第87話 お願いと約束の結果

心ときめく出会いが有りました。

米です。

そう、米なのです。


目の前に米が有るのです…

もう、モグモグ、

二度と、バクバク

たべれないと…、


「思ってたからぁぁぁぁうぅぅぅぅ。」



握り飯を頬張りながら、

いきなり泣き出した俺に周りがドン引きでした。


ミレディまで、オロオロしだす始末で、


もう、主神の魔王軍へのカミングアウトで、俺の事を隠す必要がなくなった事もあり、


久々に「記憶の水晶」を取り出して、不運な転生者の物語をパーティーの出し物として語った。


笑って泣いて、なかなか波乱にとんだ物語だと我ながら感心した。


物語を聞いた者達からは、特にミーチェさんとの話を聞きたがっていたが、ザーネ子爵との算術勝負から語ったのだが、


「本当の話だったのか!」とか

「あの劇よりも複雑ではないか?」とかと、感想が飛び交った。


どれだけあの劇団は人気なんだ!?


そして、最後に、なぜ米にこんなに感動したかという説明をしたのだが、


メイク直しをした「ノエルさん」が俺の話しでボロ泣きしていた。


〈なぜゆえ?〉


ダイト様が呆れて、


「これ、ノエルよアルド殿との話が進まないから化粧を落としてこい。」


と言ってくれた。


「はい、お父様」


と侍女さん達に再度連れて行かれるノエルさん…


ダイト様が、


「娘のノエルは、何と云うか…

リザードマンらしくない見た目を気にしておるのだ。


あれは、我が、旅のハイエルフの女の豪快な性格に惚れ込み第二妃に迎えたのだが、長寿のハイエルフといえどお産は命懸けで、ノエルを産んで直ぐに逝ってしまいおった。


あんたが死ぬまでの間だけこの国に居てやるよと言っておったのに…」


と涙をながして、酒を煽るダイト様は、悲しそうにつづける。


「ノエルに我が惚れた〈リリエンタール〉の豪快さを分け与える前に逝ってしまった為か、娘は、他人と違う事を気にして、引っ込み思案になり、一緒にいた姉や妹がリザードマンの戦士に嫁いで行ってからますます外に出なくなってしまった。


そんな時、あの劇を観たのだよ…


生まれや、見た目等気にせず、引かれ合う二人が困難に負けずに愛を育み、生まれた子供も、敵や味方は勿論、年や種族の違いも気にも止めず、

愛をくれる者に愛で答えるそんな男に、娘は憧れを抱だき、

生まれて初めて恋をしたらしい。


初めてだった、あの娘が…ノエルがわがままを言ったのは、」


ダイト様はもう一杯酒を飲み干し、今度は少し微笑み、


「父上、中央国に嫁に行くにはどうすれば良いのですか?

私はあの少年伯爵様に嫁ぎたいです。


と、


我は驚いた、驚いたが嬉しかった。


しかし、劇の主人公…お話しの中の男に嫁がせる訳にもいかない…


そこで、旧友のジーク殿に手紙を出したのだが、届いた返事をみて驚いた、


あの話しは〈実在の人物の話し〉だ。

そのうちお前の国に本人が行くから、実際拳を合わせてみて、納得したなら嫁にやればよいと書いて有った。」


と…


〈あのオヤジ、首謀者じゃねーかよ!〉


と俺が、遠い空の下のジーク様に負の念を送っている最中に


ノエルさんが帰ってきたようで、


「父上、全て話してしまわないで下さいませ!


私の話す事がなくなってしまいます。」


と頬を膨らます大陸系のエキゾチックな美女が立っていた。


「改めまして、リザードマン王ダイトが次女ノエルと申します。


アルドさま?」


と、自己紹介してくれたのだが、


なぜゆえ疑問形?


「ノエルさんですね。アルドと申します。

名字も有るらしいですが名乗った事がありません。

ただのアルドで宜しくお願いします。」


そして、こちらが従者…と云うか仲間で家族の…


とミレディさんや外で待機しているシルバーさん達の紹介をしようとしたが、


「先輩ですか?」


とミレディさんの手を包み込み、キラキラした目で見つめるノエルさんに 、


まんざらでもないミレディさんは、


「なかなか、見所が有るのデス。


マスター、暫く彼女と話をするので失礼しマス」


と、ノエルさんを連れて行った。


ごめんねキッド君にファルさんと、キバさん、迎賓館の隅で待機してくれていたのにろくに紹介もしてあげられなくて…


そして、シルバーさんが一番ごめんね、馬は駄目みたいで、迎賓館の裏手の厩舎で待機に成って…


本当にごめんね。



早くダンジョンに行って暴れよう!


ダンジョンで暴れて忘れよう。


俺も、いっぱいいっぱいだから…


早くダンジョンに行きたいよ。




疲れる試合に、少し気疲れするパーティーの翌日、


お城にて1泊させてもらった俺達に、


ダイト様は、


「娘をとりあえずアルド殿の家に行かせて欲しい…身の回りの世話は侍女も付けるから、雨風さえしのげる場所ならば何処でも構わない。


そのかわり、米農家の誰かと種籾を一緒に送り出すので…頼む」


と、お願いされた。


昨日散々、シルフィーちゃん一筋だと話したのだが、


「ここに居ても娘はまた引きこもり、そして、ふさぎ込むばかりだ…


頼む娘の〈夢〉を叶えてくれ…アルド殿の側で、物語の中に居させてやってくれ。」


と頭を下げられた…


〈マジで物語にされますよ…ノエルさん…〉


と、思いながらも


「ウチに来るのは別に構いませんよ。」


と返事をしておいた。


そして、ダイト様は、


「アルド殿の気が変わらぬ内に!」


と、ノエルさんと侍女さんに準備をさせて、


米農家の次男夫婦が新しく畑を探しているという情報から、その夫婦と種籾を乗せた馬車を俺の領地に向かう予定で準備を始めた。


〈ウチには土地ならいくらでも有る…それこそ耕せば街1個分でも田んぼに出来る。〉


米農家の夫婦には広大な農地を与えて我が領地の主食を麦から米に変更するくらい頑張ってもらい、


既にシルフィーちゃんに迎え入れ準備をお願いしているし、


ノエルさんは女性陣と新・ゴーレムチームとで、メダリアのダンジョンで、レベル上げをしてもらう予定になっている。




そして街でのドタバタも終わり、俺たちは、ようやく、プラウドの近くのメインダンジョンに来ている…


しかし、このダンジョン、何か変なんです。


出てくる魔物は人型が多く、ウェポンスキルや体術スキルで挑んでくるし、


そして、階層により魔法が使えない階層や、武器が使えない階層、果ては技や攻撃系スキルが使えない階層と…禁止項目が有るダンジョンだった。


ダイト様やリザードマンの貴族のオッサンの話しでは、太古の昔、リザードマンの男は、〈ふんどし 一丁〉でダンジョンに潜り、拳ひとつで何階層まで行けたかが男のステータスだったらしい。


まぁ、それでも上層30階層ぐらいまでの事らしい。


30階層まで潜った者は〈英雄〉扱いで、モテモテだったそうだ。


そして、俺たちはすでにそのモテモテリザードマンの条件である30階層のボス部屋に来ている。


竹林のエリアで、風流な小路が続いていた。


サーチに加えて、攻撃魔法、攻撃スキル、技の空打ちを行い、この階層の禁止項目の確認も終了したようで、


キッドくんが念話で報告してくる…


〈なんで念話?〉と思っていると、


「ご主人様、魔法禁止階層です。」


と、教えてくれた。


〈なるほど、音魔法も禁止なのね。〉


と、納得した俺は、ならば、とメインウェポンの黒オリハルコンの斧をにぎりしめて奥へと進む。


すると、竹林の先に開けた場所があり…


…パンダがいた…


竹を持ったパンダを鑑定すると、


「マスターモノクロベアー レベル68」


「体術 レベル MAX」

「棒術 レベル MAX」

「身体強化」


〈カンフーパンダですか?〉


と、ツッコミたくなる見た目に反して、


パンダは〈中の人が拳法使い〉なのでは?

と思わせる、見た目を裏切る滑らかな動きで、


俺らに襲いかかり、竹を振り回す。


「ここは俺が!」


と格好良く名乗り出たが、


上段から振り下ろされた竹を斧でガードしても、しなる竹が勢い良く〈ベッチン〉と、後頭部に一撃もらう羽目になり嫌になる…


〈かなり痛い…〉


このダンジョンの敵はレベル以上に手強い…スキルやレベルではなくて、技のキレみたいなモノが追加されている気がする。


1体の敵を相手にしているが、他のダンジョンの2体以上の敵を相手にしている様な感覚がある。


正に今も、


ガードすればしなり、背中に打撃がくる、

竹ばかりを警戒していると、棒高跳びの様にして、パンダキックが飛んでくる始末…


武器の相性とか気にしたこと無かったが、斧と棒術は相性が悪いのでは?

と思えるほど、一方的に殴られている。


俺はアイテムボックスに斧をしまい、何年か前に作ったが、余り使わなかったた物を取り出して構える。


刀だ、俺は居合の構えで相手の出方を伺い、相手が打ち込んで来たのに合わせて、抜刀とともに切り上げた。


竹が斜めに切り離され、


パッシュん とパンダが消えた。


ピロリン

ピロリン


とお知らせが鳴る

まさかこんな低いレベルの敵で俺が2レベルもアップしたのか?

とステータスカードを見てみる、


すると、「心眼」と「カウンター」という武器の命中率とクリティカル率を上昇させるスキルと、カウンター攻撃の威力が上がるスキルが生えた。


久々にスキルを自力で勝ち取る感覚…


昔の修行ではウェポンスキルを獲得したら、次のウェポンスキルへ…みたいな事しかしておらず、


武器をすすんで使わなかった自分を反省した。


武器をつかえば、武器のスキルレベルとは別に上達して新たなスキルを手にする事が出来るのだな…と感じつつ、


30階層奥の転移ルームに行き、宝箱チェックをしたあと腕輪に登録を済ませて、しばし考える。


出てくる敵が手強い割には、スキルはウェポンスキルが中心で旨味が無い、


宝箱からは別に作れるクラスの武器や防具しか出ない、大当たりでインゴットぐらい…


俺は、少し考えた後、

「えー、皆さんに多数決を取りたいと思います。」


と俺が発言すると、ゴーレムチームが寄ってきて整列した。


「マスター、なんデスか?」


とミレディさんが質問してくる。


「このダンジョンには、あまり旨味が有りません。


ウェポンスキルが主体なので、濾しとりは気にせずに踏破を目的として、殲滅もなんなら採掘もやらずにひたすら下層を目指したいです。


皆さんの意見を聞かせて下さい。」


と俺が意見を出したのだが、


ミレディは、

「賛成です。早く次のキャンプ予定階層について、お米の炊き方を練習したいデス。」


と同意してくれた。


キッド君は、

「最短ルートは任せて下さい」


と賛成してくれて、


シルバーさんは、

「主よ、下層域までは敵も無視でよいが、下層域の敵とは戦いたく思います。」


と、条件付きで賛成のようす。


キバさんは、

「ご主じぃ~ん、次のボスと一騎打ちしてみたい」


と、条件のみの意見


ファルさんは、

「アルド様、ゴーレムユニットが装備扱いで、余り出番がありません…単独で宝箱回収係りを任せて下さい。」


と、答える。


では、意見を纏めると、


「中層は敵を無視で最短ルートで進み、ボスは持ち回りで一騎打ち、

ファルさんはルート上の宝箱回収を任せて、

下層域手前の転移陣部屋でまた相談でいいね。」


と俺がいうと、


ゴーレムチームが頷く、


「よし、そうと決まれば、

今日はここでキャンプします。


ミレディ、ご飯炊いて。」


とお願いすると


「はーい、アナタ、少し待つのデス。」


とご機嫌に返すミレディ


早くこのダンジョンから出て、ご飯のお供を探さなければ、


米が有ったのだ、味噌や醤油もあるいは…


大豆さえ有れば作れるのか?


ダンジョンショップに売ってないかな、大豆…


ライスこそ正義、

米こそパワーなのだから。


地球で最後の食事が朝食のパンだったし、

こちらでは芋かパン主体で、ごく希に麦粥程度、

米恋しさに麦を炊いた事もあるが、やっぱり米とは違うのである。


そんな中での米との再会

嬉しくない筈がない。


ご飯が待ち遠しい。


「米を食って明日も頑張るぞ!」



と、気合い十分で来た中層域は、

なかなか、頭悪そうなダンジョンでした。


キッド君が最短距離を調べようとして、ガッカリしていたので、


「どうしたの?」


と聞くと、「一本道です」とだけ答えた。


「一本道?」と俺が聞き返すが、


「はい。」と答える…


アホだ…多分ダンジョンマスターは脳ミソまでプロテインが染み込んだタイプの人物だ…


禁止階層のアイデアのみで、罠も無ければ、隠し通路も何も無い、

ただ階層の中間と最後に少し大きな敵の反応が有るだけの「初期のファミコン」みたいな配置の階層が続いた。


確かにレベルのわりに強い敵が居るが、モブを倒して中ボス、モブを倒してステージボスの繰り返しで40層に来た。


〈単調だ…〉


しかし、キバさんが、「一騎打ち、一騎打ちぃ!」と興奮している。


〈まぁ、大ボス戦はキバさんが予約してたし、頑張ってもらおう。〉


と、ボス部屋に入ると、オーク達が並んでいた…裸で…


「アルド様、防具禁止エリアの様です。」


と報告してくれたが、


〈いやいや防具禁止でも服は大丈夫だろ?

鎧は駄目でも、最悪パンツはいけるだろ?〉


と、スッポンポンのオーク達にツッコむが、


総勢10のハイオークと1のオークキングが、むしろ堂々と整列していた…


ある意味、ビシッとせずにダラダラ、ブラブラはしていたが…。


そのイチモツイレブンに向かい、


「一騎打ち、一騎打ちぃ!」と、ルンルンで駆け出すキバさん。


キバさんの〈一騎打ち〉の定義とは…?


と、心配になる俺だったが、


すでに、1匹のメタリックパトラッシュとイチモツイレブンの戦いが始まっていた。


チャプンと影に潜り、敵の背後から飛び出して噛みつくとオークの丸出しの氷像が出来上がる。


飛び出しては首筋をカプッとして影にチャプンと沈み込み、


また現れて足首をカプッ、


隣のオークのアソコをカプッ!


〈キバさん、そんなの噛んじゃいけません!〉


などとやっている間に氷像が11体出来上がる。


「氷の牙」の威力は凄い。


キバさんは氷像から少し離れてから、


「ワン!」と音魔法の「ボイスミサイル」を飛ばすと、


「ピシッ」と氷像にヒビが入り崩れ落ちながら パッシュん した。


後には、ボール大の魔石が11個と、オークキングのボールが2つ…


鑑定すると、


「オークキングの睾丸」


「最高の精力剤」「最強の興奮剤」

男女問わずに効果を発揮…


を、キバさんが誇らしげに咥えてくる。


「よくやったねキバさん。でもこれはバッチイからポイしようね。」


とキバさんからタマタマを受け取り、「ポイっ」と捨てて撫で撫でしてあげた。


ミレディさんがタマタマを偶々アイテムボックスにしまったのを見てしまったが、何も言わないでおこう…などと思っていると、


「上手いデス!」


盗聴娘が変な合いの手を入れてきたので、


「聞いてたなら解るでしょ。


バッチイから捨てときなさい。」


と注意したら。


「駄目デス、今晩マスターのおかずにするデス。


そうしたら今夜は、私がマスターの夜のオカズになって食べられる…のデス…グフフフっ」


と、恐ろしい構想を話す…


〈おいこら、エロ盗聴ゴーレム娘、これ以上キャラを増やすな〉


と、呆れた俺は、


「ご飯に一服盛るヤツは当面アイテムボックスにしまっちゃうよ。」


と怒ってみたら。


「ワタシが料理するタマタマはマスターのデス!」


と不穏な発言をしながらタマタマを遠くへ投げるミレディさん…


心の中に〈砲丸投げ、ならぬ、睾丸…〉

と浮かんだが言わないでおいた…


〈オヤジっぽいからね。〉


ミレディさんが、


「ちゃんと捨ててきたのデス、

代りに撫で撫でして欲しいのデス」


と、交換条件を提示してきた。


〈って、なんでだよ。〉


と、思っていると、


「良い子は誉めるべきデス

大事なアイテムを捨てたのデスよ?


交換条件…睾丸条件なのデス!」


と…


〈上手くねぇよ!


ミレディが捨てたのは大事なアイテムでは無くて、誰かさんの大事な部分だからね…〉


と、呆れかえるが、


「次のボスまで頑張ったらね」


と俺が言ったら、


「任せて欲しいのデス!


頑張るので今夜こそ添い寝を希望しマス!」


と、どさくさに何をぶっこんで来るたコイツは…


ハードルあがっとるがな!!


と、頭痛がしてきそうになるが、


「 次のボス戦を頑張ったら〈検討〉します。」


と、告げると、ミレディさんは、「やった~!」叫んで、足早に下の階層に向かって行った…



41階層も一本道のエリア、武器禁止エリアからのスタートだったが…


もう、ミレディ無双でした。


魔法も使えるし

武器も得意


うちのミレディさんはオールラウンダーなのを改めて確認した。


あと、


「フフフフッ!

さぁ、消えるデス。消えるデス!

今夜こそマスターと、添い寝でドキドキさせてそれから…グヘヘヘヘッ」


と、呟きながら敵を屠るミレディさんが怖い…


パパさん、ママさん、俺は一服盛られ無くても、今夜ダンジョンの階段を下る前に大人に階段を登るかもしれません…



今さら〈検討〉だけしました…


では許されない空気です…


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