第91話 妖精達のダンジョン
皆様おはようございます。
妖精の里のメインダンジョン前の
アルドです。
妖精の里には冒険者ギルドは無く、
ダンジョンの前に職員さんが居ない。
つまり妖精族の領地なのだがまだ誰とも逢っていない…
いや、実は俺に見えないだけか?
と思い、シロちゃんに
「シロちゃん、妖精さんは恥ずかしがり屋さんで隠れて見てたりするのかなぁ?」
と聞いてみたら、
「数が少ないから見ないだけだよぉ」
と教えてくれた。
〈なーんだ、実は周りに沢山居て、パッと現れるファンタジー展開かと思ったが…残念〉
そして、
『ダンジョンに入る際は自己責任で。』
の看板の横を通り、
転移陣で、シロちゃんの腕輪を使い80階層に出た。
階段を下り81階層に着くと、
熱帯雨林…まるでテレビで見たジャングルのようなエリアだった。
「何か不快なエリアだな」
と俺がぼやくと、
「マスター、全てのフロアは、ほぼこんな感じのエリアデス。」
とミレディが、教えてくれる。
これはキツイダンジョンだな、今までで一番精神にくる。
歩き難いし、
じめじめするし、
出てくる魔物が虫系ばかり…
〈最悪なセンスのダンジョンだ!〉
木の上で爆音で「みーんみん」と鳴いているセミを鑑定してみる
「珉珉ゼミ レベル 70」
「音魔法」「眠り粉」「ライフドレイン」
何か最低な敵だな、声まねで騙したり、爆音で耳を塞ぎうずくまる冒険者を眠らして、じわじわと生命力をエサにする魔物だ、
趣味が悪い。
ファルさんとシルバーさんが叩き落とし、キッド君が濾しとりキバさんが パッシュん する見事な連携技だった。
〈あっ、音魔法が手に入った?…ピピンちゃん達にお土産が出来たね。〉
と、少し喜んだが、
まだまだ続くキモキモダンジョン…罠も極悪、宝箱もなく、鉱物もサーチで引っ掛からず、
虫しかいない糞ダンジョン…
いや、勝手に小鳥が飛び、カーバンクル的なモフモフが走り回り、なんか、一匹倒せば経験値が爆入りするレア魔物がいるお花畑をイメージしていた俺も悪いよ。
悪いんだけど…
ちょっと違いすぎる。
〈どこに、妖精族てきな要素が…今までのダンジョンは少しなりとも何かしらの要素が有ったよ…〉
と、ウンザリしながらも、
泥だらけになり85階層下のセーフティーエリアで、簡易風呂に入りさっぱりしたが、明日もこれかと思うと気が重い…
「皆、よくこんなダンジョン80階層まで攻略したね。
尊敬するよ。」
と言って感心していると子犬状態のシロちゃんがビシャビシャのまま風呂から俺の所に来て
「ダーリン、乾かして」
とおねだりしてきた。
タオルで水気を拭き取ってあげていたら
時折「あん。」「くすぐったいぃ」と甘えた声をあげるシロちゃん。
〈拭き辛い…〉
すると、
「ギルティー!シルフィー様に報告デス!」
とミレディさんが、有罪判決と刑の執行をはじめる。
「いやいや、チョ待てよ!」
と焦るが…手遅れだった出来た…
〈パパさん、ママさん…セーフティーエリアに致死性の高いトラップがありました。〉
俺は、
「マジで待ってミレディ!
シロちゃんが風邪引いたら可哀想だろ?
仕方がなかったんだよ。」
と、減刑を懇願する。
しかしミレディ裁判官の判決は覆らず、
「皆とお風呂に入り髪を乾かすサービスをする刑デス」
先ほど屋敷組会議で決定したのDeath。
と…
〈いやだ、デスか違う発音だったよ?
ミレディさぁぁぁぁん〉
と、取り乱しそうになったが、
〈?って、風呂ぐらい良いかな?別に…〉
と開き直り、
「シロちゃん、もうヤケクソだよフワッフワになるまで拭いてやるからねぇ~。」
としっかりシロちゃんの水気を拭き取り、寝ることにした。
翌日、朝ごはんをいただき、再び鬱陶しいエリアに降りる。
あぁ、来るよね、
五層ぶち抜きのボスエリアだ
斜め下に伸びる階段状のエリアに巨木が立ち並び、この距離から肉眼で見えるカブトムシや蝶々にデカイ蜂の巣が見える。
試しにかけたサーチに引っかかる赤い点がサブマップに散らばる。
これが全部虫なのか?
ゾッとした俺はドランユニットを出して、
「ファルさん薙ぎ払って!」
とお願いする
「心得た!」
と空に舞い上がり、急降下しドランと一つになる。
「ぐおぉぉぉおぉぉぉぉ!」
「機動巨龍!ファルドラン!!」
と名乗る巨龍に、
〈よし、カッコいい〉
と、満足しながら、
「頼んだよ」
と俺が言うと、
「イッキに行きます!」
とファルドランさんは大地に爪を立てて己を固定し、口をパカッっと開きエネルギーを集めだす。
ション!ション!!ション!!!
と、何かの音が徐々に大きくなり、
「ドゥラゴォンブゥレェスゥー、フルぱわぁぁぁぁ!!」
とファルドランさんが叫ぶと同時に高温の青白い炎が空間を焼き払う。
俺達はミレディの結界に守られながら、地獄の業火に焼かれる昆虫をみていた。
サブマップの赤い点が次々に消えてゆく
合体を解除したファルさんに「MP」カードを数枚渡して回復をして貰いながら、
火が落ち着くのをまちドランユニットをしまってから、ミレディさんとシルバーさんの水魔法で道を冷やしながら最下層の巨木を目指した。
一応、昨晩久々に作った虫除け香は無駄になたが、虫を見なくて良いからヨシとする。
キバさんがスカイウォークで走り回り、
時折クンクンと何かを探す。
すると、魔石を咥えてキッド君に渡すを繰り返していた。
巨木に到着すると、木のウロから二人の人影が出てきた。
「魔族 ティターニア レベル140」
「ダンジョンマスター」
「不老不死」
「治癒魔法 レベルMAX」
「結界 レベルMAX」
「鑑定 レベルMAX」
蝶々の羽のある幼女?
「魔族 オベロン レベル150」
「ダンジョンサブマスター」
「不老不死」
「鉄壁」
「豪腕」
カブトムシ型のヘルメットを被った小学生?
が、
「お願いです。冒険者の方々、
お帰り願えないでしょうか?」
と、お願いされたが、
「我々は、ダンジョンを踏破して回るように神々からお使いを頼まれたものです。
なにも、お二人に害を成そうとしている訳ではありませんので、お話だけでも聞いてくれませんか?」
と、俺が話すと、
「神々の使徒だな!妖精族から女王を奪い、大事な王まで異界に閉じ込め、
果ては助けを求めて隠れ住む妖精族をも根絶やしにする気か!」
とカブトムシ君が吠える
隠れ住む「妖精族」とは?
話が見えて来ない俺は、
「すいません、話が見えて来ないので、この場所で構いませんからお話をききたいのですが…」
と頼んでみた。
蝶々のダンジョンマスターは、
「争いに負けた者達を追い詰める為に来たので無いのであれば、お話を致しましょう。」
というが、
サブマスターのカブトムシが、
「しかし、マスター。
あの神々の使徒ですよ?!」
と食い下がる。
しかし、蝶々の羽根の養女は、
「良いのです。
私が鑑定が出来る方が一人も居られないパーティーです。
その気になればいつでも、我々もこのフロアの様になっているはずです。」
とのダンジョンマスターの言葉で青ざめるサブマスターをよそに、
キッド君がテーブルを用意してくれた。
長く成りそうだな、訳ありどころか、
〈訳のみ〉しかなさそうだからなぁ…
「ではお茶にしましょう。」
と、少し気合いを入れてお話し合いをはじめる俺だった。
まず、俺の立ち位置から説明する。
確かに主神から全てのダンジョンを踏破して、〈ダンジョンマスターを配下に収めろ〉とだけ言われている状態で、
主神はダンジョンコアの力で地脈を使い魔族の国ごと、奥さんと息子を違う世界に島流しにしたいらしいが、
俺は、母神様を復活させて、ダンジョンの力を使い母神様に名付けをして、パーフェクト母神様になってアホ主神を止めて貰うために動いている事を、説明した。
信用出来ないのならと、各地のダンジョンマスターと念話を繋げて、説明と説得をして貰ったのだが、
ティターニアさんは、
「協力する場合、交換条件を聞いて欲しい」
と言って来た。
「ここより先は、実際に見て下さい。」
と巨木のウロから下の階層に案内された。
そこには国が有った。
10層ぶち抜きのエリアで、巨木の生えている最下層にむかい螺旋階段状に9つの大地が巨木を取り囲む様に並び、その一つ一つに、畑や、山羊の放牧地や、街に湖
と言った具合に地下帝国がそこには有り、
初めて出会う本物の妖精族たちが生活をしていた。
衣食住はこの階層群で全てまかなわれ、足りないモノはダンジョンマスターがダンジョンポイントで交換をする生活を何千年も続けているらしい。
そして、このキモキモダンジョンの秘密が解明した。
ダンジョンで何かが死ねばダンジョンポイントが入る。
虫魔物配置ポイントが少ない為に数が配置出来て、獣魔物より早いサイクルで寿命を迎える。配置魔物は、死んだときの生命力と経験値や素材等に応じてポイントが入る。
なので、寿命で死んだ場合生命力は微々たる物でも魔石や魔物素材と経験値は冒険者が居なければダンジョンに吸収されて、なかなかのポイントになる…
凶悪な罠も、侵入者よりも階層の虫を狙い配置してあり、
宝箱や鉱石が無いのは冒険者を遠ざけるため、
すべては、妖精の隠れ里を知られない為の工夫だったとのこと、
ダンジョンの理由は理解したが、そもそも何故妖精族が隠れ住んで居るかが解らない。
ティターニアさんに説明を受けながら最下層にむかい進んでいくが、妖精族の街に差し掛かった時に、子供達なのか無邪気な大人なのかは解らないが、小人とも少し違う、言うなれば子供だけの国のような感じの住人が、
「外からきたの?」とか、
「外の人間は何たべるの?」とか
「外のお話をしてよ」などと
口々に喋りかける。
ティターニアさんに、「ちょっとお話して良い?」と聞けば、「是非。」と言ってくれたので、
俺は少し考えた後に
「みなさぁーん、こーんにーちわぁー!」
と元気に挨拶をしてみた。妖精族達は、
変なテンションの、外界の人間を見て〈キャッキャ〉と騒いでいる。
俺は、
「皆とお話がしたくて来ました。
お話ししてくれる人は手を上げてぇ~。
はい!」
と自ら手を上げて見せると、
「はい!」「はーい」「私も」「僕も」「パパも」
と次々に手が上がる。
パパが混ざってるらしいが区別がつかない。
〈まぁ、良いか…〉
と判別は諦めて、全員に「モレシャン」で爆買いしたお菓子を配る。
不思議そうに眺めているので、自ら一つ食べて見せる事にして、
「パクっ」と口に放り込み「もぐもぐ」してみせて、
少し大袈裟に
「美味しい!」
とリアクションてしてみたあとで、妖精族達を眺めると、あちこちで「パクっ」「ポクッ」と口に放り込む姿が見えた。
「あまぁぁぁぁい」
「うまぁぁぁぁい」
「しあわせぇぇぇ」
と喜ぶ妖精族達をみて、こちらまで幸せな気分になる不思議な感覚だった…
そして、
喜ぶ妖精族のなかに半透明な羽をパタパタさせて空中に浮かぶ者も見受けられた。
空中に浮かぶ少女は、
「私、こんなに幸せなの初めて、見てこんなに高く飛べるよ。」
と、キラキラした目で話してくれたが、
俺は、笑顔で相づちを打つのがやっとだった。
何故なら、
俺は、涙が止まらなかったのだ…
彼らは、〈クッキー1枚以下の幸せ〉で、この地下世界にとじ込もっているのか?
なぜだ!
ネバーランドの妖精も幸せな思い出で空を飛ぶらしいが、
彼らもそうなら月まで飛べるくらいの幸せをプレゼントしたい!
クッキー1枚だぜ、彼らの事を思えば俺は果ての村で、大ラッキーだったと感じ、ここにいる皆の為に何かしたいと心から思った。
涙を拭き、アイテムボックスから「モレシャン」のクッキーは勿論、昔アサダの町のジャックさんと作った「ボール」や「けん玉」に「鼻眼鏡の吹き戻し」などをガチャガチャ出して、
「ここにいない皆にクッキーを1枚づつお届けして下さい。
お届けを手伝ってくれた皆は余ったクッキーを分けっこして仲良く食べて下さいね。
全部終わったらオモチャで遊んで良いよぉー」
と頑張って笑顔で伝えた。
もう、ヤバいのでティターニアさんにお願いして最下層に向かう。
広場の妖精族たちはキッド君とシルバーさんとキバさんに任せた。
クッキーが足りない場合の予備をキッド君に渡したし、あの三人なら子供受けは良いだろうし安心だ。
シロちゃんとファルさんにミレディをお供に下層へ下る出来た
少し急ぎ足の俺の後ろでミレディが、
「マスター、もう見えない位置まで離れたのデス。」
と、教えてくれたので、歩きながら泣いた、声は殺していたがボロ泣きだった。
ティターニアさんが、
「彼らの為に泣いてくれて有り難う御座います。」
ティターニアさんも鼻をすすりながら、
「グスッ、貴方の様な優しさが主神にあれば…」
と…
〈!また主神のアホか?!〉
と、心底、呆れとも、怒りとも解らない感情が沸き上がる…
「ティターニアさん、その話、あとで詳しくお願いします。」
と言った俺の瞳からは涙が消えて、心には主神への憤りが満ちていた。
理由は知らんが、ここの皆を閉じ籠らすだけの何かをやったのは確定だ。
〈何とかしたい事が増えたが、やってやるよ…
正直しんどいけど、俺に何か出来るのならやってやんよ!!〉
俺のやる気スイッチを押した事を
アホ主神に解らせ、後悔させてやる。
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