第97話 見つかる真実と深まる謎

旧帝都を奪還し、


カーンさん達が中心となり、アースウォールで街を改めて囲い、農地や水路の整備をはじめている…


シルフィーちゃんを中心として、商会のメダリア仮本店と連絡を取り合い、


物資や建材を発注し、アルドニアに駐屯している各国の助っ人と一緒に旧帝都まで来てくれる事に成っている。


捕虜に成っている魔族の扱いについては、


魔王国に連絡を取っているのだが、


ベルガーさんが、


「いつ、何処から来るか分からない〈勇者〉を警戒しているので動けません…


アルド様にお任せ致します。」


と言われてしまった…


そして、更に面倒臭い事がある…


捕虜の中に、どう考えてもヤバい称号に、ヤバい装備を持っていた人物が居たのだ。


エルザさんに聞けば、


魔王軍の軍師、ゲルパーさんという小柄なオッサンなのだが、


称号に、〈治癒神の狂信者〉


と有った…


そして、彼から濾しとった装備に、


『狂信者の兜』なる者が有ったのだが、

この兜の能力が、

〈思考共鳴〉〈洗脳〉〈鑑定阻害〉


という、相手に自分の言動や思想を〈共感させ易くし〉、その意見などに共感した者に、さも、本人の意思と錯覚させ〈洗脳状態〉にしてしまう。

そして、この兜のイヤらしい点は、

装備者の手元にある状態ならば、鑑定すら誤魔化せ、

兜自体の能力も、所有者への鑑定系のスキルすら欺く神器である事…


〈周りが洗脳状態だと解っても元凶が見つけれないし、『審議』のスキルすら欺ける…


そして、ゲルパーさん自体がメディカ様の言いなり…


ゲルパーさん経由でメディカ様が魔王軍を動かす事も可能だ…


なぜ?…なぜそんな事をする必要が有る…〉


考えても解らないので、俺はゲルパーさんと話してみることにしたのだが…


ゴーレムチームを連れて、ゲルパーさんだけ隔離し、帝都内にダンジョンポイントで檻を出して投獄してある場所にむかうが、


俺達が到着した時には、


ゲルパーさんは、


「申し訳有りません!」


とウワゴトの様に繰り返し、ありとあらゆる穴から血を流して、のたうち回っていた…


慌てて鑑定をかけると、


ゲルパーさんは〈背信者への呪い〉なるものが発動している…


俺は急いで、


檻ごと濾しとれる大きさの濾過ポイに、


濾過膜Aは在るかどうか解らないが〈毒素〉を指定し、


濾過膜Bには〈呪い〉と、濾しとった事は無いが〈治癒神の狂信者〉という称号を指定し、


パッケージをありに指定し、


檻ごとゲルパーさんに叩きつける様に濾しとった…


ポイを消し、すぐにアイテムボックスから〈ダンジョンの檻の鍵〉を取り出し、


ゲルパーさんにフルポーションを飲ませようとするが、虫の息のゲルパーさんは飲み込む力すらない…


俺はもう、色々考えるより先に体が動いていた…


フルポーションを口に含み、魔族のオッサンの口に直接送りこむ…


…〈ダメか…?〉と、思った瞬間、


〈ゴックン〉とオッサンの喉仏が動き、ゆっくりと瞳を開く…


〈良かった…助かってくれた…〉


と安堵する俺の腕の中でオッサンは、人差し指で自分の唇を触りながら、上目遣いで、頬を赤らめている…


〈キモい…今になり色々と頭の中で再確認される五感の情報に、不快感が冬の日本海のように押し寄せ荒れ狂う…〉


しかし、


俺は、色々な感情を抑えつつ、


「体の調子はどうです?」


とゲルパーさんに聞けば、


「はい、体の中が熱いです…」


と恥ずかしそうに答える…オッサン…


〈全身を蝕ばまれた状態からフルポーションで回復したからだよね…


そうだよね?…そうと言ってよ!!〉


と、ゲルパーさんの〈火照り〉がフルポーション由来の物であることを願いつつ、


俺は、


「危険な状態でしたが、何とか成ったみたいですね…」


と、伝えて、ゲルパーさんをゆっくりと抱き起こして座らせた。


すると、ゲルパーさんはようやく落ち着き、ポツリポツリと、話しをしてくれた。


ゲルパーさんは小さい頃から体が弱く、軍務系の家の子供としては致命的なハンデを背負っていたらしい…


しかし、剣が振るえなくとも戦を導く〈軍師〉になればと猛勉強をしたのだが、


15歳の冬に寝込み、徐々にその命の火が消えようとしていたある夜…


治癒神の使いと名のる白蛇が現れ、


「残りの命を治癒神様に捧げるのであれば、お前の命を助け、健康な体になる〈神の薬〉を授けてやろう。」


と、持ちかけてきたらしい。


ゲルパーさんはその取引に飛び付いたのだが、


〈健康な体〉と引換に、メディカ様の指示に従い、


その指示を遂行出来ないとなれば、苦しみの果てに死に至る枷を付けられてしまったらしい。


ゲルパーさんは、魔王軍に入り、


徐々に出世して、〈軍務会議〉に出席出来る迄に成った時に、メディカ様よりの指令が下ったそうだ。


〈魔王軍が世界の半分以上を手に入れて、主神を引きずり降ろす戦を始めよ。〉


と…


そのような無理難題を言われて、完遂出来ない場合はゲルパーさんは死んでしまう…


彼は、〈そのような戦を仕掛けて勝てないかも知れない〉…と治癒神に訴えたらしいが、


治癒神の答えは、


「憎っくき主神が引きずり降ろされるならぱそれも良いが、


どうせ、あの短気で短絡的な主神の事、息子を見せしめに罰するだろう…自分のルールに従って…


それこそが狙い…自分の大事な人を失う苦しみを知れば良い…徐々に家族を失い堕ちていく主神を近くで嘲笑う事のみが私の願い!


なので、戦争を起こすだけで良いの…」


と、言われて、


そのために授かったのが〈狂信者の兜〉だそうだ…



そして、周りを巻き込み始めたのが30年程前から続く魔族対世界の戦争だと…


今回の出兵は、俺を〈足止め〉または〈殺害し〉女神を復活させない為のモノらしく、


ゲルパーさんは、アルドニアを長期間かけて攻め続けて、


主神が勇者勇者を助っ人に出せば、


あの主神の〈約束〉で縛られた俺が地脈を操作して〈島流し〉が遂行されるし、


俺が、取引せずに一年近く粘ればタイムリミットで勇者が召喚されて魔王ダザールさんに刺客として放たれる。


…どっちに転んでもメディカさんにお得な状態になるし、主神の手伝いを装う事も出来る…


しかし、女神様が復活すれば色々なバランスが崩れて作戦が破綻する…


との事らしいが、


これは、神様家族の〈家庭内問題〉では済まされないな…


しかし、


妖精族の隠れ里で聞いた話しでは、メディカさんは主神を恨んで居るのは解ったが…


神様達だって、メディカ様に会っているのに、こんな策略を巡らせて居るのを気がつかないのかな?


と、不思議に思う…


まぁ、魔王軍の暴挙はゲルパーさんが動いていたからだが、尚更俺に任されても困る…


とっとと、イザコザを終わらせて、当事者全員出席の会議でも開いて、皆で決めて貰わなければ…


それには…やっぱり大地の女神様に一刻も早く復活してもらわなければならない。


でもその前に…


ミレディさん…念話で皆さんに、


「ダーリンが男に目覚めた警報を流さなくて良いから、シロちゃんを檻の所まで呼んでくれる?」


とお願いし、


暫くして、現れたシロちゃんに、


リバー様との交信をお願いした。


いつものように、空に向かい、


「パパぁ~、」っと叫ぶだけで、ほぼ同時に、


「なぁにぃっ!」


と、リバー様の声が響く…


俺が、解った状況の全てを相談して、天界の方でも色々調べて欲しいと頼んだのだが、


リバー様の反応が悪い…


「いゃ、そんなはずはない」とか


「彼女に限って…」とかと…


やたら治癒神のに肩入れする…


不思議に思い、シロちゃんに聞くと、


「パパはメディカ様に片思いしてるんだよ。」


と暴露した。


空から聞こえる声が、動揺しまくっているから間違いなのであろう…


〈神様も色々ややこしいんだね…〉


などと、考えながらも、


リバー様に話しを聞くと、〈惚れた男〉フィルターがかかっているとはいえ、


メディカという女神様からは、


〈怨念〉や〈呪い〉等といった負の感情は見られず、


〈優しくて物静か〉で薬草園で草花の世話を頑張る働き者らしい…


確かに、とても戦争をけしかける様なイメージは無いが…


それに、リバー様が


〈天界で、神が他の神に対して攻撃やスキルの使用が出来ないルールに成っているが、


スキルなど使わずとも、狩の神と名のる自分が、「悪意」や「敵意」に気づかないはずは無い!〉


と、言っていた。


確かに狩人の〈その手の勘〉はロルフ先生を見て、鋭いと知っている…


しかし、


〈治癒神の狂信者〉という称号の〈ゲルパー〉さんが暗躍していたのも確か…


俺は、リバー様に、天界での調査を依頼した。


リバー様は、はじめはかなり渋っていたが、


「惚れた女の悩みを聞いてやるのも大事じゃないですか?


何千年も主神に対して怒り、悩んで居るならば、リバー様も話しを聞いた上で味方をするなり、仲裁するなりしてあげるべきですよ。」


と、俺がいうと、「よし」っと決意した様だった…


交信を終了した後で、


シロちゃんが、


「パパがもっと早くメディカ様の相談にのってあげれば良かったんだよ…


アタシが天界に居た頃は、メディカ様への用事は全部アタシに伝言させて…


どうせ、アタシが居なくなった後も毎日の様に遠くから眺めるだけで、行動に移して無かったのよ…良い機会だよ。」


と呆れていた…


数千年に及ぶ片思い…


神様の時間感覚に少し引くのだが、


自分も〈神様〉の仲間入りしている事に気がつき、少し凹んだ…


永遠の寿命なんて…大変だろうな…と…

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