第68話 一仕事終えて帰りましょう
光陰矢のごとし…
あっという間に2ヶ月半が過ぎました。
今、イグニスお兄様と一緒に各部署の報告を受けています。
まずは、「世界樹の国」魔法騎士団長から主要道路の整備と舗装がほぼ完了したと報告があった。
これで輸出入がスムーズになる。
次に、新たに組織された「車組」からの報告
鍛治師と家具大工と魔道具師からなる、馬車製造のエキスパート集団だ。
鍛治師は新たな弟子をむかえ、技に磨きを掛けて、より良い馬車の車体の製造に取り組み、
家具大工は客室や御者台は勿論、内部や外部の装飾。
あと魔導具師と言う魔石ライトなど魔石を使った機材の作成を得意とする技術者集団である。
このチームで高級感溢れる馬車を作っている…
輸送や移動が楽になり、エルフの高級馬車自体も輸出できる。
「家具組合」は家具や木工の小物を作成、
俺が「記憶の水晶」を使い前世の木工知識を見せたら、箱根細工にくいついた。
テレビで見た箱根細工の映像を見ながら、
「中身の仕組みが解らない」とか、
「あの道具が欲しい」とかと、
ワイワイ言っていたが、次の週には鍛治師を交えカンナなどを制作し、一ヶ月経たない内にカラクリの無いモザイク柄の小箱を作っていた。
簡単な仕掛けは作れるが、納得していないので技を磨いたのちに「エルフ細工」として売り出す予定で、
それまでは、この「エルフ模様」を作れる木工職人を増やす為に講習会などを開いているそうだ。
イグニスお兄様は、「エルフ模様」の小箱を見つめ「ほう…」と唸ったあと国から予算を付け、道具や技術を確立して後世に残せる様にすることが決定した。
最後に「ミスリルマイスター」という手先が器用な職人の集団をつくり。
「魔力除去液」の製造と管理と、
冒険者を募り、
ミスリル掘り集団「ミスリルハンター」を組織し安定した鉱物の確保を行う。
家具や馬車などの金具類は勿論、
ミスリルの宝飾品を順調に作成している。
親方衆が大集合の報告会も終わり、
イグニスお兄様と議員の方に、学習組の成果も披露した。
パントンさんには昨年、自分が報告した収支報告書を俺が教えた書式に書き直して皆さんに見比べてもらった。
見易さが格段に上がった上に、四則演算を、マスターしたお陰で制作時間が大幅短縮したとパントンさんが報告し、
続いてソロさんには商売に関する。計算式(仕入値、定価、値引率、売価)を伝授
〈やってて良かった!ソロバン教室〉である。
昔ソロバン教室で習った応用種目を思いだし教えたのだが、
ならばと、
木工職人さんに頼みソロバンを作り、
ソロさんに使い方を教えた。
いくら天才青年と言えどすぐにソロバンはマスター出来ないが基本と理屈が理解出来ているので、時間がかかるが大丈夫であろう。
皆が勘違いして「ソロ盤」と読んでいること意外は問題なしだ。
まぁ、良いんだけどね算盤でなくソロ盤でも。
最後にアーシェさんには、九九の説明と利用方法や、四則演算の説明など実際に知識を教える為の技術の披露をお願いした。
議員さんも必要性を理解したようで、さっそく研修会を開く予定がたった程だ。
この三人が居れば学力のレベルアップは大丈夫だと確信した。
予定の3ヶ月を目前にしてミレディさんから念話で、「あと数日で到着しマス!」と連絡が入った。
まぁ、念話自体は毎日の様にあったのだが…
「寂しデス。」とか「ご飯食べたデスか?」とか…。
おかげで寂しくなかったよ…
ついでになるが、じぃさんの免許皆伝は先日済ませた。
じぃさんは「濾過」のレベルを3にして。
味を調整した スッキリまろやかな お茶を出してくれたので、
「合格!今から秘術を伝授します。」
と俺が言うと、
「お願いします。師匠!」
とじぃさんが喜ぶが、
俺が、
「濾して、別けて、混ぜて、魔力。以上!!」
とだけ説明すると、
ポカーンとするじぃさんに実際にやらせてみた。
数分後に、
「で…できた。
こんなに簡単に、しかも廃棄予定のものから…。」
と驚愕しているじぃさんに、
「フルポーションだけではなくキュアポーションを濃くした万能薬もつくれるから、じぃちゃんの知識を使って色々試してよ。」
と言う俺に、じぃさんは、
「有り難うございます師匠、精進いたします。」
と頭を下げた。
「頑張ってね。それと、技能神 マイス 様にお礼のお祈りをして下さい。
濾過のスキルを作り出してくれた方ですからね。」
と伝え、この日、弟子のじぃさんは、ただのじぃさんになった…
数日後、ゴーレムチームがハイエルフの都に到着し、
イグニスお兄様に皆を紹介して、神様の御家騒動も報告し協力をお願いすると、
「全面的に協力する!」
と心強い返事がもらえた。
後日、「木工職人」と「ミスリルマイスター」たちと大地の女神像と精霊結晶の腕輪や首飾りを一緒に作った。
精霊結晶は精霊の泉にだけで採取できる泉自体が育む真珠のような青い玉だった。
それをあしらった宝飾品を数点と、
「記憶の水晶」で大地の女神を見てもらった木工職人さんに女神の木像を作ってもらい「ミスリルマイスター」にミスリルコーティングを頼む
出来上がった数体の女神像に腕輪や首飾りを一体につき一点取り付けて完成
さっそく都の教会に置いてもらう。
大地の女神はすぐに「ミスリルハンター」達の信仰を集め、
大地とダンジョンの女神がエルフ達から数千年ぶりに祈り捧げられたのだった…
よし、一歩前進だ…
そして、現在、愛妻号の車窓から、キラキラ光る湖を眺めている…
世界樹の国を出発して一ヶ月半で、
コーバの街の側まで帰って来た。
やはり、エルフの森周辺の道が舗装されたのが大きい。
行くときよりもスムーズに街道迄出ることが出来た。
世界樹の国を出る時に国をあげて見送ってくれ、
見送りに集まった人々の目の前で補佐を務めてくれた三人、
パントンさん、
ソロさん、
アーシェさんに、「四色のグリモア」で魔法を授けた。
やはりエルフ達は氏神様の学神 メリス 様を信仰している。
その学神様からの祝福を賜ったと喜ぶ三人と、俺のことを「使徒様」と拝みだす人々に手を振り馬車に向かう。
出発の間際にイグニスお兄様が、
分厚い手紙と、沢山の森の恵みを持ってきて、
「妹に渡してくれ。」
と言ってニカッと笑った。
「承知しました。」
と、俺はアイテムボックスにそれらをしまう…
エルフの襲撃者から没収したのと日々の努力で、俺のアイテムボックスも時間停止付きに育ったので腐る心配も無くなった。
アイテムボックスに仕舞い終えるとイグニスお兄様が、
「アーシェなのだが、今回の事で益々お見合い相手がいなくなった。
アルド君…娘もどうだろうか?」
と、とんでもない提案をしてきた。
念話でミレディさんとユリアーナさんが
「だめデス!」とか
「シルフィー様に相談しないと!」
と、騒いでいる。
俺は、
「妹のシルフィさんと婚約してるのに、イグニスお兄様をなんとお呼びしたら良いか解らなくなるので、遠慮しておきます。
もし、どうしてもお相手が見つからない場合は…」
という俺に、
イグニスお兄様が期待して、
「見つからない場合は?」
と聞いてきた。
「その時は、どこの馬の骨かわからない奴に可愛い弟子を取られるくらいなら…」
念話でうるさい二人と、息を飲むイグニスお兄様に俺は、
「私の一番弟子の 〈コートニー 君〉を紹介します。
彼は努力家で学神様からも名指しで誉められるくらいの逸材です。
先程使った神器も、コートニー君を祝福し、ついでに学術を学ぶ者にも祝福をと、メリス様より賜った品ですよ。」
と、コートニー君を生け贄にして、
「では、サラバ!」
と、出発してきた。
馬車の中で何故かミレディさんの(外線)念話がシルフィーちゃんに繋がっていた。
どこから聞いていたか知らないが、後ろ暗いことは何もない!…
コートニー君意外には…。
俺はシルフィーちゃんに、
「今から帰ります。
お兄さんから手紙と森の幸を預かったから待っててねぇ~。」
と元気に言うと、
「気を付けてね、あ、な、た。」
と返事がきた。
軽快に走るシルバーさんと愛妻号、
よし、皆にも連絡だ!
と、パパさんに、じぃさんとおばぁ様に出会った事と、王国が潰れた事を報告した。
「まさか武力で…?」
と心配されたが、
「ユリアーナパパさんの英断だ。」
と伝えた。
「じぃさんがそっちに行くかもよ?」
と伝えると、
パパさんは少し嬉しそうだったが、パパさんの横でママさんが「うげぇ」と言って居たらしい。
じぃさん頑張れよ。
〈果ての村 〉のステラさんにも、
「終わったから一旦コーバの街に帰ります。
着いたら村宛に「大地の女神像」を送るので、教会に並べて下さい。」
と伝える。
ステラさんとは念話で連絡を取っていたから。
「くすっ」と笑って、
「ダザール像の隣をバゼル神父が既にあけて待ってますよ。」
と報告をくれた。
ついでに大司教様宛に女神像を送るので説明をお願いした。
ステラさんは、
「任せて、私はアルド君の為なら頑張るから…」
と、こそばゆい言葉を言ってくるが、
その瞬間、〈バッ〉と俺をみるミレディさんとユリアーナさん…
〈ステラさんこの回線はもれなく盗聴されてますよ!
言動に気をつけて下さい…〉
と、焦る俺をよそに、馬車は走り続ける…
そして、長旅の末にコーバの街が見えてきた…のだが…
あれ?前より大きくなってない?
数ヶ月で街は変わるのね…
と感心しつつ、シルフィーちゃんに、もうすぐ着くよコールと、ジーク様に戻りましたコールをしたら、
「丁度良かった。
長旅のあとで悪いが、領主の館迄来てくれぬか?」
と…
何かやらかしましたか?…俺…
と心配になり、
シルフィーちゃんに、
「先にジーク様に呼ばれたから行ってきます。」
と、もう一回念話で話してから、
シルバーさんにもう一頑張りしてもらい、急いで領主の館に向かう事となった。
館に着くと、ジーク様の待つ応接室に通される。
ジーク様の隣にパリっとした姿の高官らしい人物がいて、
ジーク様は、
「正式な場ではないので楽にして良いよアルド君。」
と言ってくれたのでテーブルにつき話を聞く…
「では。」とジーク様の合図で、高官が、
「通達いたします。
〈果ての村〉 出身 アドル殿。
貴殿を〈伯爵〉に任命する。
尚、特例であるが何の義務も与えないものとする。
コーバの街に屋敷を用意したので、受け取ってほしい。
中央国 国王 カイル・フォン・ミスティ」
と書類を読み上げる…
唖然とする俺に高官さんは、
「陛下からのお言葉です。
〈果ての村〉が辺境伯領に編入したので、
アドル君も自動的に中央国の国民になりました。
その国民が調べれば、ハイエルフの皇族と婚約をしていると…。
国の貴族達から一刻も早く爵位をアルド君に与えてくれと頼まれたこともあり、急で悪いが受けてほしい。」
と、告げると高官さんは「では。」と言って退室した。
ジーク様に、
「あのぅ~…これは何事ですか?」
と、説明を求めたら、
「プッハッハ」っと吹き出したあと、
「いやいや、アルド君が婚約者を決めて、調べたらエルフの皇族と解って、
一応王国国民のアルド君に他国に舐められない様に、男爵でも与えては?
と他の貴族達が言っていたのだが、
君が向かったエルフの王国を滅ぼしたと一報が入って、
気にくわないエルフの王国を武力で叩き潰したのではと…プフっ
ビビった貴族達が、すぐに伯爵位を与えるべきだと息子に詰め寄った結果だよ。」
もう、笑いを堪えるのに必死なジーク様に、何だかドッと疲れたので、
「一旦帰って良いですか?」
と俺が聞くと、
「新しい居住区にアルド君の屋敷が建ってるから、そちらに帰るといいよ。
いつまでも婚約者の家に居候も何だから…
あっ、そうそう!
そんなに大きくない屋敷だから今はこちらで用意したメイドに管理してもらってるよ。
メイドは本人の希望で一生アルド君の為に働きたいらしいから
ぷぷぷっ…宜しくね。」
と、
最後に何だか気になる笑いが出たのが若干気にはなるが、
それより、
「はぁ~、お貴族かぁ~。
面倒臭いなぁ~」
とブツクサ言っている間に愛妻号は教えてもらった屋敷についた…
〈何処が小さいの?〉
ブライトネル辺境伯様の館には及ばないが、十分広い…いや広すぎる!
愛妻号から降りて、玄関のドアノッカーをコンコンと叩いてみた。
〈なぜドアノッカーが熊の顔なのかな?〉
と考えているうちに、
「はーい」と返事が聞こえて、扉がひらかれた。
現れたメイドさんは、見たことの有る女性だった。
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