第15話 初めてのソロ攻略ー1
「詳細!? 筋萎縮性魔力硬化症について!? そ、それに治療法!?」
俺は驚きながらそのポップアウトに顔を近づけ声に出して読む。
そこには筋萎縮性魔力硬化症の詳細と、治療法にはアクセスできないとの文字が記載されていた。
「詳細……これステータスの中、さらにみたいものは、注視すると詳細がでるのか」
どうやらステータスの中でより詳しく知りたいものは注視することで詳細が表示されるらしい。
といってもすべて表示されるわけではなく特定のものだけのようだが。
職業やスキルなんかも詳細がでる、ただしアクセス権限が足りないと言われる場合もある。
「アクセス権限……このよくわからないスキルのレベルが上がれば……筋萎縮性魔力硬化症の治療法がわかるのか!?」
俺には神の眼とアクセス権限というスキルがある。
あの金色のキューブを攻略してもらえたスキルだが、アクセス権限はLv1。
「スキルのレベルの上げ方はわからないけど……きっとダンジョンだ」
この世界にはスキルというものは認知されている。
しかしスキル名も正しい効果もわからずに、使えるものはなんとなくで使っている。
例えば、挑発という有名なスキルはダンジョンの魔物達のヘイトを集めることができる。
ただし、正式名称が挑発かどうかはわからない。
なんとなく使える人がそう呼び始めたというだけだ。
俺ならステータスが見えるのでスキルの名前はわかるだろう、いや、多分既に人がつけた名前はそっちが表示されるのかな?
「ダンジョンを攻略して、スキルが強くなったというのは聞いたことがある。なら!!」
俺は希望を抱いた。
誰もわからなかった筋萎縮性魔力硬化症、世界で数百万人が苦しむこの不治の病の治療法がわかるかもしれない。
そうすれば凪は目を覚ますことができる。
暗闇の中で、自分の体に閉じ込め続けられる凪を助けてあげられる。
俺は凪の手を強く握った。
相変わらず冷たい。
それでも生きている、そしてもう一度笑ってくれる可能性は残っている。
「俺が助けるからな、凪。もうちょっとだけ待っててくれ。絶対助けるからな。そしたら」
俺は再度、何も返さない凪に誓った。
「またいつも見たいに笑ってくれよ」
……
「じゃあ伊集院先生、それと山口さん。よろしくお願いします」
「あぁ、任せてくれ。といっても私にできることは限られるが」
俺は伊集院先生と介護サービスの山口さんに挨拶をして病院を後にする。
すでに時刻はお昼を回っていた、朝家で目覚めてから以外と時間が経っていない。
「ダンジョンに潜りたい、それに完全攻略して報酬を得て強くなりたい。そうすればもっと上のダンジョンにいけてスキルが上がるかもしれない」
俺はダンジョンに潜ることを決意した。
この2400万円する剣ならE級のダンジョンだってソロでもなんとか攻略できるはずだ。
でもそれには。
「ダンジョンポイントがネックだよな……」
ダンジョンポイントとは、ダンジョン協会が定めた鉄の掟だ。
ダンジョンに潜ることを申請する場合の条件で、メンバーの強さによって割り振られる。
ダンジョンに潜るには、その総ポイント数が10ポイントになる必要がある。
例えば、E級ダンジョンに潜ろうと思ったら、E級の攻略者で2ポイント振られる。
つまりはE級が5人いればいいということになる。
そこから参加する攻略者の等級が上がるごとにプラスで2ポイント増える。
なのでE級ダンジョンにD級攻略者が参加する場合は4ポイントとなり、D級が二人、E級が一人で合計10ポイントとなるということだ。
C級ならば6ポイントなので、D級が一人、もしくはE級が二人いれば申請可能となる。
ならアンランクは? もちろん0ポイント。
いても居なくても変わらないという扱いだ。
これがダンジョンに潜ることを協会に申請するためのルール。
もう少し細かい部分もあるのだが、基本的にはこのルールだ。
命の危険のあるダンジョンにソロで勝手に潜っていいわけがない。
ダンジョンで大量に死傷者を出してきた協会が定めた鉄の掟。
そして協会に申請せずにダンジョンに潜るとそれは、密猟と同じ。
ダンジョンの資源を奪っているようなものだ。
バレたら国家資格の攻略者資格証を剥奪されかねない。
下手をすれば犯罪として、実刑をもらうかもしれない。
「……さて、どうしたものか。でもなー。完全攻略報酬がなー」
俺は考える、これは犯罪だ。。
だが、今日色々キューブのステータスを見て思ったのは、大体のキューブの完全攻略はソロで攻略することが前提となっている。
「うーん……剥奪されても……うーん」
今までルールを守ってきた人生で俺は初めてルールを破ろうとしている。
それはとても抵抗があった、例えるなら万引きするような感覚。
それでも、俺は決意する。
「俺はルールより凪を優先する! ばれたら……謝って田中さんに縋ろう!」
俺は開き直ることにした。
何よりも優先すべきは凪のことだ。
そのためならルールも破るし、田中さんに迷惑をかけることも厭わない。
それに上位ダンジョンならいざ知らずE級ダンジョンならそれほど怒られないだろう。
動く金はそれほど多くないからだ。
たとえるなら万引きと銀行強盗。
上位キューブともなると一回の攻略で億が動くが、E級のダンジョンなら数万円ほど。
だから俺は。
「がんばるぞ!!」
ソロ攻略を目指すことを決意した。
といっても、ばれたくはないので人が少ない田舎のダンジョン攻略を目指すことにした。
こういうところは小心者だなとは思ったが、ばれないに越したことはない。
俺は協会に戻り、パソコンを借りて日本のキューブの場所一覧を参照する。
「えーっと? 結構あるんだな。E級だけで国内に200個以上ある……」
日本全国にはE級キューブが200個以上存在していた。
東京でばかり活動していた俺は、あまり田舎の事情を知らないがどうやって攻略しているんだろうか。
田舎といっても東京から少し離れるだけの場所。
日本地図を見ていると、日本は大部分が田舎といってもいいだろう、森ばっかりのこの国。
そこで俺は地図上の一つの場所を見つめる。
田舎というか山? 俺は東京から富士山の方へ向かった近くの村にあるキューブに狙いを定めた。
「えー場所は、島村? 洋服売ってそうだな」
俺はその島村のキューブを内緒で完全攻略することを決めた。
ここから電車やバスを乗り継いで、3時間ほどでつくようだ。
早速身支度をして、出発することにした。
正直のところ、この剣で試し切りがしてみたいという少し血なまぐさい理由もあるのだが。
「まぁ、ワクワクするのは男だし仕方ないよな」
辻斬りの気持ちが少しだけわかったが、さすがに人に向けるほどではない。
俺は片道三時間の旅に出発する。
特に何も予定せずに出発するなんて一人旅みたいでワクワクするし、お金は貯金していたものを切り崩せば問題ない。
幸い治療費については、田中さんが負担してくれているので結構余裕があったりする。
電車で揺られること2時間、そしてバスで揺られること1時間。
特に何もない公共機関を使った移動を経て、俺は島村に到着した。
あたりを見渡すと数時間前までと同じ世界なのかと思うほどに田んぼと背の低い民家が並んでいた。
「うーん、空気がうまい! これぞ田舎! まるでタイムスリップしたみたいだな」
川のせせらぎすら聞こえてきそうなほど、のどかな田舎。
セミの鳴き声がうるさいが、それでも空気が美味しい田舎の匂い。
都会の喧騒を忘れさせてしまうほどに、自然の音しか聞こえない。
といっても行き当たりばったりできてしまったが時刻はすでに夕方の4時。
「よし、暗くなるまえに頑張るか!」
俺はそこからキューブまで走った。
アンランクの俺は普通の人間と変わりないので休み休みだが、なんとか目的地についたようだ。。
人里離れた山の中、そこにキューブは静かに佇んでいる。
周りは切り開かれて、森の中だが広場のようになっている。
多分定期的に攻略者がダンジョン崩壊を起こさないように対応しているみたいだ。
「お、これがここのキューブか。青……よし、E級だな」
俺はそのサファイアのように怪しげに光るキューブを見つめる。
すると東京のキューブと同じようにステータスが表示された。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
残存魔力:43/50(+1/24h)
攻略難易度:E級
◆報酬
初回攻略報酬(済):魔力+10
・条件1 一度もクリアされていない状態でボスを討伐する。
完全攻略報酬:現在のアクセス権限Lvでは参照できません。
・条件1 ソロで攻略する。
・条件2 100体以上のブルーベアーを討伐する。
・条件3 ボスを一分以内に討伐する
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「……ブルーベアー。それなら最弱の魔物だし俺でもなんとかなるか」
ベアー種と呼ばれるまるで動物の熊ような種族。
通称獣種とも呼ばれるそれらは、狼や熊、獅子まで多くの種類がいる。
そしてそれらはキューブと同じ色で現れることが基本だった。
もちろん見た目は熊と呼ぶには程遠いほどに殺意ましましの見た目をしている。
それでも何に似ているかと言われると熊だろう。
そしてブルーベアーは、その熊の中で青い見た目の最弱種。
カラー種とも呼ばれるキューブごとの個体は、色以外は見た目は同じだが強さが色によって圧倒的に変わる。
それでもこのE級のキューブと同じ青色は最弱カラーとも呼ばれ、俺でもなんとかなるはずだ。
「そういえば、この残存魔力だけど50までいって最大値になるともしかしてダンジョン崩壊を起こすのか? だとすると魔物を倒したりボスを倒したりすればこの残存魔力が減って、猶予が延びると。そう思えば辻褄が合いそうだ」
定期的にダンジョンの魔物を倒したりボスを討伐して休眠モードにしなければいけない。
その結果多分この残存魔力が消えるのではないかと俺は推測した。
それも検証できそうならしてみようかな。
「さてと、行くか。なんだろう、今までなら怖くて二の足を踏んでたのに。この武器のおかげかな? それとも……」
俺はそのキューブに全く臆さずに近づいた。
E級とはいえ、以前までの俺なら怖くて一人で入ることもできなかっただろう。
なのに、今は負ける気がしなかった。
もちろん、この俺には分不相応の装備のおかげもあるのだろう。
でもあの金色のキューブの中で、本当の死というものと向き合って、それでも自分の意思を貫き通せたからかもしれない。
あの勝てる気がしなかった魔物達に比べたら、最弱のブルー種なんかに恐怖はない。
心臓が高鳴り、ドキドキし、緊張する。
それでもこの感情は恐怖なんかじゃないとわかる。
「……よし、いくか!!」
俺はそのキューブに触れた。
凛とした音と共に美しい壁が青色に波打って俺を優しく迎え入れる。
この日俺は初めてのソロダンジョン攻略を開始した。
恐怖はない、あるのはただ一つ。
この胸の高鳴りだけ。
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