第57話 ややこしくなる状況

シスターが、〈結婚してくれと言わす〉宣言をした事を大司教様に質問したところ、

ミスティルの教会は結婚OKだと言っていた。


〈ステラお姉ちゃんは本気の様だ…〉


元気になりユリアーナさんやミレディさんと仲良くおしゃべりしているステラさん…。


大丈夫か俺?

婚約者要るのに…〈結婚してくれと言わす宣言〉って…

主神様でも一人の奥さんで世界を巻き込む一大事なのに…。


しかし、ステラお姉ちゃんの強い決意を見た事で安心したトネルお兄様と、ご機嫌を直してくれたリーダお姉様に別れを告げて、ステラさんも一緒に、〈果ての村 〉を目指し馬車の旅を続ける。



丘を越えて、村の壁が見えてきたが…


何か前より壁が物騒になっている気がする。


壁の上にバリスタが並び、入り口の門の上に大型魔物の頭蓋骨が飾ってある。


ポカーンと見ていた俺にステラさんが、


「山から〈はぐれ地竜〉が降りて来たけど、村の皆でやっつけたんだよ。」


と、教えてくれたが…


「えっ!地竜倒したの?皆で?」


俺が驚くと、


「そう。ドドルさん特製バリスタで、

止めはダーム君とミームちゃん姉弟が眉間を撃ち抜いて、ほら!」


と入り口の頭蓋骨を指差すステラさん


よく見ると眉間の辺りに穴が空いている。


あんな固そうな頭蓋骨に穴を開けるバリスタって…。


〈じぃじ師匠は物凄い物を作ったなぁ。〉


と感心しながら村に入った。


村の広場でステラさんと別れ、〈愛妻号〉をアイテムボックスにしまいユリアーナさんとミレディさん率いるゴーレムチームで実家を目指す。


石積みの ウォール何か がみえてきた。


あぁ緊張してきた…どこから報告しよう。


と、悩む暇も与えられないくらいにすぐに入り口まできた。


〈昔より早く着いたな…〉


と、こんな瞬間に自分の成長を感じてしまった。


約一年ぶりになる我が家だ…家の中から賑やかな声がする。


なんだか、自分の家なのに知らない空気に包まれた〈我が家〉になかなか、「ただいま」が言い出せない。


その時、


「おんぎゃぁぁぁ」と元気に泣く幼子の声が耳に届いた。


あやすパパさんとママさんの優しい声が続いて聞こえてきた。


何故か涙がでていた、嬉しいけど、パパさんとママさんと赤ちゃんの家になり、


〈俺が入り込んでも良いのかな?〉


と不安になる気持ちもある何とも言えない感情だった。


すると、


「アルドか!」


ウォール何か の外からよく知る髭モジャドワーフの声がした。


振り向くと、じぃじ師匠に良く似ている髭無し、こざっぱりヘアーのドワーフがいた。


じぃじ師匠?


「何故だ?半年で忘れてしまったのか?


あっ、髭か!アルルが嫌がるから剃ったのを忘れとったわい。」


と、顎を触りながら〈ガハハ〉と笑うじぃじ師匠…


〈アルル?〉


と、知らない単語に首を傾げる俺を追い越して、


じぃじ師匠は、


「おーい、アルドが戻っておるぞぉ。」


と言いながら入っていった。


すると、バタバタと音がしてママさんが、飛び出してきて抱きついてきた。


「お帰りアルド!」


と、少し小さく感じるママさんに、


「ママさんただいま」


と声をかける。


そしてパパさんと感動の再開…


〈えっパパさん何で真っ青な顔してパクパクしてるの?鯉みたいだよ?〉


ハッと我に返ったパパさんは、バッっと音がする勢いで片ひざをつけ右手を左胸にあて、


「姫!お久しゅうございます。」


と…


〈ほへ?パパさん…ユリアーナさんとお知り合いですか?〉


と、呆けている俺に、


「アルド、話したいことは色々あるんだが、まず、ユリアーナ様がここに居られるか説明を頼むよ。」


冷や汗ダラダラのパパさんに、ポカーンなママさんと俺。


何事か?と幼子を抱っこしながら出てきたドドルじいちゃん


おれは、

「えーっと、ウチのメイド?のユリアーナさんです。」


「えぇぇぇぇぇぇぇ!!」と驚く両親の声に驚いた幼子の泣き声が、一際大きく響いた。



まぁそれからの説明に時間が掛かること掛かること、

途中から「記憶の水晶」を使い説明をしたりして、何とかご理解して頂けた。


パパさんもママさんも、反対とか賛成とかより情報量が多くて、

シルフィーさんの事は概ね好意的に受け入れてくれているので良かったが…


パパさんにユリアーナさんとの出会いについて説明したら涙を流して、


「よくやった。」


と誉めてくれた。


パパさんの家はエルフの貴族ではないが、代々王家にお薬を出す薬師の家系で、バリバリの保守派エルフの家出身だったらしい。


小さいユリアーナさんにもお薬を届けた事があるパパさんは、ユリアーナさんを親戚の娘さんくらいの感覚だったそうだ。


これからエルフの王家に「娘さんを雇用します。」宣言をしに行くとこ告げると、


「持って行きなさい。」


と、いつぞやのナイフを渡してきた。


パパさんは、


「そのナイフは王家に賜った物だから何かの役に立つかもしれないから。」


と言っていた。


パパさんはそのあとポソリと、


「アルドが婚約したのも驚いたけど、お相手が皇族だもんな。」


と、しみじみ言っている…


〈はい?〉なんか知らないワードが出たぞ…


「パパさん?皇族って?

エルフの王家には〈雇用します〉って言うだけだよ?」


と俺が言うと、


パパさんは、


「えっ、シルフィーさんだよ。


ハイエルフは高貴な生まれの方が多いけど、シルフィーさんは古のエルフの都の皇族の出身だよ。」


と、サラリと重大発表をするパパさん…


〈………〉


と、俺が理解が追い付いていないのに、


「そうだ、アルド。

妹のアルルですよぉー。」


と寝ている妹をそっと抱いて連れてくるパパさん…


俺は固まったまま、


「初めましてアルルちゃん。お兄ちゃんはもっと心が穏やかな時に会いたかったでちゅよぉ~。」


と、感動もへったくれもない、ご対面にがっかりしながら裏の広場に愛妻号を宿泊モード(座席をベットに変形)にしてその日は休む事にした。


翌朝起きているアルルと正式に対面したが、何もしていないのに盛大に泣かれた…


キッド君が抱っこしたりシルバーさんやキバさんが覗きこんでも、「キャッキャ」と笑っているし、


ミレディさんやユリアーナさんの抱っこでも泣かない…


ファルさんの子守唄でもグッスリなのに…。


俺はやるせない気持ちをぶつける為に〈果ての村〉に新しくじぃじ師匠の建てた鍛治屋に来て、ミスリルにオリハルコンコートの弓とミスリルにオリハルコンの刃先のスコップを作りロルフ先生と監督(ターニャママ)に渡した。


鍛治仕事でサッパリした俺は、色々有りすぎて忘れていたあることを思いだしパパさんに許可を取ったあと、


後ろの井戸に回り手押しポンプを取り付け、コーバの街て作った「薪風呂小屋」をファルグランさんに地ならしして貰ったあとでアイテムボックスから出して据え付けた。


パパさんに使い方を説明して、ママさんに入ってもらう。アルルは、俺が作ったベビーバスをパパさんに使用して貰った。


〈おれが触ると泣くから…〉


さっぱりしたママさんに使い方を説明しながらパパさんにも風呂に入って貰うと、


最高だったらしくご近所も呼んできてお風呂大会になっている。


ちなみに、風呂には「自動修復」がついているので、壊れることはそうそうないだろう。


翌日、


村人から薪風呂の注文が入ったが、

作り方を教えてくれとじぃじ師匠から頼まれた。


あと数日村の鍛治屋さんをしてからエルフの国に向かおうと思いながら、キッチンでママさんから「ジャガイモとベーコンの美味しいヤツ」の作り方を習っているミレディさんとユリアーナさんの後ろ姿を眺めている。


〈皇族…なのか…シルフィーちゃん…〉

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