第43話 B級ダンジョンー2
「会長、灰君にB級ダンジョンの許可を与えたと?」
「うむ」
「まだ危険だと思いますが……」
「儂もそう思う」
景虎会長と田中一誠が電話する。
景虎会長から、田中へと灰にB級ダンジョンの許可を与えて、一つのキューブの依頼を出したと伝えた。
「ならなぜ!」
「だって可哀そうじゃったんじゃもん」
電話越しに指をツンツンとする景虎。
だが田中は真剣に会長を怒鳴りつける。
「じゃもんじゃないでしょ! 命が懸かっているというのに……彼はまだ子供ですよ? 我々大人がちゃんと導いてあげないと……」
「……それは違うのぉ、田中君」
「違う? なにが……」
「彼は子供なんかではない。確かにわしの孫と同い年じゃ。儂らとは一回りも二回りも違う。つい最近まで子供じゃったのも認めよう。だが今は違う。田中君、大人になるために必要なことは何だと思う?」
「……経験です。辛ければ辛いほど」
「……ならもうわかるじゃろう。彼はいくつも死の淵からその深い闇をのぞき込んだ。それこそ神の試練で心が壊れるような経験もしておる。生半可な精神力ではない」
田中から黄金のキューブの内容は景虎に伝えられている。
「……そうですね。確かに彼はもう子供ではない。彼が選択したというのなら……背中を押してあげるべきですね。……これが親の気持ちですか。いつまでも面倒を見なければと思っていたのに」
「信じてあげよう、田中君。若い力はいつだって世界を変える可能性をもっておる、それに彼は強者の絶対条件も満たしておる。きっとうまく事が運ぶ」
「強者の絶対条件?」
「そう、強者の絶対条件。あの子はな……何より運がいい。神に愛されとる。ギリギリの死の淵で何度も生還する。それは強者が持つ一番必要で、得難いものじゃ。儂の勘が言っておる。彼は負けないと」
「……ふふ、会長にはかないませんね。わかりました、今は彼の無事を祈っておきましょう。私も子離れですね」
「ガハハ! 儂も孫離れせんとな」
◇灰視点
「ぬらぁぁぁ!!」
俺は俺の三倍はあろう鬼を叩き切った。
ここはB級ダンジョン、エメラルドのように輝くB級キューブの中だ。
ダンジョンの中は洞窟のように暗いが青い魔力石が光源となってダンジョンを照らす。
この魔力石は、魔物の中にあるものよりも低級で質が悪い。
だが魔物の死体や、魔法の残滓などが蓄積し作成されたのではないか? と言われている。
彩あたりに聞いてみるか、確かそういった論文を出してるといってたし。
「ふぅ……さすがに強いな。片手間で倒せるほどじゃない」
俺はその鬼のような緑の化物を見つめる。
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名前:グリーンオーガー
魔力:4500
スキル:身体強化
攻撃力:反映率▶50%=2250
防御力:反映率▶50%=2250
素早さ:反映率▶25%=1125
知 力:反映率▶10%=450
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B級の魔物からはスキルを持つものも多いようだ。
身体強化のスキルの詳細を見つめると知力を攻撃力に変換するというスキルだった。
頭まで筋肉だな、この鬼。
しかしそれでもやはりB級。
一万に近い魔力を持つ魔物が現れるダンジョンだ、油断はできない。
「ふぅ……ちょっと休憩するか」
俺はミラージュを発動しながら、もってきた食事を行う。
今はすでにお昼を過ぎている。
「このキューブの条件は、4つあるんだよな。4つ目は何かわからなかったけど……」
俺はスマホにメモ書きしていたこのキューブのステータスを見た。
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残存魔力:7400/10000(+100/24h)
攻略難易度:B級
◆報酬
初回攻略報酬(済):魔力+5000
・条件1 一度もクリアされていない状態でボスを討伐する。
完全攻略報酬(未):現在のアクセス権限Lvでは参照できません。
・条件1 ソロで攻略する。
・条件2 オーガ種を100体撃破する。
・条件3 キューブに入ってから24h以内にボスを撃破する
・条件4 条件1~3を達成後解放(現在のアクセス権限Lvでは参照できません)
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「この四つ目の条件が怪しすぎる……」
その四つ目の条件は1~3を攻略した後に何かが起こるようだった。
ただし、何が起こるかは分からない。
なので、今はダンジョンを回ってオーガ種をたくさん倒している。
グリーンオーガをはじめ、魔法を放ってくるオーガまで現れるこの鬼のダンジョン。
幸いなことに、群れで行動しないのだけはありがたいところだった。
こいつらが群れで行動していたらそうとう苦戦したことだろう。
「それにしても……彩が作ってくれたこれ最高だな」
俺は緑色に優しく光る魔力石から錬成されたアーティファクトを握りしめる。
前のハイウルフの剣と全く同じ形で使い心地は一緒。
なのに、その能力は逸脱している。
今までC級キューブを一週間毎日二つ完全攻略し、合計15個攻略した俺の能力は彩の力と相まって。
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名前:天地灰
状態:良好
職業:初級騎士(光)【下級】
スキル:神の眼、アクセス権限Lv1、ミラージュ
魔 力:21185
攻撃力:反映率▶50(+20)%=14829
防御力:反映率▶25(+20)%=9533
素早さ:反映率▶25(+20)%=9533
知 力:反映率▶50(+20)%=14829
装備
・鬼王の宝剣=全反映率+20%
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「うーん、強い」
俺は自分のステータスを見て自画自賛する。
もはや田中さんにも勝ててしまうのではないかと、少し調子に乗りそうになるがS級には程遠い。
上には上がいるので、調子に乗ってはいけない。
それでも数値を見て、あの頃の自分を思い出すと少しにやけが止まらない。
「お? きたな……あと30体か。入って2時間ってところだが条件の24時間は間に合いそうだな」
休んでいた俺は、ドシンドシンという地面を揺らす音に気づく。
残りのおにぎりを口に一気に頬張って、水で流し込み剣を握りしめる。
「ミラージュ……」
俺の姿が消えさって、ゆっくりと歩を進める。
目の前まできても鬼は俺の姿に気づかない。
俺は足元からその巨大な牙と顔を見上げる。
「怖い顔だな……これが一月前ならおしっこ漏らして泣きわめいていただろうに人って変わるもんだ……」
俺は勢いよく地面を蹴った。
5メートルはあろう、その鬼の正面、喉元へと俺は飛ぶ。
目の前に現れたことで、音や嗅覚など視覚以外の情報でオーガは何かがいることに気づいたようだ。
「ガァァ!?」
突然俺が現れたように感じたであろうオーガは手に持つ巨大なこん棒を振り上げる。
しかし、すで間に合わない。
一閃。
首から鮮血が舞い、オーガは後ろに倒れていく。
俺はその体に乗りながら地面に降りた。
ドスンという音とともにオーガは息絶える。
もしダンジョン崩壊が起きて外に出れば町一つ滅ぼしかねない魔物をものともせず俺は攻略していく。
それから数時間、俺は30体のオーガを殺しつくした。
『条件2を達成しました』
「ふぅ……さすがに長かったな。一体一体がデカいから数がいない……」
俺は事前に見つけていたボス部屋へと向かう。
一息ついて、その扉を開いた。
円形のまるで野球場ぐらいの広さの部屋に俺は入る。
「B級ダンジョンのボス……このダンジョンは鬼系ばっかりだしそうだろうと思ってたけど……」
目の前にいるのはオーガの上位種、オーガジェネラル。
通常のオーガと違い高い知能を有し、武器を所持するオーガの頭領。
そのステータスもまさしくB級ダンジョンのボスとしてふさわしいものだった。
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名前:オーガジェネラル
魔力:10000
攻撃力:反映率▶50%=5000
防御力:反映率▶50%=5000
素早さ:反映率▶25%=2500
知 力:反映率▶50%=5000
スキル:身体強化
装備
・鬼の鎧=防御力+1000
・鬼の剣=攻撃力+1000
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「通常のオーガに比べたら随分強いな……さすがB級のボス。でも……」
俺を見て立ち上がったオーガジェネラル。
しかし俺を見つけることなどできない。
ミラージュ。
格下相手には無類の強さを誇るこのスキルをもってして俺はオーガジェネラルの背後に立つ。
知力4000の差は、その鬼の将軍に俺を認識することすら許さない。
俺の剣がその首に触れるまで気づかず、触れた時にはもう遅い。
俺は無言でその固く太い首を背後から切り裂いた。
鎧も剣も、抗うことは叶わずに血しぶきを上げて、悲鳴もあげずにオーガジェネラルは絶命した。
その巨体を地面に突っ伏させガシャンという音だけが、静かなダンジョンに響き渡る。
「ふぅ……よかった。B級ダンジョンも俺ならまだ余裕はありそうだな。これならすぐに他も回れそうだ。あとは……」
一瞬気を抜こうとした俺は、剣を握りなおしもう一度気持ちを切り替える。
条件1~3を達成した後の条件4、ならば今から現れるのは自分の命を脅かすなにか。
「鬼が出るか蛇が出るか……」
俺は油断はしなかった。
それでも楽観していたのだろう。
この目に映る数値という力の上下がはっきりわかる力に、ここは所詮はB級ダンジョンだということに。
俺はまだ舐めていた、片手間で攻略できたB級ダンジョンというものを。
それでもあまたの攻略者の命を吸ってきたダンジョンという場所を。
そして知ることになる。
完全攻略という言葉が世に出ていない本当の意味を。
『条件1,2,3の達成を確認。条件4を解放します』
その無機質な音声と共に、ボス部屋の頭上が黒く塗りつぶされる。
まるで宇宙のように、どこまでも広がっていそうな漆黒の黒。
そこから何かが降ってきた。
まるでワープのように、何かが転送されてきた。
『条件4 エクストラボスを討伐せよ』
ドスン!!
砂煙を上げてそれは落ちてきた。
明確な殺意の波動をまき散らし、その目に映るすべての生命に怒りをもって。
鬼の王は俺の前に立ちはだかる。
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