第86話 古の語らいで欲するモノ

格闘技なお好きですか?

皆様こんにちは、

アルドです。


街の闘技場に連れてこられーの、


あれよ、あれよという間に

ほぼ全自動で、

ガッツリ、爬虫類フェイスのメイドさんに戦いの準備をさせられーの、


会場に放りだされーの、


で…今、短パン一丁の胸板の厚い、人で云うと、体毛が濃いめの場所が光沢が有る鱗がびっしりの、爬虫類のおっさん (王様)が、目の前に立っています。


そして、

リングアナウンサーが試合のルールを説明している。


打撃、関節、絞め技ありで

体術スキル以外の攻撃スキル攻撃 なし

魔法攻撃 なし


の、ガチ勝負、


「参った」するか 「気絶」するまで何時間でも続くデスマッチ


…面倒くさ…



「チャンピョン!拳王ぅぅぅダイトぉぉぉ国王ぅっ!!」


と、コールがかかると、


「ワァー」と会場が沸き立つ…


「挑戦者!中央国 少年伯爵ぅ、アァァァルゥゥゥドォォォ!!」


とコールされると、


会場は、ブーイングや「お前に賭けたから負けるな」等と勝手な事を言っている。


レフェリーが石畳の闘技場に入ってきて、


「それでは、プラウド ファイト!


レディーー」


と大声で叫ぶと、会場から、


「ゴオゥゥゥゥ!!」


と声があがった。


〈おいおい、まさか王様はシャイニングなフィンガーは使わないよね?〈〉


などと考えていたら、普通にパンチを繰り出すボクサースタイルだった。


〈確かに、「拳王」と呼ばれていたな…

暗殺拳の長男タイプでなくて良かったよ。〉


安堵したが、


だが、一発一発がクソ重たそうだ…


身長差から相手が殴りにくいのが今のところ有利ではある。しかし、一発で終わる可能性もあるパンチが飛んでくる。


俺は、使用可能な「神速」スキルで軽快に避けているのだが、拳王が少しづつ馴れてきたのか拳が俺にかする様になる。


〈まずいな…〉


と、考えながらも、


観客達は、避けてばかりの俺への野次と、カスリヒットがでる様になった王様への歓声とで揺れていた。


ここまでで判ったのは、王様は綺麗なボクシングスタイルで、


キックは出して無いしグラウンド攻撃を狙う素振りもない、


生粋のボクサーのようだ…


ならば、「アリキック」とも考えたが、前世も今世もズングリボディーの俺では、


〈ボンバイエ〉できる筈もない…


身長差が有るから立ったままではリーチの不利がつきまとう。


ならば、俺はこれでも柔道有段者!


疲れたデブは寝技を軸に戦うのだ!!


(あくまでも一個人の意見です。)


今は禁止されてるとかテレビで言ってたけど、ここは異世界だ!


知ったことではない。


本当なら受け身の取れない方には使わないが、


それも異世界だからそれでオッケイ!と、


俺は低い姿勢から「神速」を使って潜り込み、王様の片足を取り、「朽ち木倒し」をお見舞いしてやる。


この世界にグラウンド攻撃が無いのか?

ただ、転ばされた事がないのか?


王様はポカンとしていた。


観客も一瞬静かになる、



〈あっ、イケるかも…俺〉


と、変な手応えを感じながら、転けて唖然としている王様に、


デブの持ち味とも云うべき、流れるような寝技をからの関節技をプレゼントした。


王様がハッと我に返り立ち上がろうともがくが、


〈もう遅い!〉


殴られない様に上半身を押さえ込み、王様の利き腕をキメてやった。


王様はこんな子供に乗っかられただけで起き上がれないことに驚いているご様子。


〈クックック、コツが有るのよ。〉


だが、王様、本題はここからだよ。

俺の「腕がらみ」が完璧にキマッてますよ。


と、悪い笑顔の俺は、


キリキリと締め上げてやると、王様が〈これはヤバいのでは?〉と、己の異変に気がつく。


俺は内心、


〈良かったぁ、リザードマンさんも腕の可動域一緒で…〉


と安心していた。


グニャリと回転とかされたら積んでしまう作戦だったからね…


王様は動けないし、無理に動くと痛む腕の関節に四苦八苦している。


ここで俺は確信した。


このミスティルの世界、寝技の類いは全く進んでない。


数種類程度の寝技しかない相手に、押さえ込みに関節技や絞め技、それらの返し方まで俺には染み込んでいる。


〈寝ている限り負ける気がしない。〉


体感では、もう「参った」してもおかしくないほどにキメている右腕…


王様のプライドなのか、まったく「参った」しない…


折れてない?…こんだけしたら…


と、心配になるが、降参しないのならば仕方ない…


俺は、一旦王様を離してみると、王様は右腕を庇いうつ伏せになり痛みに耐えている。


〈やっぱり折れてるじゃん。


降参すれば良かったのに…〉


と、対戦相手の精神力に少し呆れながらも、


〈待ってました〉とばかりに後にまわり、


絞め技の中でも一番苦しく、一番危険な、


〈チョークスリーパー〉を王様にかける。


ずんぐりドワーフボディーでもギリギリ首ならば手が回る…


上着着てないから仕方ない、名前からしてあまり好きではない、

正式名称「裸締め」で王様を締め上げる。


〈パンイチ同士のキツイ締め付けの我慢比べ…〉


字面からしてキツイ…


しかし、


あまりの苦しさに暴れていた王様だが、

十秒程度で静かになった。


腕を庇い、うつ伏せで…

〈マケぼのスタイル〉でピクリともしない王様と、静まり返った会場、


俺が、

「早く治療しないと知らないよ!」


とレフェリーに伝えると、


レフェリーはハッして、


「勝者アルドぉぉ!


あと、治癒師を早く!」


と叫んでいるが、なかなか治癒師が来ない


青ざめるレフェリーに同情して、


仕方がないから俺が、王様を床に座らせて背中に膝を当て脇から手をいれて、王様の胸をグッと反らすと、


白目でヨダレを垂らしていた王様が復活する。


そこで、初めて歓声が巻き起こった。


やっと到着した治癒師が来て王様を診察するが、


「右腕が折れております」


と診断する。


仕方がないからアイテムボックスからフルポーションを出して王様の口に突っ込んだ。


ゴクリと喉がなり回復していく王様…


そして、完全回復した王様が、民衆に…


「皆のもの、我は〈古の語らい〉により、この者に負けた。


先に皆に礼を言っておく。


我の為に今まですまなかった。魔族との攻防戦ばかりの駄目な王であった。


勝者が何を望むかは解らぬが、

どの様な結末で有ろうと我は、満足であると!!」


との、王様のスピーチに


「うおぉぉぉおぉぉぉぉ!!」


と会場から雄叫びの様な歓声が鳴り響き、涙を流す者も見られた。


〈何事ですか?〉


と、会場を眺めている俺…


すると、王様は、


「勝者アルド殿、さぁ、選んでくれ」


と…


「なにを?」


と首を傾げる俺に、


「我に代わりこの国の王となるか?」


と聞く、


〈いらねぇー!!

なに、これ縄張りのボス争いなの?〉


「て、丁重にお断りします。」


と、俺が言うと、またしても会場が静かになりザワザワしだす。


「なぜだ、王に勝った者が王であろう?」


と不思議顔の王様…


〈いやいや、なん世代前のヤンキーの理屈だよ!〉


と心の中でツッコむが、


俺は、


「リザードマンの王 ダイト様、

私は、武神 ラウド様より魔族の進行を食い止めているリザードマン達の力になってくれと頼まれて参りました、」


と俺が言うと、


「魔王軍はパタリと来なくなったから助けて貰うことは…特に…」


と、呟く王様に、


俺は、なぜ魔族が侵攻してきたかも含めて、


神々のいざこざで息子が武力で主神の座を狙っている事、


主神のせいで奥さんが封印状態な事、


復活に祈りが必要なことを話した。


すると、王様は、


「なんだと!」


と怒っている様子…


そして、王様は民衆に、


「誇り高きリザードマン達よ、今の話を聞いたか?


我らは今まで、魔王ダザールこそ悪と思ってきた。


しかし、話しを聞けばそうではなかった!


嫁さん一人大事に出来ない奴が世界の神で良いのか?」


と王様が吠えると


「否!」


と民衆が答える。


「父親に挑み、武をふるうは悪か?」


「否!」


会場がひとつになりだす。


「我は、嫁さんを大事に出来ないやつは信用しない!!

ダザール側に付き、女神の復活に助力すると宣言する!!」


と、ダイト国王は拳を天に突き上げると、


「応!!!」


と、会場のリザードマン達の心がまとまった。


ミレディさんに念話を飛ばして、「ベルガーさんに今の状況を伝えて」と依頼すると、


「すでに報告しておりマス。」


と返してきた。


〈流石俺の女房役だ仕事が早い!〉


と誉めると、


「女房デス。」


と言っているのはスルーして…っと、〈ベルガーさん何だって?〉


と聞いたら。


「何を言ってるか解らなかったデスが、〈有難い〉〈すまない〉〈感謝します〉だけは聞き取れたデスが…ほぼ魔物のような鳴き声…泣き声だけデス。」


と、報告してくれた。


〈うーん、伝わったならいいかな。〉


と、考えている最中も、王様はまだ演説を続けている。


「王の座を欲しなかった勝者に、習わしに従い我が娘を差し出す!」


と……


〈えっ!なんですと?〉


と、驚く俺と、


「ウゥーーっ、シルフィーさんに連絡デス!」


と、嫁候補警報が鳴り響いた…




一旦、闘技場をあとにして馬車にダッシュで戻るが、既に



「そうデス! また拾ったデスよ。」


と…念話で報告していた。


〈ミレディさんついでに声に出して報告しないで…

ハートにグサグサくるから…〉


しかし、


〈今回のは、ジーク様が悪い!〉


〈文句いってやる!!〉


と、決心し、


「ミレディ…、報告中悪いんだけど、手が空いたらジーク様に苦情をいれたいんですが…」


とお願いしたら。


こちらをチラッと確認し、


「はい、伝えておきマス。」


と話したあとで、こちに向き直り、


「シルフィー様からの伝言デス。


〈王都の劇が楽しみです…皆で見に行きましょうね〉


とのことデス。」


と…


〈嫌だナニ?…どうなるの?


こぉーわぁーいぃーよぅー!


俺、悪くないよ、全部ジークのおっさんが悪いんだぁ!!〉


「ミレディ、あのおっさんに連絡だ!!」


と、指示を出す。


ミレディは、「仕方ないデス」と念話をとばすと、


「やぁ、アルド君早かったね。


王様になったの?」


と…


〈!! 確信犯だ !!〉


俺は、更に〈カチン〉ときて、


「おうおう、ジークのおっちゃんよぉ。


よくもハメてくれたな!


ムキムキのリザードマンの王様と裸のぶつかり合いのあとで、王様になるか?

と聞かれて遠慮したら、娘を渡されるらしいよ!!


おかげでシルフィーちゃんが微妙な反応ですよ?


どうしてくれるの?

おう、ジーク 様よぅぉぉぉ!?」


との文句を言ってやったが、


爆笑しながらジーク様は、


「よいではないか…ほれ、もうすぐ種族がコンプリートするぞぉ、


モテモテじゃなアルド君…ウヒャヒャヒャ。」


と上機嫌だ…


〈クソが〉


と、不快に思った俺が、


「古の習わしに従い王との語らいに行きましょうか?」


と言うと、


「そう怒るな、リザードマン達の協力は取り付けれたんだろう?」


と聞くジーク様に


「えぇ、リザードマン達は主神に愛想をつかせて、ダザール君側に賛同しました。


あーあ、これでダザール君が強行手段に出たら、中央国に魔王軍とリザードマンの連合軍が行くかもねぇ~?」


と言ってやると、


ジーク様は急に真面目になり、


「誠に申し訳ありませんでした。」


と言い出した。


「もぅ…。良いですよ。」


と、呆れながら許してあげたのだが、


ジーク様は、


「いや、こうなったら仕方ない…ウチの娘はもう嫁いだので姪か孫のどちらか…いや、どちらも嫁に」


と…


〈アホか…これ以上ややこしくしないで!〉


「結構です。」


と断る俺に


「えー、姪っ子はアルド君のファンなのに酷い。」


と、懲りてない様子、


「よし、魔王軍を待たずに俺らがコーバの領主邸に攻め込もう!」


と伝えると、


「うそ、うそ


冗談だから許してアルド君」


と慌てるジーク様…


〈ホントかよ…〉


と、思うが、


「とりあえず、ジーク様…シルフィーさん達にジーク様から機嫌が直りそうな物を送ってください!


俺、これからダンジョンなんで、フォローお願いしますよ。」


と、依頼しておいた。


ジーク様は「了解した」と笑いながら念話を終了した。


〈はぁ~…しんどい…〉


方々に連絡を済ませて、本日はダイト国王からディナーのお誘いが来ている。


こちらの料理は温泉の熱を利用した蒸し料理が名物らしいから少し期待している。


〈楽しみだな、温泉玉子あるかな?〉


などとウキウキしながら迎えた夜、城の迎賓館で立食パーティーが開かれた。


俺は、ミレディさんを連れて参加している。


パーティー序盤からダイト国王はノリノリだが、椅子に座って顔を伏せている大きなターバンの様な物を被ったお嬢さんに侍女さん達が代わる代わる、


「大丈夫だから」だとか「しっかりお話してみたら案外上手く行ったりするから」と慰めている。


〈お嬢さんですか?試合の景品にされちゃったの?

可哀想に…嫌ならいいんですよぉ。


うん、止めとこうね。

そうしよう。〉


と結論にたどり着いた俺は、


「あの~、娘さんが泣いてますよ。」


とダイト国王に聞いてみると、


「あやつめ、嬉しい泣きをしておるわい。」


と笑っている…


〈って、そんな訳あるかぁ~い!

滅茶苦茶嫌がって泣いてますやん…


侍女さんがローテーションで慰めてますや~ん!〉


と心の中で盛大にツッコミをいれ、


「ミレディさん、ダイト国王を念話先に登録してから、ついでにジーク様に連絡をして、」


とお願いしする。


ジーク様に念話が繋がると、


「どうしたんだい?」


と聞こえてきた声に、ダイト国王が、


「ジーク殿か?久しいの、倅は元気か?」


と話しはじめた…


〈あら、嫌だダイト様、いきなり下ネタですか?

と俺が考えていたら、〉


ジーク様は、


「騎士団長になってワシの街を守っておるぞ。」


と…


〈…え!、トカゲをボコる修行から見なくなった、あの騎士団長は、王子さまだったんだ…


へー。〉


と、驚く新事実が発覚した。


二人の会話は続き、


「ところでどうだったアルド君は?」


と聞くジーク様にダイト国王が、


「物語の主人公が、いかなる者かと思っておったが、もう、なす術なく、それは見事な、


〈床技(ゆかわざ)〉で眠らされた。」


と、愉快そうに話している…


〈ゆかわざ〉って云うのね「寝技」は…、


いや…物語の主人公って?…まさか…


と、気づくのと同時に、ダイト様は、


「まさかあの劇の主人公〈アノル伯爵〉が我に挑んで来るとはな。


ジーク殿に文を貰ってなかったらビックリしてチビるところだぞ、ガハッハッハ。」


と、ご機嫌に話して、ジーク様は、


「して、あの劇の主人公に憧れを抱いていた真ん中の娘さんはどうした?」


と、聞いてくるです


〈それならさっきから泣いていますよ。〉


と俺が思っていると、


ダイト様が困りながら、


「照れて顔すら見せんのだ。」


との発言に、流石に俺も、


「いやいや、ダイト様。

あちらで滅茶苦茶泣いてますから、

勝手に嫁ぎ先決めちゃうから。」


とダイト様に抗議した


すると、


「そんな筈はない、

あの、劇を見て以来、

そなたの様な男の〈子供〉が生みたいと、

いつも言っておったのだが?」


と考え込むダイト様だが、


〈何の劇をご覧になったのよ?〉


更に不安になる俺は、


「ジーク様、何とか言ってあげて、」


と、ジーク様に助けを求めたが、


ジーク様は、


「アルド君、泣いていると言う娘さんの話を聞いてやって欲しい、


君なら理解してあげれるし、

たぶん、世界中で君にしか解決出来ない問題だから、

ヨロシクぅ!」


と、念話が切れた。


〈に、逃げやがった…。〉


俺の反応など、ダイト様は構わずに、


「ノエルや、こっちにいらっしゃい。」


と、娘さんを呼ぶ、


侍女さん達に「頑張って」とか「大丈夫」と声をかけられ、


初めて顔を上げた娘さんは、

エキゾチックな顔立ちのエルフ耳の持ち主だった


ただ、泣きすぎて目が腫れて、メイクが溶けて、崩れて、大変な事になってはいますが…。


俺は思わず侍女さんを呼び

「ハイポーション」を渡して、


「目が痛そうですので、これを」


と言った。


侍女さんは、娘さんの泣いた後の顔を見るなり、ギョッとして


「暫しお時間を!」


と、娘さんをドナドナしていく…


ダイト様が、


「女は支度が大変だな…。


のう、アルド殿。


待つ間に料理でも食べようではないか!」


と握り飯を渡してきた。



………?……!握り飯!!!



「米有るの?ねえ、米あるの!?」


とダイト様に詰め寄る俺に、急に興奮しだした俺に引くダイト様…



〈嫁よりも米をください!!〉

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る