第47話 精一杯の愛を込めてー2
「では今日から私が凪ちゃんの治療を行い、方法が確立したのち発表します。おじいちゃん、伊集院先生の協力を得ても? 医療技術に長けた人の助力が欲しいです」
「あぁ、あいつなら口も堅いし問題ないじゃろう! すぐ呼ぼう」
そういって伊集院先生を呼び出す会長。
一応は院長だから偉いのだろうが、会長には逆らえないのだろう。
そして彩がまるで自分が見つけたように伊集院先生に演技を始める。
心苦しいだろうが、頼むぞ。
正直色々面倒になりそうだから彩に全部ぶん投げて悪いとは思っている、今度埋め合わせしよう。
「そんな治療法が……しかし試してみる価値はあると思います。魔力石による魔力の供給。確かに考えてみればなんてことはない。しかし最低等級のアンランクから徐々にか。良く思いつきましたね」
「長年の努力の賜物です。では私は魔力石を粉末化してお持ちします、確かまだ家にA級の魔力石が……」
「あ、彩! これをつかって!」
俺はB級とA級の魔力石を彩に渡す。
どちらもとても高価な魔力石だ、せめて自分の家族を治すための魔力石ぐらいは用意したい。
「灰さん……わかりました、受け取ります」
「灰君、君はアンランクだったはず……いったい……」
「えーっと色々ありまして」
「ふふ、そうか。特別な子か……了解した、これ以上は聞かないことにしよう。ところで本当にいいんだね? 確かにこの治療法はとても有効に感じる。だが……人体実験のようなものだ。保証はできない」
「大丈夫です、了承しています。凪の了承は取れませんが……きっと望んでいると思います。だからお願いします、伊集院先生。このままただ死を待つだけの妹を助けてください」
俺は伊集院先生に頭を下げた。
伊集院先生は、俺の手を持ち任せてくれと答える。
「そういえば、彩。粉末化ってどうするの?」
「それについては最新の実験で成功しています。といってもある実験の失敗からですが……低位の魔力石に覚醒者が魔力を強制的に供給したんです、それが成功するのなら上位の魔力石を手に入れられると。しかし結果は魔力石の粉砕。爆発です。その結果粉末のように細分化されましたのでその結晶を集めればきっと」
「爆発するんだ……」
「はい、爆発といっても割れるぐらいですが。それでは私は協会の施設で魔力石の粉末を作成してきます。今は……12時ですので、急いで15時には帰ってきます」
「わかりました」
段取りは決まったようでここから俺がすることはない。
俺は会長と一緒に部屋を出た、あとは専門家達に任せることにする。
「にしても昨日の今日でもうわかるとは……どうじゃった? B級キューブは。灰君なら余裕じゃったか?」
「そうですね、結構余裕はありました。でも……」
俺はエクストラボスのことを告げた。
俺がB級キューブの完全攻略世界初ということは、多分今までも同じようにエクストラボスに殺された人がいるのだろう。
運で完全攻略をしたと思ったら、まさかあんなボスが現れるなんて運が悪いことこの上ないが。
「なんと鬼王がB級に……それはA級中位の魔物じゃな。儂も現役のころに倒したことがあるがあれは相当に強い。今の君では……」
「いや本当に死ぬと思いましたね。ギリギリでした。本当に危なかった。でも何とか勝てました……そうだ、俺も検査してもらわないと。多分骨にひびが入ってるんですよね」
「ガハハ……やはり灰君は強者の絶対条件を満たしているようじゃな。どれ、待ちなさい」
そういって会長はスマホを取り出し、電話をかける。
おそらく治癒の魔術師の人なのだろう、俺のケガを治療してくれと頼んでいるようだった。
「ちょうど、この病院に協会のB級の治癒魔術師がおる。儂の部下じゃ。回復してもらえるように伝えておいたから見てもらってきなさい。もちろん会長料金じゃ。君は気にせんでいい」
「そんな、払いますよ! 俺結構稼いでるんです」
「なら次はもらおうかのう、ほれ! 子供が遠慮するんじゃない! さっさといって治療してこい」
俺は背中を叩かれて無理やり歩かされる。
こういう時だけは子供扱いするのだから大人はずるい。
しぶしぶ俺は了解した。
これ以上拒否するのも失礼かなと感じたからだ。
俺は頭を下げて治療を受けることにした。
◇
景虎はその背中を見てつぶやいた。
「本当に……見た目はまだ子供なのにのう、一瞬で大人になるのじゃから若さとはこれじゃから……男子三日というが、君の場合は一日じゃな。ガハハ」
その逞しい背中を見て、かつての自分の息子に重ねてしまう。
孫ほど年の離れた少年が今はとても頼りになるし、大好きになっている自分に気づきながら。
~数時間後。
「はい、治療は終了です。骨にひびは入っていましたがもう塞がっていますので問題ないですよ」
「ありがとうございました!」
俺は治療を受けていた。
B級の治癒魔術師であるこの人は医者というわけではないが、協会所属としてこの病院で従事しているそうだ。
とても優しそうなお姉さんで、いい匂いがする。
ナースで、優しくで美人で巨乳。
そしてB級の治癒魔術師なんてこの人実は女神か?
バブみを感じるとはこのことか。
「次もケガしたら私にいってね。灰君なら……プライベートでもいいわよ♥」
しかもエッチなのか。
少し誘惑するようにそのはちきれんばかりの谷間を俺に向けるエロナース。
「か、考えておきます!」
俺はしどろもどろに返事して、大人の魅力を振り切って部屋を出た。
最近結構女性から声かけられることが多い気がする。
「俺もしかして結構イケてきたか?」
エレベータのガラスの前でポージングをする。
体格はいい、顔は……凪の兄だ、ダメということはないだろう。
だが今までの人生モテたことはない。
まぁアンランクと判定されたときからだろうな、俺が卑屈になり暗くなったのは。
それに足が速い、頭がいい、背が高いなどと同じように魔力が高いはすでにステータスだ。
覆せない絶対の差。
女性なら強い男性を好きになるのは当然かもしれない。
誰も好き好んで自分よりも圧倒的に弱い相手をパートナーには選ばないだろう。
強さだけがすべてではないが、あの頃の俺は卑屈さも兼ね備えていたからな。
だからモテるなんてこととは無縁だった、というか佐藤に虐められてて、ギャルに罰ゲームで告白までされ笑いものにされたことがある。
あれは辛かった、おかげでギャルは嫌いだ。
俺に優しいギャルなど存在しないと、理解させられてしまった。
だが今はどうだろう。
「きたか、俺の人生初のモテ期。ふん!」
俺はまるでボディビルダーのように、エレベータの中でポーズを決める。
服を胸までめくり、両腕を上で組んでポージング。
「おぉ、自分の腹筋だが大根がすりおろせそうだ。キレテルキレテル! 肩に重機のせてんのかい!!」
大声で叫ぶ俺。
自分の腹筋に夢中になっていた俺はいつの間にかエレベータが到着していたことに気づかなかった。
そして背後から聞き覚えのあるお嬢様の声が聞こえる。
「何してるんですか? 灰さん。エレベータの中で半裸になって……」
体中から血が引いていくのを感じる。
そこにはエレベータで大声でポージングしていた俺とお嬢様の二人だけの異空間が生まれた。
「彩……見なかったことにはできないか?」
「一応聞きますけど……何がキレテルんですか?」
「……俺にもわからない」
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