第56話 婚約者が出来たが…
皆様、前世で40年以上生きて、どこの火の中、水の中、草の中、森の中を探しても野生の嫁さんをゲット出来なかったのに、
今世では11歳で婚約者が出来た、アルドです。
現在、鍛治道具を広げて、シルフィーちゃんの婚約指輪をミスリルとミスリル金を使い作成しています。
「不公平デス。仲間外れデス。ミレディ外れをマスターがしマス!」
と、騒いでいるヤツは無視することにした。
「ミレディ外れ」ってなんだよ。ミレディさんはもう有るでしょ指輪。
などと、念話で邪魔をされつつ指輪を作成し、
「受け取って頂けますか?」
と、俺が差し出すと、シルフィちゃんは、涙を溜めながら、
「嬉しい、有り難うございます。アナタ。」
と、抱きしめられてほっぺにチュウされた。
そして、
恥ずかしかったのか走って逃げていくシルフィーちゃん…
扉から出て行ったと思ったら、ヒョコっと顔だけ扉からだして、
「結婚式で、ねっ」
とチョンチョンと自分の唇を指で突っつきながら言ったあと、
「キャァー。やったぁー」と叫びながら走って行った。
〈可愛いっ。〉
ユリアーナさんは、少し恐縮して、
「今さらですが、良かったのですか?
私の軽はずみな提案で…」
と言いかけたユリアーナさんに俺は、
「最初はビックリしたけど、シルフィー師匠のことは大好きだし。
ユリアーナさんこそ、有耶無耶のまま、ウチのメイドに採用されたけど…
お姫様なんでしょ?」
と俺が聞くと、ユリアーナさんは、
「私の命の恩人は他の誰でもなくアルド様です。
ご恩返しとして働かせて頂きたいと願ったのは私です。
それに、シルフィー様の元で働くのなら、家の者も安心でしょうし…」
と、言ってくれた。
〈エルフの国にも名前が通ってるのかな…シルフィー商会って…〉
しかし、
「やっぱり、親御さんに居場所も含めて報告した方が良いから、シルフィーちゃんの故郷もエルフの国だろうから、ついでで悪いけど、
〈ウチで働いてますよ〉っと報告しに行こう。」
とユリアーナさんに提案すると、
「はい、ご主人様。」
と返事をする…
「あのぉ~、やっぱり止めません…メイドは…」
と、俺が改めてお願いするが、
「ご恩返しです。ご主人様!」
と、却下された…
さぁ、準備ができたからエルフの国に行く…前にパパさんとママさんに報告が先だな順番的に…
それから一週間シルフィーちゃんに癒され、商会の親方達と新商品を開発し、合間に旅の準備を整えて過ごした。
旅立ちの日、親方達がシルフィ号を改造し、少し大きく更に快適にファルさんの止まり木や、キバさんの犬小屋も完備した新型サスペンションの馬車にしてくれた。
しかし車体には「愛妻号」と、洗濯機みたいな名前が…
シルバーさんを愛妻号と繋ぎ、ファルさんは止まり木に、
キバさんは犬小屋スペースへ、
キッド君は御者台に座る。
ミレディさんとユリアーナさんは客室に乗り込み、
最後にどうしても実家には行きたく無いシルフィーちゃんの手紙を預かった。
〈もう、実家には数年に一同手紙を出す程度で、会っても仕方と頑ななのと、出発前に作った商品関係で忙しいのが理由だが…〉
俺は少し心配しながら、シルフィちゃんに
「本当に一緒に行かなくて良いの?」
と言うと、
「大丈夫よ、行ってらっしゃいアナタ。」
とほっぺにチュウで送り出してくれた。
工房の親方衆に
「幸せ者」
「頑張ってこい」
「ちくしょう」
「気をつけて」
などと囃されさり励まされたりしながら
馬車に乗り込みコーバの街を出発した。
果ての村に行く前にブライトネル辺境伯領のアサダの町に寄ったところ、
なぜか、
エドさん率いる騎士団に連行されて領主邸にやってきた。
驚く俺達をよそに、
騎士団の方々に四方を囲まれたまま連行された広間では、
なぜか不機嫌なフリーダさまに、
困り顔のブライトネル辺境伯さまと、
少しお怒りの大司教さま…
そして
なせか泣き腫らした顔のシスタークリステラがそこに集まっていた。
〈何事でしょう?〉
困り顔のままブライトネル辺境伯様が、
「説明して貰おうかな?アルド君。」
と…
〈へ…俺ですか?〉
と呆気にとられながら、
「えっと、なにを説明すれば良いのでしょうか?
ブライトネル辺境伯様。」
と、聞く俺…
さすがにトネルお兄様とは言いにくい空気に〈正式な呼び方〉で尋ねたのだが、
その瞬間、
「うわぁぁあぁぁん。」
と、シスタークリステラが泣き出した。
〈えぇ!?〉
フリーダ様はシスタークリステラの背中をサスサスしながらこちらを睨み、
大司教はオロオロしだす。
ブライトネル辺境伯は、ため息を吐きながら
「そうなのか…。
もう、トネルお兄様とは呼んでくれないんだね。」
との台詞に、
「うわぁぁぁぁぁん!」
と、シスタークリステラの鳴き声がいっそう大きくなった。
〈訳が解らない…。〉
恐る恐る、
「あのぅ、これは…」
と質問する俺にフリーダさまが、
「クリステラがどれだけアルド君の事を気に掛けて毎日過ごしていたかわかりますか?
それなのに、家族とまで言ったクリステラを差し置き婚約をしたそうではありませんか!
クリステラは、クリステラは!」
と、お怒りの様子…更にシスタークリステラは、
「うわぁぁぁぁん。お姉さまぁぁ」
とフリーダ様にすがりつく…
〈えっ、シスターはお姉ちゃん枠だよね?〉
などと考えていたら、ユリアーナさんとミレディさんが、
「お話に割り込み申し訳ございません。
少しそちらのお嬢様と別室でお話がしたいのですが。」
と申し出たユリアーナさんとミレディさんは、
「マスター、任せるのデス!
女同士で話し合うのデス。」
と念話がきた。
「こちらは?」とブライトネル様がきくので、
「エルフの国の第一王女のユリアーナさんとミスリルゴーレムのミレディさんです。」
と紹介するとブライトネル様が
「ゴーレムの…お嬢さん…?」
と聞くので、
「お嬢さんです。トネルお兄様」
と真顔で告げる俺に、
トネルお兄様は、
「リーダもステラも隣でお嬢さん方とお茶にするといい
私と大司教様は男同士で話があるからな…」
と、言い〈話し合い〉になったのだが、
大司教様は相変わらず微妙な雰囲気のままだ…
俺は、ミレディさんの念話でファルさん達馬車チームに「少し遅くなる」と連絡してから話し合いをはじめた。
男同士でテーブルを囲み…トネルお兄様が、
「数日前に大司教様が、コーバの街の会議から帰り、アルド君の婚約の報告を受けたのだが、
リーダが報告を受けると 〈果ての村 〉に出かけてしまい、つい先日ステラを連れて帰って来たが…ステラがずっとあの調子でね、
私もアルド君とステラが一緒になれば本物兄弟になると言った事があるが、ステラは案外本気だったようだ。」
と…
〈えっ!〉っとビックリする俺に
「私は認めない!
クリステラちゃんが嫁に行くなんて。」
と大司教様が異を唱える。
「シスタークリステラはお姉ちゃんと言いましょうか…。」
と俺が言ったら
「なぁにぃ!?
使徒さまはクリステラちゃんを拒否するのか?」
と食って掛かる大司教様…
〈どうしたいの大司教は?〉
困り顔の俺に、
「まぁ、ステラが口下手なのは元からだが、アルド君もちょっとは乙女心を勉強せねばな。」
とトネルお兄様に言われた…
「それがわかれば前世で結婚出来ていましたよ。」
と、俺が話すと
「して、アルド君…もう一人増やす気はないか?
〈婚約者〉…。」
と提案するトネルお兄様に、
「はいぃ?」と驚く俺…
そして、
「ワシは認めんぞ。」
と息巻く大司教様と、
よく分からない会話が進む…
「まぁまぁ、大司教様
クリステラの涙を見たでしょう?
クリステラが使徒様の嫁に行けば、父親代わりの大司教様も家族ではありませんか?」
と説得しだすトネルお兄様
「ぐぬぬぬぬ」っとなる大司教様が、
「結婚式は私がとり行う!
これは譲れない。
あと、クリステラちゃんをこれ以上泣かすことはまかりならん!」
フンスと鼻息荒く言い切る
って、
〈嫁さん増える感じですか?
そんなフラグ有りましたか?〉
と、俺が慌てていると、
〈バタン〉と扉が開き、
〈ババン〉と仁王立ちのシスタークリステラが、
「お兄様!私決めました。
もう泣きませんわ!!」
と宣言する…
〈何が何だか解らないが、吹っ切れた様で何より〉
と、安心する俺に、
フリーダ様は、
「そうです。
頑張ってアルド君を出世させるのです。
アナタ、王様にアルド君に爵位を与えて頂けるように働きかけを!!」
と叫ぶ…
〈そんな馬鹿な…〉
と、呆れる俺に、
ミレディさんも、
「第二婦人はワタシなのデス!」
と言い出す…
〈お前も共犯か!?〉
と、心の中でツッコむと、
〈マスターの参謀のワタシにかかれば、婚約者など障害には成らないのです!〉
と、念話を飛ばしてきたが…
この痛い盗聴女の戯言は無視して、
〈後程罰を与えるとして…〉
俺は、
「俺は、シルフィーさん一途です。
第二婦人なんて考えていません。」
と宣言すると、
シスタークリステラは、
「どんと来いです。
私は、アルド君に〈どうしてもお前が必要だ〉
と土下座して〈嫁に来てくれ〉と言わしてみせます!」
と宣戦布告を受けてしまった…
モテ期…なのか…
これが、都市伝説に聞く…モテ期…なのかなぁ?
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