショッピング!〉
と、大事なイベントを忘れていた。
〈大豆である。〉
俺は工房の机に移動して、カタログを開き、作物のページを探す。
「マンドラゴラの種 メダル8000枚」
要らない!
「高品質、薬草類の種セット メダル200枚」
買った! パパさん用だね。
「開拓に是非、世界の豆の種セット メダル1000枚」
一応買っておくか、
とりあえずこの2つとノエルさんの腕輪に付与した俺の〈状態異常耐性〉を補充でいいかな。
と、決めて、
「ミレディ聞いてる?」
と念話を飛ばしてみたら、
「はっ、はいデスっ!」
と慌てていた。
盗聴はするけど聴いてるのを認識されたら緊張するというメカニズムが解らん。
「乙女の心の秘密な部分デスわ。」
と抗議するミレディに、
〈世界の乙女に謝ろうか?ミレディ。〉
と思う俺だが、
「それは良いから、ウレロさんに念話お願い。」
とまずは要件をお願いした。ミレディが、
「外線をつなぎマス。」
と報告してすぐに、
「は、はい!ウレロです。」
と、緊張気味の返事が有った。
「ウレロさん、〈高品質の薬草の種セット〉と〈世界の豆の種セット〉に〈状態異常耐性〉をお願い出来ますか?」
と俺が注文すると、
「メダル1500枚になります。
すぐにお持ち致します…ウホっ」
いや、ウレロさんはいいから「ウホ」は
と思っていると、バトラーが、
「お客様です。」
と、マウカルさんを連れてきた。
!?どうして?
マウカルさんは頭を下げて、
「先日は大変申し訳ございませんでしたウホ!」
と謝る…
〈まぁ、マウカルさんはウホでいいや。〉
と判断した俺は、
「良いですよ。娘思いなのは知ってますから
で、急な訪問は…何ですか?」
と俺が聞くと、
「ご注文の品を届けに参りました」
とマウカルさんが答える。
〈えっ!〉
「今の今ですよ?」
と驚く俺に、
「アイテムボックス レベルMAX と 長距離転移 レベルMAX をダンジョンポイントで交換しました。」
〈長距離転移あるんだね。
まぁ、クロネコも持ってたらしいからね。〉
と俺が納得していると、
マウカルさんは、ドサッと小袋の山を出した。
「世界の豆60種類セットと、」
ドンと米袋程の袋に表紙に育て方と、薬効の書いた物が何袋も入った物をだし、
「高品質、薬草の種セットですウホ
それと、〈状態異常耐性〉のスキルカードですウホ…御注文は以上で間違いないウホか?」
と商品を出したのちに、マウカルさんは、
「またのゴリようお待ちしてますウホ」
と言い残して消えた…
〈ゴリよう…〉
気になる所はあるが商品をアイテムボックスにしまい実家に向かった。
シルバーさんがお散歩がてら乗せてくれたのであっという間に自宅に到着し、
パパさんに高品質の薬草の種を渡して「栽培してみて」と依頼
「豆を育てるの上手な農家さん知らない?」
とパパさんに聞けば、
「マリーさんを慕って集まった旧帝国組の方々が耕作が上手だからジェイムスさんに頼めば良いよ。」
とパパさんが教えてくれた。
因みに現在
ママさんは妹のアルルが泣くので、俺から離す為に壁外調査にアルルを連れてナニカの外に出ている。
〈いよいよもって俺が泣きそうだ。〉
門をくぐる時
「ご主人様ガンバ!」
とナニカさんが励ましてくれた。
「有り難う。」
とシルバーさんの手綱を引っ張りトボトボと歩いて、お隣のジェイムスさんの家に伺う。
「ごめん下さい、ジェイムスさん、マリーさん。」
と声をかけると知らないオジサンが出て来て、
「団長とマリー様に用事かい坊や?」
と聞いてきたので、身分をひけらかすのも嫌だから、
「うん、僕隣の家の子供だけど、マリーおばちゃんとジェイムスおじちゃんにお願いが有って来たんだ。」
と、相手に合わしてみた。
「隣の坊っちゃん…」
はっ、としたオジサンは、何かに気がついた様で、
「知らぬこととは言え、し、失礼致しました。」
と土下座をしているオジサン
「もう、止めて止めて!
隣のアルドくんが、近所のおじちゃんにワガママ言いに来ただけだから。」
などという、ひと悶着が有ったもののジェイムスさん達農業区画チームに豆を託して、
現在、シルバーさんの空飛ぶ馬車で、妖精の里のメインダンジョンを目指している。
シロちゃんとゴーレムチームの我が家が誇る高レベルチームで畳み掛ける予定だ。
よし、帰ったらジェイムスさんとフリューゲル様も貴族に任命しちゃおう。
お仕事丸投げ計画だ!!
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