第21話 初めてのソロ攻略ー7

「ここも洞窟タイプ……ダンジョン崩壊されているからなのか? 変な雰囲気だ」


 いつものダンジョンよりも少しだけ息苦しい。

気のせいなのか、気持ちの持ちようなのかはわからないが、重苦しくて息が詰まる。

いつものダンジョンよりもプレッシャーが俺に重くのしかかる。


 そして目の前には。


「……そりゃいるよな」


 俺が中に入った瞬間オークの群れがそこにいた。

まだこちらには気づいていないようだが数にして5体、全員が70の魔力を有する。

つまり合計魔力は350にも相当し、俺の魔力を優に超える。


 ならばと俺は、一切躊躇せずに奇襲で一体を背後から飛びつき首をはねて、葬る。

もう一体は、驚きながらもかろうじて武器を構えて鍔迫り合いが起きた。

しかし、武器の性能さで無理やりに押し切った。


 一瞬で二体のオークを殺すことに成功する。


 だが、残り三体は当然武器を構える。

ここからは奇襲ではない戦闘になる、苦戦は必至。

油断はできない、それでも時間の余裕はない。


 俺は少し危険な賭けを繰り返す。

紙一重で交わし三体のオークを切り刻んだ。

いくらか攻撃を食らったがステータスの差で打撲程度の軽傷で済んだのは幸いだろう。


「ふぅ……なんとかやれそうだ。よかった、ある程度成長した後で」


 俺はそのまま警戒しながら音を殺しながら駆ける。

見つけたオークは基本的には奇襲で殺す、複数いる場合はおびき出して一体ずつ殺す。

正面切って、ダンジョンを突き進む。


「渚……どこにいる……」


 すでに20体以上のオークを殺した。

それでも渚がいる気配がない、俺は渚を探した。

焦っているからか俺は、渚の『さん』を付ける余裕もなく呼び捨てにしてしまっている。

妹の凪と名前が似ているのも理由かもしれないが、正直どうでもいい。


「くそっ! さっき来た道だ。こっちじゃない!」


 このダンジョンには、村長が隠匿していたせいで地図がない。

そのせいで、攻略もなかなかうまくはいかなかった。

だが、一時間ほど走り回った結果俺は、ボスの部屋を見つけていた。


 E級の扉に比べて一回りは大きく禍々しい扉。


「……ここはボスの部屋か。これは最後だ」


 だが俺はまだ探していない部分を探すために、全力で走りだした。


 せめて、声が、どこかで声がすれば。


「頼む、無事でいてくれ」



「……うっうっ」


 ダンジョンの奥深く。

そこで渚は捕まっていた。

洞窟の中の、小さな部屋のような場所に連れてこられていた。

四方を石の壁に囲まれており、出入り口は一つだけ。


 そしてそこには、三体ほどのオークがまるで見張りのように立っていた。


「いや……いやだ……」


 渚は身体を震えさせて、両手で抱きしめるように縮こまる。


 怖い。


 自分は殺されるのだろうか、あの村長のように。

そしてあの時の両親のように。

まだ小さく記憶はおぼろげ、それでもあの日のことを思い出すだけで震えが止まらない。


「パパ、ママ……助けて……」


 聞いたことがある。

魔物の中には女性に乱暴し、無理やり犯し、そして飽きると食い殺す存在がいると。

オークやゴブリンといった種族がそれだ。


 想像するだけで、今すぐに自分の命を終わらせてしまいたい気持ちに駆られる。

そんな恐怖を体験するぐらいなら、ここですべて終わりたい。

そう思うぐらいには渚は恐怖で、涙が止まらなかった。


 それでもそんな勇気もなく、渚はただ震えて自分の運命を見つめることしかできなかった。

 

「ゲヘヘ……」


 入口から一体のオークが渚を見て涎を垂らす。

手を伸ばし、その太い腕で渚を掴んだ。


「いや、いや!!」


 仮にもオークと同じD級の魔力を持つ渚。

力いっぱい振り払い、オークから逃れようとする。

それに顔をしかめたオーク、次々と仲間の見張り達が全員その部屋に入ってきた。


 三体のオークに力ずくで抑え込まれる渚。


「いや、いや……たすけて……たすけてぇぇ!!」


 最後の力を振り絞り、意味はないとわかっていても大きな声で助けを呼ぶ。

その声にオークは興奮したかのように、体を震わせた。

渚は必死に抵抗してオークたちをはねのけ、叫ぶ。


 最後の抵抗、大きな声で助けを呼んだ。

無駄かもしれない、でも助けてほしい。


「誰か!! たすけて!! たすけてよぉぉ!!」


 こんなキューブの奥深く。

誰もいるはずはないけれど、それでももしかした。


「なぎさぁぁぁ!!!」


 その声を聞き逃さない人がいるかもしれないから。


「え?」


 泣きはらす渚の腕を持つオークの力が弱まった。

直後一体のオークの首が落ちた。


 残り二体のオークが何事だと後ろを向く。

しかしその瞬間もう一体の首も落ちた。


「ガァァァァ!!」


 訳も分からず吠える最後の一体のオーク。

しかしその一体も顎下から脳天へと剣を突き刺され絶命した。

一瞬の出来事だった。


 何が起こったのかすら分からない渚。


 でも一つだけわかるのは。


「……よかった。もう大丈夫。俺が助ける」


 助けに来てくれたということ。


 灰は、しゃがんで泣きじゃくる渚の頭をなでる。

いつも怖くて泣きそうにしていた妹にしてあげるように、優しく。


「大丈夫だからな」


 渚はとたんにボロボロと涙を流して大きな声で泣きながら灰へと抱き着いた。


「わーん、こ、怖かったです!!」


「もう大丈夫、お兄ちゃんが守るから」


「お兄ちゃん?」


「……失礼。忘れてくれ」


 俺はつい凪にいうような言葉でお兄ちゃんと言ってしまった。

照れ隠すように、渚さんを両手で抱き上げる。


『条件2を達成しました』


(今ので50体か、結構倒したな……無我夢中だったから数えてなかった)


「靴も履いてないし、少し我慢しててね。ボスを倒して早く外に出よう。じゃないと」


 俺は混乱している渚をお姫様抱っこしてすぐに外にでる。

外には大量のオーク達が俺を狙って走ってきていた、数にして20はいるだろう。


 渚の声がしたとき、俺は全てのオークを倒さずに無視して走ってきた。

そのため、大量のオークが俺を追ってきている。


「グモモォォ!!」


 俺は全力で走った。

向かうはボスの扉の部屋。

道は覚えていたので迷わない、キューブの入り口から出られればよかったのだが、そっちの方向には大量のオーク軍がいる。

あれだけの数を相手にするぐらいならボスのほうが幾ばくかましだ。


「あ、天地さん……天地さん……」


 渚は震える手で俺を掴む。

相当に怖い思いをしたのだろう、俺は強く抱きしめて安心できるようにしてあげる。

まだ中学生なんだ、無理もない。


「渚、今からボスを倒す。少し一人にするけど……頑張れる?」


「え?……は、はい、がんばります」


 お姫様抱っこしながら俺は渚に頼む。

少しだけ顔を赤らめる渚。

泣きそうな目で、顔が真っ赤で、目を合わしてくれない。


「よし、ついた」


 俺達はそのままボスの部屋の前につく、後ろからは大量のオーク達が轟音を立てて追ってくる。

相当の数、それこそ完全攻略の条件である50体は倒したはずなのにまだいるのか。


 俺はそのままボスの部屋を開けた。

渚と一緒に入り、扉が閉まる、つまり今からボスとの戦闘が始まることを意味した。


「白いオーク……強そうだけど……」


 俺はそのオークのステータスを見た。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

名前:ホワイトオーク

魔力:100

攻撃力:魔力反映率 ▶30%= 30

防御力:魔力反映率 ▶20%= 20

素早さ:魔力反映率 ▶10%= 10

知 力:魔力反映率 ▶40%= 40

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「なんだ、雑魚か」


 俺は一瞬でそのオーク亜種の前でしゃがむ。

通常のオークよりは多少は強いが、それでも1.5倍程度、大した相手ではない。


「ンガァァ!!?」


 一閃。


 俺はそのままそのホワイトオークの首を一撃で刈り取って殺した。

一対一ならばD級程度の魔物が相手になるはずもない。


『条件1,2,3の達成を確認、完全攻略報酬を付与します』


「ん? 渚がいるとソロじゃないと思ったがそういう事じゃないのか?」


 直後俺と渚を光の粒子が包み、白いキューブの中に転移した。

多分ボスを倒したことでダンジョン崩壊が終了し、元の白色のキューブに戻ったのだろう。

俺はそのキューブを見つめる。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

残存魔力:30/100(+1/24h)

※休眠中

攻略難易度:D級

◆報酬

初回攻略報酬(済):魔力+50

・条件1 一度もクリアされていない状態でボスを討伐する。

完全攻略報酬(済):魔力+100、クラスアップチケット(初級)

・条件1 ソロで攻略する。

・条件2 50体以上のオークを討伐する。

・条件3 ボスを五分以内に討伐する

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「お、チケットも……あるな」


 俺は足元のブロンズ色のチケットを拾った。

これでついに10枚揃うことになる。


「天地さん……本当にありがとうございました」


「いえいえ、どういたしまして。本当によかった無事で。けがはない?」


「はい、大丈夫です。すごい怖かったですけど、けがはないです! あ、あの泣いてたことは忘れてください!」


「そっか、頑張ったね。偉いぞ。いい子だ。よしよし」


「さっきからなんか子供扱いしてませんか!?」


「え? そ、そうかな……」


 俺はまた頭をなでようと手を伸ばして引っ込める。

渚は少し残念そうな顔をしているが、気のせいだろう、危うくセクハラしてしまうところだった。


「お、開くな」


 俺達を包んでいた白い箱がゆっくりと開かれて、ダンジョンは休眠モードへと移行したようだ。

その直後、空から轟音がなり、ものすごい風が吹いていた。


「な、なんだ? 凄い音……ってえ!?」


 俺がなにごとだと頭上を見上げる、そこには軍用? 仰々しいヘリコプターが飛んでいた。

そして次々と降下してくる俺よりも圧倒的に強そうな攻略者達、そしてその先頭にはローブに身を包んだ魔法使い。


「た、田中さん!?」


「灰君、よかった無事で。……って、き、君が攻略したのか? D級の崩壊を? 一人で?」


 俺が助けを求めた田中一誠、日本トップギルドアヴァロンの副代表だった。


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