第80話 最下層にいらっしゃいませ
さて、ダンジョン最下層を目指して、
団体で移動中なのですが…
転移陣部屋でキャンプして、朝ごはんを済ませて、ダンジョンの入口に、改めて90階層に転移する為に転移して、
地上のギルドの建物で、
「さぁ、いくぞ!」
と気合いを入れた時に、受付嬢が、
「踏破ですか?いよいよですか?」
と、やたら熱心に聞いてきた。
〈圧が凄いな…〉
と感じつつ俺が、
「そうだよ。」
と、答えると、
受付嬢さんは、
「やったぁー!」
とやたら喜ぶので、詳しく理由を聞けば、
中央国のサブダンジョンは大変人気で人も多く街からも近いのだが、
メインダンジョンは、とてもヘンピな所にあり、冒険者が、ほとんど来ないダンジョンらしい…
しかし、入り口業務は誰かがやらなければならないので、誰もやりたがらない不人気職場なのだそうだ。
なので、強制に冒険者ギルド職員が数ヶ月交代で担当している状態なのだが…
そんな、不人気職場の唯一のアピールポイントが、
〈踏破報告を担当した職員にボーナスあり〉
というモノらしい。
予算として、年間大銀貨一枚があてられていたが、誰も踏破せずに千年以上経ち、積み重なったボーナス予算が聖金貨以上になっていると話してくれた。
「二週間以内に帰ってきて下さいね。」
と受付嬢に涙ながらに懇願されて、
「頑張ります」とだけ伝えて転移陣に乗った俺達だが、
「お願いしますよぉぉぉぉぉっ」
と転移するまで泣き声が聞こえていた…
〈必死だな…〉
皆があまりにも悲痛な叫びを聞いてしまい、誰からともなく、
「早く踏破してあげよう。」
と言い出したほどだった。
踏破を目指したダンジョンアタックを開始し、
サーチ・討伐・採掘の手順で進むが…
正直人数が多すぎる。
過剰戦力と言ってもいい…
中間のセーフティーエリアで早めの夕食を済ませてキャンプの用意をして休む。
翌朝、朝食を済ませて96階層に下りていく。
96階層には三体の魔物がいた。
俺意外が驚く、なぜなら俺の見たことのない上層階の〈ボス〉らしい。
「平場でボスが…って!
〈ボスラッシュ〉か!?」
と、閃くが…〈そんなのアリか?〉と一瞬考えるが、
初めてのパターンだが、〈ノーマル魔物ラッシュ〉が以前あったから〈あり得る!〉
と納得して、
相手を鑑定すると、
「荒い熊 レベル50」
怒りで力が増すタイプの熊 (洗い熊ではない ただの熊)
「暴れまわり」「怒り」「強打」
「銀狼 レベル58」
体が銀で出来た狼
「噛み千切り」「風魔法 レベル MAX」「威嚇」
「金狼 レベル62」
体が金で出来た狼
「麻痺爪」「土魔法 レベル MAX」「スカイウォーク」
「バトラー、新生ゴーレムチームであの三体倒して。」
と俺が指示をだすと、
「畏まりました、御主人様。
スキルの濾しとりは如何致しますか?」
と、バトラーが確認してきたので、
「金の狼が欲しいぐらいかな?
無理に欲しいレベルではないから討伐でも構わないよ。」
と伝えたら
「畏まりました。
少々お待ち下さいませ、御主人様、奥様方。
では!」
と駆け出す新生ゴーレムチーム
グリフ君の背中にテディちゃんが立ち熊に向かい、
ピピンちゃんはまっすぐ金狼を目指し、
バトラーは銀狼を待ち構えた。
グリフ君から熊に向かい飛び降りたテディちゃんは荒い熊に殴りかかる。
〈リアル熊とメタルボディーの熊のぬいぐるみの戦いだな…〉
と、眺めていると、
テディちゃんは、拳法の達人の様な身のこなしで相手をかわし、華麗に一撃を決める。
〈レベル的に一番浅い階層のボスのリアル熊では、レベルも上がったテディちゃんに勝てる訳がないな…〉
グリフ君はテディちゃんが無事に敵にたどり着いたのを確認し改めて、銀狼に向かい、
バトラーが銀狼を蹴り飛ばし動きを止めた隙に上空から馬鹿デカい岩が銀狼の頭上に落ちてきた…
天井ギリギリからのグリフ君の「ストーンフォール」の一撃だ。
〈あれでは、たとえ上の階層のボスといえど、大ダメージだろう…〉
そして、
バトラーがグリフ君の一撃を確認した後に、金狼に物凄い速さで向かう…
金狼は既にピピンちゃんの「炎の翼」で前足を一本失っている状態で、メタルボディーの小鳥を睨んでいる…
金狼が〈スカイウォーク〉で空中に逃げようが、お構い無しにピピンちゃんが追撃に向かう。
自らが炎の矢と化したピピンちゃんは「必中」「追尾」のスキルで正確に残った金狼の足を狙って飛び、
後ろ足に追撃を加えるピピンちゃん…
ジューっと音を立て溶け落ちる足に、
「ギャウン!」
と叫ぶ金髪狼野郎を空中からピピンちゃんが、背中に一撃を入れて地面に叩き落とすと、
バトラーが待ち構え、金狼の口元を 〈ムンズ〉と握り此方に引きずってくる…
念話で「濾過のご準備を」と、連絡が来たので、シルフィーちゃんに任せてみた。
念話を聞いたシルフィーちゃんは、〈コクリ〉と頷き返事をしてから、
濾過ポイを出して、サーカスの火の輪くぐりのように天に掲げる。
すると、
その輪に向かいバトラーが金狼をブン投げる…
〈流石は「豪腕」のスキル持ちだ。〉
ボロボロの狼は、見事に濾過ポイを通過し、
そして、
「ピピン!」
と、バトラーが指示を出すと、
上空から炎の矢が舞い降り、全てを濾しとられた金狼を射ぬいた…
〈パッシュん 〉と乾いた音が鳴り、金狼は魔石に変わる。
〈おぉ、流れるような連携攻撃だな…性能的にはミレディと一緒のはずだが…バトラーの仕切りだからかな?〉
と、見事な手際に感心していると、
〈ガチン!〉と大きな音が鳴り、そちらを見ると、荒い熊の渾身の〈強打〉をテディちゃんが〈鉄壁〉のスキルで受けきっていた。
そして、
テディちゃんは止まる事なく、受けた衝撃を逃がす様にクルリと体をひねり、デカい熊の首筋に噛みつくぬいぐるみの熊ゴーレムが、
〈ガブリ〉と噛みついたとたんに白い煙がユラユラと口元からのぼりはじめ、
次第に氷つく荒い熊…
そして、テディは地面に降りて〈プルプル〉っと、寒そうな動きをした後、荒い熊の腹めがけて回し蹴りをお見舞いした。
「バシッ」っと氷像の熊にヒビが入り崩れ落ち、〈 パッシュん 〉する煙の下に多分親指を立てている誇らしげなテディちゃんがいた。
最後の一匹は、仕留め切れなかった銀狼に、グリフ君が焦って、上空から物凄い数の魔法を叩き込み、倒していたが、
バトラーがグリフ君に
「美しくないですよ、グリフ」
と厳しい言葉を掛けていた…
シュンとするグリフ君だったが、バトラーは、
「貴方なら狙いを定めて眉間を撃ち抜くことも可能ですよ。」
とアドバイスも出していた…
〈やっぱりバトラーは凄いな…本当にミレディと同じ性能なんだよね?〉
と感心しながら、俺はアイテムボックスから「MP」カードを出して四人に配りながら、
「お疲れ様、一旦回復して。」
と労うが、
〈ピピンちゃん、カード割れるかな?〉
と、一瞬不安になりピピンちゃんを見たが、足でカードを押さえて、クチバシでコツンと器用に割っていた。
正直、新生ゴーレムチームに、
火力や、連携の点で少し不安を感じていたが、
〈問題なしである。〉
続く97階層にも、三匹の魔物がいたが、
あらかじめキッド君の資料からスキルはいらないと判断したため、女性陣チームの遠距離魔法チーム、シルフィーちゃん・ユリアーナさん・ステラさんの三人がボコボコにして、パッシュん の音も聞こえない距離から倒した。
98階層は二匹の猪と牛の魔物、こいつらもスキルはいらないと宣言すると、
シロちゃんが「コイツら得意なんだ!」と駆け出し、「お手伝いします。」とミーチェさんが後を追った。
シロちゃんはフェンリルに戻り牛を狙う。
ミーチェさんは腰のナイフを猪に投げる、ストンと鼻先に刺さったナイフに怒り狂いミーチェさんに突進する猪。
ミーチェさんは盾を構え、それをいなしながら闘牛士の様に、〈ザクッ〉と首に、ショートソードを突き立て、続いてアイテムボックスから槍を出してかまえる。
怒りがさめない猪がミーチェさんに向かい加速し、
次の瞬間 〈パッシュん 〉と煙だけがミーチェさんの横を過ぎ去った。
〈見事な槍さばきだな…ミーチェさん…〉
と感心していると、
「終わりましたか?」
と何故か口をモゴモゴさせながらシロちゃんが帰ってきた。
小脇に魔石を抱えて口元が汚れているシロちゃんを見て、
シルフィーちゃんが、
「シロちゃん、またドロップお肉を食べちゃった?」
と聞くと、
「ごめんなさぁ~い。」
と、白々しく謝るシロちゃんに、
「めっ!前にも言ったでしょ焼かなきゃお腹壊しちゃうかもだよ。」
と、注意するシルフィーちゃん…
〈って…つまみ食いの問題ではないのね。〉
「お肉が、痛む前に食べたかっの…」
としょんぼりするシロちゃんにシルフィーちゃんが、
「アイテムボックスのレベルを上げたら、ずっと新鮮なままで持っていけるよ。
次からはアイテムボックスを使おうね。」
と、優しく諭す。
「はい、シルフィーお姉ちゃん!」
と…
この二人の関係は、確実にシロちゃんが年上なのだが、シルフィーちゃんが〈お姉ちゃん〉ポジションらしい…
でも…〈うん、仲がよろしい!〉ので OK です。
そして、
続く99階層の魔物は二頭のボス…
待ってましたとゴーレムチームがハリネズミみたいな鱗の地竜「ニードルドラゴン」と背鰭が刃物の「ソードドラゴン」の二頭のドラゴンを、キッド君がきっちり濾しとった後に皆でタコ殴りで、 パッシュん させていた…
〈まぁ、レベルも場数も段違いだからな…〉
長いボスラッシュ終わり、次は、最下層…
〈いよいよ、俺の番か!?〉
と、意気込んで進むと、
一件の商店が建っていた…?
そして、
「やっと…やっと、ですか。」
と呟きながら、店主らしき男性が出てきて、
腹からの声で、
「らっ、しゃ~ぁせぇぇぇぇ!」
と、頭を下げた。
〈…なんですか?…ここ?〉
確か、俺達は100階層に来たはずですが…。
何なんでしょう?このお店は…
「ようこそ、ダンジョンショップ クロネコ屋へ!!」
と、言っている目の前の店員に俺は、鑑定をかけてみると、
『マウカル 魔族 レベル120』
「ダンジョンサブマスター」
「交渉」「演算」「買い取り」「不老不死」
よく解らんが、商人ッポイ…
と、俺が様子を伺っていると、
男性は、
「長かった、実に、長かった…
私がマスターと店を出して数千年。
はじめの頃は、ごく稀にお客さんが来ましたが、
ここ最近は、もろくに、このダンジョンにすら冒険者も来ずに…
店まで来て頂いたのはいつぶりか…。
このダンジョンが賑わえばと、試行錯誤して揃えた商品なのにだれも来なかったから…グッスン…」
涙ぐみながら語るサブマスターに、
黙っていなかったのがウチのシルフィーちゃんだ。
「お客が来ないお店では、折角の商品が泣いちゃいます。
店長さんとお話がしたいのですが、
お呼び頂けますか?」
と、商売モードのシルフィーちゃん…いや、
〈シルフィー商会会長のシルフィーさん〉
がそこにいた。
彼女の圧力に押されて、マウカルさんが店の奥に走って行った。
そして、戻ってきたマウカルさんが、
「少々お待ち下さい、マスターは身だしなみを整えております。
なにぶん久々のお客様でしたので、申し訳ございません。」
と、恐縮している。
俺達は、テーブルを出してお茶の準備を整え、
十分ほど経っていると、
「お待たせ致しました。
当店の店長とダンジョンマスターをしております。
ウレロ と申します。
以後お見知りおきを」
と、ドレス姿の女性が現れた。
ウレロさんとマウカルさん…〈売れろ〉と〈儲かる〉かな?
などと、考えていると、
自己紹介を受けた、シルフィーさんが、
「私は、冒険者パーティー〈アルドファミリー〉の一員でシルフィー商会の会長をしております。
シルフィレーネ・ハイ・ド・エルフリアと申します。
今回は商談と提案があります。」
と挨拶を済ませたシルフィーさんは、テーブルにつき、お茶を飲みながらウレロさん達と話を進める…
「このお店は何を販売しておられるので?」
とシルフィさんが質問すると、ウレロさんが、
「はい、ダンジョンポイントで交換できるアイテムやスキルカードを中心に販売をしております。」
と答える。
〈なんだその魅力的な商品は!〉
と、俺は驚くが、
しかし、それを聞いたシルフィーさんは、
「では、ダンジョンポイントはどうやって手に入れるのですか?」
との質問を投げ掛ける…
〈俺も気になってたけど、他のダンジョンマスターにも聞いた事無かった!〉
と俺は、興味津々で話しを聞く…
ウレロさんは、
「ダンジョンに入った冒険者の人数や滞在時間によるものと、討伐された魔物の生命ポイントの合算になります。」
と、教えてくれ、それを聞いたシルフィーさんは、
「では、このダンジョンは冒険者がなくポイントが入らないダンジョンになりますね。」
と、ズバリと言うシルフィーさんに、
「はい、サブダンジョンのポイントをこのダンジョンに回して運用している状態です。」
とウレロさんが残念そうに語る。
シルフィーさんは、ため息混じりに、
「では、このダンジョンは赤字経営を子会社のダンジョンの儲けから補っていると…
不健全!なんと、不健全な経営状態でしょう。
そこで、商談なのですが…お聞きになりますか?」
と告げた後に、悪い笑みでクロネコ屋の二人に詰め寄る…
ウレロさん達は、ゴクリと唾を飲み込み、
「は、はい」
と恐る恐る答えると、
「では、ここのスキルカードの購入には人族の通貨を使われているので?」
と、聞くシルフィーさんに
「はい、集まったお金も還元率は悪いですが、ポイントに還元出来ますので、」
と答えるウレロさんの言葉に、
更にシルフィさんがヒートアップして、
「それでは、いくら頑張っても元をとる程度で儲けがでませんね…
お二人のお店を、20階層・40階層・60階層・80階層に売店程度の支店を出店し、
この店の魅力と便利さをアピールします。
そして、ここからが問題なのですが敵のドロップ品にメダルを追加できますか?」
とのシルフィーさんの問いに、
「ダンジョンの設定で可能です…
あっ!そうか、ダンジョン内のみで使える通貨ですね。」
と、ウレロさんも興奮しだす。
〈これは、放置で大丈夫だし、出る幕はないな…〉
と、理解し俺達はお茶を楽しみながら商談をながめていた。
そして、数時間後、大体の話が纏まった様で、
まず、このメインダンジョンの仕様変更し、
魔物を倒すと強さに応じたメダルが必ずドロップし、
そのメダルのみで、店の商品と交換可能とした。
売店も下層階に行くにつれてレアなスキルやアイテムと交換可能となり、
すべての売店にポーション類やメダル数枚程度の武器も扱い死亡率や武器破損で帰還する確率を下げてダンジョンポイントを稼げて、
冒険者はメダルを稼ぎやすいWin-Winな設定にする。
肝心な売店の店員は、最下層のボスより強いゴーレムを配置し念話スキル等で在庫管理を行う事に決まった様だった。
これで、お目当てのスキルを購入するまで魔物を狩る冒険者が増え、
しかも、人は欲深く、「次の売店にはもっと良いものが…」と下層階を目指すだろう…
〈冒険者ホイホイ〉の完成である。
ウレロさんは目を輝かせて、
「素晴らしいですわ!シルフィー様…いえ、シルフィ先生!!」
とウレロさんがシルフィー教に入信した頃には晩御飯の時間になっていた。
100階層のボス部屋のはずだが、敵もいないのでミレディさんとミーチェさんがご飯を作っている。
二人の商談…というか、悪巧み?がまだ続いた。
「シルフィー先生、それでは先生の商会に旨味が無いのでは?」
と心配するウレロさんに、
「安心して下さい、ここから1日程度東に進んだ場所に砦を整備させているのですが、来月には完成します。
その作業員をすべてこのダンジョン周辺に街を作るために動かします。
冒険者のために、食事を提供出来る宿などを商会で経営しますので、どちらにも利がある話です。」
と、何やら提案しているシルフィーさん…
「流石です!」
感心するウレロさんに、シルフィーさんは、
「ここ一帯が活気づいてくれなくちゃ、
アルド伯爵領の玄関口が寂れたダンジョンだけでは格好がつきませんもの!」
と…
〈へっ?俺のなのここら辺?〉
と驚く俺をよそに、
商売人の二人の話し合いはまだまだ続いた…
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