第45話 B級ダンジョンー4

 なぜだ、なぜ攻撃が当たらない。

鬼王は焦っていた、先ほどまでと明らかに纏う何かが違う。

それは自信なのか、灰の姿勢なのかはわからない。


「ギャァァ!!」


 鬼王は、ただ叫びを上げて斧を振り回す。

この小さな存在は特別速くなったわけではないはず、なのにただの一度もかすりもしない。


「ギャァ!?」


 夢中で振り回す鬼王は、いつの間にか灰が消えていたことに気づく。

どこだ、とあたりを見渡すが見つけることはできなかった。


 落ち着いていたら見えていただろう、しかし疲労と焦り。


 そして、ミラージュ。


「!?」


 気づいたのは、自分が振り切った斧の感覚。

明らかにいつもよりも重かった。


 鬼王は、まさかと後ろを振り返る。

そこには、騎士がいた。


 ミラージュを使用し、光を乱反射させる一人の騎士が。

斧の上で剣を構え、まっすぐとこちらを見つめている。


 その姿は、まるで牛若丸と弁慶のように。

 

「はぁぁ!!!」


 今できる灰の全力の一撃。

その一撃を鬼王の首へと突き刺した。

固かった皮膚のそれでも一番柔らかく魔力が薄い場所へと一閃。


 鮮血が舞い、鬼王の目から光が消える。


 巨大な鬼がその場でゆっくりと後ろへと倒れていった。


 ただの一度の反撃は許されず、放った一撃はすべてが空を切った。

まるで未来が見えているように、どんな攻撃をしても、どんな複雑な嘘を攻撃に織り交ぜても。


 すべてを見通す少年の一撃によって。


「勝っ……た……」


 迷宮内に響き渡る巨大な地響きが勝者を告げた。


 灰は勝利した。

小さくガッツポーズしたのは生き残った安堵とこれほどの強敵をも打倒できたという嬉しさ。


 数値の上では敗北している、しかし覚醒したこの目によってすべてを看破し上回る。


 そしてこの瞬間。



『条件1,2,3、4の達成を確認、完全攻略報酬を付与します』


 俺はダンジョンの悪意に勝利した。

少し気が抜けて、疲労からかその場に座り込んだ。


 本当に危なかった、ケガこそ大したことはない。

打撲と、もしかしたら骨にひびぐらいは入っているだろうがその程度だ。


 しかし、間違いなく今までで一番強い敵だった。


 それこそ滅神教のフーウェンの時と戦ったときと同じほどの力の差があった。


「本当にぎりぎりだったな。相変わらず運がいいのか、悪いのか……」


 誰も、この眼を持つ俺すらも、知らなかったエクストラボスという存在。

もしかしたらB級ダンジョン以上には現れるのかもしれない。

他のキューブも見てみれば多分条件4のように内容が見えないものがあるのだろう。


 アクセス権限がレベル3になれば見えるのだろうか。


「はやく、このアクセス権限のレベルをあげなきゃ……お? 帰れるのか。そうだ!」


 俺は急いでその倒れた鬼王の胸に剣を突き刺す。

今なら魔力が見えるので、魔力石の場所もすぐにわかった。


「これぐらいは戦利品として持ち帰らないとな……」


 魔力石を取り出すのを待っていたかのように、俺の体を光の粒子が包む。

帰還の合図とともに俺の視界は暗転し、エメラルド色のキューブの中にいた。


「こんだけ苦労したんだ、攻略報酬は……っと」


 俺はB級キューブのステータスを見る。

攻略した後ならば完全攻略報酬も見ることができたからだ。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

残存魔力:0/10000(+100/24h)

攻略難易度:B級


◆報酬

初回攻略報酬(済):魔力+5000

・条件1 一度もクリアされていない状態でボスを討伐する。


完全攻略報酬(済):魔力+10000、クラスアップチケット(上級)、スキルレベルアップチケット(B級キューブ初回完全攻略報酬)

・条件1 ソロで攻略する。

・条件2 オーガ種を100体撃破する。

・条件3 キューブに入ってから24h以内にボスを撃破する。

・条件4 エクストラボスを討伐する。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「魔力一万プラス! 予想通り、そしてクラスアップチケットと……スキルレベルアップチケット……スキルレベルアップチケット!?」


 俺は周りを見渡した。

そこには銀色のチケットと、そして虹色のチケットが一枚落ちていた。


 震える手で拾い上げる俺は、そのスキルレベルアップチケットを神の眼で見つめる。

虹色に光り輝くそのチケットは、俺の願いの結晶なのか。


 名前の通りであることを、祈りを込めて。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

属性:アイテム

名称:スキルレベルアップチケット

入手難易度:S

効果:レベルアップ可能なスキルを持つ場合レベルを一つ上げることができる。

説明

B級の試練の箱を世界で初めて完全攻略したものに与えられるチケット。

このチケットを破ることで発動可能。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「これ……もしかして……これ!!」


 直後俺の脳に、いつもの声が響いた。


『個体名:天地灰、スキル名:アクセス権限Lv1のレベルをアップさせますか? その場合はスキルレベルアップチケットを破ってください』


 俺は躊躇いなく、そのチケットを破り捨てる。

突如虹色のチケットが七色に輝く光となっておれの身体に吸収される。


 俺は自分のステータスを見つめた。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

名前:天地灰

状態:良好

職業:初級騎士(光)【下級】

スキル:神の眼、アクセス権限Lv2、ミラージュ

魔 力:21185

攻撃力:反映率▶50(+20)%=14829

防御力:反映率▶25(+20)%=9533

素早さ:反映率▶25(+20)%=9533

知 力:反映率▶50(+20)%=14829


装備

・鬼王の宝剣=全反映率+20%

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「やった! やったぞ! これで見えるかもしれない!」


 エメラルドのキューブの中、ゆっくり開閉され休眠モードに移行するキューブ。

あたりでは何人かの通行人がこちらを見てくるが、ミラージュの前では俺は見えない。


 だが今はそんなことはどうでもいい。


 俺は、風よりも速く病院へ向かった。


 不安はある、もしかしたらまだ見えないのかもしれない。

アクセス権限はD級、ならC級もあるのだろう。


 それでも俺は居ても立っても居られずに、病院へと走った。


 車でもなく、電車でもなく。


 俺は走る、急ぐのだから走るのだと。

心がもっと早くと急かすから俺はA級の力を存分に使い、交通ルールを無視してでも走る。


「……はぁはぁ」


 30分ほど走った俺は病院についていた。

東京の一等地にあり、日本屈指の大病院、国立攻略者専用病院。


「面会をお願いします。天地凪です」


 俺は攻略者資格証を出し身分を明かす。


 そして、階段を駆け上がる。

扉を開ければ最愛の妹がいる。


 俺は待ちきれないと凪のステータスを見た。


 そして。


「そうか……そうなのか………凪……」


 俺は涙でよく見えない映し出されたその文字を読む。



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