第24話 昇格試験ー3
「きっつ!」
俺の第一声はそれだった。
盾使い、魔法使い、アサシン。
どれも単独ならば今の俺なら簡単に倒せるだろう。
というか倒してきた。
しかしその三体が揃うと、これはもはや攻略者のパーティと戦っているようなもの。
「どうしようか……」
幸い部屋に入るまでは襲ってこないようなので、俺は作戦を立てることにした。
攻略しないとこの異空間から帰ることはできなさそうなので、逃げることもできない。
「まず一番厄介なのは、アサシンだよな。戦闘力なら一番高いはず。でも暗闇じゃないからまだましか? でも魔法使いのファイアボールも野放しにするのはきついし、盾使いを先に瞬殺して……うーん」
俺は胡坐をかいてどうするべきかを考えていた。
しばらく考えた結果、一つの作戦を立案した。
「魔法使いは5秒は魔法を放つのに、時間がかかる。今の俺なら全力で走れば50メートルも5秒以内にいけるはず……まず魔法使いを倒そう」
それが俺の作戦だった。
残り二体の盾使いとアサシン。
盾使いは先ほど瞬殺したし、アサシンに至っては俺の目ならばそれほど脅威ではないはず。
厳しい戦いになるとは思うが、それでもアサシンに気を付けながら戦えば二対一でも勝てるはず。
「よし!」
俺は息を整え、まるでクラウチングスタートのように開いた扉の前で構える。
心臓の音が聞こえる、ドキドキする。
でもこのスリルとでもいうのだろうか、少し楽しめている自分がいる。
今まで弱くて戦うことが許されなかった。
でもこの力を得て、ちょっとずつ強くなっている自分を感じて。
強敵との戦いを少し楽しいと思う、成長する自分を楽しいと思う。
不思議だ。
怖さはある。
でも、楽しさもある。
良く分からない感情が共存する。
もしかしたら俺はバトルジャンキーなのだろうか。
「弱かった反動かな?」
少しだけ俺は笑った。
努力することで成長できるというのは。
世界が変わるというのは。
これほど楽しいことなのかと。
「ふぅ……!」
俺は息を吐き出し、深呼吸。
タイミングを見計らって全力ダッシュ。
盾使いをすり抜け、アサシンを無視し、風の壁を感じながらどんどん魔法使いとの距離が縮まる。
魔法使いは焦るように両手を掲げるが、火の玉が集まるよりも俺の方が早い。
成功だ!
俺は、振り上げた剣を振り下ろす。
後は振り下ろすだけ、これで魔法使いは倒せるはず。
これで俺は攻略できた。
やった!
そう思ったとき、大抵は失敗するというのに。
「ウォォォ!!!」
「!?」
後ろで大きな声がする。
その声の主は盾使いだった、俺は後ろを振り返っていた。
なぜ?
大きな声を上げようとも、俺はそのまま剣を振り下ろすべきだ。
なのに、強制的に意識を持っていかれたように俺は後ろを向いて盾使いに剣を向けてしまった。
「挑発!? 人間にも効くのかよ!!」
すぐに自我を取り戻す俺は理解した。
これは盾使いのスキル、挑発なのだと。
ここにきて瞬殺してしまったツケが来た、最初の部屋で盾使いと対峙したときに挑発を受けていれば気づけたはず。
だが俺は挑発は勝手に魔物にしか効果がないものと決めつけていた。
知能のある人間には効果がないはずだと。
「くそぉぉ!!」
俺は無理やり思考をぶん回し、魔法使いに視線を戻す。
まだ間に合う、このままならまだやれる。
俺は剣を振り上げる、しかし。
「がぁ!?」
横から無音でやってきたアサシンに阻まれる。
横からの飛び蹴りで、俺は脇腹を全力で蹴られた。
そのまま地面に勢いよく転がる俺はすかさず立ち上がり剣を構える。
しかし、目の前に迫るのは、赤い火の球。
目を見開く俺は運よく視界に入った支柱に、生を見つけて転がり込んだ。
しかし間に合わず、片足がその魔法に燃やされる。
「ぐぁぁ!!!」
それでも一瞬だったため、靴が燃えて火傷で済んだ。
軽傷だ、足がひりひりして水ぶくれができるぐらい。
歩くと泣きそうになるぐらいの軽傷だ、まじでいてぇ……。
「はぁはぁ、やばい。一旦外に……って……そりゃ閉まってるよな」
外に出るための扉を見る、しかし案の定閉まっている。
ならば俺はここでこいつらを倒すことでしか生還する道はないようだ。
「スリルは楽しいっていったけど……ここまでのは望んでないんだけど……」
俺は背中から感じる熱風と同時に視界の端にステータスが映ったことに気づく。
つまり、これは。
「落ち着く暇もくれないか!」
俺はその短剣と鍔迫り合いを起こす。
このまま、まずはアサシンを倒してしまおう。
俺は剣を振り上げる。
「ウォォォ!!!」
「くそぉぉ!!」
しかし意識を持っていかれた。
その間にアサシンはまた行方をくらませる。
一瞬だけだが、注意を引き付けるという挑発というスキルがここまで面倒だとは思わなかった。
その注意をひかれるせいで、アサシンから一瞬視線を逸らし、また無音で死角へと消えていく。
「これがパーティか。これは強い……実際はヒーラーもいるし、タンクも。そりゃ上級パーティは強いはずだ」
俺はパーティというものの強さを実感していた。
それぞれは簡単に倒せる相手なのに、揃うとここまで強くなるのか。
これが上級攻略者、例えばアヴァロンの一軍なんかだと一人ひとりはもちろん、チームとしてさらに洗練されているはず。
それが人が強大な魔物に立ち向かう力となり、プロの攻略者チームというものなのだから。
田中さんのチームなんかは、これの数十倍は強いんだろうな。
「ってそんな余裕こいてる場合じゃねぇ!!」
盾使いが盾を前にして、その腰の剣を抜きゆっくりと俺に近づいてくる。
こいつは防御力は高いため、正面からでは一瞬では倒せない。
それにアサシンへの注意と、魔法も避けなければならない。
俺は振り下ろされる盾使いの剣を避ける。
魔法も避ける、アサシンの攻撃も交わす。
息が持つのは魔力で体が強化されているからだろう、それでも限界が近づいてくる。
「はぁはぁ……くそっ!」
どれだけ戦い続けただろう、防戦一方で数分間。
しかし体感時間はその非ではない。
身体のいたるところによけそこなった切り傷ができた。
血が滴って、火傷した足が酷使しすぎて紫色に変色してくる。
「負ける?……こんなところで?」
盾使い、アサシン、魔法使い。
俺は傷が増えていく一方なのに、いまだに一回もまともに攻撃を当てることができていない。
有効打が決まらない、このままだと……。
死。
俺の脳裏をその一文字がよぎる。
覚悟はしているし、それは乗り越えたはずだった。
それでも死にたくはない。
今までならば死にたくないと言う思いが恐怖を生んだ。
ならば変わったはずの今は?
「…………そうだな、命かけなきゃ何も乗り越えられないよな……よし!!」
俺は叫びと共に決死の覚悟を決めた。
最後のチャンス、これで失敗すれば死ぬかもしれない。
それでも俺は九死に一生をつかみ取る。
命を賭けねば夢も何も得ることなどできはしない。
いつだって諦めなかった人の上にしか奇跡は輝き降りてこないのだから。
俺は剣を構えて、前を向く。
俺の眼の奥に黄金色に輝き煌めきがまるで炎のように灯される。
次の魔法まであと5秒。
盾使いは挑発を準備している、ならば俺は左を見る。
そこにはステータス画面、アサシンが俺へと攻撃を向ける。
短剣による一撃、何度も切り刻まれてきた。
避けて反撃しようとしてもどうせ挑発によって逃げられる。
ならば、俺は。
「ぐわぁぁ!!!」
左腕を差し出した。
俺は左腕でアサシンの短剣を受けきった。
ざっくり刺されるその短剣が、俺の左腕を貫通した。
泣きそうになるほどの、絶叫しそうになるほどの痛みが左腕から全身に広がる。
歯を食いしばってそれでも目を見開く。
俺は刺されたままアサシンを下にするように倒れこみ、抑え込んだ。
そして片手で剣を握って、串刺しにしようと振り上げる。
いつものように挑発で俺の意識が持っていかれる。
「ぐっ!!」
それでも俺はそのアサシンを左腕と全体重でその場にとどめる。
短剣がぐるりと回って肉がえぐられる痛みに意識を刈り取られそうになる。
だが幸いにもその痛みによって、俺の意識も挑発からすぐにアサシンへと向けられた。
「あぁぁ!!!」
俺はそのまま剣を振り下ろしアサシンを串刺しにする。
と同時に、間髪いれずに盾使いへと突撃をかました。
なぜならその後ろにはウィッチの火の魔法が浮かんでいる、だが直線状に盾使いがいるために打つことができない。
「そんなに挑発してくるならなぁ!!」
盾使いは焦るように剣を抜く、俺は血が滲みながらも両手で剣を握りしめ、力いっぱい振り切った。
「あぁぁぁぁぁ!!!!」
腹の底から声を出す。
ここですべて出し切ってやるという意思を込めて、無我夢中で押し込んだ。
いつの間にか俺の剣が盾使いの首に到達し、そのまま押し込み首と胴を切り離す。
ナイトが倒れ、力なく後ろに倒れそうになる。
だが倒さない、こいつはすぐに煙になるから。
だから、俺はその鎧をさらに両手で抱きしめ持ち上げてぶん投げる。
「ぬらぁぁあ!!!」
目の前に飛んでくる火の球にぶつけるために。
鎧をぶん投げて火の球にぶつかる、そしてファイアーボールが爆発無散する。
至近距離で爆発したため、とてつもない熱さが俺を襲い、全身を軽度だが火傷した。
眼がチカチカし、膝をつきそうになる。
それでも俺は倒れずに心から声を出した。
鼓舞するように、ここで諦めるわけにはいかないと、諦めそうな体を心の力で奮い立たせる。
そして魔法使いに向かって駆け出した。
「遠くから何度も何度もバカスカ撃ちやがって!!」
今までの恨みを晴らすように、全力の振り下ろしを魔法使いに叩きこんだ。
型も何もない、滅茶苦茶な力任せの一撃、しかし今までどの一撃よりも速かった。
魔法のクールダウンから抵抗することもできずに、魔法使いはそのまま切り裂かれる。
あとには敗れたローブだけが残っていた。
「はぁ……」
俺はそのまま大の字になって、仰向けになる。
目を閉じて、息を切らせて肩で呼吸する。
「勝った……いっつもギリギリだな。俺は……はぁ……」
大の字になって地面で、肩で息をする。
ひんやりした石の床が、熱くなった体を冷やす。
俺は右手を天へと向けて、握りしめる。
意識が飛びそうになるが俺はにやりと笑って、右手で小さくガッツポーズをした。
「本当に俺は……はは、いつか本当に死ぬぞ」
これで終わって欲しいという俺の想いとは裏腹に。
『最後の試験を開始します』
無慈悲にこれぐらいは超えて見せろと、試練は俺に立ちはだかる。
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