第14話 旅立つ前に出来る事


旅立つのに先駆けて、何も用意が出来ていません。


まず、戦闘出来るスキルか技能を学ばなければ、村の周りの魔物も倒せない…


〈実に困った。〉


二週間有るからスキルの一つでも生やせれば良いのだけど…


と、悩んだ結果、


〈思いつきました!〉


狩人の ロルフ さんです。

何も今から弓を習おうとかではないのです。


罠の作り方とサバイバル術ならスキルに関係なく、単純な「知識」で手に入る能力だ。


そうと決まれば、


〈ご近所さんのよしみで教えて貰おう。〉


と、早速やってきましたお隣さん。


「ごめんくださぁーい。

ロルフさーん、お願いがありまーす。」


と、元気良く玄関先から声を掛ける…

中から出てくるロルフさんは俺をみるなり、


「お、おう…。

坊主、大変な、ぶゎっ、だぃべんばごとにぃぃぃ…」


と、崩れおちる。


朝から号泣である…


〈ちょっと引くわぁー。〉


ロルフさんは歩き始めの子供の様にへっぴり腰で近付き、俺の肩をパシパシしながらひとしきり泣いた。


…暫くして少し落ち着いたロルフさんは、


「神様もひでぇ事をなさる。


何か分からない理由が在るんだろうが、こんなチビに大役を与えなさってよぉ~。


聞けば、とうちゃん、かぁちゃんと離れて旅に出るんだろ?

何年も何十年も掛かるらしいじゃねぇか、


可哀想によぉ。」


と、再び泣いてくれた。


〈心配してくれてたんだ、有り難う…

そして、ちょっと引いたのは、ゴメン。〉


と、心の中で伝えてから、


「心配して頂き有り難うございます。

お役目なので、頑張ってきます。」


と、答えると、


「お前ってやづわよぉおぉぅうぉうぉォォ」


と、また泣いた。


〈こんなキャラだったっけ?〉


角ウサギの肉を「ホラよ、いっぱい食えよ坊主。」

って投げてよこす、ワイルドダンディーなおっちゃん…だったのに。


やっと落ち着いて話ができる様になったロルフさんに、


罠で獲物を取る方法とサバイバル術を教えて欲しいとお願いした。


ロルフさんは「任せとけ、腹ペコで死なない様に罠の極意を特別に教えてやる!」


と、やる気バリバリで準備をはじめて、すぐに二人で村のを出て30分位の森に来ている。


ここでロルフさんにロープワークや小型、中型の魔物用のくくり罠(足がキュッとしまって逃げられないヤツ)

あと、大型の魔物用の落とし穴を教わった。


あとは、繰り返して体で覚えるらしい。


そして、


「何匹か捕まえたら罠士のスキルが生えるさ」


と、教えてくれた。


村への帰り道で、前の日にロルフさんが仕掛けた くくり罠 に 跳ね鹿 というジャンプ力が凄い魔物が掛かっていた。


ロルフさんが、


「坊主、オイラからの選別だ、アイツを殺ってみろ。」


えっ殺すの?武器ないよ?


そう思っていたらロルフさんが、鉈を渡していた。


「これで、殺るんですか?」


と聞くと、


「違う違う、アイツは脚力がすげぇから出来る限り近付くなよ、この鉈で、ソコの竹を斜めに切れ。


その竹は魔竹といって斬り倒したあと、魔力を流したら少しの間硬くなる変な竹だ。


それで、グサッと離れた所からやっちまえ。」


とアドバイスをくれた。


力を込めて振り下ろした鉈は想像よりもスッと竹に吸い込まれ、難なく切断した。


えっ?と驚いていると、ロルフさんはちょいちょいと指さし

長すぎるから反対側も切り落とせと指示をくれた。


そして、枝も払い、竹槍兵の一丁あがりである。


ロルフさんは、


「苦しませるな、ヤツにも悪いし、肉も不味くなる。一発で胸を貫け。」


とだけ言って背中をポンと押す…


森の中で鹿と相対する俺。


危険を察知したのか後ろ足がロープで吊り上げられているが、構わすジャンプして俺を倒そうとする。


跳ね上がり、俺の目の前に全体重を掛けた角が迫る…


縄のお陰で射程外だが、怖いものは怖い、

森でバッタリ出くわしたくない相手だ。


俺は、静かに竹に魔力を流し、

ロープで後ろ足を取られて失速した跳ね鹿のフサフサ白い胸毛めがけて、竹槍を沈めた。


ピロリン

と電子音が頭に響いた…

レベルが上がったのであろう。


何とも言えない感情と手の震えが、一歩を踏み出したことを告げていた…


その後、血抜きの方法を教えてもらい鹿をアイテムボックスへ収納して、村へと帰る。


村の肉屋さんに鹿を売ると、銀貨数枚になった。


その銀貨をロルフさんは俺に渡して、

「坊主の初めての獲物だ坊主が貰っとけ!」

と、言ってきた。


そして、肉の塊を差し出し、

「ちょっとだけ買い戻した。

とうちゃんとかぁちゃんに食わせてやれ。


初めての獲物だから散々自慢してやれよ。」


と…


良い人だ、俺の周りは優しさで溢れている。


「有り難うございました。ロルフ先生!」


と感謝を伝えると、〈ブワッ〉と涙が溢れだした。


…ロルフさんの目にだけど…



その夜、家族で食べた肉は、滅茶苦茶美味しかったです。




ー 数日後の朝 ー



清々しい朝の日差しを浴びながら、


むしろ、気分はドンヨリ、ドヨドヨとして、


朝日を浴びて無理やりテンションを上げている真っ最中なのです…


理由は、主神様の手紙以降バタバタしていて忘れていた、残りの手紙を昨晩読んだからです。


手元の手紙は三通あり、


1つ目は婆さん神から、


もう一つは、技術神様から


最後は加害者こと 勇者の 天野 勇 君から


である。


暫く考えた上で、


〈もう、上から順番にやっつけよう!〉


と、決めて、まず、婆さん神の手紙から開封していく、


便箋に丁寧な文字で、


『小山 隆史殿


いつぞやは、大変失礼をいたしました。

激務に追われ気が立っておったと言えば言い訳に成ります。


大変申し訳ありませんでした。


さて、謝罪のあとに、重ねて謝らなければならない事態になったことが起きてしまいました。


アノようなスキルしか渡さずに送り出したにも関わらず、

主神様のお考えで、貴方様に大変な使命を受けて頂くことに成ってしまいましたこと、深くお詫び申します。


つきましては、学神に無理をいって、貴方様のスキルと相性の良いのスキルを送ります。


追伸、手紙の中に、カードが入っていますが、

くれぐれも冒険者ギルドに登録を済ませた後に使用してください

使い方は、近くに人がいない事を確認したのち破けば中のスキルが体に溶け込みます。


貴方様の活躍をお祈りしております。』


丁寧な文面、素直な謝罪…これは、婆さんの偽物だ。


俺は信じない

信じないが、このスキルとやらは貰っておこう


「アイテムボックス。」っと唱えて、スキルカードをしまう。



続けて技能神様とやらの手紙を開封する。


荒っぽい文字で、


「オッス!


初めましてだな、俺は技能神のマイスだ、ヨロシクなっ。


知らなかったとはいえ、数合わせで納品したスキルを引くとはよっぽど運が無いんじゃねえのか?


とはいえ、使徒に与えるスキルにしちゃ…

ちと、だから、今頑張って改造案を捻り出しているから楽しみにしていてくれよな。


改造については、大変だろうが濾過のスキルレベルを最大の5まで上げて待っておいて欲しい、


じゃあ、頑張れよ。」


と、書いて有った。


職人っぽい神様なんだなぁ…


〈改造かぁ〉楽しみだが、レベル上げは大変そうだな…


そして、


最後は、勇者 天野君だ。


?何か分厚くない?

小さめの封筒だがミッチミチに中身が入っている


中を確かめたら便箋が10枚位と、指輪が入っていた。


『ご無沙汰しております。


ここには、季節もなく代わり映えのない毎日をただ、償いのためにひたすら黙々と、ただ黙々と、修業に打ち込んでおります。


被害を与えてしまった貴方に少しでも喜んで頂たくて、提案したことが、返って貴方に過酷な使命を背負わせることに成るとは…


罪を背負い、人々の為に戦うのは私だけでいい…

私だけで、


神に〈何卒…〉と懇願しても、私のような者では何一つ変える事がでない現状を苦々しく思っております…


何か、こんな、糞虫のような罪人の私にも、被害にあわせてしまった貴方様の力になれないか?………




云々 』



〈獄中からの手紙か!!〉


勇者メンタル削られてるなぁ、

ハードスケジュールなんじゃない?


読んでるだけで、こっちのメンタルも削られる…


主神様、勇者の納期早めるって言ってたけど、大丈夫か?


〈で、この指輪はなんだろう?〉


と、気になるが、


もう、続き読むのしんどいよ…精神的に…


でも、指輪…気になるし…


〈読むか!〉


と、決めて、細かい字でミッチミチに書いてある12枚の便箋をぜんぶ読んだ。


〈もう、コッチの心まで壊れそうでした。〉


最後の一枚は、ミスティル文字で、治癒神様からのメモが入っていました。


メモによると、指輪はレベル200迄の使用者の獲得経験値の上昇と、スキル習得及び成長率上昇の加護が付与された神器です。使って下さい

尚、勇者さんは、先程私がお薬盛っておきましたから、明日には辛さから解放されるでしょう。


頑張って下さい。 治癒神 メディカ


とかいて有った。


…最後の一枚だけで良かったな…読むの。


何か凄い指輪をもらった。勇者の手紙にレベル500近いって書いてあったから、レベル200迄の使用者用の指輪はもういらないのかな?


では、有り難く貰っておこう。


少し大きいかなぁ?と思いつつ指輪を人差し指にはめる俺…。

指輪がシュッと縮みジャストサイズになる。


これ、面倒臭がらず前の晩に開けておけば、跳ね鹿の経験値もアップしてたのに

しくじった。



にしても、大丈夫かな勇者君…変なお薬処方されてるみたいだし…正規の服役よりキツくない?


なんか…可哀想…



そして、


全て読み終えたら明け方でした。

闇落ち勇者の獄中手記のせいで、今から寝ても悪夢を見そうだから、6歳にはキツいが徹夜で変なテンションです。


よし、落とし穴の罠の為の穴掘りの練習をターニャママにお願いしよう!


もう、体を動かし余計なことを考えたくない一心で、


スコップを片手に早朝からランドコッコのお世話をしているターニャちゃん一家のもとへ


ターニャママから餌やりを手伝ったら、この後穴ほりの稽古をつけてくれると云うので、交渉成立である。



ランドコッコに餌をやり、ついでのサービスで小屋の掃除も済ませて、


前回と同じ広場で、穴掘り特訓です。


ターニャママが、シルフィーさんが、「師匠」と呼ばれているのが羨ましいらしく、


「私は?私は?」


とワクワクしながら聞いてくる。


では、

「お願いします。監督!!」


と、呼ぶと、


パァっと顔の周りにお花が咲いた様な笑顔で、


「わたし頑張っちゃうぞぉ~。」


と、張り切ってくれた…



ターニャママの穴掘り講座はスパルタでしたが、

的確な指示と豊富な知識で穴掘り指導をしてもらい、


罠サイズの穴を5つ掘った所で、


ピロリン


と、何かが起こった音がした。


朝御飯を食べに帰ったらパパさんにまた、井戸で丸洗いされて、さっぱりしたら寝てしまった様子。


気づけば、昼過ぎに


「物凄く知ってる天井だ。」


と、呟く俺がいた。

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