第38話 お嬢様とおデートですー1

「フーが死んだ? S級でも護衛にいたのか? だがあいつがそんなヘマをするとは……」


 悪魔の像が掲げられた巨大な聖堂のような部屋に二人の男女が会話している。

景虎並に大きな体格の男、そしてもう一人の女は黒いローブで銀色の髪、まるで魔法使いのような見た目をしていた。


「わかりません、龍園寺彩、あの拳神の娘を殺しにダンジョンに潜って以来です。死体もあがっているので間違いないかと」


「まさかその女が? 確かに魔力はS級の中でも中間に位置していが。確か戦えないはずでは?」


「調査したとき、その女ともう一人。この天地灰という男が一緒に封印の箱から出てきたようです。なにかあるのかもしれん」


 女は一枚の写真を机に投げる。

そこには灰の写真が写っていた、そして調査結果も。


「天地灰……確かあの黄金の箱から生還した一人か。運がいいだけのアンランクとおもったが……まさか……こっちか」


 男と女は顔を見合わせる。

そして疑問に思っていたことを口にした。


「こいつが神の寵愛を受けた可能性が。田中一誠を殺す予定でしたが……作戦を変更しましょうか?」


「そうだな。俺の子飼いの奴らを放つ……もし死んで帰ってくるようなら決まりだろう、殺せたのなら別にそれはそれでいい」


「もし、敗北し確定したら?」


「その時は俺達、滅神教の大司教総出でも」


「はい」


 二人は目を合わせ、確かな覚悟と意思をもって頷く。


「「必ず殺さなくては、既存の神の世界を壊すために」」


◇灰視点


「たーなっかさん♪、B級キューブの許可をくーーださい!」


 俺は陽気な感じで田中さんに頼んでみる、もしかしたら効果があるかと思って。


「まだ早いだろう、あれからまだ一週間。それにB級ともなると手続きが……」


「くっ。だめか。やはり田中さんには誠実タイプでお願いしたほうが……」


「いや、言い方の問題ではないよ?」


 あれから俺はC級キューブを攻略した。

だがはっきり言おう、どの魔物も俺に気づかずに死んだ。

ステータスでは全員が俺よりも知力が低い。


 一番高いものでも1000を超えた程度。


 ならば俺の敵ではなかった。


「俺の魔力は十分B級をソロで攻略できると思います! お願いします! 凪を早く助けたいんです」


 俺が焦る理由の一つ。

それは凪の精神状態だ。

閉じ込められる期間が長ければ長いほど精神が異常をきたすと言われている。

それは想像に容易いが、凪が今どんな思いでいるか想像するだけで俺はいてもたっても居られない。


「……し、しかし……」


 田中さんは悩んでいた。

それもそうだ、B級キューブとは魔力一万に近い魔物が現れる。


 C級とは一線を画し、A級の田中さんとはいえ一対一で相性が悪ければ敗北する魔物だって現れる。

自分ですら難しい場所に俺を送り込んでいいものかと悩んでいるのだろう。


 その時だった。

田中さんに一本の電話がかかる。


「失礼……ちょっといいかな? 彩君だ」


「彩が? はい、どうぞ」


 電話の相手は龍園寺彩。

18歳の高校卒業したてのお嬢様で俺と同い年。

黒く長い髪はサラサラで、これぞ令嬢というものを体現したような女性、俺が助けた少女でもある。


「あぁ、私だ。……そうか! わかった。いや、今ちょうど目の前にいてね、替わろう……ん? どうしたそんなに慌てて。いいかい? 替わるよ?」


 そういって田中さんは電話を俺に渡す。


「彩君だ。何やら焦っていたがね」


 ニヤニヤしている田中さんは、少し意地悪そうな顔をしている。

俺はその電話を少し不思議な顔で手に取って、話す。


「もしもし、彩?」


「あ、お、お久しぶりです!」


「あぁ、一週間ぶりかな。どうしたの?」


「それが、アーティファクトの製造方法が確立して、成功しました! だから灰さんのも作りたくて」


「うそ!? まじ! すぐにいく!!」


「で、でしたら……あ、あの!」


「ん?」


「わ、私と今日、お、お昼を食べていただけませんか? 外で……二人で……」


(そうか、今彩は外にでることを禁止されてたな……景虎さんが一緒にいるとき以外は。外にでれないのか……なら)


「もちろん。俺が君を守るよ。安心して」


「……」


(あれ? 返事がない……)


「もしもーし、彩?」


「は、はい! ではよろしくお願いいたします! 自宅で待ってますので!!」


 ツーツーツー


「切れちゃったよ、なんか声が上ずってたな。田中さん電話ありがとうございます」


 俺は田中さんに電話を戻す。

田中さんは受け取りながら笑いだす。


「君、実は狙ってるだろう」


「なにがですか?」


「いや、なんでもない。彩君も大変だな……天然のたらしは……」


 俺は不思議に思いながらもその日はアヴァロン本社を後にした。

真っすぐと彩の自宅へと向かうことにする。


「アーティファクトか! それがあればB級も余裕かもな」


 あの破格の性能のアーティファクトを自由に作れるようになったというのなら俺の力の底上げになる。

それこそB級ダンジョンですらソロで簡単に攻略できるだろう。


 俺はウキウキしながら彩の家に付き、インターホンを鳴らす。

相変わらずの豪邸だな、俺もそろそろ引っ越しを考えるか。

あの家気に入ってるけどクーラーが臭いんだよな、というか黄ばんでるし。


 実は会長の伝手もあり、攻略したダンジョンの魔力石を換金してくれることとなった。

もちろん正規の方法なので、脱税とかそんなんではないがはっきり言うと今俺は金持ちだ。


 とはいえ、貧乏性は治っていないので全て口座に貯金してある。


ピーンポーン


「はい、灰さんですか?」


「つきました、どうします?」


「すぐにいきますので、お待ちいただけますか?」


「はーい」


 俺は門の前で待つ。

お昼食べに行くなんてちょっとデートみたいだなとも思ったが、一週間家にこもっていたんだ、外に出たい気持ちは分かる。


「お待たせしました。本日はお願いします」


 門でもたれ掛かっていると背中越しに話しかけられる。


 振り向くとそこには、まるでモデル雑誌に載っているような、テレビに出ているタレントのような。


 そんな綺麗でアイドルのような女性がいた。


 お嬢様ファッションというのだろうか。

ブランド品? とても綺麗だが、ドレスとかではなく悪く言えば童貞が死にそう、前も同じようなこと言ったな。

そして俺は童貞だ、この意味がわかるな? 普通にドキドキする。


 肩を大胆に出して、高そうな小さなバッグを両手に持つワンピースのような服装。

そのバッグに何が入るというのだろうか、水筒の一つも入らないぞ。 あれ? 普通の人って水筒持ち歩かないか?


「……やっぱりお嬢様って感じだな」


「それは褒めていただいていると受け取ってもいいのでしょうか?」


「うん、とても清楚系って感じですごい好き」


「──!?」


 うつむく彩、しかしすぐに顔を上げて少し睨むように俺を見る。

相変わらずのお嬢様、いや女王様の鋭い目線、怖いんですけど。


「灰さん。実は女性の扱いに慣れていますね。でも私そんなにチョロくはないです。命を助けたからって甘くみないでください」


「慣れてる? 彼女できたことないからよくわからないけど……残念ながらモテないし」


「……彼女いたことない?」


「恥ずかしながら年齢=彼女なし……色々忙しかったのもあるけど」


 バイトにダンジョン攻略に、妹の介護と俺の青春はほとんどそれに費やされていた。

好きな子だってできたことはある……がそんなことに現を抜かせるほど余裕はなかった。


「そうですか……」


 小さく握りこぶしを作りなぜかうれしそうな彩。

あんまり恥ずかしいからこの話題はおいておこう。


「じゃあどこに行く?」


「そうですね、灰さんのお口に合いそうな……ショッピングモールが近くにありますからそこにしますか?」


「あ、なんかもっとイタリアンとか高級フレンチを予想してた。意外と庶民派?」


「夜ならそれもいいんですけどお昼ですから。それにどう思われているか知りませんがこの国で十八年過ごしています。ダンジョン協会会長の孫ということを除けばどこにでもいる普通の女の子ですよ? 私」


「はは、ごめん。どこか王女様的なものを想像してた」


 カップラーメン? なにそれっていう反応を期待していたが、そんなお嬢様この国にはいないか。

特に景虎会長はたたき上げの戦士で、元普通の人。

大富豪ではあるが、大企業の社長というわけではないので案外彩は普通の感性を持っているようだ。



「それで、彩。アーティファクトって?」


 俺達はショッピングモールへとやってきた。

イ〇ンは平日でも人が多く、何でもそろうので俺も好きだ。

庶民の味方、商店街の敵、真夏は涼しむだけでも十分助かる、なんせ我が家のクーラーは臭いからな。


「その話は落ち着いてからしましょう。少し心の準備がいります」


「ん? わかった」


 俺達は一応は聞かれてはまずいなということで、個室っぽいお店を選ぶ。

和食のお店で少しお高めだが、今の俺なら何の問題もない。


「いらっしゃいませーー」


 俺達はそれぞれ注文をする。

ざるそば定食……うん、美味しそう、海老天も乗せちゃえ。うひょー!


 トッピングすることを戸惑わないぐらいには稼げており、それだけでテンションが上がるぐらいには俺はちょろい。

なんせ、節制の日々は成長期の俺にはきつかった。

そのせいであんなにひょろかったのかと思う。


 今は食べたいだけ食べても全部筋肉に変わる。

このままいくと景虎会長みたいになるのだろうか、それはちょっと嫌だな。


「では、灰さん。こちらを見てください。あなたの目にはどう映りますか?」


 彩がその小さな鞄からいくつか丸い結晶を取り出す。

そのどれもが上位の魔力石、A級。

これ一つで億単位の超高級品、いうなれば宝石だ。


「ちょ、こんなとこで」


「大丈夫です、灰さんがいるなか盗めるような人はいませんし……」


「そりゃそうだが……じゃあ失礼して」


 俺の目が黄金色に輝く。

実は気づいたことがある、ステータスを見る時俺の目の奥は黄金色に輝くのだ。

近くでみなければわからないが、鏡越しでもわかるほどに。


 少し厨二心が揺れるほどには、かっこいい。


 そして俺はアーティファクトのステータスを見る。



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