第88話 プラウドダンジョンのヌシ

朝です。

皆様おはようございます。

目覚めの一杯が心に染みるアルドです。



いゃあ、寝不足ですよ寝不足!

参ったなぁ~、



ケッ!


…二度と添い寝なんかするものか!


元々、睡眠の要らないゴーレムと添い寝する必要性が無い!!


工房の女将さんの力作ボディースーツ「天使の下着」を装備した上で、どこで購入したのか黒のネグリジェを着たミレディさんが馬車のベッドに潜りこんできて、少し「どきっ」としたのだが…


寄り添って寝る筈の添い寝なのに、

相手は寝なくて良いので、寝ている俺に色々押し付けてみたり、俺の色々なところをサワサワしたりと、


眠っていられずに目を開けると、目の前数センチにミレディの顔がある。


「なにをなさっているので?」


と俺が聞くと、


「シルフィーの次はワタシの番かな?と思ったのデス。」


と、ミレディが言う。


「なにが?」


との質問に、


「キスデス!」


と言ってくる…


「いやいや、ミレディさんにしたこと有るでしょチュー…」


と、俺が寝ようとすると、


「頬っぺじゃないデス!


口と口との濃厚なやつデス!!


皆から聞きました。〈果ての村〉に行く前にシルフィーさんと濃厚なのしたと…」


とユッサユッサと揺すられ、馬車のサスペンションがきしむ…


もう、寝かせてくれよ…濃厚って…


と、うんざりしながら、


「もう、寝たいのですが?ミレディさん」


と俺が言うと、


「お願いしマス、一回だけ、一回だけデス。


先っちょだけでもお願いなのデス!」


と、おかしなワードが飛び出した。


〈なにの先っちょだよ。〉


と、ツッコミながらも、


「誰に教えてもらった!?」


と、問いただすと、


「ドルル工房の女将さんデス。


女将さんはドルルさんの必死なコノお願いで結婚を決めたそうデス。」


とのミレディさんのカミングアウトに、


「叔父さんの〈そうゆうの〉寝る前に聞きたくなかったよ。


生々しい…。」


なんか、どっと疲れた俺に


「どうしたデスか?…キス嫌だったデスか?」


とオロオロしだすミレディに不覚にも「可愛いじゃねぇか。」と思ってしまった。


しかし、


「可愛いだなんて、照れてしまいマス。」


とくねくねしだしたのを見て、


〈忘れてた…念話で心の中を盗聴の常習犯だった。〉


とコメカミを押さえる羽目になる…


諦めて、


「あー!もう、一回だけだぞ、寝るんだからな!」


と俺が言うと、


「良い子で寝るデス、約束しマス!」


とミレディが約束したから、そのままチュッとしたのだが、


あれ、ミレディの口はこの辺で良いんだよな、口の開閉機能とか作れないからツルンとしたマスク形状だからなぁ?


などと考えていたら思いの外時間が経っていたらしく、ミレディさんが、


「激しかったデス、ゴーレムハートがショートするかと思ったのデスよ。


ムフフフフ、」


と興奮してしまい、

やれ、腕枕をして欲しいデス

とか、ワタシの事好きデスか?

などと語りかけてくる。


〈寝るんと違ったんかい!〉


〈あと腕枕なんてしたら腕の血が止まって壊死するわ!〉


〈フルミスリルの頭部パーツだけで何キロ有ると思ってるんだ!!〉


などとやっていたら朝になりました…


眠たい…。



フラフラしながら51階層からスタートしたが、興奮状態のミレディ率いるゴーレムチームが暴れまわり、敵を薙ぎ払っていく。


一本道のダンジョンをゴーレムチームの後ろから栗拾いの様にして魔石を拾って進む…


ほぼ、魔石お掃除ロボットみたいな仕事を続け、

60階層に到着した。


よし、ここのボスは俺が倒して存在感を示そうと、アイテムボックスから斧を取り出して、さぁやるぞ!

となった瞬間に、


「どかぁーん!」


と音がして、誇らしげなキッド君がバスケットボール大の魔石を持ち上げていた。


あっ、終わったのね…


「主、次こそ我が殺ります」とシルバーさんがギラギラしている。


ファルさんが

「アルド様、シルバーの次は私の出番ですから」


とやる気に充ちている。


もう、俺は必要ないのでは?…



そして、


宣言通り、70階層の防具禁止エリアのボス戦はシルバーさんが空からの魔法攻撃でこん棒を振り回すトロールを相手に、再生力が追い付かない火力で削り、華麗にパッシュん させ、


続く80階層は魔法禁止エリアのボス戦はファルドランさんが出撃、

六本木腕に 剣・槍・盾・斧・金槌・ナイフ を持った青色の巨人とメカ黒龍の怪獣大戦争でした。

青色の巨人は「物理耐性 大」の能力で、魔法が弱点なのに、魔法禁止エリアってなんといやらしい設定なのか…。


まぁ、ファルドランさんの風の牙で腕を吹き飛ばされゼロ距離ドラゴンブレスで、盛大に パッシュん させていた。


完璧に出る幕なしの俺だが、

昨夜の疲れから80階層の転移陣部屋で

グッスリ休む事にした。



明日から頑張ります。



ー 翌日 ー


80階層下のセーフティーエリアで目が覚めて、


ミレディ特性チャーハンを頂いております。


朝からチャーハンはちょっと重のでは?

と、お思いの皆様、約十三年ぶりの米がどの様な形状でも、ドンと来い!

なのであります。


もりもりと、ランドコッコの卵たっぷりチャーハンを食べていたら、


ミレディが、


「マスター、ワタシ「記録」のスキルが欲しいデス。」


とおねだりしてきた。


?別に良いけど…


「どうしたの?」


と俺が聞けば、


「お米料理のレシピを沢山覚えたのデスが、沢山過ぎて忘れないか不安デス。」


と言うではないか、


それはいけないと、鍛治セットをだして、ミスリル金とルビーのシンプルな指輪を作って、ミレディの右手の小指にはめて魔力を流して硬化させてから「記録」を付与した。


〈よし、これで米料理は安泰だ。〉


俺はアイテムボックスから「記録」のスキルカードを出して、再度取得をしていると、


「これで、いつでも鮮明にあの日の夜が思い出せるのデス…」


とミレディが言っていたが、米料理や米に合うオカズのレシピを頑張っているからご褒美として、あえてスルーしておいた。



さて、下層域も、相変わらずの一本道ダンジョン…

何とかの一つ覚え的なヤーツだ。


ゴーレムチームが千切っては投げしてくれて、楽々進んで行く。


今回こそはボス戦で目立ってやる!


と意気込んで、やってきました90階層なのですが…


そうですよね、

そろそろですよね。


90階層のボスエリアに、フンドシ 一丁のムキムキオヤジが立っていた。


そして、


「よくぞ参られた!


さぁ身体と身体で語らおうぞ!!」


と、暑苦しいオッサンを鑑定したら、


『魔族 グレイス レベル130』

〈サブダンジョンマスター〉

「体術 レベルMAX」

「身体強化」

「頑強」

「不老不死」


〈サブマスターですね…やっぱり〉


と、思っている俺に、


オッサンは続けて、


「さぁ、挑戦者よ、

正装に着替え我とサシで語らおう!」


と…


〈正装?〉


と、俺が首を傾げて考えていると、


オッサンが壁を指差す。


そこには色々なサイズの「ふんどし」が並んでいた。


〈マジか!?〉と、助けを求めて仲間を見るが、ゴーレムチームは、


「はい、頑張って」


みたいに見学ムードだ。


確かに、次こそは任せろと言ったけど…



ミレディさんがフンドシを選びながら、


「この色のサイズ違いは無いデスか?」


と聞いている。


〈どこのショップだよ!〉


とツッコミを入れたい俺だが、〈フンドシは不可避なのか…〉とガッカリしている。


オッサンはオッサンで、


「今の在庫はそこにあるだけだ。」


と、返すし、


〈どこの店員だ!〉


と、心の中で泣きながらツッコミをいれた俺だった。


ミレディがフンドシを手に取り、


「この生地の幅の短いのが好みデス。」


と言い出して、


たまらず


「知らんがな!」


と声を漏らした俺は、ミレディの指差すフンドシを見ると、


海苔サイズだった…


「こんなもん、しゃがんだだけで、俺の助六寿司がこぼれ落ちるわ!!」


と憤慨し、俺は無難なフンドシをキリリと締めた。


なぜか、ドワーフのズングリボディーとフンドシが不思議なシナジー効果でしっくりと決まっている。


グレイスさんは、


「ここは、試しの間、

魔法を使わず、

武器も、防具も身に纏わず、

攻撃スキルも使用せず、

己の技と肉体で語り合いう場所!」


と、説明するが、


〈あっ、プラウドファイトだ〉


と俺が思っていると、


グレイスさんは、


「さぁ、肉体祭りの開催だぁ~!」


と、イベントの名前を発表した。


〈嫌な名前…〉


俺は、何だか凄け嫌な気分のままフンドシ姿のオッサンの前に立つ…


そして、


ミレディさんがリングの周りで色んなアングルから俺を見ている…


何をしてるのかと思えば、


「良いデス。ナイスデスねぇ!」


と、「記録」のスキルの為に俺のフンドシ姿を焼き付けている最中だった。


〈ナニ西 監督だよ…〉


気が散るが、俺はオッサンに集中し直す。


今から、フンドシオヤジと揉み合いの格闘をしなければならないのかと、うんざりしていたが、


オッサンの「祭りじゃー!」

のかけ声で、残念ながら試合が開始された。


グレイスさんはストロングスタイルのレスラー的な戦い方だ


チョップやドロップキックの打撃に、簡単な関節技がたまに出るがグラウンドよりは立ちの投げ技などが軸の試合運びだった。


〈地味に痛いし、かなり上手い〉


しかし、俺も一方的にやられてる訳ではない


「神速」でオッサンの右足を掴み上げ、


小脇に抱えると、膝を決めながら身体をひねり投げ飛ばす。


〈ドラゴンスクリュー〉がミスティルの世界で初めて決まったであろう。


回転しながら投げられたグレイスさんは何故か恍惚の表情だ。


〈きしょい…〉


もう、畳み掛けよう。


と、決めた俺は、


立ち上がろうとするグレイスさんの立てた膝に飛び乗り側頭を蹴りあげた


何となく両手を狐にしてジャンガジャンガしてみた。


ズングリドワーフボディーにこんなマッチョオヤジを沈めるフィニッシュホールドもないので、再びの「裸締め」で仕留める。


「ま、参った!」


とグレイスさんがギリギリで降参してくれたので気絶させずに済んだ。


俺の勝利に終わったのだが…


今、キャンプファイアーの炎の前で、


よく分からない「フンドシオヤジの舞」を見せられている。


〈胸くそ悪い…〉


食い込んだフンドシの尻をプリプリンとリズミカルに振っている。


殺意しか湧いてこない…


ひとしきり踊り狂ったのち、グレイスさんは、


「この試合と舞を母神様と武神様捧げます。」


と…


〈あーぁ、捧げちゃったよ。


あんなの貰っても困るだろうに…〉


と…もう、精神がゴリゴリ削られているが、

ダンジョンを踏破せねばと、自分を奮い立たせて、


「さぁ、最下層まで一気行くぞ!」


と俺が言うと、


グレイスさんが、


「ダンジョンの踏破エリアは以上です。」


と発表された。


〈へっ?〉っと驚く俺に、


「ここより下は〈技の資料室〉になっており、更に最下層はダンジョンマスターの住まいになっております。」


と…


〈なんだよその勿体ない使い方は?〉


と思わなくもないが、ダンジョンマスターに用があるので、


俺たちはグレイスさんの案内で最下層にむかうのだが、少し待ってもらって服を着た。


「フンドシは踏破記念にどうぞ。」


と言われて、なぜかミレディさんがアイテムボックスにしまった。


資料室も一本道でナイフのモニュメントの横に石板が飾られている。

「影ぬい」「鎧通し」などナイフ技の名前と概要が刻まれている。


ずんずん進むと、拳のモニュメントの列に並ぶ石板にグレイスさんが足を止め、


「アルド殿は多彩な技を作られたのですな!


床技を数種類に投げ技まで!」


石板を読んでいるグレイスさんが、


「素晴らしい!数日前に使われた新技の「朽ち木倒し」は実に芸術的な技です。


力ではなく体重移動とスピードで相手を倒して床技に繋げる…」


何やらウンウン感心しているグレイスさんに


「この石板は?」


と聞けば、


「おぉ、まだ説明しておりませんでしたな、この石板は、ダンジョンマスターとダンジョンの機能を連動させて、ミスティルの世界で新たな技が使われたら自動的に技の名前と概要、使われた日にちと使った人物の名前が刻まれます。」


と教えてくれた。


〈ハイスペックな機能だが、何のために?〉


と聞くと、


「後継者に引き継ぐ前に死んでしまった武芸者のために相手にダメージを与えた新技は技の殿堂に蓄積され後世の武芸者に受け継ぐ為です。」


と説明を受けた。


グレイスさんはドラコンスクリューの石板を読みながら、


「これは先日使用された「朽ち木倒し」の派生技ですか?」


と、聞いてきたが、うーん?どうだろう。


「夢で教えてくれた人が違うからわからないなぁ。」


と適当にはぐらかした。

前世の事を言ったら「他の技も」と長くなりそうだからね。


するとグレイスさんが、


「古の「床神様」の逸話のようですな。


今の神々の前にミスティルに人族と妖精族しか居なかった時代に、異世界の床上手達に夢の中で床技と床技に繋がる投げ技を習った武道の神がいたらしい。」


と教えてくれたが、


〈神様が交代したのか?


神様も交代するならば、主様にも退場願いたいよ…


しかし、異世界の床上手って…


字面的にアウトだろ…〉


と考えながらも、


「何故そのような昔話をご存知で?」


と、俺が聞けば、


「母神様より伺いました。

私がこのダンジョンの担当になってすぐの頃に、昔話として母神様から聞いたお話で、そのむかし母神様を巡り異世界の神々が母神様の作ったミスティルの大地で覇権を争ったらしいのです。」


と話しだした。


〈なんだよ、主神の野郎婿養子かよ、

俺のミスティルみたいな事ぬかしてたが、お前の嫁さんのミスティルじゃねーかよ。〉


と、益々、主神の器の小ささと、見栄っ張りな性格を痛感しながら話しを聞く、


「力と技で人を導こうとした神と、法と秩序で人を纏めようとした神の静かな戦いは、千年の歳月を使い、半数以上が現在の主神の統治する国に所属し決着をみたのだが、その混迷期に母神さまのお父上、〈時間の神さま〉が使わした臨時の神様のお一人が〈床神 グレイシー 様〉だったそうです。


この技の殿堂はグレイシー様が帰られたのちに出来たので、母神さまが話されていた千変万化の床技の流派「ジュージィツ」が残されて居ないのが残念です。」


と語ってくれた。


〈柔術でグレイシー…。

絶対あの一族の関係者だ〉


と確信するが、確かめる方法はない…


ガッカリしているグレイスさんに、


「俺の仕事が終わって時間が出来たら教えてあげるよ〈ジュージィツ〉ではなくて、〈 ジュウドー〉だけどね。」


と俺が言うと、


「本当ですか!?

有難い、やはりアルド殿は伝説の「床上手」でしたか。」


と喜んでいた。


〈いや、だいぶ序盤から思ってたけど、床上手とか、床技とか、聞えが悪いからやめません?〉



そんなことを話しながら最下層に到着した。



次はどんなフンドシオヤジがでてくるのやら…

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