第83話 一夜戦争と戦後処理

ズシーン。

ズシーン。

と、ゆっくり…そして、確実に、

砦が敵のキャンプが見える高台まで移動すると、

砦のバルコニーからゴーレム航空部隊が飛び立つ。


小型の魔物の軍団 (オーク・ワーウルフ・ボアなど) 2000 の次に、

大型の魔物 (地竜・剣龍・巨大亀など)が 200 並び、

最後尾のテント村に 魔族騎士団が 300 の配置だった。


敵陣営が寝静まる深夜に、


ミレディの火魔法「フレアバースト」とシルバーさんの風魔法「トルネード」が合わさり炎の渦が大型魔物の最後尾を襲い、夜の闇を照らす…


「敵襲!敵襲ぅぅぅ!!」


と、魔王軍がワラワラと慌てだすが、


その間もキッド君の封入の矢が雨の様に降り注ぎ着弾と共にレベルMAXの魔法や放電のスキルが小型魔物達を薙ぎ払う。



こんな状態でも魔物達が戸惑って動けないのは、集団の左右の森と正面から、この世界に未だ無いであろう「超音波」を大ボリュームで放ちながら、城ゴーレムチームの〈ナニカ〉・〈キャスター〉・〈ゲート〉の三名が魔物な群れに近づいている為である。



ワーウルフ達は頭を押さえ、錯乱状態となり周りを巻き込み暴れている。


耳の良い魔物には効果絶大のようだ。



バリスさんの「必中」「追尾」のホーミングバリスタが大型魔物を減らす為に放たれる。


地竜の眉間をも一撃で貫くバリスタの威力で、巨体が次々に沈んでいく。


だが、手足を隠し〈防御体制〉の巨大な亀の装甲が封入のバリスタでも破れない…


情報を集めながら戦っていたカーンさんが、亀にターゲットを絞った。


カーンさんの〈熱光線〉が亀の甲羅へ照射される…


亀の甲羅の一部分の色が赤く熱を持つ色に変わるが、亀は甲羅に籠り耐えているようだ。


しかし、カーンさんは次の瞬間、〈冷凍光線〉に切り替え、同じ場所を冷やす。


すると、


バキッ!っと大きな音がなり亀の甲羅が割れた。


「くおぉぉぉぉ!!」


と亀の叫びが響く…


〈鳴くんだ、ミスティルの亀…〉と感心してる俺に、


「見つけた。真ん中、緑のテントの前で魔族のお姉さんが指示をだしてるよ」


とピピンちゃんから連絡が入り、


キバさんに、


「真ん中の緑のテント前の女性魔族!」


と念話をとばす。


「了解だよぉ」


と返事が来た…


魔族陣営も、装備を整えて集まり陣形を整えつつあるが、魔王騎士団をファルドランとシルバーさんとミレディが魔法とドラゴンブレスで中心にに集めだす。


魔王軍も、弓矢や魔法を放つがシルバーさんの速度には対応出来ていない。


陣形を崩されオロオロしだす魔族の騎士団達…


それもそのはず。


「ご主じぃーん、捕まえたよぉ~。」


とキバさんからの報告が入ったのだ…


つまり、


敵指揮官が麻痺して、〈チャプン〉と影に消えたのだ。


俺はキバさんに、


「俺の近くまで連れて来て、そこら辺に置いといて。」


とお願いしたあと、念話でゴーレム達に、



「魔族を濾しとるから皆は魔物側の撃破をお願い!城ゴーレムチームはカーンさんの指示で動いて、キバとファルさんは俺の後ろで待機、

バトラーとテディちゃんは引き続き装填おねがい。

ピピンちゃんは逃げた奴がいないかバトラーに報告して。

あとのゴーレムチームはミレディさんの指示で動いて。


ヨロシク!」


と、指示を出した後に、


ではいくぞ!と気合いをいれ、


濾過


サイズ直径 300メール

持続時間 一時間


濾過膜A 指定1 「装備」

濾過膜B 指定2 「MP」「スキル」


パッケージ あり


「発動!」とスキルを発動させると、


俺の手元から空に向かい濾過ポイがそびえ立つ…


「皆行くよ!」


と念話を飛ばし、

濾過膜Aを下にして〈ズドン〉と濾過ポイを叩きつけた。


一瞬の静寂のあとバタバタと倒れる魔族達を眺めて


〈これは面倒臭いな…〉


と、うんざりしながらも、


濾過ポイを消して戦場の片付けをはじめる…


キバさんに空飛ぶ荷車を取り付けファルドランさんの前にピットホールで縦横5メートルの穴を10個空け、魔力不足でフラフラになったのを「MP」カードで回復しながらキバさんと回収にまわる。


荷車に何人か乗せては穴の底に運び、寝かせていく。


装備品も一纏めに山にしておいて、スキル類は一旦まとめて袋に入れる、


「MP」は没収です!


穴に30人づつ寝てもらい起きるまで放置、


明け方までかかったが、


「魔物殲滅完了デス」


と連絡を受けた俺は、その場に座りこみホッと一息をついた。


〈夜襲〉という少しズルい作戦だったが、15対2500だから悪くないよね…。


一夜限りの戦争だったが十歳は老けたと、思う程に心が疲れた。



向こうに転がる魔物の死体は、

キッド君が濾過ポイで「魔石」と「魔物素材」と「食用部位」にわけて不要部分は城ゴーレムチームがピットホールに放り込み焼いて埋めてくれた。


〈放っておいてゾンビに成っても、野生の魔物のエサに成ってもいやだからね。〉


どこかの家庭の味の煮物で腹を満たし魔族の皆さんが目覚めるのを待つ…


俺の目の前には手足を縛った指揮官の女性魔族が寝ているのを眺め、暇潰しに鑑定してみた…


すると、


『エルザ・ダザール・ボリス 25歳』

〈レベル132〉


称号

魔王の娘


と…


〈あっ、アカンの見てしもた!〉


と焦る俺…


〈ダザール君、マザコンかと思ったら、

ガッツリ魔王してるやん。


嫁さん何人いるの?

まぁ、千年以上魔王してるからね…


ハーレムか?ハーレムなのか?〉


とプチパニックに襲われたあと、



俺の〈はぁー〉 と長いため息は朝モヤの中に消えていった…


〈もう、縛って地べたに転がっているから…仕方ない…〉


厄介事を片付けた筈なのに、

目の前に新たな厄介事が、スヤスヤ寝息を立てている。


城ゴーレムに捕虜の辺りを取り囲んでもらい、


待っているのも辛くなったので、


「キッドくん、悪いけどそこでお休み中のエルザさんを起こしてあげてくれるかい?」


と頼むと、


「了解しました。」


と、キッド君は、寝ている魔族の娘さんの〈麻痺〉を濾しとり、鼻先で「MP」カードを割る。


すると、女性魔族のエルザさんの魔力が戻り目覚める…


「これは?私をどうする気だ!下衆が!!」


と…


〈何もしてないのに「下衆」って、泣くぞ?いいのか?!


泣きながら装備以外の身ぐるみも剥ぎ取るぞ!〉


と悪い考えをしていたら。


「シルフィー様に報告デス。」


と、聞こえて来たので話を進める…



「エルザさん、静かにして頂けますか?」


と、俺が言うと、


「はっ、部下達は?」


とエルザさんが聞くので後ろの穴を指差して


「中で寝てるよ。」


と教えてあげたのだが、


「ひ、非道な。夜襲をかけた上で皆殺しとは…。


すまぬ、ベルガー。

私のわがままに付き合ったばかりに…。

孫が生まれると喜んでいたのに…


すまぬぅぅぅうぇぇ~ん。」


と泣き出してしまった。


〈中で睡眠寝てるを永眠と勘違いしてるな…面倒臭い…〉


俺は、呆れながらも


「ファルさん、キッド君、鑑定で寝てる中から〈ベルガーさん〉って人を探して起こして下さい。」


と念話で頼むと、

直ぐに見つけたみたいで、シルバーさんが穴に降りて片腕の老兵を咥えて上がってきた。


俺の前に〈デロン〉と置いて、


「主、どうぞ。」


とシルバーさんが下がる。


「ありがとね」と、キッド君達に礼を言ってから「MP」カードを使い老兵を目覚めさせる。


「う、うーん。」


と、じいさんは色っぽい声を出して起き上がるが、エルザさんは泣いているので気がつかない。


じいさんの方が泣いているエルザさんに気がつき、走り寄り、



「姫、姫!!ご無事で?!」


と、エルザさんをユッサユッサしている。


「この下衆がぁ。姫に何をしたぁ?!」


と…


〈また「下衆」と呼ばれた。

傷つくなぁ、〉


と凹む俺…


…いや、傷つくけど…ゴーレムさん達、敵意剥き出しで、なんか魔力をタメはじめるの止めよっか?


怒ってくれるのは嬉しいけどね…


「とりあえず、敗戦の将とその従者は黙ろうか。


じゃないと、300人生け捕りにしたのが無駄になるかもよ。」


と、俺が言うと、


姫は「ぐぬぬぬ」となっているが、ベルガーさんとやらはピンときたようで、


「生け捕りですと…。」


と呟いている。


これは、老兵のベルガーさんの方が話が出来ると判断し、


俺はアイテムボックスから小瓶をだして、


「まぁ、まずは飲んで。」


と、ベルガーさんに渡す


ベルガーさんは何を勘違いしたのか


「この老兵の命一つで、どうか、どうか姫だけは、姫の命だけは!」


と懇願してから小瓶の液体を飲み干す。


そして、


「うっ、ぐわぁぁぁ!」


と苦しみだすベルガーさんに


「ベルガー!嫌だ。死ぬなベルガー!!」


と取り乱すエルザさん。


それを冷ややかに見ている俺…


〈毒でもあるまいし…〉


「死ぬわけないじゃん…フルポーションで。」


と、冷ややかにツッコむ俺に、


盛り上がってる二人が「へっ?」となっている。


俺は、生えたじいさんの左手を指差して、


「ほら、」


と言うと、エルザさんはまた、ワンワンと泣き出した。


〈忙しない…〉


「じいさんのと姫さん、これで話が始めれますか?」


と聞く俺に


「はい。」


と返事をして、ようやくお話合いの開始です。


「暴れないでね。」


と、言って縄をほどき、エルザさんを自由にしてから、キッド君とバトラーが、お茶の用意をしてくれた。


お茶を飲みながら今回の進軍について聞くと、


ベルガーさんが、


「魔王城にクロネコの神の使いが現れ、主神からの伝言とやらを置いて消えました。」


と、話しはじめた。


〈アイツどこでも行くんだな…〉


と、俺は感心しながらベルガーさんの話しを聞いている。


「馬鹿な邪神の野望を阻止するために使徒を中央国の東の果て、その名も 〈果ての村〉 に使わした。

悔しかったら倒してみろ、やーいやーい」


という内容だったらしい…


〈クソ主神が!〉


「我等を馬鹿にした内容に姫が激怒され、魔物部隊2200とテイマー100人と魔法師団50、弓隊50に近衛騎兵隊100の大部隊で約1ヶ月かけて遠征してきた次第です。」


とベルガーさんが教えてくれた。


もう、色々と小者主神の馬鹿に言いたいが一旦おいておき、


〈記憶の水晶〉を使い今までの流れを説明しながら、


俺が、アホ主神ではなく大地の女神さま、つまりダザール君ママの復活に動いている事と、ダザール君の立場も解るが、いかんせんやり方がいただけない。


もっと他のやり方が有るはずだし、

もしも、平和的にあの主神にいっぱい食わせるなら協力もする。


しかし、一番はママを復活させてからだし、それを望むならダザール君も方々の兵を引いてください。


とお願いした。


話を聞いて、

エルザさんは急に泣き出した。


〈おっ?〉


と、俺が驚いていると、


「名前を奪われ地に落とされた母神様の復活は我等魔族の悲願、

それを行う為に頑張っておられる母神様の使徒様を

あの非道な主神の嘘を真に受け軍を率いて牙を剥いてしまいました。


幼い私を庇い腕を失ったベルガーの腕まで治して頂き…


あぁ、使徒様…。

本当に申し訳ございませんでした。」


と涙ながらに謝罪してきた。


「解って頂ければ良いですよ。」


話をしていたら、

「エルザさまー?」

「姫さま!」

「亀ちゃん?!」


などと声が穴の中から聞こえてきた。


「目が覚めたみたいだから穴の下チームに説明ヨロシク」


と、エルザさんとベルガーさんに丸投げして二時間ほど寝ることにした。


何か有ればゴーレムチームが何とかしてくれるから一眠りして徹夜の疲れを回復させたい…



そして、数時間後…


「ダーリン起きる時間デスよ。」


とミレディの声がする。


〈誰がダーリンじゃい?!〉


と、ツッコミたくもなるが我慢して、


「まだ、眠いが仕方ない!」


と唸り、起きてエルザさん達の様子を見に行く。



エルザさんとベルガーさんが地べたに座っているので、


「何してるんですか?お尻冷えちゃいますよ。」


と言うと、


「皆、穴の中で、私達だけ椅子に座り使徒様を待つわけにはいきません。」


と言い出す。


〈ごめんて、フカフカの馬車のベッドで寝てました…許してってぇ…〉


と、罪悪感を覚えつつ、


俺は穴の中を覗き込み、


「皆さん、暴れないなら穴から出しますよぉー。」


と聞いてみたら、


「申し訳ございませんでした。

使徒様、お手向かいなどいたしません。」


と言って来たので、


「キバさんお願い」


と、キバさんの空飛ぶ荷車で上がってきてもらう。


300人全員が穴から出る頃には昼前になっていた。


キョロキョロと、自分のお供を探すテイマーさん達は、あえて無視しておく。


〈もう、素材とお肉とは言えない…。〉


俺は、


「皆さん、お腹へったよね?


よし!飯にしよう。」


と、アイテムボックスの家庭の味達を鍋ごと並べて


給食当番をしながら顔と名前を覚えていく、「記録」のスキル様々だな…


〈学生時代に欲しかったよ。〉



後で、貴族っぽい魔族さん数名に、

スキルカードの袋と、装備の山を渡して、「返しといて」と丸投げしておくためだ…


「普通は返さないけど、返してあげるけどレベルは1に戻ってるから、

次やったら、めっ、だからね!」


と、言って…逃げた。



ちなみにだが、

エルザさんのスキルは先に返してある。


〈一人離れた位置にいたから混ざらなかったので〉


「使徒様、私達は罰としてスキルを無くしました。」


と言ってスキルカードを押し返してきたので、


「俺の味方になってくれますか?」


と俺が聞くと、


「勿論です。母神様もですが、人族の方が父の行いを知った上で、父の事まで考えて下さる。


その様な方に力を貸さずしてどうしましょう。」


とエルザさんは真っ直ぐ俺の目を見て答える。


「では、エルザさんも俺達の仲間です。


スキルを受け取ってくれますよね?」


と訪ねると、涙を浮かべ


「はい…。」


と答えてくれた。


では、サービスでっと「四色のグリモア」を出して、エルザさんに魔法も授けた。


エルザさんはプルプル震えだし、


「神様」と呟き何故か俺にすがり付き泣いた。



「ウゥーー!嫁候補警報デス!」


と騒いでいる盗聴娘を無視して、泣き止むまでサスサスしてみたが、



なんで泣いたんだろう?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る