第22話 昇格試験ー1

「た、田中さん!?」


「状況を説明してほしいのだが……その前に。全員!! 救護急げ!! 救える命は絶対に救え!!」


 ヘリの音にも負けない声量で、田中さんが攻略者達に命令する。

オークが荒らしていった村はケガ人も多く、建物もいくつか倒壊していた。

迅速な対応によって村人たちは救助されていく。


「灰君、話はまた後で聞かせてもらうよ?」


「はは……はい……」


 俺は乾いた笑いを見せる。

もう逃げることはできないだろう、もしかしたら資格はく奪になって無資格攻略者になってしまうかもしれない。


 俺と田中さんは救助活動を行った。

被害は見た目ほどひどくなく、死傷者も村長と最初にダンジョンへ潜った五人。

あとは、数人の犠牲者がでてしまった。


 失った命の数は多いが、この規模のダンジョン崩壊にしてはこの程度で済んだのは俺がすぐにオークを全部倒せたからだろう。

でなければ一つの村が地図から消えてもおかしくはなかった。


 数時間後。


「じゃあ灰君、帰ろうか。あとはダンジョン協会に引き継ごう。じっくりと話を聞かせてもらうからね?」


「わ、わかりました……」


 田中さんの笑っていない笑顔の圧に俺は屈してヘリコプターへと乗り込んだ。

このヘリはアヴァロンが所有している緊急用のヘリだそうで、この村……というか俺のために田中さんがすぐに手配して文字通り飛んできてくれたようだ。


「あ、天地さん!!」


 ヘリに乗り込もうとした俺に渚が走ってくる、その後ろにはおばあさんもいた。

今日一日、時間にすれば4時間ほどの関係だがとても濃密な時間を過ごした気がする。

妹のようにか弱くて心配だが、今後はダンジョン協会が守ってくれるだろう。


「俺はいくよ。元気でね、渚。もう無茶するなよ。おばあさん、後は頼みます」


「天地さん、孫を助けてくれて本当にありがとう」

「ま、待ってください! わ、私! 天地さんと……も、もっと話したいです!」


「ありがとう、俺もだよ。渚は妹にすごく似てて、ほっとけないから。でもこれからはダンジョン協会が守ってくれる。安心して」


「い、いもうと!?」


「うん、妹にすごく似てるんだ、年と背丈、髪型、あと名前も」


「お、女としてはど、どうなんですか!?」


「女? はは、まだ中学生のくせにお茶目さんだな」


 俺はその額を軽く小突く。

妹ほどに年が離れた女の子を恋愛対象に見るなんて俺はそういう趣味はないぞ。

渚は、額をこすりながら俺を上目づかいで睨むようにほっぺを膨らませる。


「もっと大きくなります! そ、その時はまた会ってくれますか?」


「そうだな、楽しみにしてる。凪のいい友達になってくれそうだ。じゃあいつかまた会おう!」


 俺はそのまま手を振ってヘリコプターに乗り込んだ。

渚が絶対ですよ、会いに行きますよとヘリの音にも負けないほどの声で俺に手を振る。

田中さんがニヤニヤと笑って、やるじゃないかと言っているが確かに俺は強くなったからな。

褒めてくれているんだろう。


 そして俺達は東京へ向けと空を飛ぶ。

時刻はすでに深夜を回っていた、この日夜鳴村のダンジョン崩壊は終わり、今後はダンジョン協会がD級ダンジョンとして管理することになる。

責任はすべて死んだ村長に押し付けられて、他の者は一切の無罪。


 それもどうかと思ったが、悪いのは大体村長なので仕方ないか。


 深夜の空は本当に暗く、全く何も見えない。

闇というのはこんな感じなのだろうか、少しだけ怖いなと思う。


 そう思いながら窓から外を眺めていると。


「色々事情があるだろう、明日話を聞こうか、二人っきりで。誰にも邪魔されずにゆっくりと」


「は、はい……」


「楽しみだな……灰君」


「そ、そうっすね~~」


 田中さんがニコニコしている。

ただし、その目は笑っていない。

俺は、すべてを諦めて田中さんには全部話すことにした。


 その日は東京につき、解散する。

深夜のため電車も動いていなかったが、田中さんが会社の経費だからとタクシーを手配してくれた。

何の経費だと思いながらも俺は甘えてそのまま家に向かう。


 なぜなら疲労がピークだったから。

アドレナリンでごまかしていたが、相当に無茶をしていたようで、帰るや否や俺は翌日の昼すぎまでねむってしまった。


◇翌日 昼


「うぉ!? 寝すぎた……もう12時か……」


 飛び起きるように起きた俺は時計を見て、久しぶりにこんなに寝たなと背伸びする。

疲労からか泥のように眠ってしまったが、随分と疲れが取れたような気がする。


「今夜は田中さんと夕飯約束してるし……さてどうしようか。暇だな、ダンジョン攻略するか?」


 俺は自分のステータスを確認する。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

名前:天地灰

状態:良好

職業:なし

スキル:神の目、アクセス権限Lv1

魔 力:385

攻撃力:反映率▶25%=96

防御力:反映率▶25%=96

素早さ:反映率▶25%=96

知 力:反映率▶25%=96


装備

・騎士の紋章

・ハイウルフの牙剣=攻撃力+120

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

「ついに385か……オークのダンジョンでは魔力が100増えたし。ダンジョン協会の基準ではC級下位ってところか」


 ダンジョン協会では、魔力を測定することができる。

原理は詳しくはしらないが、三十分ほど計測には時間がかかるが無料で測定可能だ。

魔力石が魔力を流すと振動することを利用して、測定者の魔力を測定できるとかなんとか。


 といってもその振動数を基準としたものが魔力と呼ばれるもの。

そして俺がこのステータスで見える魔力という項目はその値と同じことなのだろう。


「そういえば、人間の一般常識と併合してるっていったけど俺がわかりやすいように色々書き換えてみせてくれているのかな?」


 そもそもE級、D級などの基準は人間が作ったものだ。

このステータスが見えるのは、間違いなく人類の力ではない。

それなのに、俺が理解しやすいように表示してくれているのは、とても助かる。


「C級は魔力1000までだし、遠いな……でも頑張るか」


 E級は魔力が10~50。

D級は100以下、C級は1000以下が基準となる。


 そこから一桁ずつ上昇するので、B級は一万まで、それを超えるとA級だ。

それ以上は、S級と呼ばれ、もはや俺にはよくわからない。


 さらにその上も実は存在するそうだがもう七つの球もびっくりのインフレ具合。


 上記の計算方法なので、C級上位は1000に対してC級下位は100なので、実に10倍もの魔力量の差がある。

もう少し間を分ければ? とおもうのだが、それぞれの等級でさらに下位、中位、上位と呼ばれているのでこれでいいのかもしれない。


「あ、そういえば!」


 俺は昨日集め終わったブロンズ色のチケット、クラスアップチケットをポケットから取り出す。

昨日は眠すぎてそのまま眠ってしまったが、これで10枚だ。


 俺は引き出しにしまってあった残り9枚を手に取った。

これで10枚だが、一体どうすればいいんだろう。

そう思っているとその10枚のチケットが突如光り輝く。


『クラスアップを開始……騎士の紋章を確認。騎士昇格試験を開始します』


「な、なんだ!?」


 そのチケットは一枚に変わり、見た目も少しだけ変化していた。

大きさは変わらずに、お札ほどの大きさで、表紙にはカウントダウンのようなものが表示される。


 俺はそのチケットのステータスを見る。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

属性:アイテム

名称:クラスアップチケット(10/10)

入手難易度:C

効果:ー

説明

騎士昇格試験を開始します。

転移まで、あと00:00:58

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

「はぁ?」


 その表示されたステータスを見る。

そこには、移動まであと00:00:58の文字。

58という数字が、一秒ごとに減っていく、今54。


 つまり。


「や、やばい! これ、10枚集めるだけで開始するのか!? そんなのきいてねぇ!!」


 俺は慌てて、装備を整える。

確かに、ステータスが見えない人ならば使い方などわからないため集めただけで発動するようにするべきだろうけど!!


 あと一分しかないため、鞄にひたすらといつもの攻略道具を詰め込んだ。

顔を洗って、うがいして、靴を履いて、剣を持つ。


 事前に買ってあった食パンを加えて、何とか準備は完了した。

なぜに、30秒で支度しなをリアルでやらねばならぬのか。


 そしてあの無機質な音声が俺に告げる。


『昇格試験を開始します』



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