第63話 ダンジョン会議


もう、いい加減、ダンジョンから出たくなっている…


最下層のボスを倒したのですが、転移陣部屋とマスタールームまで遠い遠い!


馬車を出すか迷うが、色々な液体を流し泣きわめいているヤツを間違っても愛妻号に乗せたくない。


〈疲れた、めちゃめちゃ疲れた…〉


ルーベンスの二枚の絵が観れたら、パトラッシュとお空に駆け昇るかもしれない程に、体力と精神力をゴリゴリに削られたよ。


やっと転移陣部屋に着いた時には、皆静かになってしまい、


黒ギャルは泣き疲れて眠っていた…


途中で余りにも可哀想になり、ミレディさんにお願いして一般的な拘束に変えてもらい、自分で涙をゴシゴシと拭えるようになるが油性ペンは薄れていない。


〈これが、工房の技術力か!?〉


と感心する…


そして、当の黒ギャルは安らかな寝顔だが、

落書きのせいで、こっちを見つめたままなのが、また…腹が立つ…。


〈追加で何か書いてやろうか?〉


とイラつきにも似た感情のまま目的地に到着した…


転移陣の上には宝箱があった。


あったのだが、一つだけだ…

三匹の階層主を倒したのに一つだけ…


割にあわない!


かといって有るか無いか解らない宝箱を探しに前の転移陣の部屋まで帰るのはアホくさいし…


〈諦めるしかないな〉


と、ガッカリしながら安全確認後に宝箱を開けると、


中から一冊の本がでてきた。


「教えて!キッドせぇんせぇい!!」


と、キッド君に鑑定をお願いすると、


『知識のグリモア』

「名前と能力の詳細を知っているスキルカードを三つ作成出来る(一度のみ)」です。


と、報告が入った。


〈なにそれ?!

激当たりじゃん。

三匹分なの?ねぇ、三匹分なの。〉


俺が、こんなに運が良いわけない…

正当な対価で、三匹倒したからだな…多分…


と納得しながら転移陣の登録を済また。


もう、体も精神もクタクタで、


愛妻号とキャンプセット出して寝てしまおうかな?

と考えていたら、


「ようこそ冒険者の諸君」


と言いながらステッキを持った、

イケオジダークエルフが奥から出てきた。


少し嫌気がさしている俺は、


「貴方が、ダンジョンマスターですか?

もしも、そうなら高齢者で階段がキツイ発言は嘘になりますね。


サブマスターの件も有りますし、イゴールさんからの提案で、メインダンジョンのマスターには力での制圧は避けていますが、そちらがその態度なら、

我々もその様に対応せざるを得ませんが?」


と高圧的に接してみると、


焦るダンジョンマスターは、


「待て待て、待ってくれ。

母上が神界に輿入れされる時に管理システムとしてダンジョンを作った六千年前からダンジョンマスターをして居るので、正真正銘高齢者だ。


それに、ボス戦についてはサブマスターの暴走だ。

それについては、謝らせてくれ。


我が娘がすまない。どうか怒りを納めてくれはしないだろうか?」


と、説明をするオッサン…


〈娘なんだね。〉


そして、


立ち止まり、


「この通りだ。」


と頭を下げたオッサンの目線の先に、キバさんが荷車を引っ張って、娘と対面させてあげている。


眠った娘のマブタの目と目が合うダンジョンマスターは〈笑うまい〉と耐えている…


寝ている娘は頬っぺたをポリポリしたのちメガネをクィっとした。


油性ペンの瞳は親父を見つめたままだ。


オッサンは我慢しきれず、「ブふっ」っと痛恨の一撃をくらい…膝から崩れた…


キバさんの勝利である。


ダンジョンマスターはその後も必死で娘で〈笑う〉のだけは我慢しているが、


話が進まないので、


俺は、


「ダンジョンマスター、もう結構です彼女に制裁は受けてもらっていますので、」


と謝罪をうけいれた。


ダンジョンマスターは娘から目をそらし心の平穏を取り戻し


「君達が許してくれたのなら有難い、

今後の話をさせてほしい。」


と話し始めるが、


父親の声が聞こえたからか黒ギャルが、目を覚ませ、


「ん。あれ?お父様?」


と声を出す…ダンジョンマスターは不意に呼ばれ娘の方を向いた…


そう…警戒心ゼロで…。


「これ、人前ではお父様で…

ぶっ…… ぶわっははははははぁ!」


ゴルゴ眉毛でチョビヒゲの娘が不思議そうに見つめていたのを見て、大爆笑してしまっている。



その後暫く〈話し合いどころでは無くなった〉ので、続きは、御茶でもしながらにしましょう。


となったが、ダンジョンマスターは自分の腿をツネって、ずっと我慢をしながら話を続けていた。


余りにも観てられないから、ディアマンテさんに手鏡を渡しネタばらしをして、


ダンジョンマスターには、ハイポーションをスッと渡し


「まぁ、飲めや。」


と肩をポンと叩いて、暫く席を外し必死でぬるま湯や石鹸を使い、油性ペンの耐久力と戦うディアマンテさんを眺めていた。



まともな話し合いをするのに小一時間かかた。


このエルフの国のメインダンジョンのダンジョンマスターは魔族 (ダークエルフ)のトパーズさんで、

サブマスターは娘さんのディアマンテさんも魔族 (ダークエルフ)です。


魔族とは、主神の奥さんがダンジョン管理の為に生み出した種族で、ダークエルフとは、エルフタイプの魔族の通称らしい。


ミレディさんの念話にトパーズさんを登録して、イゴールさんと繋ぐ、


トパーズさんとイゴールさんは知り合いだったらしいが、三千年以上ぶりらしくてヨソヨソしい。


因みに、イゴールさんのタイプはドワーフの国なのにドワーフじゃないの?

と、聞いてみたら、


「先代の父親はドワーフタイプで、山羊獣人タイプの母親との間に生まれた、

ハーフです。」


と、教えてくれた。


へぇー、イゴールさんもハーフドワーフなんだね。

良かったねお母さん似だから背がすらっとしてて。


と、少し…ほんの少し羨ましく思ったのは両親にはナイショである。


イゴールさんとトパーズさんに、

大地の女神復活大作戦の相談をした。


これまでの下準備で大地の女神の噂や冒険者の中には、わざわざ祈りを捧げる者まで居るらしく、


コーバの町でコートニー君達が祈っただけで学神 メリス 様のお肌の調子が良くなるほどの神力が集まったらしいから、祈りが、何処にも利用されないのは勿体ない…。


「イゴールさん、トパーズさん。

大地の女神さまという仮の名前で魔族のお母様のアピールをしていますが、


祈りのパワーが無駄になっているんです…


勿体ないので、なんとか成りませんか?」


と俺が質問してみる。


トパーズさんは、う~んと唸ったあと

ヒントになればと、現在の信仰の回収方法を説明してくれた。


「アルド君は信仰を対象の神様に届けるには、神様の名前を唱えることが必要なのは知ってるかい?」


前にイゴールさんに聞いたので、トパーズさんに頷いて答える。


「では、アルド君は信仰を集める方法は知っているかな?」


「いえ、存じません。」


と、答える俺にトパーズさんは、


「まぁ、神様の関係者くらいしか知らないから無理はないよ。


信仰を集めるのには、相手に正しい信仰対象の姿を見せる事で、その姿に対して信仰が集まり、名前を目指して信仰が移動する流れだよ。


今もそうかは知らないけど、協会に神様の姿をした像がないかい?」


と教えてくれた、!


〈ある!片田舎のはずの 果ての村 にまであるよそれ。〉


と思いだし、


「有ります。少なくとも知っている教会には全て配置してありました。」


と伝えた。


トパーズさんがウンウンと頷いて、


「なら、昔のままだね。

あれを目指して祈りが集まり、貯まった祈りが神の名前を頼りに神界に向かう。


良くできたシステムだよ。」


と説明してくれた。


〈…うーん、何か閃きそうだが、うーん?〉


うーんと唸る俺を見てトパーズさんが、


「トイレなら部屋を出て右だよ。

ため込むのは良くないよ、

ためて良いのは、お金と力だけだよ。」


というトパーズさんの言葉で良いアイデアが出た。


「出ました!」


と、立ち上がる俺を見て、


「えぇぇぇぇぇ!」


と、トパーズさんは勿論、イゴールさんまで念話の向こうで驚いている。


「出ちゃったの?」


心配そうなトパーズさん達に


「はい、何か出そうで出なかったからスッキリしました。


なんか、出るときは、スッと出ますよね。」


と伝える俺に、


「そうなのかい?」


と、それは可哀想な目で俺を見てくるトパーズさん…


「何とも良いアイデアが出ました。」


と俺が笑顔で伝えると、


「アイデア…かぁ。」


何故かホッとしているトパーズさん…


〈なにごとかな?〉



俺のアイデアはこうだ。


神様の信仰システムは、

神様像をポストにして信仰をあつめ、

名前が宛先になり本人に届ける。


大地の女神に名前がないから本人に届かないから復活に繋がらない。


なら、ポストを用意して信仰を集め、届けるのは自力でやれば代用できないかな?

と考えたのだ。


二人に相談するが、そのアイデアには地上の教会の協力が必要で難しいという…


が、しかし、


〈表向き、主神様の使徒だから顔が利くよ俺…〉



と云うことで、有識者の意見を聞く。

ディアマンテさんの知識と、

キッド君とファルさんのリンクシステムによる検索エンジンで、


「祈りや神力を貯めて持ち運ぶ方法をプリーズ!」


となり、


ディアマンテさんが、

「精霊結晶 を使えば、如何なる力も出し入れ出来ますわ。」


との意見がでて、


ファルさん達からは、

「精霊結晶 は妖精族の里近く「精霊の泉」で手に入ります。」


と早くて的確な回答が返ってきた。


〈流石です。〉


では、大地の女神の像を作るにあたり女神さまのご尊顔を拝謁しなければ、話にならないので、


俺はアイテムボックスから『ライブブック』から濾しとった「記録」のスキルカードを取り出す。


「鳥さん…」


と、ディアマンテさんがボソリと言ったが無視しよう。


「トパーズさんは「記録」のスキルはお持ちですか?」


との質問に


「残念ながら娘達ほど本の虫ではなくて記録のスキルは手に入れていません。」


と…


〈娘…達?〉


不思議そうな俺を見て、


「あぁ、魔族ではないアルド君はご存知ないかな…

魔族の神の一人 女神のエメロードです。

ディアマンテの、妹だよ。」


と教えてくれたのだが…


「えぇ!神様のパパさんなの…トパーズさん?!」


と驚いてしまう俺に、


ディアマンテさんは、


「ふん!ダンジョンはお父様とお姉様にまかせて、私は世界を見てくる!


と出て行ったのに、あの主神の手先に成り下がったアレの事は、知りませんわ。」


と、寂しそうに語る…


俺は、技能神 マイス 様の手紙に書いて有ったエメロードさんたちが今、神界で軟禁状態で、あと十年もせずに来るかもしれない勇者は、魔王のダザール君を魔王領に押し込めて、あの土地ごと異世界に島流し予定であること、

島流しに合わせて、異世界にエメロードさん達も流されることになる計画だと伝えた。


トパーズさんは動揺し

ディアマンテさんはまた泣き出した。


「何とかしなさいよ!私の妹が、エメロードがぁ。うぅぅぅぅっ。」


と…


これは、助ける相手が増えたようだな…。



さて、最悪を回避するために。


まずは、

トパーズさんに「記録」スキルを取得して貰う。

ついでに、ミレディさんから言われているから俺も取得する。


そして、

トパーズさんに、大地の女神様をイメージしてもらい、


いざ、〈記録の水晶〉スタートする。

…映し出される数千年前の記憶、


そこには、

ポワポワ系を勝手にイメージしていたが、チャキチャキ系のキャリアウーマン風の長身美人が映っていた。


「我らが母神様…。」


と、トパーズさんが涙している。


俺は、トパーズさんに沢山の大地の女神様の記憶を見せてもらった。


これで、ミスリルかミスリル金で造形すれば女神像が出来る。


続いて、

妖精の里の精霊の泉で精霊結晶をゲットして、祈りため込みアイテムを作成し


最後に

女神像とセットで教会にセッティングし貯まった祈りパワーは女神に直接お届けする…


ただし、女神さまは現在、魔王領のどこからしいから状況やタイミングに注意する。



さて、当面は以上です。


ではなにかありましたら念話で、


「エルフの国で仲間と合流したあとで、婚約の挨拶に相手方の実家に向かいますので…


あっ、トパーズさん踏破の証を腕輪によろしく。」


と俺がお願いすると、


トパーズさんは、「婚約…ですか?」と驚きながら腕輪にダンジョンマスターの魔力を流して踏破の証を刻み、


ディアマンテさんの「モゲロ!」の呪いの言葉を背中にうけて、転移陣で地上に帰ろうとするが、


その前にディアマンテさんに見せつける様に、シルフィーちゃんに、


〈二つめ踏破したよコール〉をミレディさんの念話で報告した。


嫌がらせにディアマンテさんにはファルさんの「共有」「同期」のリンク能力で会話が聞こえる様にしてやった。


それは、それは楽しい会話で、シルフィーちゃんには念話ごしに「イイコ、イイコ」してもらった。


「きゃー、甘々で糖尿になりますわ!」

と悶えている黒ギャルを放置して転移すした。



もう、隠すの面倒臭いから、

「ゴーレム使い」のスキルです。的な感じで関所を通り、


馬車で、エルフの国の中心アメリスの街に向かう…


とっととユリアーナさんと合流して腹立つ国とはオサラバしたいな…

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