第84話 話し合いと約束

さて、戦争で勝った方と負けた方で、

お話して、やれ賠償だの何だのと、

本当、最初から話し合いで決められないかね?

と思うアルドです。


今、魔王軍の本陣テントで魔族の貴族に囲まれ会議をしています。


「ですから、一旦接収された装備とスキルの返還に対して、オリハルコンインゴットを5トンを賠償として支払うということで…」


と魔族の貴族の男性が言い出す。


「だぁかぁらっ、要らないって言ってるよね。」


と俺が言うと、


「いや、しかし、それではっ」


と食い下がる貴族のオッサンに、


「俺が欲しいのは、停戦と、大地の女神様の復活についての協力だけ、」


と断る俺…


あれ、こうゆうのって「もっとヨコセ!」、「いやこれ以上は!」みたいやヤツじゃないの?


逆だよね?


しかし、魔族の方々は、


「いや、それでは、勝手に戦を挑み、負けた我々の誠意が示せません。


このままでは、本日の約束を破ったとしても我々に不利な物が何も有りません。」


と、ベルガーさんまで言い出す。


「えーっ、約束破るのぉ?」


と、俺が拗ねてみると、


「万が一にも御座いません!

本国がどのように動くかは解りませんが、必ずや停戦になりますように全力を注ぎます!」


と、やり手そうな貴族の紳士が宣言する。


「が、しかし、口約束では我々の本気と言いましょうか、なんと言いましょうか、


使徒様…、いえ、アルド様の故郷に攻め込み、ご家族や村の方を他の町へと移動させたのは事実です。


この上罰も与えられず信用して頂けるのは嬉しいのですが、

それでは、我々としましても…」


何となく言いたいことはわかるけど、約束さえ守ってくれればいいのに…。


「そうだ!」


ベルガーさんが何かを閃いたらしい、


「皆の者聞いてくれ、約束が守られて停戦となり人族と話し合いの場が持てる迄姫を…エルザ様をアルド殿に預けるというのはどうだろうか?」


と、爆弾発言をするベルガーさん…


〈ベルガーさん何言い出すの?

ほら、貴族さん達止めてあげてよ。〉


と焦る俺だが、


「おぉ、それならば本国も魔王様にも停戦を持ち掛けやすい、しかも、母神様の復活の為の戦だったから、それを成して頂けるのなら戦の必要がなくなる。」


と、貴族さん達も賛成しだす。


〈なんでよ!〉


「ただ、我々の今までの行いを人族の方々に許されるかが問題になる、


だが、姫がアルド様の傍らにいて人族との間に交流が持てれば、緩やかにでも関係を改善出来るのでは、との下心がないと言えば嘘になりますが…」


と…


それを聞き、エルザさんが立ち上がり、


「皆様、私エルザ・ダザール・ボリスは、アルド様について行きます。

魔族と人族が仲良く出来るまで…

いえ、人族と魔族の架け橋としてアルド様に付き従います。」


と、拳を握り強く宣言する…


〈何言い出すのエルザさん〉


俺の横では念話を使い、


〈ウゥーー!ウゥーー!全、アルドファミリーに連絡デス!


押し掛け嫁候補警報デスっ!〉


と…〈ミレディも警報鳴らすのやめて…〉


あと…貴族たちも拍手しない…


そして、


「では、姫がアルド様の元に行くことで決定なのだが…」


と…決定なのベルガーさん?


「一つ気がかりなのは、アルド様の町で魔族の姫が迫害されないかが心配なのです。

ただ、その一点のみが気がかりで…」


と、ベルガーさんが暗い顔で話しているが、


「あの~、俺の故郷は魔族も人族も一緒に暮らしてますよ、俺が生まれる前から…」


と、俺が安心させようと答えると、


「おぉ、アルド様の里は我等が夢に描いた〈夢幻の里〉でしたか!


我々は、何と罪深い事を、楽園を攻め滅ぼそうとしていたとは…。」


とうなだれるベルガーさんだが、


〈はい、ベルガー先生質問です。〉


と、心の中の小学生の俺が素朴な疑問を持つ。


「ベルガーさん、〈夢幻の里〉とは?」


と質問したら、


「アルドさま、我々魔族は母神様から生まれた種族、主神の子供達と親の事を抜きにするか、母神様と主神が和解しなければ同じ里には住むことなど、ユメ・マボロシのようなもの…


しかし、我々は、本心からソレを望み願っているのです。


ダザール様を主神様に押し上げれば叶うかと戦を仕掛けて、種族の間に溝を作ってしまっても、いずれは…と」


貴族さん達も葛藤しながら戦争してたんだね。


俺は気の毒になり、


「そんなもの、ごめんなさいしたらいい!

許せるヤツと許して欲しいヤツと仲良くしてみる所からスタートするしかない。


許して欲しくないヤツと許せないヤツの間に入って、

飽きるまで話し合えばいいし…


そうなれば良いと俺は思うよ。」


と、今までの事を悔やむ貴族さんに励ましのつもりで声をかけたのだが、


「では、アルド様は、エルザ様と仲良くして頂けると?」


とベルガーさんが聞く、


ケンカする理由がないから、


「うん、出来れば仲良くしたいかな?」


といったら、


〈あぁ~あ、言ってしまったのデス〉


と、ミレディが念話で呆れていたが…


〈なんで?〉


ベルガーさんが、


「ここにいる皆よ。

今の言葉を聞いたであろう、

姫はアルド様の元に行き我々に夢幻の里に向かう道しるべと成られる!


皆の者も、エルザ様の為に本国の議会やダザール様をお止めして、話し合いが出来るのように頑張ろうではないか!!」


と激を飛ばし、


「応!」と盛り上がる魔族たちに、


真っ赤になり俯くエルザさん


…?


何が起こってるの?…




まぁ、良く解らない盛り上がりで幕を下ろした会議の後、魔王軍の皆さんは北東に向かい帰って行った…。


姫を残して…


ミレディさん、こんな時だけ俺だけ念話オフして女性陣会議するのやめてくれません?


バトラーもなぜエルザさんに「奥様もどうぞ」とお茶注いでるの?


少し元気のなくなった俺は、カーンさんとキャスターさんを連れて 果ての村 の城ゴーレムチーム分スカスカになった外壁をアースウォールで埋めていく


入り口の扉はドドルじぃちゃんの工房で、魔鉱鉄の扉を作りアースウォールの真ん中に穴を空けて設置した。


盗賊のアジトにされるのも嫌だからね…


じいちゃんの工房の釜などをアイテムボックスにしまってみたら案外入った。


ウチの庭の薬草も箱に植え替えカーンさんのベランダに移動させ、山に逃がしたランドコッコを連れ戻しに出掛けた。


山に入り餌をまき少し待つとランドコッコが集まる、


キバさんとテディちゃんが眠らせてグリフくんが集めてくれた。


魔鉱鉄の檻をだいぶ作った筈だが…


逃がした数より増えてない?


色違いもふくめて40匹ほど檻に入れてカーンさんに詰め込み準備完了


城ゴーレムさんに乗り、メダリアの町を目指す。


朝も夜も無く、ズシーン、ズシーンと進むゴーレムに乗り1日半でブライトネル辺境伯領の領都 アサダに寄りトネルお兄様に今回の経緯を説明して、果ての村が空になったので、たまに様子を見に行って欲しいと、入り口の鍵を渡して、


「何かあったら念話で呼んで下さい。」


と、俺の念話の連絡先に登録してから

メダリアを目指して行進を開始した。


トネルお兄さまから、


「馬車馬が怖がるから街道を避けてくれよ、アルド君!」


と言われたので、道の無い平原をピピンちゃんの誘導でズシーン、ズシーンしている。


ミレディの念話でジーク様に報告を入れたら爆笑された。


「コーバの屋敷のメイド達をメダリアに向かわせるからデカい屋敷でも建て暮らしてはどうだ?


嫁候補が増えたらしいからな。


神獣様の次は魔族の姫か、王都の演劇場の新しい演目が楽しみだなワッハッハ。」


と言われた…


もう、コーバは勿論、王都にも近づきたくないな…住民の良いオモチャにされる未来しか見えない…


凹む俺をよそに荒野をズシーン、ズシーンと巨人の行進が続いた。




アサダの町を出て、ズシーン、ズシーンと5体の城ゴーレム達の行進は昼夜を問わず、


新たな交易路を踏み固めながら1ヶ月半をかけてメダリアまで帰って来ました。


そこは、驚くほど街が発展しており、シルフィー商会の建物は勿論、冒険者ギルドの建物やギルド経営の宿屋にドワーフの営む鍛治屋、


それにダンジョンへ続く大通りには屋台が並び、居住区にはすでに幾つもの屋根が並んでいた。


しかし、


メダリアに果ての村の皆が居ません…


驚く俺に、


「領都は砦の側になったデス。」


と、ミレディが言った。


「村の皆はそっちに居るの?」


と俺が聞くと、


「果ての村 の方々はダーリンの家族デス。

領主の家族は領都に住むべきデス。」


と説明された。


俺の領地だからと、ズシーンズシーンと街道を通って、初て、通称・〈アルド伯爵の砦〉に到着した。


北には険しい山々が自然の防壁となり南には大きな湖がある。

その南北を一直線に幅約2キロメートルの壁が建っているだけの寂れた関所だった場所らしい。


この領地の旧領都はもっと南に有り、今は隣の貴族の領地となっている。


つまり俺の領地は寂れ散らかしたメインダンジョン周りと、関所の壁の内側の平原だけ。


ここに果ての村の皆が住める街を作るのだが…


おかしい、テント村のテントの量があの時の魔族軍さんの倍はある。


百人くらいだよね?果ての村全員で…


〈フリューゲルさま説明をプリーズ!〉


と、心の中で叫ぶが、


まずは、砦の駐屯騎士団に挨拶をしてから、シルフィーちゃん達に挨拶に向かった。


女性陣チームは、俺ではなくエルザさんの到着を待ちわびていた模様で、エルザさんを連れてテントへ消えた。


俺はうっすら涙を浮かべながらフリューゲル様を探して状況を教えて貰う…


フリューゲル様が言うのには、


アサダの町まで移動して、旧帝国側の領地の近く、つまりメダリアの街に移動する準備をしていたら、

アサダの街に住んでいた旧帝国避難組の一部が合流し百数十人になり、


その後も〈旧帝国出身者〉が、途中の町や村で、息子に農地を譲って合流したり、店を任せて合流したりして、

遅れて移住キャラバンを追いかけて馬車隊を編成し合流したりで現地に着いたら500人近くになっていた。


とのことであった。


シルフィー商会の土木チームの親方が百程度の区画は用意してくれていたが、間に合わずにかれこれ二週間くらいテント生活をしているらしい。


俺は親方に作業の予定図を見せてもらい、〈何かしらのあつまり〉に出席中のミレディ以外のゴーレム総出で親方達と街をつくる。


カーンさん達が、ズシーンズシーンと地面を踏みしめ整地したのち、大通りや居住区などの区画割をしてナニカさんがミスリルの落とし格子門を地面に突き立て水路を荒堀すると、親方達が手際よく石材で仕上げていく。


城ゴーレム達の特大アースウォールで周りを囲み城塞都市のように守りを強化して、

南の湖が見渡せる場所はキャスターさんの持ち場として普段は監視塔として待機してもらい


西の森にはバリスさんが森からの大型魔物を警戒し、


北側の街道沿いにゲートさんが門番として待機をしてくれている。


ゲートさんに移動して貰えば壁の内側で、町役場として待機しているカーンさんやウチの実家防壁のナニカさんも出撃できる。


大壁の中に農業区画もつくり、ジェイムズさんとマリーさんのブルーベリー農園とふたりの家を建てる予定地を作り、


その隣にランドコッコ農場を作る。


ターニャパパに


「山に返したの数匹なのに、なんで40匹もいるの?」


と驚かれたが、


ターニャママから、


「何度探しに行っても捕まらなかったレア品種のランド・ウ・コッコのペアが2つも入ってる!」


と喜んでくれた。


実家も日当たりの良い農業区画の並びにナニカさんが待機してくれて薬草農園として機能する予定だ。


バリスさんの近くに猟師地区

キャスターさんの近くには漁師地区

を設けて食糧の確保を頑張ってもらう


ふう、働いた働いた!

と満足してシルフィーちゃん達の待つテントに行く、


「ただいま戻りました。」


と挨拶をしたら。


シルフィちゃんがいきなり


「めっ!」


と、お怒りのご様子。


…なんで?


「なにか、至らないところが御座いましたでしょうか?」


と聞く俺に、


「なんで、シロちゃんへのプレゼントを作って無いの?!」


と…


…忘れておりました。


「ごめんなさい!」


と素直に謝る俺に、


「街なんて、シルフィー商会の人脈とアルド君の財力で出来ちゃうから、早くプレゼントを作ってあげて」


と指示を受け飛び出そうとする俺に、


「エルザちゃんのもねぇー」


と、シルフィちゃんが追加で言ってきた。


えっ?エルザさんは人質的なアレで仕方なく来たのでは…。


油が切れた機械の様に、ギギギッとエルザさんを見ると、


真っ赤な顔でモジモジしていた。


〈アカン、アカン、エルザさんは魔王の娘さんで預かりもんのお姫様だよね?〉


と焦る俺に、


「諦めるデス、マスター…魔王軍の貴族達に仲良くして傍らに置く話を済ませていマス。」


と、ミレディが念話で言ってきたが、


「えっ、それは種族全体として…」


と言い訳を念話でしていたら、


涙目のエルザさんが念話で、


「私では、駄目でしょうか?

男勝りな魔族の鬼人の女なんて、お嫌いですか?」


と…


〈お好きですぅ。〉と言いたくなる関西の血を〈グッ〉と我慢しているが、


黙っている俺に、不安を覚えて更に泣き出すエルザさん…


〈もう、泣かんとって、

ごめんて、ごめんやから…〉


とオロオロする俺へ向けて、


ユリアーナさん達まで

念話で直接心に「泣かしたぁ」とか「あーあ」などと追い討ちをかける…


俺は、


「まぁ、皆仲良しの仲間として一緒に頑張りましょう。」


とエルザさんに声をかけると、


エルザさんは涙を流したままニコッと笑顔になった…


しかし、良いムードの中で、


「プレゼント…」


とシロさんの念話が…


俺は、〈ヤバい急がねば!〉と、


「では、行ってきます!

待ってねシロちゃんにエルザさん。」


と言って焦ってテントをあとにした。



離れた場所でマイス様からの手紙で伸縮自在の指輪のレシピを読んだ。


何だよ

「伸縮」のスキルと

「自動調節」のスキルって

聞いたことないよ…


と悩むが、


そうだ…!ダンジョンショップだ!!


と、閃き、


よし、ゴーレムチーム…


と助っ人を呼ぼうとしたら、


「皆は忙しいから、アルドくん一人で行ってね。」


と、シルフィーちゃんから念話で御指示が…


〈イエスマム!〉


俺はアイテムボックスから翼膜のマントを出して装備すると、


「ちょっと出掛けてきます。」



とメダリアを目指し飛び立った。


正直、このマントでの単独飛行は怖いし、疲れるので好きでは無いが、贅沢を言ってはいられない…


急ごう!

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