第11話 神の眼ー1

 その石碑に書かれた文字を俺は読み進める。


『我々白の敗北は近い。世界は奴らの手に落ち、永劫の服従が世界を支配するだろう。我らが神も崩御された。我らの…を持ったものが裏切ったからだ。だから我ら騎士のすべての命を使い、姫様が最後の魔法を発動された』


「これ……どういう。ここだけ欠けてて読めないな……」


『すまない、未来の子供達よ。君達にすべてを委ねるしかないことを許してほしい。せめて戦うだけの力は我らが渡そう』


「委ねる? なんのこと……」


『これを見る者よ、騎士として認められたものよ。頼む、強くあれ。そして願う、我々の眼が、正しきものに渡ることを。慈愛に満ちて美しく輝く魂を持つものへ。そして』


 最後の一文だけは一際力強く彫られていた。


『その黄金色に輝く魂がいずれ世界を覆う闇すらも照らすことを』


 それで石碑に書かれていたことはすべてだった。


「……よくわからない。誰かと誰かが戦って負けたほうが書いたのか?」


 俺は全く理解できないその石碑を心の隅に置いておく。

何かとても重要なことが書かれているような気がするが、今の俺では何も理解できない。


 俺は台座を見た。

金色のタグに手を伸ばし手に取った。

表には盾と剣のまるで紋章のようなマーク、そして裏には文字が掘ってあった。


「……文字が掘ってあるな……これも読める。えーっと……ランスロット? ランスロットさんのものなのか?」


 その金色のタグの裏には、≪ランスロット≫と掘られている。


「首につけるのか? 装備品とかか?」


 俺はそのタグを首につけてみる。

もしかしたら魔力が付与されたアイテムかもしれない。

少し不用心かと思ったが呪いの装備とかじゃないよな? 


「……っぐ!?」


 俺がそのタグを首につけてみた。

直後俺の中にフラッシュバックのようにただ情景が流れる。



 目の前には、黒い鎧をつけた万の騎士。

俺はそれと戦うたった一人の白い騎士だった。

背後には、一人の少女、だが巨大な翼を何枚も持ちまるで大天使のように美しい。


 俺は強かった。


 黒の騎士達一人ひとりが、まるでS級に達しそうなほどの強さ。

だがその白い騎士はそれすらも上回り、ただ強かった。


 たった一人でもその軍勢を押しのけてしまいそうに、白い閃光が戦場を支配する。


 だが、黒の騎士は減るどころが増えるばかり。

より強い個体も現れて苦戦を強いられる。

俺から見てもこの戦いに勝利はなかった。


 それでもその白い騎士は諦めない、心を燃やし命を懸ける。

その黄金色に輝く眼と剣をもって一人たりとも後ろの女性に届かせない。


『ランスロット……ごめんなさい……あなたにも……こんな辛い役目を……私の騎士になったばかりに……』


 その少女は泣いていた。

何かの儀式を完遂させようと両手を組んで空に祈り続ける。

止めどない涙が頬を伝って、地面に落ちる。


 俺はその涙を見て、胸が苦しくなった。

この白い騎士の感情が止めどなく俺の心に流れてくる。


 この感情はきっと……。


 その白い騎士は口を開いた。


『そんなことをおっしゃらないでください、姫様……私は……何も持たなかった私は……あなたの優しさに救われました。あなたにこの眼をもらいました。こんなにもあなたを守れるほどに強くなれました。私はあなたにお仕えできて!!』


 白き騎士も目に涙をためる、それでも絶対に落とさない。

万の軍勢を退けて、最後の最後まで姫と呼ばれる少女を守り続けた。


『本当に幸せでした……』


 剣を構えて前を向く、その燃えるような瞳には微塵の恐れも映さない。


『私の命など惜しくはありません、世界の未来のために……いえ、あなたのために永劫に捧げます。ですが願わくば……』


 その白い騎士は、まるで俺に話しかけるように自分の心へと話しかけた。


『いつか来るその日に、力、知、心。すべてを兼ね備えた強き騎士が現れることを願って。勝手だが……託させてもらうぞ、今代の騎士よ。そしてその魂がいずれ世界の闇を払わんことを。だから……』


 その言葉とともに、その少女から放たれた光が世界中を包み込んだ。



「!?……何だったんだ今の……」


 俺は目を開くと、元の世界にいた。

ほんの一瞬だが、別の記憶をみていたような……。


「あれ?」


 俺は泣いていた。

さっきの記憶は夢のように曖昧だ、それでも俺の目から涙が頬を伝っていた。

必死に我慢していた涙が、心を一瞬でも同化してしまったのか、止めどなく溢れてくる。


 少しだけ俺は放心していた。

理由もわからず、心が揺れていた。


 一時間ほど、俺はただぼーっとしていた。

だが、やっと心が落ち着き立ち上がる。


「……わからない。わからないけど、このタグは俺がもらうべきな気がする。あとはこれか……譲渡するって……これが神の眼?」


 俺が台座に乗った小さな黄金のピラミッドのようなものに触れた瞬間だった。

そのピラミッドは光り輝き、粒子となって俺の体に吸い込まれていく。


「なぁ!?」


『神の眼の付与を開始します。完了まで600000、599999』


「え? あ、頭が……」


 触れた瞬間突如頭が割れるような痛さ、耐えきれない頭痛。

俺は直後膝をついてそのまま意識を失った。



『終了まで……100,99』


「……あれ?」


 俺は意識を取り戻した。

しかし何も見えないし、ふわふわしたまるで水に浮いているような感覚だった。

声が出た気がしたが、なんだろう、心の声なだけで口には出なかった。


 夢なのだろうか、確か俺は突如意識を失ったはず。


 どうしたものか……。


『2、1、0……神の眼の付与完了、ライブラリを種族名:人の一般常識と併合しています。完了まで残り10秒……進捗率99.99%』


「ん? なんだ? 何が起きてる?」


 あの無機質な音声だけが聞こえてくる。

一体何が起きているのか、俺は死んだのか?


『挑戦者:天地灰は、神の騎士選定式をクリア。報酬として、神の眼とアクセス権限Lv1が与えられました』


 するとそのシステム音声が俺の質問に答えるように、説明してくれた。

試練中は全く答えなかったくせに、今は素直に答えるんだな。


「神の眼? なにそれ」


『神の騎士選定式を攻略した騎士に与えらえる力です。封印の箱などあらゆる情報を閲覧できます』


「封印の箱? キューブのことか?」


『肯定します。……身体の修復完了、神の眼の付与完了、ライブラリ最新化。すべての処理が完了しました。帰りたい場所を指定してください、転送します』


「帰りたい場所?……家に帰りたいけど。ってそれより、質問──」


『転送します。地点座標:登録。天地灰の自宅へと転送開始』


「──ちょ! おい! 待って、まってく──」


『congratulations、天地灰。あなたのその慈愛に満ち美しく輝く黄金色の魂がいずれ世界を覆う闇すらも払わんことを』


「はぁ? お、おい! まってく──」


『託します……我らの眼を』


「──れ……え?」


 暗転したかと思った瞬間、俺は気づくと見慣れた天井に向かって手を伸ばしていた。

そこは俺は最近は引きっぱなしになっている俺の布団の上だった。

安心する感覚、落ち着く空間、そこは我が家だった。


「え? なにこれ?」


 俺は身体を触る、いつもの身体だ。

いつもの身体で傷もない、そしていつものかび臭い家だった。


「生きてる? 夢? 今までの全部?」


 俺は目頭を押さえて、スマホを探す。

するといつも通りポケットに入っていた。

良く割れていなかったな。


 そして時刻を見ると。


「……夢じゃない……一週間も経ってる……」


 今日は8月13日だった。

金色のキューブに参加したのは8月6日だったので間違いなく一週間が経っていた。


 俺は自分の両手を見つめる。

 

 何があったのかいまだに混乱していると、俺の手の横にありえないものが見えた。


「はぁ? なにこれ」


 それは、日本人ならば見慣れたと言えば見慣れた光景。

しかし、現実世界ではあり得ない光景、ファンタジーやゲームの中の話。


 そこには。


「……ステータス!?」


 俺の情報がまるでゲームのシステムウィンドウのように表示されていた。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

名前:天地灰

状態:良好

職業:なし

スキル:神の眼、アクセス権限Lv1

魔 力:5

攻撃力:反映率▶25%=1

防御力:反映率▶25%=1

素早さ:反映率▶25%=1

知 力:反映率▶25%=1


装備

・騎士の紋章

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