第75話 喋る犬シロちゃん

躾の悪い犬を懲らしめ、現在、犬っコロ状態の〈神獣さん〉に尋問をしております。



「で、何で攻撃したんですか?」


と、俺が質問すると、目を泳がせながら、


「えーっと、我慢が出来なかったから?」


と、何故か疑問形で答える犬っコロ…


「じゃあ、質問を変えるよ、君は誰で何でここに居て何をする予定なのかな?


態度や返答次第では短い付き合いになります。


わかる?」


と、俺が伝えると、〈ビクッ〉っとする犬っコロは、


「えーっと、私は狩神リバー様の眷属で、

フェンリル の シロです。」


〈眷属さん…あぁ、クロネコの仕事仲間かな?〉


と納得しながらも、


「で、そのシロ犬のノラはなんでこんな所に?」


と、詳しい説明を求める…


「フェンリルのシロですが…


えーっと、よく分からないですが、ご主人様の妹 タマ様のボディーガードだったはずなのですけど、何故か力が体に漲りまして、獣の神様的な力に飲み込まれてしまい、タマ様にここにに閉じ込められました。」


と、〈しょんぼり〉しながら話すシロ犬なのだが…さっぱり解らん…


「シロは昔から閉じ込められるほど狂暴だったの?」


と、質問する俺に


「私は、狩人のお供だから戦うこともあるけど、なんであんなに力が欲しくて、力を試したかったか自分でも不思議です。」


と、白犬は素直に答えてるみたいだが…


〈よく分からない、困った…〉


困った時の鑑定先生!


「精霊 フェンリル レベル 1」

「個体名 シロ」

「破壊神の呪い」

(破壊の神の力を借りる事が出来るが、徐々に破壊衝動に飲み込まれてしまう。)


〈うん、呪われてるね…〈狂暴性〉を濾しとって良かった…

呪いもヤバそうだから、濾しとっとこ〉


と決めて、俺は濾過ポイを出してシロに近づいく…


すると、


〈じょわぁぁぁぁぁ。〉


っとシロが恐怖のあまりチビり始める…


要らぬトラウマをプレゼントしたらしい。


俺は、焦りながら、


「シロ、何故か呪われてるから、動いちゃ駄目だしチビらないで!」


と説明すると、


〈のろい?〉と驚きながらも、〈ガタカダ〉震えつつ、「はい!」と返事をして目をつむるシロ…


〈余程、色々なモノを濾しとられたのが怖かったのだろう…しかし、なぜか俺が、罪悪感を感じるので、雨に濡れた子犬の様に小刻みに震えないで欲しい…〉


俺が、濾過ポイで濾しとると、黒紫のカードが出てきたのを確認して、


俺はシロに


「もう暴れない?」


と聞くとコクりと頷いた。


〈ならば〉と俺は、「経験値」と「加護」を返す事にした。


カードを噛って割りにょきにょき育つ子犬は、立派な狼に戻ると、


「あのー、スキルの方は…?」


と心配に聞くシロに、


「全部済んだらね。」


と約束してあげた。


そしてシロに、


「リバー様にお話聞きたいからお願い。

加護で好きなときお話出来るんでしょ?」

と俺が言うと、


シロは、コクりと頷いたのち大声で、


「リバーさまぁー!」


と叫ぶと、


「なんだぁーい?」


と、すぐに返事がきた。


〈仲良しか!〉


とツッコミたい気持ちをおさえていると、


「リバー様、お客様です。」


とシロが俺を紹介してくれた…


「誰がいる?


…わ、私は、狩人の祖 狩神 リバー である。」


〈あっ、キャラ作った…〉


と、思ったがあえてリアクションせずに俺は、


「直にお話させて頂くのは初めてで御座いますが、以前お手紙を頂きました。


アルドと申します。」


と大人な対応で挨拶をした。


すると、リバー様は、


「なんだぁ、アルド君かぁ。


緊張して損したよ。


そうそう!ありがとうね。

最近急にお祈りが沢山届くんだよぉ、

凄いね、何したの?」


と、フランクなリバー様に、


「何もしていませんよ、怪我で引退した狩人の長にフルポーションをあげて、


〈リバー様の名のもと狩人たちをまとめて人々を守ってあげて。〉


とお願いしただけですよ。」


と答えると、


「ラドル君だったかな?

凄く熱心に祈ってくれるんだよ。


ヨロシク伝えといてね。


で、今日はなに?」


と、リバーさんが聞いてきたから正直に、


「お宅のワンちゃん、呪われてましたよ。」


と教えてあげた。


「シロは?シロは大丈夫なんだよね?」


慌てるリバー様に


「呪いを濾しとったから大丈夫だけど何で呪われたか解らないみたいです。」


と報告する俺にリバー様は、


「誰だ、ウチの可愛いシロちゃんを呪った野郎は…」


と、お怒りだ。


「リバー様、シロ君は破壊神の呪いで気性の荒い神獣になり、妹さんに監禁されておりました。」


と、俺が正直に報告すると、


「シロ!駄目じゃないか!

タマちゃんが狙われたらどうするの!


めっ」


とリバー様に叱られたシロは、尻尾を股に巻き込みシュンとなっている。


俺は、


「リバー様、神様も呪われたりするんですね。」


と聞くと、


「呪いは心の隙をつけば神にも効くよ。」


と言うので、


「リバー様、おれの勝手なイメージと言うか元からなら仕方ないのですが、」


と俺が切り出すと、


「なんだい?」


とリバー様が聞く。


俺は、リバー様ならば昔からの事を知って居るかもしれないので、素朴な質問を投げ掛けた。


「主神様ってあまりにも心が狭くない?


人の子の勝手なイメージですが、


神様というには考えも浅い様ですし…昔からですか?」


と…


リバー様は〈うーん〉と悩みながら、


「昔から大体あんな感じだからなぁ…」


と、答える。


〈昔からかぁ~い!〉


とツッコミたいが、昔からにしても、〈神様〉があんなミクロサイズの器の精神なのはおかしいと思い、


「もしかして、昔から何かしらの呪いの影響があったのでは? 」


と聞くと、


リバー様が唸りながら


「もしかして!…いやいや…神界で?…まさかぁ…でもなぁ…」


と、悩んでいる様子なので、


俺は、


「リバー様、よろしければ、メリス様とマイス様に相談して頂けませんか?


もしかして、ダザールさんも何がされてるかもしれないと言っておいてください。


数百年平和に魔族を導いてきたのに、ここ数十年でいきなりの〈方針転換〉で領土拡大に踏み切ったのも気になります。


リバー様が頼りですのでヨロシク。」


と言うと、


「アルド君、暫くシロを預かって。」


とリバー様がお願いしたきた…俺は、


「妹様は良いので?」


と質問したが、


「監禁されて役に立ってなかったから、今さらだよ。


それに、シロちゃんが何が原因で呪われたかも解らないから…また呪われちゃっても、アルド君が居たら大丈夫でしょ?」


とリバー様は笑っていた。



〈はぁ~…〉と渋々了解したが、


きな臭いことになってしまった…


それと、お供に犬を貸し出される事に成ったが、


〈キバさんとキャラが被るなぁ~〉


などと考えながら


現在、レベル300以上あるシロちゃんは、神獣の力と攻撃スキルを取り戻したうえで、再び子犬サイズになっている…


そして、二人で半球体のバリアに守られた転移陣を眺めてお話中です。


「ねぇ、シロちゃん?」


「なぁに、お兄さん。」


…なぜ、俺が「お兄さん」呼びかというと、「ご主人様はリバー様だから!」とシロが呼び方を悩んだ結果、教育番組風になってしまっただけです…気にしないでね。



「シロちゃん、コレが有るから転移陣が使えないよ。」


と、半球体をコンコンっとノックしながら俺がボヤく。


「そうなんだよ、お兄さん。

タマ様がダンジョンの力で塞いじゃったんだぁ~、

酷いよね。」


と、シロちゃんは、ほっぺを膨らましながら文句を言っているが、


〈100%自業自得である。〉


俺が、


「暴れたシロちゃんが悪いよ。


メッ!ってされるほど暴れたんでしょ?」


と、ため息まじりで言うと、


シロはシュンとしてるが、


俺もへこんでいる…


なぜなら、何をしても転移陣が使えないからなのである…


「これ、シロを倒さないと開かないのかなぁ?」


と、俺が呟く声を聞いて、シロがなき出した…


勿論、〈ワオーン〉でなくて、〈ビエェーン〉のほうである。


「嫌だよぅ、良い子にするよぅ。

痛いの嫌だよー!出たいよぉぉぉ!!」


と、バリアにしがみつきながらグズっている子犬…


神様の眷属って、どいつもこいつも頼り無いヤツばかりなのかな?


と呆れながら見ていると、


シロの涙の一滴がガラスの様な半球体のバリアに当たった、


その時、


〈半球体が光り、空間に溶けて…消えた…〉


俺もシロも唖然としてしまう…


何時間も閉じ込められた俺でさえ出会った事のない感情が溢れているが、


たぶん何百年…下手をしたら千年単位で閉じ込められたシロはもっとグチャグチャな感情だろうと思えば気の毒になる…


二人抱き合い暫し泣いた後に、

転移陣で、二人仲良く部屋から出た。



そして、

俺達は、迷路エリアっぽい場所に立っていたが、


〈情報がない…〉


慌てて、〈万能サーチ〉で辺りを確認すると、79階層で、敵が全く居ない状態だった。


「皆がデストロイした後かな。」


と呟く…


〈魔物に襲われる心配は、とりあえずないな…〉


と、安心した俺はミレディさんに念話で呼び掛ける


〈ミレディさぁ~ん!〉


と心の中で呼ぶと、


「はぁ~い。」


と…早い、流石はベテラン盗聴娘だ。


感心しながらも俺は、


「出れました。ゴーレムチームは今どこですか?」


とミレディさんに質問したら、


「90階層ボス部屋でサブマスターのウィリアムさんとシルバー・キバ・ファルが仲良しに成ったデス。

皆でおしゃべりしていマスよ。」


と、報告してくれた。


俺は、シロちゃんに、


「ウィリアムさんて?」


と聞くと、


「タマ様の旦那さんです。」


と教えてくれた。


〈へぇ~〉っと思っていると、


「誰デス?そこに誰かいるデスか?!」


とミレディさんが食い付く、


俺は、


「うーんと、神様のペットで、預かりフェンリル?かな。」


と、説明すると、


ミレディさんから、


「良かっデス。マスターは目を離すとすぐ嫁候補を拾ってくるデスから。」


と…


俺は、


「嫁を拾うって人聞きの悪い!


俺がいつ嫁候補を拾って…」


と抗議するが…


あるなぁ…アサダの街に寄ってステラさんから〈惚れさせる宣言〉を受けたな…


〈俺、前科持ちでした。〉


「まぁまぁ、ミレディさん…


フェンリルのシロさんは狼さんだよ?」


と、念話しながらチラッと見ると、あっちはあっちで飼い主と〈出られたよぉ~〉とお話している。


「兎に角、皆の所まで進むから、待っててよ。」


とミレディさんに話をしていたら、


「えっ?良いの!?」とか「やったぁ!」


とか、シロちゃんが飼い主と話している。


〈なんだろうか?〉


と気にしていると、


「どうしましたか?マスター。」


と、あまり喋らない俺をミレディさんが心配しだす。


俺は、


「ん? さっき言っていたシロさんが、飼い主専用念話でお話してるんだけど…」


とミレディに説明をしてたら、


「聞いてみるね!」


と、言いながらシロちゃんが走って来た。


「パパが良いって!」


〈なにが?〉と首を傾げていると、


リバー様の声が聞こえた。


「アルドくん、ウチのシロちゃんが、私を倒したアルドくんの嫁に行きたいってお願いされたからOKしたよ。


いゃあ、子供フェンリルの頃からシロちゃんを見てるけど、こんなに真剣にお願いされたのは初めてだよ。


パパびっくりでちゅ。」


と…


あぁ、リバー様はペットに赤ちゃん言葉タイプの飼い主だ…


〈って、そうじゃねぇ!〉


俺は、現実逃避しそうな己を必死で繋ぎ止め、


「リバー様?話が全く見えませんが…」


と説明を希望した。


リバー様は、


「えっ、狼のメスが強いオスに惚れるのは普通だよ?」


と、〈当たり前ですが?〉みたいなテンションで答える…


〈シロちゃんはメスだったらしい…〉


いやいや、問題はそこではない!


「でも、嫁ってなんです?

シロちゃんはフェンリルさんですよね!」


と抗議する俺に、


「なに言ってるの、ゴーレムとイチャイチャするセンスの人間とは思えない発言だよ。」


と、呆れ声のリバー様と、ぐうの音も出ない俺…。


「ダメ…?」


と涙目のシロちゃん…


「アルドくん、連絡役にシロちゃんが付いて行くのは決定だし、何よりシロちゃんが嫁に行きたがってるんだよ。


あと心配ならシロちゃんは獣人に変身できるから!


頼むよアルド君

ウチのシロちゃんを幸せにしてやってくれよ。


パパとしては、神界から助けに行けなかった〈閉じ込められた娘〉を解放してくれたアルドくんに感謝してるんだ。


君だから嫁に出すんだよ。


それに、フェンリルは子供さえ作ってくれたらオスは子育てに参加しなくても立派に母親だけで育てあげるから、


特に養わなくてもギリギリ大丈夫だから…」


と、ゴリ押ししてくる…



俺は、頭が真っ白である…


「マスター!マスター!!」


と呼ぶミレディさんの声で我にかえって、


「ミレディさん…。


拾っちゃいました。」


とだけ、報告した…


なんか、ミレディさんが騒いでいるが、


とりあえず置いといて、


リバー様に、


「婚約者に了解を取った後になりますね、

返事は…」


と答えたが、


「シロちゃん、アルドくんのお嫁さんにしっかりお願いして仲間に入れてもらうんだよ。」


と優しく声をかけるリバー様


「はい!パパ。


私頑張ります!」


と答えるシロちゃん。



早く皆を探して弁明…いや説明せねば、

今頃ミレディさんのネットワークで、あらぬ俺の噂が流れているだろう。




急がねば!!

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