第20話 初めてのソロ攻略ー6

「……なんか、騒がしくなってきましたね」


 俺が縁側で、月を見ながらぼーっとしていると村の灯りがついていく。

それでもここは村のはずれのため、何がおきているかまでは良く分からない。


「この時間に明かりがつくなんて珍しいのぉ、年寄りばっかりじゃから9時には全員就寝するんじゃが……」


 そういうとおばあさんはスマホを取り出した。

え? スマホ? 使えるの? 違和感がすごい。

するとおばあさんはFACEIDまで使いこなし片手でスマホを操作する。


「ふぉふぉ。余裕じゃこれぐらい。どれ……村のSNSをっと」


 村のSNSまであるんだ、文明使いこなしてるな。

偏見でまだ黒電話とか使っている村のイメージだったのに、普通に現代だった。


「……豚の魔物が現れたじゃと?……」


「え?」


 俺はもう一度村を見る。

明るかった村は、やがて火の手が上がり、暗い夜空を照らし出す。

豚の魔物、思いつくのは一つだけ。


 そしてそれが現れたという事は。


「ダンジョン崩壊が起きたようじゃ…──あれ? 天地さん?」



 俺は全力で走った。

ダンジョン崩壊が起きているのなら、渚さんが危ない。

この村の人はほとんど他人で、罵倒までされた。

救うほどの情は感じてはいない。


 それでも渚さんは違う。

俺はすでに彼女を妹と重ねている。


「くそ! 間に合ってくれ!!」


 焦燥感が俺を掻き立てる。

豚の魔物、多分オークだ。

しかもオークはD級の魔物、だが危険度はC級に肉薄する。

それは身体機能よりも、高い知能と群れで行動することが多いからでもある。


 彼らはD級最悪の魔物とも呼ばれていた。


「はぁはぁはぁ……くっ!」


 俺が村についたとき、村の中はオークでいっぱいだった。

20体ほどはいるだろうか、村人たちは必死で応戦するがD級に該当する覚醒者でなければ相手にもならない。


 この村の人はほとんどがE級なのだろう、すでに犠牲者もでていた。


「た、たすけてくれぇぇ!!」


 俺はその声がする方に走る。

そこにはオークが一人のお婆さんを襲っていた。

醜い身体に、豚の鼻、体は熊ほども大きく手にはこん棒ではなく、石と木で作ったであろう斧のようなものを持っていた。


 俺はそのオークのステータスを確認する。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

名前:オーク

魔力:70

攻撃力:反映率▶30%=21

防御力:反映率▶20%=14

素早さ:反映率▶10%= 7

知 力:反映率▶40%=28

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「強い……ブルーベアーとは比べ物にならないぐらいに」


 オークの魔力は70、まさしくD級上位だった。

D級キューブの中にいる魔物の中で最も強い種族と言われるゆえんもわかる。

その場合は個人ではなく、群れとしてだが。


 俺は腰の剣を抜いて構える。


 俺では相手にはならなかっただろう。


「はぁ!!」


「ンゴォ!?」


 昔の俺なら。


 俺は背後から一撃でオークの首を切り落とす。

九つのキューブを完全攻略した俺のステータスは前に比べて跳ね上がっていた。


 俺は自分の手を見つめる。

この新しい強さを実感するように。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

名前:天地灰

状態:良好

職業:なし

スキル:神の眼、アクセス権限Lv1

魔 力:285

攻撃力:反映率▶25%=71

防御力:反映率▶25%=71

素早さ:反映率▶25%=71

知 力:反映率▶25%=71


装備

・騎士の紋章

・ハイウルフの牙剣=攻撃力+120

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 E級キューブの完全攻略は、魔力が平均でプラス30ほどされた。

九つ攻略した今、俺の魔力は300に近いところまで成長している。

今の俺は相当に強く、D級ダンジョンですらソロで踏破可能かもしれない。


 C級と呼ばれる攻略者の魔力は協会の規定では100~1000ほどなので俺は今C級の下位と扱われるはずだ。


 それでもオークのいるダンジョンをソロで攻略するのは心もとない。

ここにいるオークすべて倒したら、協会の増援を依頼しよう。

色々ばれるかもしれないが、そんなことは二の次だ。


 俺はそう決めて、村中のオークを狩りつくした。


 20体ほどのオークは、バラバラに暴れており、単独ならば相手にならずに倒せた。

こいつらが厄介なのは徒党を組むことができる知性のせいなので、この状況ならだただのD級の魔物だ。


「渚さんはどこにいるかわかりますか?」


 俺は助けた村中の人に聞いて回る。

しかし誰も答えられない、それに恐怖からか動揺しているようだった。


「どこだ……渚」


 俺は村を探し回る。

しかし、どこにもいない、オークもすでに全滅している。


 俺は村の中心へと来た。


「……ダンジョン崩壊、黒いキューブ……この建物の中にあったのか」


 そこにはボロボロに壊れたプレハブ小屋。

その中からは真っ黒なキューブが顔を出していた。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

残存魔力:100/100(+1/24h)

※ダンジョン崩壊中

攻略難易度:D級


◆報酬

初回攻略報酬(済):魔力+50

・条件1 一度もクリアされていない状態でボスを討伐する。

完全攻略報酬(未):現在のアクセス権限Lvでは参照できません。

・条件1 ソロで攻略する。

・条件2 50体以上のオークを討伐する。

・条件3 ボスを五分以内に討伐する

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「D級……やっぱり嘘の報告をしてたんだな」


 俺はキューブのステータスを見る。

本来なら真っ黒で何のランクかもわからないがステータスが見える俺には関係ない。

そして俺は建物の中に入り、顔をしかめる。


 そこには、男性の首、そして多分村長の死体があったから。


「勝手に攻略しようとして、失敗したんだな……協会に任せればいいのに、金のためか……」


 俺はあたりを見渡す、そしてそこには。


「これは渚さんの靴?」


 制服を着ていた渚さん。

そのままだったのだろう、キューブの近くには革靴が二つ落ちていた。


 一つは村長の死体のすぐそばに、そしてもう一つは。


「まさか……つれていかれたのか!?」


 キューブのすぐそばに落ちていた。

まるで中へと連れされるのを、必死に抵抗したかのように。

オークは、人間の男を食い殺す、そして女性を凌辱する。

それゆえに相当に恐れられる魔物でもあった。


「……くそっ!」


 俺は握りこぶしを作り、大きな声を出す。


 田中さんに夜鳴村でD級のダンジョン崩壊が起きたので助けてくださいとだけメッセージを送った。

だが、どれだけ早くても1、2時間はかかるだろう。

その間に渚さんは、もしかしたらオークに。


 俺は何の躊躇もなく一歩を踏み出した。


「待ってろ、渚……」


 まるで妹にいうように。

俺は決意を決めて、黒いキューブに触れた。

いつものような凛とした音ではなく、バチバチとまるで拒絶するかのように黒い稲妻が走る。

抵抗されているような感覚すら覚えるが、俺はそのまま足に力を込めて無理やりキューブの中に入った。


 たとえそこに、100のオークがいたとしても。

 

 命の危険があったとしても。


 もう俺はあんな気持ちは嫌だからと。


「必ず助ける」


 その未知のダンジョンへと突き進む。


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