第32話 おうとに行こう

馬車の旅は心と体を蝕みます。


〈ストップ・馬車旅!〉


そんな気分です。


もー、マジ嫌、マジ勘弁…


馬車の車輪が小石を踏む度に、

腰から眉間に抜けるような衝撃が…


唯一の救いが、今回の馬車がお貴族使用でクッションがあるぶん幌馬車よりはダメージが軽いぐらい、


だが、ゴンと跳ねるのは変わらず、

領都で乗った時に、「揺れない!凄い!」と思ったけど、あれは、馬車道が舗装してあっただけで、

悪路は一緒、クッション付きの豪華な幌馬車だよ。


つらい…


辺境伯の馬車に、ブライトネル夫妻と、ジャックさんと一緒に乗り込んでいる。

大司教様達、教会チームは後ろの馬車で、ついて来ている。


ジャックさんと、ブライトネル様は、難しいお話をしているのがつまらないのか?

フリーダ様がジャックさんからもらった、

〈吹き戻し鼻眼鏡〉を着けて、


たまに、プピィ!ってしてくる…


深窓の令嬢の鼻眼鏡はシュール、

そして、プピィという音と共に髭が、ぴーーん となる。

やってる本人は馬車の窓から外を眺め暇そうにしながら、プピィっている。


馬で警護に付いてくれている騎士さん達は笑ってはいけないからフリーダ様をわざと視界から外し、息を整えてから、

護衛対象を確認して…の繰り返し


大変だね。


因みに今、〈絶対に笑ってはいけない鼻眼鏡!〉をしているのは、

美味しいポトフの店を教えてくれたエドさんです。


エドワルド様〈トネル兄さん〉じゃないよ、

たたのエドさん。


実は、俺もついさっき気がついたから、手を振ってみよう。


〈いぇーい。エドさん。〉


あっ気がついた。


すると、馬車の外を並走する馬から、


「えぇぇぇぇぇぇ!」


と、叫び声が響く…


エドさんうるさい…大声出したら駄目だよ。


敵襲かと、思って兵士さんがピリピリするから、


エドさん…めっ!だよ。


ほら、隊長さんに、怒られてる。



と、やることの無い時間がつづく…


はぁ、こんなのを一週間の予定である。


長い…。


こんな生活嫌だ、せめて揺れない馬車をキャンピングカーにすれば旅も楽かも…


って、その手があったぞ!!


と、


俺は、難しい話が終了して、オセロが売れているとか、商売のお話しをしている男性陣に割って入る。


「ブライトネル様、お話し中すいません。ジャックさんにお聞きしたい事があります。」


ブライトネル様は少しいじけて


「お兄様とは言わないのか?」


と…スネるかね?そんなことで…


偉いさんでしょ?トネルお兄様は、


と、思うが、


「辺境伯領を出て、王都や王様の前で言わない為の練習です。


ご容赦を


少しジャックさんにお願いと相談がありまして。」


と、言う俺に、


ジャックさんはハテナっと首をかしげながら、


「なんでしょうか?私に解ることであればなんなりと。」


と答えてくれたので、


俺は、


「揺れない馬車のアイデアが有るんだけど」


というと、


「えぇ!」


馬車の中の全員が食いついた。


「金属加工が得意な職人さん知らないかなぁ?

名工の方でなくて、頭の柔軟な職人さんと、あとミスティルの素材に詳しい方がいれば、揺れない馬車が出来ます。


それと、細工仕事が得意な家具職人さんがいれば、〈走る、揺れない家!〉の様な馬車ができます。」


と俺がいうと、


ジャックさんは何かぶつぶつ言い出し、


ブライトネル様も腕を組んで考えている。


二人が、「やはり護衛を付けなければ危険では?」


とか、「派閥がなぁ」とか 「あちらを取り込むには…」

とか、話し始めた。


難しいそうな話しが始まったので、面倒臭いから参加しないでおく。


暇になったから、同じく暇そうにしてるリーダお姉様のお相手をする。


アイテムボックスからメモ紙を取り出して、


リーダお姉様の前で折り紙をしてみる。


何かを始めた俺に、興味がありそうに見つめりリーダお姉様は、


「アルド君何してるの?」


と、俺の手元を覗き込み、聞いてくる。


「折り紙と言います。

紙で色々な物をつくります。

と言っても折り方の本がないので出来るのは、覚えている数種類ですけどね。」


と、喋ってるうちに、


「はい、出来上がり」


と、リーダお姉様に鶴をプレゼントする。


すると、リーダお姉様は、折り紙の鶴を手のひらに乗せて、ムフゥーっと鼻息荒くしている。


男性陣も折り紙が気になるみたいなので、


次は蛙を折ってトネルお兄様へ…


しかし、何故か真っ青な顔になり、


手のひらからゆっくりカエルの折り紙を摘まんでリーダお姉様の手のひらにのせる。


〈なにごと?〉


と不思議そうに眺めていると、


リーダお姉様が「ふふふふっ」と笑っている。


どうも、ブライトネル辺境伯様は蛙がお嫌いなようだね。


ぶつぶつ言っていたジャックさんが何か決心されたようで、


「アルド君、各方面の説得は私がしますから、私にも理解出来る様に揺れない馬車の説明をして頂けませんか?」


と真剣な顔で言ってくるので、


アイテムボックスから、


紙と、テーブル代わりの木の板と木炭の欠片

を出して、


板バネシステムのサスペンションをカリカリと絵描き説明を始めまた。


ゆくゆくはスプリングを使って快適な馬車旅をエンジョイしたい。


あらかた説明したあと、移動中に文字などを書いたため、


ウプッ…酔った。


真っ青な顔の俺を見て、ブライトネル様が

馬車を停めて休憩にしてくれたのだが、


「ウプッ、お、おうとに、いってきます。」


と草むらを目指すはめになった。



そして、


一週間酷使したお尻や腰はもうボロボロ…


長かった…ようやく王都にやって来ました。


ブライトネル様が今日はオフにしてくれました。


〈皆さんケツ休みをしっかりとるんだよ。〉


今日はブライトネル様の王都の屋敷に泊まります。

王都にもこんなにデカイ屋敷をお持ちで…


〈維持費が大変そう…〉


先に王様に早馬でアポイントメントをお願いしているらしく、

返事待ち、まぁ、一週間以内には謁見出来るらしい。


〈あれ!?俺礼服ないや。〉


と気がつき、


「俺、謁見用の服買ってきます。」


と、言って出掛けようとするとジャックさんが、

ご心配無用とばかりに自分の荷馬車からトランクケースをだすと、中にはびっしり子供サイズの服が並んでいた。


〈あるんですね。〉


と、驚きながらも、


「用意してくれてたんですね。有り難うございます。」


と、俺がいうと、


するとジャックさんが、


「いえいえ、シルフィー会長に頼まれていたので以前より取り揃えておりました。」


と…


えっ!有り難うございます。シルフィー師匠!


では、安心して寝れます。


皆様おやすみなさい…


と俺は、部屋に引きこもらせてもらった。




三日後、知らせは突如やって来た。


謁見です。


この国の王様がどんな人物か、


見てやろうじゃないか。王様の性能とやらを!




てな訳で、来ました王城!!


俺的には、スキル図鑑買ったし、

〈大金貨3枚でした。〉


もう、用はない


「いやいやポーションわい。」


と思っておられるだろうが、そんなもん他国でも出来るわい!修行だって他国で出来るわい!


の精神で頑張ります。



赤い絨毯、壁の絵画、廊下の甲冑


王様だ、王様の城だ…


〈帰りたい。〉


ついに謁見の間に通された。


貴族ッポイ方々がいっぱい並んでいる…


そして、


「国王陛下の御成ぃぃぃぃ!」


との声が響き、


あらかじめ練習していた通りに頭を下げる俺、


「えー、国王のカイル・フォン・ミスティです。

皆さん楽にして。


君が使徒君?小さいのに大変だね。

俺も大変かもって思ったけど、君に比べたら楽なんだろうな。


あっ、立ってるのしんどくない?

皆、座ろうよ。」


と…


王様を見てビックリした…

なぜだって?


〈坊やだからさ。〉


と、言っても俺より先輩で、10歳ぐらいかな?


でも、王様だってよ。


と、露骨に驚いている俺に、


「子供で驚いたでしょ?

三ヶ月前から王様になりました。


君がアルド君でしょ?聞いてるよ。


あのね、

父上が咳が出る病になり、もう、長くないと、診断されてね。

そんななかで、あの信託を聞いて、勇者様のお役に立てない自分のより次の世代に1日でも早くと、

言われて、王位を私に譲られたんだ。」


へぇー、そうなんだぁ…

急に生活が一変するの大変だよね。


なんて、思って聞いていたら、


「でも、君にお礼を言わなければいけないんだ。

君の村からの名義で、お薬くれたでしょ。


あれで、父上が元気になったんだ。


心からお礼を…


本当にありがとうございました。」


頭を下げる王様。


俺は、慌てて、


「どうか、お顔を上げて下さい。」


と、俺が言うのと、同時に、


「この様な爵位もなにもない平民に、王が頭を下げるなど!!」


と、言ってくる油ギッシュなおっさん。


王様は、


「控えよ!


私は、歳や身分は、ただの くじ運だと思っている。


教えを乞う相手には尊敬を、


助けて貰えば感謝を、


そして、間違えを犯せば謝罪もする。」


おっ、子供が王様で心配したけど、

この王様なら大丈夫だな。


と感心する俺をよそに、


王様は続ける。


「爵位のない平民に頭を下げるな

というのなら、文部大臣。


お主の連れてきた家庭教師の先生に、私は毎日何度も頭をさげておるぞ?


先生も確か平民だと話されておったぞ。」


子供に言い負かされたからか、恥ずかしいからか、

この頭悪そうな油田フェイスが

顔を真っ赤にしている。

こんなんでも、文部大臣さんらしい…


大丈夫かこの国の学力…


「お言葉ですが王よ。


彼の者は、王と同じ歳で在りながら王都の名門高等学園を飛び級入学と卒業をした天才、


この様な学も無さそうな者と一緒にしてはなりません!!」


〈なんだこいつ、

あん?やんのか?

えぇ!〉


と、思って大臣を見ていたら


王様の並びの端、甘いマスクのイケオジが立ち上がり


「黙らぬか大臣!


余の命の恩人になんたる失礼を…


在位中であれば即刻爵位を取り上げてソチも平民にし、頭を冷やさせるところだ!」


〈あぁ、前の王様ね…王様パパだ。〉


と理解したが、王様は、


「父上、今日は静かに見てるんでしょ?」


と、しっかりしたお子さまをお持ちで、

良かったね王様パパ…


すると、


王様パパは、「すまぬ。」と言って席についた


王様は、


「文部大臣よ、私も父上と同じく怒りを感じておる。


だが、功績の有る父上ならいざ知らず、


気にくわないだけで、爵位を取り上げれば、暴君などと、後ろ指を差されよう。


そこで、


大臣が天才と呼ぶ先生と、

こちらのアルド君に知恵比べをしてもらい、


アルド君が勝ったら

大臣を止めて何処かの田舎に引っ込んで貰うよ。


いいね。」


と…


王様?

何、急に面倒臭いイベントを開始してるの?


強制?強制イベントなの?


と、慌てる俺に、


「はっはっは、

王よ、彼の者が負ければ王の指示に従いますが、


私が勝ったら如何します?」


と、ニャリとする油田顔大臣に、


待ってましたとばかりに、王様が、


「先生が勝てば、そちに謝罪した上で、何でも好きな物を一つくれてやろう。」


と答える。


益々油田顔がニヤつき、


「何でもですね。承知しました。

では、知恵比べは、得点が分かりやすい


算術ですね。」


と、悪い笑顔で 算術 を持ち出す大臣…


〈多分対戦相手の得意な科目なんだろうな…〉


王様がその言葉を聞き、


「うむ!」と頷くと、


「これよりこの場にて、算術 勝負をおこなう!


皆のものは証人として立ち会うように!」


と、宣言した。


〈あぁ、やるんだ。

マジで?

王様?その勝負 俺 やらなきゃダメ?〉


と、少しブルーになっていると、



王様が、


「誰か、コートニー先生を連れて参れ!!」


と指示をだした。



〈ん?…コートニー…君?〉

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