第55話 未来についての話し合い

幸せってなにかご存知ですか?


〈それは、今この時だ!〉


と声を大にして言いたい、アルドです。



俺は今、シルフィー師匠の膝枕で、一つ目のメインダンジョンの踏破を撫で撫でされながら誉めてもらっています。


〈幸せ…〉


ミレディさんが念話で「私の役目デス」とか「何デスか?あの女ハ!」と文句を言っているが、無視である。


〈俺が、シルフィっている最中でしょうが!!


あんまり失礼な態度や言動があれば、アイテムボックスに入って貰いますよミレディさん…〉


と、考えただけだがミレディさんはお口にチャックをしたようだ。


シルフィー師匠も満足された様で、本格的に報告を行う為に、シルフィー商会の方がコーバの街の領主、ジーク様にアポをとりに走ってくれ、


シルフィー師匠にゴーレムチームを紹介をしていると、商会の工房の親方達が俺の顔を見に仕事をほったらかして集まってきた。


シルフィ号のメンテナンスの名目だが、皆ゴーレムチームに興味津々だ。


特にファルグランさんには親方達の魂を震わすなにかを感じたらしく鼻息荒くしてゴーレムフレームについてファルさんに聞いている。


俺は、あることを思いつきシルフィー師匠に会議室に親方や、技術者の方を集まれるだけ集めてもらった。

「記憶の水晶」を使い、前世の世界を見て貰い、親方達のセンサーに引っ掛かったモノを記憶スキルで引っ張り出して見てもらう。


ついでに、ダンジョンで見つけた魔石の利用方法で、「封入」や「誘爆」の効果の説明を行った。


流石は親方達は何かを閃いたらしくギラギラしていた。


そして、ゴーレムチームの制作でドドル工房が映った瞬間一人の親方が、

「親っさん!」と声をだした。


兄弟子が紛れていたと初めて知った。


その、鍛治担当の親方に「ルルドの息子だよ」と言ったら腰を抜かしてたよ…


〈世間は狭いね。〉


「百聞は一見に如かず」とは良く言ったもので、農機具や工事道具、果ては調理器具など新しい便利道具が次々に出来上がる。

分からない原理は俺に聞けば答えが出る。

もし携帯の様な作り方は分からない物も、何が出来て、どう便利かが理解できればミスティルの技術やスキル付与等で再現が可能なモノがある。


新たに作りたいモノができれば、それにあった材料やスキルカードが必要となる、持っている物なら渡すが、最悪魔物図鑑等でスキルを調べ濾しとりに向かってもいいかもしれない。


新たな技術が出来た喜びや、暮らしが楽になった感謝は、〈技能神 マイス 様〉に祈り、


新たな技術に必要なスキルカードはダンジョンと魔物の神様〈大地の女神〉に祈って下さいね…御利益あるかもよ。


と、大地の女神知名度アップキャンペーンも合わせて行っておいた。


ひとしきり親方達と戯れて、シルフィー商会の敷地内にある活動拠点に帰ってくると、


メイド服を着た、盗賊のアジトで保護したお姉さんが部屋の掃除をしてくれていた。


実は、記憶を消したとしても、トラウマとか有るかも知れないし、どう接して良いかも解らず不安なこともあり、自己紹介すらなくミレディさんにお任せしてしまっていた。


「あのぅ、お姉さん?」


恐る恐る声をかけてみる俺に、


「アルド様、ユリアーナです。

良かった!忘れられてると思ってました。」


ニコニコで答えるユリアーナさん…


「なぜ、メイド服?」


と俺が聞けば、


「特に行く所も有りませんし、アルド様のメイドなら楽しいかな?


と思いまして…駄目でしょうか?」


と答えるユリアーナさん…


〈駄目ではないけど…〉


メイドは旅には連れて行けないし…活動拠点の家担当メイドさんならば、シルフィー師匠案件だな…


〈よし、シルフィー師匠に相談だ!〉


と、云うことで、シルフィー師匠にユリアーナさんの今後を相談する事にした。


師匠のところにユリアーナさんと向かい、


「ユリアーナさんが、ウチのメイドさんに成りたいらしいんですが…


…どうしましょう?」


と相談するとシルフィー師匠は、


「う~ん。」と、渋い顔で悩んでしまった。


俺が、


「駄目ですか?」


と聞くと、シルフィー師匠は、困り顔で、


「駄目じゃ無いのよ。駄目じゃ無いけど、止めといたほうが良いと思うのアタシ…」


と…


〈なぜだろう?シルフィ師匠と反りが合わないのかな?〉


と考えていると、


シルフィー師匠は、「うん!」と決意した様に、


「やっぱり、駄目かも!


エルフの王家の第一王女をメイドにするのは…。」


……と……


〈なん…ですと?〉


「えぇぇぇぇぇぇぇっ!」


と、酷く驚く俺を見てシルフィー師匠は、


「えっ、知ってるのかと思ってたよ?!


なんで?…鑑定したら解るでしょ?」


と、言ってくるが、シルフィー師匠のセリフに更に驚く俺が、


「でも、昔シルフィー師匠を鑑定したら〈エッチ〉と言われたので、

ミスティルでは、女性を鑑定するのはいやらしい行為だと思いあれ以来女性は可能な限り鑑定してません!」


と、シルフィー師匠に意見してみる。


〈確かに女性カテゴリーを鑑定したのは、失礼なギルド職員と、ミレディ…は女性カテゴリーかな?ぐらいだ…〉


しかし、


〈はてさて?〉と、ピンと来ていないシルフィー師匠は、暫く首を傾げた後で、


「あぁ、あの時真剣な眼差しは胸を凝視していたんじゃ無いのね。


〈鑑定〉だったんだぁ~!そっかぁ。」


と納得されたシルフィー師匠だか、


納得出来ないのは俺である。


「では、今まで、シルフィー師匠に、おっぱい凝視男として認識されていた…のか?!」


と、膝から崩れ落ちる俺にミレディさんが念話で、


「マスター、ワタシならどれだけ見ても大丈夫デス!」


と…


〈うん、一旦黙ろっか。〉


頭が真っ白に成りそうだが、その前に、


「えー、情報量とダメージ量が多くて忘れそうでしたが…ユリアーナさんは第一王女なの?ハーフエルフじゃないの?


嘘だったの?嘘なら俺、イッパイイッパイで泣いちゃうよ?」


と、折れそうな心をなんとか立て直して質問する俺に、


ユリアーナさんは慌てて、


「命の恩人のアルド様に嘘など申しません!


私、ユリアーナ・ウル・エルフリアは、〈エルフ〉と〈ハイエルフ〉のハーフです!」


〈なんの トンチ だよ!〉


「…なんの…トンチ…だよ…。」


もう、口からも心の声が漏れてましたよ。駄々漏れです。


〈家出中の第一王女…どうしましょう?〉


送り届けるべき?だよね…


メイドは却下です。



ー 翌日 ー


ジーク様から、


『コーバの領主邸にて会議を行うので、一週間後にお集まり下さい。』


と連絡が入った。


来週まで空き時間が出来た俺は、ユリアーナさんが何故盗賊に捕まるに至ったかを聞いていた。


彼女曰く、


ハイエルフ母と恋に落ちたエルフの王子の父との間に生まれたユリアーナさんは、ハイエルフとのハーフの為に他のエルフと寿命が違い結婚相手が見つかりにくい、王族の為に下手な相手に嫁にも出せない…


じゃあどうすれば?


他のエルフと余命が釣り合うまで実家で暮らす?


ハーフハイエルフだか、寿命がパパ似ならどうするの?


と言う、権力の有るご長寿種族ならではの悩みから、


「結婚相手は自分で決める!」


と家を出たのが数年前らしい…


ユリアーナさんは色々な街や村を渡り歩く行商隊の売り子として旅をしていたんだが、


数ヶ月前に行商隊丸ごと盗賊に殺されて…。


って…


「記憶消したよね俺?」


と俺が聞くと、


「数年だったが〈家族〉として迎えてくれた行商隊の皆の最後は、苦しいけど、忘れたくなかったんです。」


とユリアーナさんは答えた。


〈強い娘さんだ…〉


ユリアーナさんに「これからどうしたい?」


と問いかけた俺に、


「旦那も見つからずに、たった数年で、国に帰る訳にもいかず、ましてや盗賊に数ヶ月捕らわれていたのなら、その部分の記憶が無いとはいえ、傷物になっているのは事実…


旦那様探しどころか、国に帰ってもお見合い相手も怪しいです。」


とユリアーナさんは寂しそうに答えた。


「ユリアーナさん、フルポーションを使ったし、黙っていれば…。」


と言いかけた俺に、首を振りながら


「嘘や隠し事をして生きるには、エルフの寿命は長すぎます。


何百年も心苦しいのは…。


でも、困りました。


よし、これはアルド様に正式に雇って頂きましょう。」


と、手をポンと叩き「閃いた!」みたいな芝居をするユリアーナさんに、


俺は、


「冒険者にメイドさんは贅沢だし、

お姫様をダンジョンに連れて行く訳にも行かないよ…」


と、やんわり拒否すると、


ユリアーナさんは、


「城には帰れないし、帰りたく有りません…


きっと女手が必要な事もあるでしょうから…ねっ!?」


とプレゼンしてくる…


すると、


「マスターの〈女手〉はワタシがいマス!」


と飛び込ん出来たミレディさん…


〈この盗聴犯は自己主張強いな。〉


そんなミレディさんに、


「ミレディお姉さま、


私は、ミレディお姉さまの様に冒険に同行は出来ませんが、拠点の管理ならば出来ます。


なので…」


と懇願するユリアーナさん


お姉様と呼ばれドキッっとしたのか〈お、お姉…さま…〉と念話で心の声が駄々れてるミレディさんは、


「行くところが無いみたいですし…まぁ…」


と…


〈チョロいぞ…ミレディさん…〉


と俺が呆れていると、


ミレディは、


「まぁ、マスターは偉業を成した後は、ワタシを妻に迎えて、故郷で静かに暮らす予定デスが、


ユリアーナさんも一緒に暮らすのも悪く無いデス。」


と勝手な未来予想を話し出した。


俺は、


「勝手な予定を立てないでくれ。


俺は、〈結婚〉なんて言った事は無いし、


好きな女性も…!


シルフィー師匠以外居ない!!」


と断言し、ミレディの〈妻〉宣言を拒否した。


すると、ミレディは、


「なっ、なんデスか、マスター!?


ワタシという者がありながら…酷いデス…」


と…


ユリアーナさんまで、


「可哀想なミレディお姉さま…」


と、ミレディのかたを持つ。


〈まぁ、盗賊の一件から二人が仲良しなのは解ったけど…〉


呆れながら二人を見ていると、


ミレディが、


「マスター!


今すぐあの〈シルフィー〉というポッと出の女にプロポーズをするデス…


プロポーズをしてフラれたら良いのデス!!」


と軽いヒステリーを起こしている…


〈厄介な…


俺の歴史上、シルフィー師匠はミレディより古参も古参…ポッと出な訳ないだろ…〉


と考えていると、


益々ミレディが、


「酷いデス!


ワタシが〈女房〉なのデス!!」


と騒ぎ、


ユリアーナさんまで、


「お姉さま、シルフィー様にも来て頂き、ハッキリしましょう!」


と言い出し二人してシルフィ師匠のもとへ向かったのだが…


〈精々シルフィー師匠に注意されるが良い!〉


と思いながら二人を見送った数分後に、玄関のドアが開きシルフィー師匠が急ぎ足で入ってきた。


例の二人を引き連れて…


〈ほら、怒られたんだ。

勝手なことばかり言ってたから…〉


〈ざまぁ〉とばかりに二人を見る俺、


すると、


シルフィ師匠は俺の前に来て立ち止まる…


〈やっべ、俺も怒られるパターンか?〉


と思った瞬間、〈むぎゅ〉っと抱きしめられた。


〈???〉


慌てる俺に、


「アルド君、私をもらってくれるの?」


というシルフィー師匠ですし、


〈へ?〉っと、キョトンとしている俺を見て、


「えっ、違うの…?

もしかして、私の事嫌い…?」


と見つめてくるシルフィー師匠に、

ふるふると首を横にふる俺…


すると、徐々に花が咲くように笑顔になり、


「やったぁー!じゃあアルド君のお嫁さんになる!!


やったぁー!フフフフっ」


と、無邪気に喜んでいるシルフィー師匠。


ミレディは少し悔しそうに俯き、


ユリアーナさんが何やら慰めている…


〈カオスだ…〉


後から話を聞くと、


シルフィー師匠も昔、ユリアーナさんみたいに、〈旦那探し〉で里を出て世界を旅する中で、旦那様よりも先に孤児と出会い奥さんではなく〈お母さん〉になってしまったと話してくれた。


自棄になり、総勢百人近い子供のママとして商会を大きくしてたら益々奥さんから遠ざかり半ば諦めていたところに今回のお話だったらしい。


俺が、


「でも、俺、11歳になったばかりの子供ですよ?」


と言ったら、


「えっ、待つもん。あと数年くらいすぐだもん!

中身は大人なの知ってるもん。

なのに、断ろうとして…

こんな、おばあちゃんとは結婚してくれないの?」


涙をためて聞くシルフィー師匠…。

いや、シルフィーちゃんをそっと抱きしめる俺であった。


その後がもう大変でした。

ジーク様が会議に息子のカイン国王から各地の教会のトップを集めた席で、爆笑しながら、


「アルド君、婚約おめでとう。

それも国外にも名が知れわたる大商会の会長と…

いゃあ、めでたい実にめでたい!!」


ジークさまは、いつもは大人びて、知恵も回る俺が、女性陣の勢いに負けて、〈婚約〉する事に成ったのが余程ツボだったらしく、


「使徒や賢者と名高い貴公も、女性の勢いに勝てぬのだな。」


とご機嫌な議長の進行で始まった報告会だが、


「記憶の水晶」を使い前世の事から、主神ファミリーのいざこざや、魔王君が何故暴れているのかを説明した。


主神様のお使いと平行して、奥さんの「大地の女神」にも力を取り戻してもらい家族間で決着をつけてもらうべく動いている事を報告すると、


教会関係者からは、なんだかがっかりした反応があった。


「主神様は何だか小さくない?」


みたいな。


俺は、


「たぶん悪い人…神様では無いだろうけど、何だかプライドとかもあるだろうし、上手く行かない事もたまには有るって神様でも…。

皆さんは、神様が仲良く夫婦円満になれる様にご協力お願いします。」


と、お願いすると、教会関係者達も、


「まぁ、それなら仕方ないなぁ…」


と納得してくれた。


あとは、各地の魔王軍を食い止める事と、


早く女神様に主神様とお話合い場のを設ける為にメインダンジョンの踏破に向かう事…



あと、婚約おめでとう。


「先方のご両親には挨拶に行く様に。」


と、ジーク様にアドバイスされ、


報告会は終了した。



はぁ、何だか疲れたよ…

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