第12話 土下座猫と終わる平穏

幸せムードが台無しになり、

怒りの表情で猫を睨む俺…


パパさんが、気を利かせて、


「で、精霊さまは、どういったいご用向きで、我が家へ?」


と、質問する。


黒猫は睨む俺からそっと視線を外し、パパさんに向き直り、


「申し遅れましたニャ、


ニャァは商神 フク 様の眷属で精霊 ケットシーのクロと申しますニャ


今後ともヨロシク!ニャ。」


〈おい、ドコの館で合体させられたんだよお前は。〉


と考えているが、ここにいる誰も分からないだろうからスルーしておく…


クロネコが、


「神様と勇者さんからの手紙を届けにきたのニャァ。」


と告げると、


パパさんもママさんも〈神様〉と〈勇者〉と聞き、緊張から少し青くなる。


パパさんは恐る恐る、


「神様から手紙…。

精霊さま、アルドはいったいどの様な使命を背負っているのでしょう?

なぜアルドは…異世界より使わされたのですか?」


と質問すると、


〈どこまで話すかどう話すか?〉と

「うーん、うーん?」と首を右へ左へと倒しながら暫く考えるクロネコに、


パパさんもママさんも席に戻り回答を待つ。


そして、


黒猫は静かに語りだす…


「あれは、悲しい出来事だったニャ。


異世界で、不運に不運が重なって起こってしまった…」


〈はぁ?何を他人事みたいに語ってるんだよ!!〉


感動をぶち壊された怒りも相まって、気が付けば俺は、黒猫の胸ぐらを掴んでいた。


「おん?」


と詰め寄ると、


今度は糞黒猫の顔が真っ青になる。


俺は、〈丁寧〉な口調で、


「ちゃんと、細部まで包み隠さず説明しよっか。

ク、ロ、さ、ん!!」


と、心からの〈お願い〉をすると、


歯がカチカチ鳴り出す糞猫。


見兼ねたママさんが、


「アルド、一旦精霊様を離してあげたら?」


と提案する…


ママさんに言われて一旦離してやる。


〈チッ…ド糞猫が!〉


と殺意をこめつつ、ゆっくり手を離してやると、


ねじりハチマキを外し、何かを決めた様子で、

スッと立ち上がるクロ、


俺の家族が見守る中、後ろを向き三歩ほど下がり、

再びコチラを向くと…



ズザザザザァァァァァ!


「申し訳御座いませんでしたニャァァァァァ!!」


と…それは、


初めて見るスライディング土下座でした。


なぜか美しいさを感じた見事な土下座に、

両親はキョトン?としたまま眺めている。


しかし、


全ての罪をゲロすると決めた猫は止まらない。


「全ては、ニャァが悪いのニャァ!

異世界で、お使いの最中に毛並みの綺麗なメスを見つけて

ボーッとして、ミスを犯しましたニャァ!!


其が原因で、何の罪もない勇者さんと前世のご子息を死なせてしまいましたニャァァァァァ!!!」


スッと顔を上げ


「心よりお詫び申し上げますニャァ…本当に、」


両手を付き直し再び額をつけて、


「大変申し訳御座いませんでしたニャァァァァァ!」


〈ババァーン〉と効果音が聴こえてきそうな土下座でした。


土下座のままのクロに、パパさんは優しく、


「アルドと勇者様はなぜ死んだんですか?精霊様。」


と、たずねると、


包み隠さず告白して落ち着いたのか、

クロは、顔を上げ正座のまま答え始める。


「勇者さんは異世界の大きな馬車に轢かれたニャ。

息子さんは、勇者さんのお弁当箱が頭に当たって死んでしまったニャァ。」


ママさんが、聞き間違えかと念を押す。


「せ、精霊様?

お弁当箱って、森とか遠出するときの?

あの〈お弁当箱〉ですか?」


と…


〈そうだよね。ママさん…弁当箱だよ…


嘘みたいだろ…、死んでるんだよ…俺。〉


と遠い目をする俺をよそに、


「そうニャ。

そのお弁当箱の何倍も大きくて、硬くて、重い

勇者さんのお弁当箱だニャァ。」


と説明するクロネコに、


〈もしかすると〉と、何か閃いたパパが質問する。


「降臨される勇者様は巨人族の方かナニかですか?」


と…


しかし、ネコは、


「違うニャよ、異世界の普通の人族ニャ。


異世界で死んだけど神様達が長い時間かけて治したニャァ。


今も神界で修行中ニャ、

でも、武神様が言ってたけど、


〈今でもミスティル史上一番強い〉


らしいニャァ。」


との説明を受けるが、


パパさんは、「はあ。」と言ってるが、ピンと来てない様子。


続けてママさんが、


「アルドは一緒に死んだのに生き返らずにミスティルに産まれてきたのは何か特別な使命があったからなのでしょう?


覚悟は出来ております。

どうか教えて頂けないでしょうか。」


と、真剣な表情で聞くと、


クロネコは質問の意味が解らない様子で、ちょっと考えた後に、


「????。


ないニャ。死んだ時の異世界側のルールで、生き返えれないから慰謝料代わりの転生ニャ。


勇者さんのお手伝いをする約束で、サービスの鑑定とアイテムボックスのスキルを貰う交換条件ニャァ。


勇者さんはバカ強いから特に手伝いはいらニャいよ。」


と、発表する…


〈あっ、パパさんもママさんもガッカリしてるよ。〉


ドラマチックでなくてごめんね…


〈パパさん、ママさん、なんか死んだ目をしてるよ…〉


何かごめんて、帰ってきてよぉぉぉぉぉ!




綺麗さっぱり告白して、スッキリしているクロ


対照的にモヤモヤしている両親


急に居づらくなった俺。




長い沈黙の後に、


クロが、


「そうニャ、主神様からの手紙を読むニャ」


と言い出す。


〈ほへ?〉っと首を傾げる俺に、


「さっき渡した中のちょっと大きなやつが

主神様の手紙ニャァ


早めに読むように言われてたニャァ!」


と、大事な指示を思い出した様で、騒いでいる…


〈そういう所だぞ…クロ…お前の信用の無さは…〉


俺は、テーブルの上から一際大きなソレを手に取った。


〈これですかい?〉


と思いながら再び両親を見ると…


何か両親が微妙な顔をしたままです…

良かった様な、悪かった様な。

でも、思ってたのと違うなぁー

って顔を…


何かゴメン

死んだのも転生したのも

しょうもない理由で…。



でも、事実だから仕方がない。

少し空気が澱んでいるが、気を取り直して、

主神様からの手紙を読むことにした…


「パパさん、ママさん、

主神様からのお手紙読んでいい?」


と聞くと、


思考が止まった様に、コクコクと頷いて返事する両親


〈許し〉が出たので封筒を開けようとする俺…


何か西洋チックな蝋で封がしてあるタイプの手紙だ。


〈どうやって開けるの?〉


とキョロキョロして困っていると、パパさんがナイフを貸してくれた。


〈えっ、ナイフあったんだ。〉


二週間前に貸してくれれば、料理スキルではなく短剣スキルが生えていただろう…


〈うん、間の悪いのは何時もの事。〉


と、気を取り直し改めて開封を行う


出てきたのは、数枚の便箋とオハジキの様なガラス…かな?


とりあえず便箋に目をやると日本語で書いてあった。

物凄く美文字だよ主神様。


『拝啓

とかから書き始め季節の事等に触れるのが君の国マナーとは知っていますが、面倒なので要件に入らせてください。


さて、初めまして 小山 隆史 君 ミスティルの主神をしている者です。名前は在りません、なぜならミスティルでは格上の者からしか名付けが出来ないルールなので、一番格上の私は名前が在りません。

だから、気軽に主神と呼んで下さい。


さて、フクさん から聞いていますが、慰謝料代わりに転生して自由に暮らす予定でミスティルに来られたのは把握して居ります。

が、大変心苦しいのですが、お力を貸して頂きたい事態が発生してしまいました。


詳しいお話は、またにさせて頂きたいのですが、勇者君が、20いや頑張れば15年位で、神を超える勇者になる予定で、訓練しています。


なので、この機会に、


魔王軍というかアホ息子のダザールを私のミスティルから叩き出そうと決めました。


愚息には、傘下の魔族と一緒に魔族領と勝手に言っている大地の一部も付けて新しく作った異世界に島ごと流しの刑にします。


エメロードとガイラの二人も坊っちゃんを止められなかった自分達も同罪だ、と 一緒に付いていくと言っておる。


あのアホには勿体ない腹心ならぬ、副神だよ。

本当に…


ちなみにアホは魔神でなく最近では邪神と呼んでいます。

特に意味はないけど、アホの愚息が嫌がるから。


愚痴っぽくなって悪いね…


ゆるして。


其でね、君には別動隊になって欲しいんだ、


勇者君にドンパチやってもらい魔王軍を魔族領に押し込めるから君には各地のメインダンジョンを攻略して欲しい。


ダンジョンマスターを倒してダンジョン核を使って地脈を操作して欲しいんだ。


多分シバいて負かしたら言うことを聞くと思うからお願い。


アホの愚息の領土からマナを根こそぎ抜きとり、

〈島ごと流し〉の影響がモロに出るようにして欲しいのです。


バカンス気分でミスティルにきたのに使命を背負う使徒になって貰うのは本当に申し訳ないと思っているので、


プレゼントを用意させているから、楽しみにしていて欲しい…


期限は最大で二十年…


強くなって六ヶ所のメインダンジョンを踏破する。


これが君へのミッションに成ります。


ヨロシクお願いね。


尚、同封の石は神託が入っています。魔力を込めれば何回でも使えるよ。


ついでに拒否権もないよ。


勇者君は一人でダンジョン攻略も平行して出来ないし


困った、困った…


困った時は助ける約束だよね?


では、君の頑張りを期待しています。


追伸、クロは定期便で通わせるから何か有ったらお手紙頂戴ね。


主神より』



長い長い主神様の手紙を読み終わり

目頭を押さえ悩む俺


〈騙された、完全に騙された…〉


両親心配そうに俺の顔を覗き込み、


パパさんが、


「主神様はなんと?」


と聞くので


「騙されました。

バリバリ大変な使命を押し付けられました…」


と力無く答える俺…


ママさんも心配して、


「どんなの?」


と、聞いてくる…


徐々に涙目になる俺は、


「強くなって世界にある六ヶ所のメインダンジョンの踏破です。


パパさん、ママさん、

神託もうけたんですが、どうしましょう?」


と、訴えるしかなかった…

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