第102話 AMS治療方法発表ー2
心会話の力は本物のようだ。
あれから凪に英語で難しい単語を意味を理解しながら話してもらったら俺は理解できた。
英語は読むだけなら高校レベルまではできるが、話すとなると暗号だった。
だがこのスキルを使えば言語は理解できなくても、伝えたいことは伝わる。
もちろん高度なギャグなんかは多分理解できないが、それでも言いたいことは分かるし、俺の伝えたいことは伝わる。
この力があればアーノルドも止められたのかもしれない。
いや、あれは無理だな。
理解はできても言葉が通じないと言う感じだったし。
でも偉兄との会話もハオさんを通さなくていいと思うととてもスムーズだ。
翻訳の人を毎回連れて行かなければならなかったのは大変にめんどくさかった。
「これ京都の人と会話したら皮肉を受け取れるようになるんだろうか……」
「言葉の裏を理解できるならもしかしたらいけるかもね。例えば……お兄ちゃんのバカ……」
「!? おぉ! バカと言っているのにその感情には好きという気持ちがのっているぞ! これはツンデレ殺し!!」
「彩さんが爆死しそう……」
「なんで?」
「……なんでもない!」
「ん? 今察しろって意味? 何が?」
「なんかめんどくさいスキルだね」
「それは本気で思ってるのか……」
俺は言葉の裏を読む力を得てしまった。
今後は少し気を付けよう、この世界には知らなくていいことはたくさんあるはずだ。
基本的にはこのスキルはオフにしよう、オンオフできるのは助かるな。
「ありがとう、凪。じゃあおやすみ!」
いくつか考察させてもらえたが時間も時間なので、その日は寝ることにする。
実はもう一つ考えなくてはならないのがあるのだが、俺はベットに潜り横になって考える。
「スキルレベルアップチケットなぁーこれは悩むよな」
それは虹色に輝くチケット。
おそらく俺のアクセス権限をあげることができるのだが、レベル3にしたところで何が変わるのか。
今のところ、このアクセス権限でみることができないものはない。
詳細だってすべてが見える。
おそらくアクセス権限Lv1はステータスの開示、Lv2はステータスの詳細の開示。
ならLv3は何ができると言うのだろうか。
「俺より、彩に使ってアーティファクトを強くした方がいいんじゃないかな……そういえば魔石たくさんたまったし今度彩のレベル上げのためにたくさん持ってくか」
A級ダンジョンをソロ攻略した俺は大量の魔力石を持っている。
今は部屋に適当に転がしているが、100個近くはあるから百億近くの価値になる。
彩のアーティファクトは破格の性能であり、使用者が強ければ強いほど効果が上がる。
だからできればレベルを上げておきたい。
今後くる戦いに備えて、そちらのほうが戦力になる。
まずこの魔石全部アーティファクトにしてもらおう。
「製造工程……また……キスするのかな」
俺は沖縄の夜を思い出す。
思い出すだけで顔が赤くなるほどに濃厚な夜だった。
いや、密度がね、濃厚なキスという意味では……いや、そういう意味だな。
「したいけど……」
正直のところを話そう。
したい。
キスもしたいし、胸も触りたいし、すべての癖を、情欲をぶつけたい。
彩はおそらく全部受け止めてくれる気がするし、あんなに綺麗で可愛い子に性欲が湧かない方がおかしいだろ。
なんか地味にMっぽい彩をちょっとエッチに虐めたい気持ちが湧いてくる。
俺だってすでにそういう年頃、ただし童貞。
しかし、今この気持ちでやるわけにはいかないと俺のかけらは残っている理性が止めてくれる。
レイナと彩、二人の美少女。
レイナは昔からの憧れだし、正直ドタイプだ。
それにソフィアさんとの約束もあるし。
彩は言わずもがなだし。
「愛人なぁ……」
ふと凪の言葉を思い出す。
この国でそんなことは認められないし、別に海外だろうが認められないが。
「とりあえず……寝よ」
俺は結局のところ思考を放棄して眠りにつく。
でも俺は選ばなければいけない、そしてその時は迫っている。
その時俺はどうするんだろうか。
二人のうち、仮にどちらかを選ばなければならないとき。
俺は……。
…
翌日、10月も終わりに近づき、過ごしやすい気温になりつつある日本。
俺は彩からの連絡があり、今日AMSについて世界的に発表するという連絡をもらった。
いよいよ、世界が変わるとき。
何百万人という人々が待ちに待った日がやってきた。
どれだけ世界にインパクトがあるか、だがこれほどうれしいニュースもないだろう。
「灰さん……やっぱり私が発表ですか? もう灰さんでも……」
「いやいや、彩お願いします!」
俺と凪は約束していたデートとして買い物を楽しみ、その後龍園寺邸に向かった。
そこには景虎会長と彩がおり、今日の発表の最終準備をしていた。
レイナは超越者によって手に入れた新しい力を訓練する毎日らしく、今は訓練終わりのお風呂に入っている。
景虎会長は、もう会長ではないが俺はもう慣れてしまったので会長と呼び続けることにした。
「どうじゃ、あれから灰君。中国は」
「そうですね、といっても別に攻略しかしてませんが料理はおいしいですよ。あと偉兄は思った通りの人でした!」
「そうかそうか……ちなみにレイナとはどうじゃ? 恋仲になりそうなのか?」
「お、お爺ちゃん!?」
「そりゃレイナも儂の孫みたいなものじゃし、儂が親のようなもんじゃ。欲しいならちゃんと儂を通してからにしてもらわんとな!!」
景虎会長は、ガハハといつも通り大きな笑い声をしながら俺の頭をなでる。
「彩もレイナも儂の大事な大事な孫じゃ。でも灰君なら儂は許したい。二人とも幸せにする気はないか?」
「え!? えーっと……」
俺が言いよどむと、すかさず会長が俺の背中をバンバンと叩く。
「ガハハ、まぁ今はまだよい。まだまだみんな若いからな。焦るには早い。だが灰君、男は覚悟じゃぞ。そして」
直後景虎会長は俺の目を見て真剣に言う。
そして俺の胸をとんとんと叩きもう一度言う。
「灰君が戦う理由はなんなのか、もう一度見つめてみることじゃ、それが強さに繋がる。土壇場で判断が鈍らぬように、考えたくないことも考えなくてはな……では、行こうか、彩」
そういって彩と会長が二人で行ってしまう。
「……選ぶ……か」
会長の言葉を心で反芻する。
答えの出せない自問自答を繰り返す。
「とりあえず帰ろっか」
俺も凪と一緒に帰って、その放送を見ることにした。
途中買い物に行きたいと凪がいっていたので、先に用事を済ませる。
「レイナ、じゃあ俺と凪は帰るからね」
「え? 帰っちゃうの?」
お風呂場の扉越しに俺はレイナに声をかける。
そのレイナの甘えるような声に思わず反応しそうになるが、ぐっとこらえる。
シャワーの音とシルエットがドキドキする。
「ま、またくるから、じゃあね」
「うん……またね……」
(なんだろう、滅茶苦茶後ろ髪をひかれる気分だ……)
レイナの気落ちしたような声を聴くとどうも俺は弱かった。
「い、一緒に見る? 彩の発表……それまで待たないとだけど」
「み、見る!! すぐ出るからね!! 待っててね!」
「ゆっくりでいいよ、じゃあ客間で待ってくるから」
俺は結局長居することになってしまった。
凪に謝らなければ、今日はこの後買い物に行ってから返る予定だったのに。
「ふふ、別にいいよ。買い物ぐらい何時でも」
「そうか? ごめんな」
「お兄ちゃんって押しに弱いし、引きにも弱いよね。よわよわなの? やーい、ざーこざーこ」
「うっ……」
確かに、レイナの悲しそうな声に俺は頼まれてもないのに残るという選択肢を選んでしまった。
残って欲しいと言われても多分残っただろうな、あれ? 俺意思が強いつもりだったけど実は優柔不断?
少しばかり自信を失いながらも俺は客間でレイナを待つ。
シャンプーのいい匂いを漂わせながらレイナが部屋義で入ってくる。
俺の座っているソファに座って、何も言わずに横にいる。
ただ横に座っているだけなのにドキドキする。
なのに落ち着く。
相反する感情が同居する。
この感情を恋と呼んでいいのだろうか、恋じゃないというのならいったいなんだっていうんだろうか。
「そうだ。レイナ。あの真覚醒スキルはどう?」
「うん、大分使えるようになった。私すごく強いよ……今ならアーノルドにも勝てるかも」
「そっか……さすが超越者。龍の島作戦で暴れる姿楽しみにしとくよ」
「うん、頑張る」
龍の島作戦は、今再度話が浮上している。
悪沢会長がもう一度米国と中国に話をつけて再度作戦を開始しようとしているとのこと。
その時俺は中国側として戦うことになるのだろうか。
「あ、はじまったよ!」
そうこうしているうちに、彩の会見が始まる。
彩と会長が二人、机に座り今日の重大発表の準備をしていた。
なぜこれほど仰々しいのかというと、正式に発表することで間違った治療法を乱立させないためらしい。
AMSは治療法が今までなかった病気として世界では知られている。
だがだからこそ、間違った治療方法がネットを探せばいくらでも見つかる。
水を大量に飲むことだったり、魔力の高い人の血を飲むだったり。
実際発症した人は藁にも縋る思いであらゆる治療法を試してしまっているらしい。
なぜ医者が治療法は無いといってもネットに書いてあったからと信じてしまうのか。
だからそういった治療法に紛れてしまわないように正式の場で、権威ある人─この場合は景虎元会長だな─が口頭で、映像として発表する必要があるとのこと。
実際発表するのは彩だけど。
「本日はお集まりいただきありがとうございます」
そして多くの記者、それこそ世界中の記者達に囲まれて彩が立ち上がる。
ビシッとスーツで決めて、その目は真剣そのものの。
まるでであった頃のお堅いお嬢様の表情で。
「今からAMSの治療方法について、発表させていただきます」
世界を蝕む病の治療法を発表する。
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