第46話 精一杯の愛を込めてー1
俺は凪が眠るベッドの前に立つ。
そして手を握りステータスを再度見つめた。
そしてAMSの詳細を見る。
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属性:病
名称:AMS(筋萎縮性魔力硬化症)
入手難易度:ー
効果:魔力減少により筋肉を動かすことができない。
説明:魔力と肉体の結合がうまくいかず、体内の魔力が減少する病
治療法:
E級に値する魔力石を魔力飽和により粉末化し、対象の血液と同質量で混ぜ合わせる。
その血液を対象の総血液量の一%に当たる量を輸血する。
症状の改善が見られたのち徐々に混ぜ合わせる魔力石の等級を上げていき、対象と同ランクの魔力石を供給することで症状は改善する。
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そこには確かに治療法が書かれていた。
アクセス権限Lv2で見ることができる詳細を。
俺は涙が止まらなかった、その冷たい手をにぎりながらその場で膝をつく。
「凪……治るぞ、すぐにそこから出してあげるからな。ちょっと俺には難しいけど……きっと頭のいい人に伝えれば治療法がわかるから……」
俺は涙を流しながらその冷たい手を握りしめる。
まだ夏なのに、信じられないほど冷たいその手には、確かに治療法が存在していた。
「ちょっと待っててな、凪」
俺は景虎会長と、そして彩を呼んだ。
凪の介護をしていた山口さんには今日は休んでもらった。
運よく二人の都合がついたので、俺は病室でゆっくり待つ。
彩ならきっとこの症状についても俺よりよくわかるはずだと思ったから。
俺はそのまま病室で待った。
しばらくなかった家族だけの時間を楽しんだ。
返事はない、それでも俺はずっと凪に話しかけていた。
「眠ってても髪は伸びるんだな……凪。こんなに痩せて……起きたらたくさん美味しいもの食べような」
短かった髪はいつの間にか伸びてセミロングほどに、肌は少し荒れている。
それでも相変わらずの美人な顔は母親譲りなのか、健やかな眠りについていた。
ただ眠っているだけなんだ。
「まったく……お兄ちゃんを起こすのは元気で可愛い妹の役目って決まってるんだからな……」
その顔にかかった髪を優しくなでる。
◇
「……景虎会長!」
景虎会長と彩が病院に到着する。
総理大臣並みの有名人の到着に少しロビーがざわつく。
本来なら護衛の一人も必要なのだろうが、この日本に会長を護衛できる人などS級の二人しかいない。
その大物の登場に、院長の伊集院先生が出迎えた。
「久しいのぉ、伊集院君。今日はちょっと友人の家族の面会なんじゃ」
「お久しぶりです、景虎会長。灰君から聞いております。まさか会長まで灰君と面識があったとは……田中さんといい、彼の交友関係には驚かされます」
「がはは、そうじゃの。ちょっと……特別な子じゃからな」
すると彩が一歩前にでる。
「最上階の904号室と聞いておりますが、このまま向かってよろしいですか?」
「はい、どうぞ! 灰君から聞いておりますので、エレベーターはあちら──」
「いえ、階段で参ります。では急ぎますんで」
そういって彩は急かすように前を歩く。
階段をまるで駆け足で上がっていく。
「ガハハ、すまんのぉ。家からこれでな。では失礼する、またの伊集院君。……こら、彩。儂一応年寄りじゃから、灰君に早く会いたいのは分かるが……」
「ち、ちがいます!」
「ガハハ! ジョークジョーク」
笑いながら階段を上っていく二人。
その二人の背を見つめる伊集院はつぶやいた。
「灰君……君はいったい何者なんだい?」
◇
コンコンコン
「彩です。灰さんいらっしゃいますか? 祖父も一緒です」
「あ! どうぞ!」
俺は立ち上がって、出迎える。
彩と景虎会長が部屋に入ってきた。
「すみません、呼びつけるようなことをしてしまって」
「なに、AMSのことが分かったと言われれば飛んでくるわ。国の……いや、世界の一大事じゃからな」
すると彩が俺の隣まで来て、妹を見つめ、頭を下げる。
「初めまして。天地凪さん。お兄さんに命を助けてもらってから仲良くさせていただいてます。龍園寺彩です」
返事がない年下の妹対しても礼儀を欠かさない彩。
俺はそれを見て少し笑いだす。
「彩……ふふ、ありがとう。そういうところ結構好きだよ」
「ご家族にご、ご挨拶をするのは当然です!……そ、それに……」
ぼそっとした声でごにょごにょと彩が恥ずかしそうにつぶやく。
「……いつか妹になるかもしれないですし……」
「ん? 後半よく聞き取れなかったけど……」
「い、一旦今はおいておきましょう! それで灰さん、急かす用ですがご説明願えますか?」
「わかった。これ、紙に書きだしておいたんだ。読んでくれる?」
俺はこの目で見たAMSの治療法についてを紙に記載しておいた。
俺の口足らずで説明するよりは、内容そのままを彩に解読してもらった方がいいと思ったからだ。
「失礼します」
彩はその紙を広げ、後ろから会長がのぞき込む。
「……そんな……そんなことで……でも確かに誰も試したことなどないです……そんなこれだけなんて……」
彩は突如目に涙を浮かべ涙がこぼれる。
紙を持ったまま膝をつき、ボロボロと大粒の涙をこぼした。
「ごめんなさい、パパ、ママ……私がもっと……これなら……私がもっとしっかりしてたら……見つけられていた……」
その彩を会長は優しくなでる。
「……彩。気に病むことはない。お前だけではない、世界中の天才達が見つけられなかったんだ。お前ひとりのせいではない。それに今は喜ぼう、数百万の命が助かるかもしれんのだから」
すすり泣く彩は、すぐに涙を拭いて立ち上がる。
「……ごめんなさい。灰さん。正しいかは措いておいて、確かにこの方法なら魔力を供給できる可能性を感じます」
彩は赤く染めた目で、それでもしっかりと俺を見る。
彼女の両親はAMSで亡くなっていると聞いている。
だから彩にとってはやりきれない思いもあるのだろう。
「最優先で、妹さんに試しますか? 人体実験のような形になってしまいますし、これは難しい問題です。この国の法では……ですが国外にこの方法を提供すればすぐにでも。いや、これは新薬ではないので新しい術式として発表することも……どうすれば一番灰さんにとっても得か」
彩が考え込むようにぶつぶつとつぶやく。
「……俺にはよくわからないので彩に頼んでもいいかな? 利権とかあるのか知らないけど正直どうでもいい。凪さえ助かれば」
「そ、それはだめです。灰さん! 画期的な治療法ですよ! それこそいくらのお金が動くか、世界を苦しめる最悪の病気の治療法なんですよ!」
「いや、いいよ。そんなの。それより早く公開して世界中の人が治療を受けられるようにしてほしい。別にお金は今はそれほど困ってないし、俺と同じようにこの治療法を今か今かと待っている人がいるんだ。ずっと暗闇の中で助けてほしいと震えている人たちが」
「……で、でも」
悩む彩に景虎会長が頭をすっぽり手で覆う。
「彩、灰君は何より人を救いたいんだ。彼のことお前ならわかるじゃろ? この言葉が謙遜でもなんでもなく本心からということも」
「……はい、わかってます」
その時俺に稲妻走る。
悪魔的発想、というかこれしかない。
「あ、そうだ! 彩が発見したって発表してよ! そういう研究してるって聞いてるし、俺はあんまり目立つのも嫌だしね、ほらこの目のこと説明できないから。凪の治療がうまくいったら!」
「そ、そんな……灰さんの功績なのに……横取りするようなこと」
「彩、頼むよ。彩にしか頼めない……だから、お願い」
俺は彩の手を握ってその目を見つめる。
「うぅぅ」
彩は悩むように唸るが、俺は押す。
そして俺は知っている、彩は意外と押しに弱いと。
「彩……お願い」
だから俺は真っすぐその目を見つめた。
多分集中しすぎて黄金色に輝いていただろう、目力がすごいことになっていたと思う。
彩が真っ赤な顔で目をそらし、遂に根負けした。
「……わ、わかりました。灰さんがそこまで言うなら私が発表します。はぁ……その目は反則です」
「苦労して得た眼だからね。本気のときはなんか光るんだよな」
「はぁ……好き」
「え? なんて?」
「な、なんでもありません! では承ります。任せてください!」
どうやら俺は勝利したようだ、これが神の眼の力か。
彩が少し、くねくねしているが気にしないでおこう。
きっと世界から注目されるのが恥ずかしいのだろう。
すまんな、彩。
「あぁ……儂の孫がどんどん男に染められていく。意外とチョロインじゃった……」
会長は誰にも聞こえない声でぼそっとつぶやいた。
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