第16話 初めてのソロ攻略ー2

「洞窟タイプか……少し暗いな、でもギリギリ見えるか」


 俺はその狭苦しく息が詰まりそうな空間で目を開く。


 周りは石で囲まれたこれぞダンジョンというような洞窟だった。


 ダンジョンにはさまざまなタイプがある。

洞窟のような場所、神殿のような人工物、まるで異世界のような雪山や、草原。

 

 ダンジョンとは名ばかりで、むしろ異世界と言った方がいいかもしれない。

いや、元々は異世界の大迷宮と呼ばれていたがダンジョンと呼ぶ方がわかりやすいという


「さてと、単純に攻略するだけじゃダメなんだよな。とはいえ、作戦は命大事に。無理はしないでおこう」


 俺は一人でダンジョンを進む。

このダンジョンは既に踏破されており、地図も作成されている。

俺はスマホにダウンロードしておいた、地図を開く。

この通りに進むことができれば2,3時間で攻略可能だろう。


 俺は腰に据えた剣を握りしめて警戒しながら進む。


 すると物陰から涎を垂らした青い熊が現れた。

肌はくすんだ青色、大きさは俺とほぼ同程度。

ブルーベアー、最弱色と呼ばれる青で、通常のクマよりも少し小さいぐらいか。


 それでも通常のクマですら人が素手で叶う道理はないのだが、今の俺にはこの剣がある。


「そういえば、魔物ってステータスは見えるのか?」


 俺は意識してブルーベアーを見つめる、すると予想通りステータスが見えた。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

名前:ブルーベアー

魔力:10

攻撃力:反映率▶40%=4

防御力:反映率▶20%=2

素早さ:反映率▶40%=4

知 力:反映率▶ 0%=0

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「そうか! 見えるのか! 素の俺よりは強いけど……見た目より結構弱いんだな、なら……ふぅ……よし!」


 俺は剣を構えて、中腰になる。

ステータスを見るに、俺よりも強いが、この剣を装備した俺よりは大分弱いようだ。

そしてブルーベアーが俺を見つけ、涎を垂らしながら駆け出した。

今までなら俺は及び腰になっていただろう、思わず目を閉じていたかもしれない。


 でも、今は違う。


「遅く見える、いや違うな。目をそらさないだけか」


 俺はブルーベアーの動きが良く見えた。

神の目のせいかと一瞬思ったが、違った。

落ち着いて一挙手一投足を集中することができているだけ。


 ただ目を逸らさない。


 それだけで世界は変わって見えた。


「あの糞悪魔天使に比べれば!!」


 あの恐怖の権化のような、悪魔のような天使達に比べれば、ブルーベアーなんて。


「ただの獣だ!!」


 俺は一撃でブルーベアーを上段からの叩きおろしで切り裂いた。

この武器で強化された俺の攻撃力は、E級の最弱の魔物を一撃で殺す。


「ふぅ……なんだろう。強くなったのかな」


 俺はその戦闘に確かな手ごたえを感じていた。

武器は確かに強くなったので攻撃力は上昇している、それでも一撃を入れるまでの過程は明らかに今までの俺ではなかった。


 高地トレーニングとでもいうのだろうか。

ブルーベアーが本当に弱く感じたし、負ける気は一切しなかった。


 といっても油断はいけない。


 俺のステータスの防御力は一切変わっていないのだから。


「お、おかわりきたか。魔力石は……拾うのはやめとこうか、協会になんて説明したらいいかわからないし」


 俺がブルーベアーの死体を見つめながら自身の強さを再度確認していると物陰から二体のブルーベアーが現れる。

俺は同じように構えた、二対一でも今なら負ける気はしない。


 いつもなら魔力石は拾うのだが、協会で換金する際に説明できないので諦めることにした。



 一時間後。


「ふぅ……これは結構大変だな、でも……ふん!」


 俺は60体目のブルーベアーを討伐していた。

ボスの部屋はすでに見つけている、しかし完全攻略の条件はブルーベアーの100体討伐だ。

そのためにダンジョンを隅から隅まで探索し、ブルーベアーが隠れている場所を探す。


 気分は、某狩りに行こうぜゲームで同じ魔物をたくさん狩るクエストのために探し回るときと同じだった。

なかなか見つからない、くそっ、どこだ最弱熊。


「そりゃ、今まで完全攻略する人が中々いないわけだ。ソロでしかも100体ってダンジョン内の魔物全部でも足りないかもな……」


 俺はさらに探し回るが、90体を超えたあたりからほとんど見つからなかった。

長丁場になることを想定してコンビニで買っといた水とおにぎりを広げて俺はダンジョンに座り込む。


 時刻はすでに夜8時を回っている。


「あと5体か、もう少し粘ろう……」


 疲労はそれほどだが、それでも100体というのはシンプルに物量が多い。


「お!? きたぁ!!」


 それでも粘って俺はダンジョンを探し回る。

すると5体のブルーベアーが群れになって洞窟の水辺のような場所にいた。

俺は喜びから奇声を上げそうになるのを必死に抑えてブルーベアーに向かって剣を振り上げる。


 もはや戦って勝つというよりも、発見できることの方が嬉しいあたりどれだけ探し回ったかが伺える。


「これで100!!」


 100体目のブルーベアーを倒し俺は勝利した。

ここまで倒すと癖も見抜き、5VS1でも余裕すら感じられる。


『条件2を達成しました』


「お、教えてくれるのか。親切だな」


 すると脳内に、あの無機質な音声が鳴り響いた。

キューブを攻略した時に聞こえる声、俺達は天の声と呼んでいるがその声が完全攻略の条件2達成を教えてくれた。


「よかった。ボス倒した後に数え間違って、実は後一体足りてませんとかだったら発狂するところだった」


 俺はその報告に小さくガッツポーズしながらボスの部屋へと向かった。


 ボスの部屋はどのキューブも同じく大きな扉の先にいる。

俺は直接はE級のボス扉しか見たことはないんだが、他のボス扉はネットの画像で見たことがある。

豪華というか荘厳というか、等級が上がるごとに大きくそして禍々しさも強くなっている。


 俺は肺から酸素を吐き出し、思いっきり補給する。

怖くはないが、それでもボスだ。

深呼吸し、先ほどまでの緩い気分を切り替える。


 E級のボス、つまりあの左手を折られたホブゴブリンと同等の相手。


「よし!」


 俺は扉を開けて中に入る。

四角くくて広い部屋は青い炎を灯した松明が薄暗く部屋を照らす。

その中央には、ブルーベアー達のボス。


 くすんだ青色の毛だったブルーベアーとは違い、その毛の色はまるでキューブのようにサファイア色。

その綺麗な色から高級服の素材としても需要が高い美しい青。


「サファイアベアー……大きいな。俺よりも一回り大きい」


 眠っていたサファイアベアーは、俺の登場に気づいたようで、ゆっくりと立ち上がる。

涎を垂らし、俺を見る。

名前としては知っていたが、初めて見るその宝石のような熊は確かに美しさと強さが両立していた。


 俺はハイウルフの牙剣を構える。


 魔物の強さとしては遥か上位のC級のハイウルフ。

その自身の上位存在の素材を使われた武器を見てか警戒するサファイアベアー。


 そして狼の遠吠えと共に戦闘は始まった。

俺は最初から全力を出す、なぜなら条件3は一分以内のボス討伐。

様子を見ているような暇などないからだ。


 互いに走り出した俺達は交差する。

サファイアベアーの噛みつき、俺は下に交わす。


 想定通りだった。


 ブルーベアーを100体狩った俺は、戦闘のコツ、そして癖を掴んでいた。

あいつらは噛みつけるものが目の前にあれば切り裂きよりも噛みつくことを優先する。

だから俺は正面からギリギリまでよけなかった。


 案の定俺の喉元への噛みつきを繰り出したサファイアベアー。


 選択肢が狭まり、想定していたとおりの軌道を描いた噛みつきならば避けることは容易だった。

熊の顎下に俺はしゃがむように交わし、足の力と合わせて下段から喉元へと短剣を思いっきり突き刺した。


 そのまま刺さった剣に力を入れてサファイアベアーの脳天までを貫いた。


 声を上げる間もなく俺に体重を預けるようにサファイアベアーは絶命した。


 俺はこの瞬間ボスをソロで初めて討伐することに成功した。


「倒せた。ちゃんとしっかりと考えて倒せたんだ。俺が……アンランクの俺が!!」


 俺はサファイアベアーを横に置いて、血で汚れた剣を払う。

初めてのボス攻略を終え、少しだけ強くなったような感じがした。


 それはきっと気持ちの持ちようなのだろうが。


『条件1,2,3の達成を確認、完全攻略報酬を付与します』


 ボス討伐と同時に流れたのはいつものシステム音声。

その音声が知らせるのは狙い通りの完全攻略報酬だった。


「よし!!」


 俺は小さくガッツポーズする。


 と同時に光の粒子が俺を包んだ。



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