第65話 やっちまったモノは仕方ない
覆水盆に返らず と申しますが、
前世の俺は、死んだのに、お盆に、帰る系の家族サービスもしないで…
本来なら、お盆期間中は、
死因 〈弁当箱〉を笑ったことを恨んで、
家族の枕元で一晩中〈 反復横飛び〉 でも…。
と悔やむアルドです。
しかし、おばぁ様…
もう、糞じじい…いや、ウンコおじぃ様を〈けちょんけちょん〉に言い負かしてしまった後です。
ごめんなさい…
もう、二人の溝は深海魚が生息出来る程に深いのですよ…。
ひきつった笑顔で、
「お祖父様とはもう…。」
とだけ伝える俺に、
はぁ~。と残念そうなため息をつき
「仕方ないですね…。」
と呟くおばぁさま
なんかスンマセン…
〈王様と宰相さんもまとめてお説教したから気まずいので帰ります。〉
と伝えると、シルビアさんが
「えーっ、ユリアーナちゃんと、お別れパーティーする予定だったの…
今夜だけでもゆっくりしていって。」
と言ってくる。
「いゃー、啖呵を切って出て来て、
一緒にパーティーは無いから帰ります。」
と答える俺に
「えーっ、イチゴ有るのに?」
と言ってくる。
〈 実家のオカンか!〉
と思いながらも、チラッとユリアーナさんを見ると、〈イチゴ〉と聞いてソワソワしながら俺を見る。
〈イチゴ好きなんだね…〉
と、ユリアーナさんの好物の情報は手に入った…
〈メイドのお給料とは別にイチゴもボーナスで支給するからね…〉
と思いつつ、
「では、ユリアーナさんは水入らずで、ゆっくりして。
俺は、皆と愛妻号でキャンプするから。」
と告げると、
少し〈しょんぼり〉したユリアーナさんと、
「キャンプだなんて、街の宿を取って1泊すれば?」
と聞くシルビアさんに
「ドワーフを意味もなく蔑む街には居づらいから…。」
というと、皆が寂しそうな顔をするが、シルビアさん達は悪く無い…
俺は、ニッコリ笑い、
「ユリアーナさん明日の昼前には来るから、ゆっくり楽しんで来て。」
と手を振り城を出た。
そして、
シルバーさんの引く愛妻号に乗り近くの森の入り口付近の拓けた場所でキャンプをしたのだが、
その日の晩御飯は、美味しいけど、楽しくなかった…
パパさんのパパさんに怒り過ぎたかもしれない事が引っ掛かり、
寝付きも悪かった…
後味が最悪だと感じたが、もう、どうしようもない…。
しかし、
そんな反省をよそに、夜の静寂を破る輩が現れる…
「ご主人様、囲まれております!」
とのキッド君の言葉で、ようやく旅立ちそうに成った〈眠りの国〉から強制送還された。
「敵は?」
と俺が聞くと、
キッド君は
「数は30程ですが…
半数は既にキバが無力化しております。」
と教えてくれた。
〈まぁ、メインダンジョンを攻略してる俺達が賊程度に遅れを取る訳は無いのだが…〉
俺が、馬車から降りる頃には、
キバさんに〈麻痺〉られて倒れている奴らを、シルバーさんが、頭を咥え〈プランプラン〉させて空中を駆け回り、うず高く積み上げていた。
上空には幾つもの〈ライト〉の魔法が浮いており、
〈夜襲馴れしていないのか?〉
とも思う…
バタバタ倒される仲間の確認の為にだとしても、明る過ぎる…1人一個は打ち上げたらしいライトの魔法を眺めながら、
俺は、
「こりゃ、盗賊さんじゃ…無いわな…」
と呟き、
簡単に想像出来るこの〈賊もどき〉の素性に思い当たり、
〈はぁ~〉と、長いため息をついた…
ー 数時間後 ー
裸で縛られた32名のエルフが並んでいる…
勿論〈スキル〉と〈身ぐるみ〉と大サービスで〈麻痺〉も濾しとってあげている…
そして、
俺は、凄く上機嫌だ…
何故なら、〈襲撃者〉の皆様の尊い犠牲のお陰で、
俺のスキルがかなり戻ったのだ。
まぁ、大きな街に行けば〈マップ〉なんかは売っている場合が有るが、
〈アイテムボックス〉や〈鑑定〉はまず売って居ないので、彼らから濾しとり没収出来たのは、
ある意味ラッキーだった…
〈勿論返す訳はない…〉
キッド君の手をわずらわせなくても、
〈なんちゃって盗賊さん〉の鑑定結果に長い名前と称号が見える…
男爵だの
子爵だの
ナンチャラ騎士団だのと、
とても盗賊に似つかわしくない鑑定結果が並び、
フルチンの今も、
「おのれ、ドワーフめ!」
とか、
「姫を連れ去るなどと…」
と俺を睨んでいる。
〈どう考えてもエルフ至上主義の過激派さんだが…〉
「どうしようかな?」
と悩んでいると
ミレディが、
「マスター…ユリアーナが知れば悲しむのデス…
全員ここで始末して、襲撃も黙っておくことを提案しマスわ!」
と進言する…
エルフ達は〈始末〉と聞いて青い顔に成っている。
〈確かに、エルフの信用は俺の中で地に落ちた…〉
しかし…
「殺す価値もないから、晒し者にしながら城に遊びに行くかな…
後から〈始末した〉とユリアーナさんが知っても悲しむだろうし…」
と呟き、
俺は、自称盗賊達に、
「お前達の〈命だけ〉は助けてやる!
ユリアーナさんに感謝するんだな…
しかし、てめぇらの事はしっかりと、国王に文句を言ってやるから、城までキリキリ歩くんだぞ。
隊列を乱したり、遅れた場合は、
容赦なくウチのキバさんの〈ボール遊び〉の対象に成ってもらうぞ!!」
と脅すと、
キバさんもジョークが解った様で、
オリハルコンの牙を〈ガチン、ガチン〉と打ち鳴らす…
エルフ達は見事に〈縮み上がり〉
まだ夜も明けきらない街道を街に向かい、
〈チン道中〉が開始された。
シルバーさんを先頭に32名の〈裸ん坊エルフ〉が並び、
その行列を、あっちに行き、こっちに行きと楽しそうに追いたてるキバさん
ファルさんとキッド君は周囲の警戒担当で、
俺とミレディは最後尾で〈チン道中〉をしているエルフについて歩く…
寝不足で歩かされている事に少しイライラし、
目の前に並ぶ生ケツに更にイライラする…
〈このイライラは王様にぶつけてやろう。〉
と心に決めて、
歩く事、一時間…こんな事なら街の近くでキャンプすれば良かった…
と悔やみながら、朝モヤの〈アメリスの街〉を練り歩く〈裸ん坊エルフ〉達は、ようやく城まで到達した。
既に街からの報告で、城は大騒ぎだったが、
宰相さんと〈審議官〉が現れ、
案外簡単に引渡しが完了した。
しかし、それからが長かった…
実行犯の裏にはしっかり黒幕がいる…
芋づる式に出るわ出るわ…
蓋を開ければこの王都アメリスの貴族の三割以上が襲撃に賛成し、手を貸したり、知っていて目をつむって居たと解る…
〈最低の国だな…〉
国王と宰相の爺さんは、
「調査が終わるまで城に滞在してくれぬか。」
と言われたが、
「こんなヤバい国の中に居るぐらいなら森で野宿する。」
と断り、
一週間の猶予を与えて城を後にした。
ユリアーナさんに森でのキャンプをさせたく無いし、〈襲撃者〉がもう来ない保証も無いので、城に待機してもらい、
俺達は森で過ごすのだか、
武器の手入れや、
俺のスキルのレベル上げにと、
結構忙しく過ごした。
そして、予定の日にちが来たので、キャンプを片付けアメリスに向かう。
城に着くと、あの時に気絶した女騎士さんが恥ずかしそうに立っていた。
彼女に案内されて大広間に通されると、
何かの集まりなのか貴族達が犇めいている。
すると王様は、
「使徒様が参られた。
皆のもの道を開けてくれぬか?」
と、何故かスッキリ爽やかな笑顔の王様がいた。
〈何事か?〉
と、不思議に思う俺に、
「使徒様…このような騙し討ちの様な真似をしてすまぬ。
これが、最後ゆえ許して欲しい。
ここには国中の貴族全員…と言っても、今回の事に関わった派閥の者を省いてだが、
我が国の末端の貴族まで集まっておる…」
と、ニコニコして話す王様に嫌な気配しかない俺…
王様は、
「では、皆に集まってもらったのは大事な話が有るからだ。
先日、私の元に神託が下った。」
「おぉ!」と声を上げる貴族達
スッと王様が手を上げると、
とたんに静かになる…
「皆のもの心して聞くが良い!」
と、王様はそう言って、宰相さんが持ってきた例のオハジキに魔力を流した。
すると、
オハジキから光が立ち上がり大広間に声が響いた。
「我が同胞の末裔よ。
私は 学神 の メリス です。
私は今怒っています。
貴方達にも、魔王軍との戦争をしている今の状況を嘆き勇者を召喚する神託が届いているはずです。
種族など関係なく手を取り合い団結しなければ成らないこの時代に、
貴方達は何ですか!?
言いがかりでドワーフ族を蔑み
エルフとドワーフの架け橋となる
我ら神々の使徒のアルド君に対して
何たる愚かな…。
恥をしりなさい。
貴方達が蔑み、馬鹿にしたドワーフの血を引く少年は、貴方達も救うために日々命を賭けています。
あとは、この神託を託した王に任せますが、愚かな行いを恥じ
正しい判断ができることを願います。」
と、女性の声で、お叱りの言葉が再生された。
〈メリス様…こんな声なんだね…しかし、滅茶苦茶お怒りだったな…〉
と思う俺は、広間の貴族達の反応を見る…
静かな大広間では、下をむく者、天をあおぐ者、俺を睨む者と様々であるが、
全員が、氏神たる学神メリス様に叱られ、呆れられた真実を噛み締めていた。
王様が、再び皆の前に立ち話し始める。
「皆のものも聞いた通りだ、
前々からこの問題が有ったのは知っていた。
この問題のせいで友も失った…。
だが、私は何も出来なかった…
いや、しなかったのだな…。
神の怒りは最もだと心の底から感じている。
だから、
だからこそ、
今日この日この時をもって、
王位を返上し王国を解体する!!」
と宣言した。
〈えぇぇぇぇぇ!〉
と驚いたのは俺だけではない…
しかし、王様は続ける…
「なお、今後は原点に立ち返り皇家を支える一族としてハイエルフの国々と協力していく。
勝手に決めてすまない。
王国最後の暴君だと諦めてくれ。
皆の爵位は無くなるが、領地は引き続き統治出来るように交渉するので、安心してほしい。
今までこんな私についてきてくれたこと…心から感謝する。」
と、王様のスピーチが終わり、泣く者に、落胆する者、引き続きやり場のない怒りで俺を睨む者…
その誰もが、もうどうにもならない事を理解していた。
やっちまったモノは仕方ない…
これからの話し合いを皆さんでしてください。
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