第96話 戦いの結果とそれぞれの涙

旧帝国の帝都から山1つ隔てた場所にカーンさんが陣取っている…


相手方が集まる前に敵の根城の側に砦を築いたも同然…


カーンさんの指令室をグランドマスタールームにして、モニター越しに、千里眼使いのカノンさんに偵察をお願いしている。


「うーん、街の守備兵も、駐屯部隊ぐらいの数じゃのう…


本体はまだまだ来ないのじゃ。」


との報告を受ける…


イゴールさんからは、


「アルドニアの兵士のレベル上げは順調です。」


との報告が入るが、


やはり、数の差が何ともしがたい…


砦としてのカーンさんは居るのに…


〈弱くても良いけど足止め出来る程の仲間が欲しいよ…敵さんは魔物いっぱい使うのにさ…ズルい。〉


「あ~あ、ウチも魔物を仲間にできたらな…」


と、ボヤいていると、タマちゃんがモニター越しに、


「えっ、何言ってるの?


アルド君ならすぐ出来るよ。」


と言ってくる。


俺は、


「有り難う、テイマースキルをメダルで交換したらいけるかもね。」


と、タマちゃんの優しい声援を有り難く受け取ったのだが、


タマちゃんは、


「違う、違う、


〈アルド君〉のダンジョンポイントで、ダンジョンを生成するんだよ。


かなりのポイントが要るけど、街の表面を1階層のみのダンジョンにして、モンスターを配置すれば出来るよ。」


と教えてくれた。


俺は、


「えっ、嘘、


凄いじゃん!…タマちゃん有り難う。」


と言って早速、

グランドマスタールームにある〈ダンジョンコア〉に現在の所有ダンジョンポイントと、ダンジョン生成に必要なポイントを調べる


現在の所有ダンジョンポイントが、4万ちょっと


ダンジョン生成〈一階層分〉5万ポイント~

※広さにより変化


と…


「え~、足りないよぉ…」


と、ガッカリしていると、ウレロさんがモニター越しに、


「アルド様、ダンジョンマスター権限で各地のダンジョンからダンジョンポイントを移し変えが可能です。


〈強制徴収〉というコマンドです。」


と、教えてくれたが…


俺が、


「何だか、嫌な響きだね…


良いの?そんなことして…」


と、躊躇していると、


イゴールさんが、


「マスター、ウチのダンジョンは、レベル上げチームの〈滞在ポイント〉と、毎日沢山魔物を倒しているので、10万ポイント程ならば問題有りません。」


と言ってくれ、


ウレロさんも、


「ウチは交換する為のポイントも残しておきたいから5万ポイント程度なら問題有りませんわ」


と、言ってくれた。


タマちゃんは、


「ウチは、最近ダンジョンの大改造したから、狩人さん達が増えたけど、3万ポイントがやっとかしら…」


と提示してくれた。


イゴールさんが、


「ダンジョンの大改造や、改革をしてなければ、もう少し余裕が有ったのだが…すみません。」


と頭をさげる。


俺は、


「止めてください。


十分ですよ!


皆さんのポイントを泥棒するみたいで心苦しいですが、すみません…お借りします。」


と頭をさげた。


カノンさんと、ティターニアさんに、トパーズさんは、


「ダンジョンポイントが、あまり挑戦者が居ないのでほとんど無くて…」


と気まずそうにしていた…


〈何か…ごめんね…〉



俺は、


「じゃあ、悪いけど、三人さんからポイント借りるよ…


絶対返すから。」


と言って〈強制徴収〉コマンドを使い、


俺のダンジョンポイントが、22万ポイントに成った。


そして、次の問題は、旧帝都の地表をダンジョンに指定するとダンジョンコアが地表にむき出しになることだ…


それには、トパーズさんが、


「ダンジョンコアルームだけの二階層に小部屋を作れば、階層追加は二万ポイント程度ですので、」


と、教えてくれた。


確かに二階層に降りる階段を仕掛け扉にして簡単に入れなくしても三万ポイントだったが、問題は、街の丸々一個の広さをダンジョン化するのに15万ポイント必要となる…


しかし、まずはダンジョン化しないと始まらない…


〈借金丸々つぎ込む事に成るが仕方ない…〉


グランドマスタールームのコアを使い、地図上の座標で旧帝都を指定しダンジョン化した。


といっても、モンスターも出ずに、何も起こらない…


もしも殺人事件が起これば、〈パッシュん〉するていどの変化しかない、


ちょっと変な街に成っただけである…


しかし、大きな変化を俺が知るのは、これからであった。


それは、


すでに駐屯している魔族の兵士100名分の滞在ポイントが入って来るのだ。


朝から夜まで、百名も滞在するダンジョンなど稀、妖精族ですら数十名の滞在…


しかも、徐々に増えて千人に成る予定だ。


………あれ?


これって、ポイント貯めて、〈ウィリアム〉さんに殺傷力の低い、麻痺系の罠地獄するレシピを教えて貰って配置すれば、倒されても復活する〈しぶとい〉アンデット系のモンスターでもバラ撒けば、数の不利は無くなるかも知れない…


〈いや、むしろイケるかも…〉


と悪い笑みを浮かべている俺だが、


フと気が付く…


〈でもそれでは洗脳を解く事は出来ない…


街を丸ごと濾しとるには俺の魔力の出力では無理だし…


カーンさんの魔石タンクみたいなのが有れば直径3キロのポイも作れるかも知れない…


いっぺん試してみるかな…〉


と、思いつき、


カーンさんに相談すると、


「私に触れていれば〈共有〉のスキルで魔力をアルド様に送れます。」


と、教えてくれた。


よしよし、ならば、数の不利も、最後の一手も決まったな…あとは、タイミングだけだ…




そして、アルドニアの街を出発して1ヶ月余り、


内緒で敵の拠点をダンジョンに変えて二週間…


カノンさんのみたてではあと一週間程度で魔族陣営の本体が合流すると報告してくれた。


カーンさんの念話で各チームと連絡をとり、集合をかける。


準備が出来たチームから俺が〈ダンジョン間転移〉で迎えに行き、



そして、数日後、全てが揃った…


ミスリルベースの鎧を身に纏った50余りのアルドニア軍とメインダンジョンすら踏破出来る女性陣チームと、実際踏破したゴーレム達、


全て集めても70名ほどの軍勢だが、


負ける気がしなかった…


この二週間で集まったダンジョンポイントで、


十分街中に麻痺ガスの罠と、スケルトンを配置出来る算段と成った…幸か不幸か、帝都には材料となる骨も怨念も街に溢れていたためにダンジョンコアの計算では、ポイントがかなり節約出来てしまった。


余ったポイントで上位種も配置することが出来る予定と成ったので、

上位種にスケルトン達の統率を取ってもらい、自分達の仇を取ってもらう事にした。


アルドニア軍には、

レベル上げで手に入ったスキルも分配し、


念話網で指示をだせ、全員アイテムボックス持ちとなり、身軽に大量の物資も運べる軍団になり、各々が、一流冒険者か、それ以上の猛者ばかりの一団に成ってくれた。


レベル上げで集まった大量の魔石を城ゴーレムチームにパンパンに詰め込み長期戦も可能である。



そして、ついに〈その時〉が来た…


敵の本体が街に入ってきて、城にてアルドニアを攻める為の準備を始めたのである…


しかし、長旅の疲れもまだ癒えていない千人の魔族と、五千の大小の従魔達に、


その夜二十数年前の怨念達が、自分達を殺した魔族に向かい牙を剥いたのである。


そして、俺達は、


〈キャスター〉に乗り込むコートニー君チーム、


〈バリス〉に乗り込むロルフ先生チーム、実はサブリーダーは地竜殺しの異名を持つ幼なじみの〈ダーム〉君だ。


〈ナニカ〉と行動を共にするのはフリューゲル様の一団とトンプソンさん


〈ゲート〉と共に戦うのはジェイムスさんのチーム


そして、


〈カーン〉と一緒に俺達アルドファミリーが総出で戦う


と、言っても、


街の外から従魔を倒すのが主体である。


千人の洗脳された魔族は、スケルトンと成った帝都市民と、ウィリアムさん考案の罠の数々を食らって無力化するのを待つ戦いとなる。


キャスターが魔力タンクの限り、コートニー君達が〈MPカード〉束で用意して、小型、中型の魔物に魔法を打ち込み、


バリスに搭載されたバリスタから、封入のバリスタの矢が大型の魔物を撃ち抜く。


ナニカとゲートが〈超音波〉で圧力をかけて


騎士達は後ろで逃げ出した魔物を討伐する係だ…彼らの一番の仕事はこの後である。


アルドファミリーの飛行部隊が空からの攻撃をする…


街は急に現れたスケルトンの群れに慌てだし、城に籠城する事も出来ずに、骨の軍団に雪崩れ込まれ、


逃げ出した兵士や、暴れた従魔が〈麻痺の罠〉を踏む…街のあちらこちらから上がる悲鳴…


そして、いよいよ最後の時が来た…


俺は、念話網全員に退避を指示し、カーンさんのベランダに立ち、


「カーンさん、魔力リンク開始」


と指示し、


『濾過』


直径、魔力を3万追加で直径3キロ


持続時間 30分


濾過膜A 〈状態異常〉


濾過膜B 〈魔石〉〈MP〉


パッケージ あり


「発動」


と叫ぶと、空に向かい濾過ポイが具現化していく


そして二枚重ねの濾過ポイを握りしめ、


翼膜のマントでベランダから飛び立ち、


街全体を覆う様に叩きつけた。


濾しとられた洗脳や麻痺のドス黒い煙が、濾過ポイの下から〈じわり〉と立ち上ぼり霧散し、


魔石を濾しとられた従魔と住民達の怨念の化身のスケルトン達は、〈バッシュん〉と音を発てて消える。


そして、麻痺も、洗脳も、MPまでも濾しとらた魔族達が〈バタバタ〉と倒れていく…


〈そして、俺達の戦いは、ここからが本番だ。〉


今手に入ったダンジョンポイントを使い、


罠と、スケルトンの配置を解除する。


そして、念話網で指示を出して救出て捕獲をかいしする。


鑑定持ちが鑑定をして、危険な装備を持っているヤツを調べ、


〈まだ、洗脳をかけたヤツがいるはずだからだ。〉


鑑定結果を記録し、


シルフィーちゃんと、キッド君が


濾過膜A 〈身ぐるみ〉


濾過膜B 〈スキル〉〈呪い〉


の濾過ポイで濾しとり、


キャスターさん達が開けた〈ピットホール〉に放り込んでいく。


怪我をしていたり、瀕死の場合も濾しとりをしたあとMPカードで覚醒させてフルポーション等で回復させる。


人海戦術で時間との勝負だった。


そして、全ての人を街の外に連れ出したハズだが、


892人しか居なかった…


数百のスケルトンの波に飲まれ〈パッシュん〉してしまったようだ…


〈すまない…〉


俺は、物凄い罪悪感に嘔吐しそうになる…


間違いなく俺の作戦で奪ってしまった命…


悪党ですら殺す事をためらって来た…


しかし、相手は強硬派といえど、洗脳されてなければ話し合いで解決していたかもしれない…


とても後味の悪い勝利だった…


ただ、フリューゲルさまや、ジェイムスさん達は、


スケルトンに成った街の人達と、帝都を取り戻し、


そして、奪還した帝都を見届け、安心し、浄化された様に消えたスケルトン達を思い涙していた。


ただ、俺は…悔し涙を滲ませていたのだった…

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