第23話 昇格試験ー2

 俺は目を覚ますと見慣れた風景を見た。


「ここ、黄金のキューブの時と同じような形だな……」


 50メートルほどの立方体。

まるで大きなキューブの中にいるかのような部屋。

壁は人口の石でできたパネルだった。


 そして目の前には扉がある。

それほど大きくなく、装飾もない。

2,3メートルほどの大きさだろうか、ボス部屋などの扉に比べると随分と質素だった。


「昇格試験……そのままの意味なら職業が昇格なのかな……騎士の紋章をもっているから、騎士昇格試験っていってたけど……そもそも騎士ってなんだ? 俺無職だが?」


 俺は疑問に思いながらも帰る方法もないので、服を着替えて準備をする。

鞄に荷物を詰め込んで、目の前の扉を開こうと触れたときだった。


『騎士の紋章を確認……個体名:天地灰。職業なし……初級騎士試験を開始』


「初級騎士……クリアしたら無職から騎士になれるのか?」


 突如脳に響くいつものアナウンス。

このダンジョンを攻略することでやはり職業が与えられるらしい。

なら絶対に攻略したい、というかそもそも帰ることができない。

騎士の紋章をもっていることから何か特別な試験が始まるのだろうか。


 退路を失った俺は胸に付けた金色のタグを握りしめ、その扉を開いた。

そこは同じような四角い部屋と4つの巨大な支柱、そして一体の。


「鎧?」


 体格は成人男性ほど、よく見る中世の鎧を着た全身フルプレートの銀色の鎧と盾を持っていた。

規則正しく部屋の端から端を歩いては戻ってを繰り返す。

魔物なのだろうか、それにしては全く意思というものを感じられない。


「まだこっちには気づいてないみたいだな……あれを倒すのか? どれぐらい強いんだろう……」


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名前:盾使い

魔力:200

スキル:挑発

攻撃力:反映率▶25%=50

防御力:反映率▶50%=100

素早さ:反映率▶25%=50

知 力:反映率▶25%=50


装備

・鉄の盾=防御力+50

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「結構強いな。盾使い……でも俺の方がまだ強いし、攻撃できないんじゃないか? 挑発……これって魔物のヘイトを集めるスキルだよな」


 挑発、それは上位の攻略者が使うスキルであり魔物達からのヘイトを集めることができる。

それを持っているということはこの盾使いは文字通り前衛職なのだろう。


「よし、いくか」


 俺は悩んでいても仕方ないと、その規則正しく動く盾使いの視界から柱へと忍び足で移動した。

柱の陰で俺は見えないはず、そしてフルプレートの鎧が足を翻し反対側に歩いていこうとした瞬間俺は、背後から切りかかる。

瞬間、俺を振り向き盾を構え、抵抗する。


 鍔迫り合い、こちらは剣であちらは盾だが鉄同士がぶつかる鈍い音。

しかし俺の方が体重も乗り、体勢も有利。

ステータスすら有利ならそのまま力だけで押し切れる。


「あぁぁ!!!!」


 特に技術もないその力押し、俺の攻撃力は96+120。

二倍近いその数値の差が顕著に表れ、俺は盾を押しのけ、弾き飛ばす。


 鉄の盾が宙を舞い、無防備になったフルプレートへと突きを繰り出す。

鉄の鎧を貫通した俺の剣が、金属と金属が擦れあう独特の音を鳴らし、盾使いの胸を貫通した。


「ふぅ……ごり押しすぎたかな……あ、次の扉がひらいた」


 倒れた盾使いは、まるで煙のように消え去って背後の扉がゴゴゴという音共に開く。

これでこの部屋はクリアなのだろうが、今までで一番強いステータスの敵だったが案外あっけなかった。


 俺はそのまま次の扉へと顔だけ出して中を確認する。

全く同じような部屋で四本の支柱が規則的に並んでいる。


 そして次の扉の前、50メートル先にローブを来た何かが見えた。

魔法使い? そこにいたのは全身ローブを着ているが中身のないなにか。

俺は目を凝らし、ステータスを確認する。


 ステータスは離れていてもこの目に映りさえできていたら表示することができる。

ただしテレビや映像の場合は無理なので、この目で直接見なければいけないのだが。

それに遠くで、本来なら文字も読めない距離でも俺は読める。


 読めるというより、理解するというほうが正しいのかもしれないがなんとなくわかる。


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名前:魔法使い

魔力:200

スキル:ファイアーボール

攻撃力:反映率▶25%=50

防御力:反映率▶25%=50

素早さ:反映率▶25%=50

知 力:反映率▶50%=100


装備

・ウィッチのローブ=知力+50

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「魔法使いか……知力に極振りだよ。めちゃくちゃ頭いいのかな」


 先ほどの考察が正しければ俺の数倍頭がいい。

俺は警戒しながら扉に入る、もしかしたらとてつもない策略を企てているのかもしれない。


 入った瞬間だった。


「!? これがファイアーボール!? ボールって大きさじゃねぇ!」


 その魔法使いが巨大な火の球を空中に作り出す。

それを俺に向けて飛ばしてきた、すぐさまそばにある支柱へと走り込み俺は回避する。


 俺よりも大きな火の玉は壁に激突し、石の壁を黒焦げにした。

熱風だけで火傷しそうなほど一瞬で部屋の気温が上昇する。


「さすが魔法使い……もしかして知力って魔法の力なのか?」


 また火の玉を掲げる魔法使いを見て俺は思った。

知力150にしてはワンパターンなその魔法に、特に知性を感じない。

作戦の可能性も捨てきれないが、ただ火の玉を俺に向かって連発しているだけだった。


 すべて俺が隠れる支柱の裏を焦がすだけにとどまる。


「1,2,3,4,5」


 俺はその壁に隠れながら数を数える。

魔法使いが連発する火の玉だが、大体5秒周期に飛んでくることが分かった。

だから、その合間を縫って。


「1,2,3,4,5……よし、今だ!」


 俺はそのタイミングでもう一つ奥の支柱へと移動して再度隠れた。

まるでだるまさんが転んだみたいだと一瞬おもったが規則的に魔法を飛ばしてくるだけなので対処は楽だった。


「よし……次で近づいて倒せば!」


 俺はそのタイミングでその魔法使いの目の前まで跳躍した。

C級下位の力を持つ今の俺なら数秒でこの距離ぐらいなら埋められる。


 俺が剣を振り上げる。

魔法使いは驚いたようにファイアーボールを作り出そうとするが、間に合うわけもない。

抵抗すらできずにそのままローブを切り裂かれ倒れた。


 魔法使いのローブは中身が無くなったようにやはり煙となって消えさった。


「ふぅ、よし。扉が開いたな。このレベルの敵なら結構簡単にクリアできそうなんだけど……」


 俺は扉からまた顔を出して中の様子を確かめる。


「……真っ暗?」


 しかし、その部屋は真っ暗だった。

光源はなく、まるで田舎の夜のような静かさと暗さ。


「……見えない」


 俺は警戒しながらゆっくりと扉の中に入る。

入ったら明かりがつく仕組みなのかと思ったがそういうわけでもなかった。

背後で扉が勢いよく閉まり、俺は退路を断たれることになる。


「……敵が見えない……でも扉は締まってるし……どうし──!?」


 どうしたものかと考えていた時だった。

何かが視界の端で動いた気がする。


 なのに、何も音がしない。


 この部屋自体がまるで夜のような静けさと薄暗さ。


 俺は剣を抜いて警戒する。

聞き耳を立てて、集中し、唯一の聴覚だけを頼りに警戒する。

何かが俺の命を狙っていることだけは、感覚でわかった。


 俺は何か見えないかと必死に目を凝らす。


 すると視界の端、何かが見えた俺はそれに向かって剣を振るう。

起きたのは短剣と剣の鍔迫り合い、なのに音が全くしない。


「なぁ!?」


 奇妙な違和感だった、音がするはずのところから音がしない。

なのに火花散るほど剣戟が起こる。

目の前まで来てやっと見えたのは、短剣を振り回す黒いローブに身を包んだ小人。


 息もつかせぬ連撃が、俺の命を刈り取ろうと迫ってくる。

短剣の手数を俺は慣れ親しんだ長剣で防ぎきるが、その違和感のせいで思うように体が動いてくれない。

それに視界もよく見えない。


「くそ……らぁ!!」


 俺は強く剣を振るって、その小人を弾き飛ばす。

一旦距離をとって目を凝らす、するとステータスが表示された。


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名前:アサシン

魔力:200

スキル:無音

攻撃力:反映率▶50%=100

防御力:反映率▶25%=50

素早さ:反映率▶25%=50

知 力:反映率▶25%=50


装備

・アサシンの短剣=素早さ+50

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「アサシン……無音……詳細は……」


 俺はそのスキルの詳細を見る。


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属性:スキル

名称:無音

入手難易度:B

効果:発動中は、周囲で発生した音を全て消し去る

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「違和感の正体はこれか……真っ暗で無音。ひどい組み合わせだ」


 それはアサシンだった。

攻撃は強く、素早く、そして音を立てずに忍び寄る。

紛れもないアサシンは、暗闇の中、俺の周りを走り回り、俺の命を狙っている。


「ふぅ……そうか……でもよかったよ」


 俺は剣を両手で握って、正中線に構える。

心を落ち着かせて集中する。

命の危険が迫っている、なのにこれほど落ち着いているのは自分でも不思議だった。


 あの日すべてを捨てる覚悟をし、文字通り命を懸けた俺は生物の根源的恐怖である死に対する耐性を得たのかもしれない。


 昔の俺なら震えて頭を抱えていただろう。


 でも今の俺は、戦える。

それはステータスがという意味ではなく、心がという意味だった。


「はぁ!!」


 呼吸を合わせて一閃の振り下ろし。

暗闇を切り裂く白い剣、その先には黒い小人が息絶える。


「……相性がわるかったな。暗闇でもステータスが丸見えだ」


 この暗闇ですら、俺のこの神の眼はステータスを表示させる。

ならばそこにこいつがいることはすぐに分かった。

煙となって消える小人と同時に部屋の明かりが点灯し、俺の勝利が決定した。


「ふぅ……よかった。この目が無かったら普通にやばかったかもしれないな……少し休憩したらいくか」


 俺は次の扉を見る。

少し疲労も溜まってきたので、もってきた鞄からパンと水を取り出し食事をとる。

寝起きだったのでそれほどお腹は減っていなかったが、激しい戦闘で胃も起きてしまったようだ。

食パンと水を流し込み30分ほど休憩する。


 気持ちを切り替え、もう一度戦闘モードへ。


「よし、いくか」


 すでにこのダンジョンに来てから休憩をはさみ一時間近くが立っている。

一体いつまで続くのか、そう思って次の部屋をのぞき込む。


 その部屋も構造は変わらない。

部屋も明るくよく見える。

だが明らかに今までとレベルが違っていた。


 なぜならそこには。


「まじか……」


 盾使い、魔法使い、そしてアサシンの三体が待ち受けていたからだ。


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