第12話 神の眼ー2

「はぁ? なんだこれ」


 俺はその手に映ったステータス画面を見る。


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名前:天地灰

状態:良好

職業:なし

スキル:神の眼、アクセス権限Lv1

魔 力:5

攻撃力:反映率▶25%=1

防御力:反映率▶25%=1

素早さ:反映率▶25%=1

知 力:反映率▶25%=1


装備

・騎士の紋章

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「俺のステータスなのか? 名前が俺の名前になってるし……っていうか家に転移したのか? もう何が何だか……」


 最後の記憶はあの金色の眼の置物に触れたこと。

一瞬夢かとも思ったがダンジョンに入ってから一週間は経っている。

夢なんかではなく、俺は確かにダンジョンに潜ったはずなんだ。


 それでも自分が信じられなくなった俺は、外に出ることにした。


「いつもの光景だ……」


 いつものボロアパート、いつもの風景、でも一つだけ違っているのは。


「ステータスが見える……他の人のステータスも……」


 街行く人々に焦点を合わせて見つめるとステータスが表示される。

何と言ったらいいかわからないが、見ようと思えば見える。

見ようと思わなければステータスは表示されなかった。


「そういえば……完全攻略の報酬として神の眼を付与とか……これが神の眼? ってか俺は攻略したのか? それに騎士の紋章」


 わからないが、俺はどうやらあの金色のキューブを攻略したらしい。

首には黄金色のタグがかかってあり、やはりランスロットと掘ってある。

完全攻略という言葉の意味はよく分からないが、あの時田中さん達に鍵を渡したことが完全攻略だとするならば本当に糞みたいな試練だと思う。


「……どうしようか……とりあえず……腹が減ってる」


 一週間何も食べていないからなのか、俺の腹は極限に減っていた。

俺はなけなしの全財産が入った財布をもって近くの牛丼屋へと向かう。


「らっしゃっせー!!」


「牛丼特盛、温玉つゆだくだくの味噌汁とおしんこセットで!!」


 俺は、いつもなら頼めない最高の贅沢を注文する。

これを最高の贅沢と呼ぶあたり我が家の経済状況がうかがえるが。

一週間分の食費が浮いたし、参加費100万円がもらえるはずだからな。


「どうぞ!!」


「浅野さん……魔力たったの54か……」


「え? どっかであったことありましたっけ?」


「あ!……すみません、友人の名前をつぶやいただけでして!」


 俺はその店員さんのステータスをつい読み上げてしまった。

名前、職業、等級、そして魔力量が見える、なんだこの人間スカウターは。

思わずゴミめと言いたくなってしまうが、さすがに自重する。


 ちなみに俺の魔力の10倍以上あるので、ゴミは俺なのだが。

そしてよくわからない項目、反映率ってなんのことだ? 計算するに魔力に対する反映率のようだ。


 俺の魔力は5、これはかつて協会で測定したものと一致する。

その5に対する反映率25%が攻撃力という項目になっていた、それが1。

つまりは俺の攻撃力は1なのだろうか、そもそもそんなものが数値で表せるとも思えないが。


 それに職業も、目の前の店員は、牛丼屋の店員なのに『なし』だし。


 店員さんは不思議な顔をして、それでも納得したように離れていく。


「なんのことか全然わからないな、でも……とりあえずは!」


 ステータスのこともだが、今はそれより目の前の牛丼こそが俺の第一目標だった。

割り箸を勢いよく割り、一週間ぶりの好物を胃の中に流し込む。


 腹が満たされた俺は、水を飲んで休憩しながらとりあえず少しだけ考察することにする。


「このスキル、神の眼ってのが報酬なんだろうな。よくわからんけどステータスって呼ぶこれが見えるのか……そんな漫画じゃあるまいし」


 現状で分かることは神の眼と呼ばれるスキルが、攻略報酬として俺に与えられたらしい。

そしてこのスキルは人のステータスが見えるという恩恵がある。

といってもわかることは魔力に関することと名前ぐらいのもんだが。


「正直なんもわかんないな。とりあえず……」


 俺は立ち上がり、目的地を決める。


「凪の様子を見に行くか」


 俺は国立攻略者病院へと、妹の様子を確認するために向かう。

田中さんを信用していないわけではないが、それでも目で見て安心したい。


「渋谷のキューブは消えたんだ……あ、やっぱり俺死んだ扱いになってるな。どうしよう」


 俺はスマホでニュースを調べる。

まだ一週間なので、スマホの解約もされていないようでよかった。

もしかしたら色々手続きとかしないといけないのかな? 死んだと思ってたら生きてましたって。


 電車に乗りながら俺は、外を眺める。

いつもの風景だ、そしてそのいつもの都会の風景に立つ異質な箱達。


 キューブ、そういえば封印の箱とかいってたな……。


「……え!? 今のって!?」


 キューブをなんとなしに見つめていた俺は、突如人と同じステータスがキューブにも表示されたことに気づく。

しかし、通り過ぎてしまって何があったのかは読めなかった。


「キューブにもステータスがある!?」


 俺は目的の駅についてから、すぐに最寄りのキューブへと向かった。

一度攻略したことがあるE級のキューブのはず。

まだ休眠モードになっていないことから、数日もすればダンジョン崩壊を起こし、魔物が外に現れる。

といっても、協会が管理しているためすぐに攻略者が派遣されるだろうが。


 そして俺はその青色のキューブ、人類が定めた等級でいえばE級のキューブを見た。


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残存魔力:30/50(+1/24h)

攻略難易度:E級


◆報酬

初回攻略報酬(済):魔力+10

・条件1 一度もクリアされていない状態でボスを討伐する。


完全攻略報酬:現在のアクセス権限Lvでは参照できません。

・条件1 ソロで攻略する。

・条件2 100体以上のゴブリンを討伐する。

・条件3 ボスを三分以内に討伐する。

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「何これ……」


 俺がキューブを見つめると現れたのはステータスだった。

ステータスというか、キューブの情報?

そこには、人類が20年前から戦ってきたキューブの誰も知らない情報が記載されていた。


「これ本当なのか? 残存魔力? こんなの……それに攻略報酬って……見えないけど」


 俺はその情報を見て一番に思ったことは、攻略報酬だった。

確かにキューブが現れて人々は覚醒した、そしてキューブを攻略するごとに強さが増すなんて噂も聞いたことはある。

しかしそれは稀に起きることであり、実際はほとんどが起きないため、都市伝説だとも言われている。


「キューブには初回攻略と、完全攻略の二つがあるのか。このキューブの初回攻略はもちろんもう誰かが攻略していると。でも完全攻略はまだか……報酬は何かまではわからない……」


 俺はその情報からそう読み取った。

憶測だが、そのまま読めばそうなるだろう。

完全攻略報酬は、攻略報酬を考えれば魔力の最大値が増えるのだろうか。


「……強くなれるのか、俺は」


 魔力5、街行く攻略者でもない普通の人々の半分もない俺の魔力。

しかし、この目をもってキューブを攻略していけば俺はもっと強くなれるのかもしれない。

まだこの目の情報を鵜呑みにするわけにはいかないが、俺に与えられたこの力が何を為せるのか。


 それでも少しだけ俺は期待してしまう。


「と、とりあえずこの検証は後にして!」


 俺はそのまま病院に向かった。



「あ、あの……天地灰です。天地凪の面会に来たんですけど」


「少々お待ちください」


 病院に向かい、いつものように受付のお姉さんに面会依頼をお願いする。

え!? 幽霊!? なんて反応を期待というか、恐れたが、そんなことは全くなかった。


「……あれ? 一般病棟から……遺族病棟……で今は……特別個室? あれ?」


「なんですか、特別個室って」 


「い、いえ。つい先日は天地凪さんは遺族病棟に移されたのですが、すぐに個室へと移動されてます。特別個室はその……最上階でとても広く……」


「あー……」


 俺は田中さんの仕業だとすぐに思いついた。

凪は、俺が死んだとされた一週間前に遺族病棟に移されたはずだ。

しかし田中さんがすぐに別室へと移動させたのだろう。


 遺族病棟は最低限の治療しか受けることはできない。

それに対して、特別個室とは住めるレベルの部屋で主に金持ち専用の部屋。

一月で100万ほどは費用がかかると聞いたこともある。


「ふふ、あの人らしいな」


「え?」


「いえ、なんでもありません。それで……面会できますか?」


「それが申し訳ございませんが、特別病棟の患者様は身元引受人の方の許可がなければご案内できかねます。こちらからご連絡させていただきましょうか?」


「そうですか、いえ、大丈夫です! では先に許可を取ってきます」


 俺は申し訳なさそうにする受付のお姉さんに頭を下げて病院を後にする。

先に田中さんに会いにいかなくてはいけないようだ。


「ふふ、田中さんびっくりするかな?」


 俺は少しだけいたずら心を胸に抱いて、日本最大最強のギルド。

『アヴァロン』へと向かうことにした。


「虎ノ門……すごいところにあるな……さすが日本一のギルド。まるで一流企業だ。ってか一流企業みたいなものか」


 俺はスマホ片手に、アヴァロン本社の場所を調べて向かう。

そこは日本を代表する企業が立ち並び、官公庁、国会議事堂など日本の中枢、霞が関も目と鼻の先。


 まさにこの国の中心部の一つだった。


~電車に揺られて数十分。


「ここが虎ノ門……」


 季節は夏、温暖化止まらぬ日本。

コンクリートジャングルに、半袖短パンの貧乏人が降り立つ。

上から下まで全部ユニシロ、パンツまで含めて総額3000円コーディネートなり。


 俺は周りのビシッと決めたビジネスマン達の間を縫って目的地へと進む。

彼らのネクタイ一つで俺の全身コーデよりもはるかに高いだろう。


 そして目的のビルへ。


「これがアヴァロン本社ビル……デカすぎんだろ」


 天高く聳える摩天楼、そこは日本最大最強ギルド兼会社。


 アヴァロン本社だった。


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